オレ、Jokerになります。[凍結中] 作:fateplanet
「……あれ?」
オレが気が付くとそこは、小さな事務所で尻餅をついていた。
なんで、尻餅なんかついてたんだ?オレ……。
「もう、どうしたの一樹くん?まるで翔太郎くんみたいに間抜けな顔して」
「え……?」
「おいこら、『亜樹子』ぉ!そりゃどういう意味だ!?」
「キャー、『翔太郎』くんが怒ったー!!」
「当たり前だ!誰の顔が間抜けなんだよ!!」
「翔太郎、それは仕方ないじゃないか。あきちゃんの言うように君の顔は世間的にいえば間抜け面といわれるようなモノなんだから」
「『フィリップ』!お前なぁ!!」
え……あれ?
「って、一樹君、ホントにどうしたの?なんだか驚いた顔してるよ?」
「え、あ、いや、大丈夫です」
なんでオレは呆けてたんだろう。
「すみません、ちょっとボケっとしてました」
「気をつけないと、ホントに翔太郎君みたいに間抜け面になっちゃうよ?」
「そうそう、俺みたいな、ってだから誰が間抜け面だ!コラァ!!」
「キャー!フィリップ君、一樹君、助けてー!」
「仕方ないなぁ、一樹、とりあえず、とめようか。翔太郎、あんまりイジメちゃいけないよ」
「翔太郎さん、落ち着いて下さいって」
「おま、間抜け面って言われて、はいそうですか、とは言えねぇだろ!!」
「まったく、それだから君はハーフボイルドだと、言われるんだよ」
「そうだ、そうだー」
「いや、亜樹子さん、煽るから余計翔太郎さん、怒るんじゃないですか?」
「いいんだよ、翔太郎君の顔が間抜け面なのは真実なんだから」
「あんだと!!」
「あきちゃん、これ以上煽ると、僕だけじゃ止められないよ」
「それに翔太郎さんの顔は世間的にはイケメンだと、思いますけども」
「でも、ハーフボイルドだし」
「ハードボイルドなんだよ!」
「翔太郎、君はまだまだハーフボイルドだと思うけどねぇ」
「フィリップまでか!?」
「えーと、翔太郎さんはハードボイルドだと思いますよ?」
「フォローすんだったらこっち見て言いやがれ、一樹!!」
いつものように、皆と一緒に過ごしているのに……。いつもと同じように事務所で楽しく話しているのに……。
どうしてだろう、何か違和感が拭えないんだ……。どうしてなんだ……。
オレはその時ふと隣を見る。
でも誰もいない……。オレの隣には誰かがいたはずなのに……。
「それよりも翔太郎君、依頼の方をしないと!」
「依頼って、また猫さがしだろ?」
「それだって立派な依頼なんだからね!ほら、さっさと行く!所長命令だからね!!」
「はいはい」
「あ、一樹君も翔太郎君がサボらないか、見張ってくれないかな?」
「誰がサボるか、誰が!!」
「は、はい!」
「一樹もしっかりと返事してんじゃねぇよ!!」
「まぁ、しっかりとやってくるといいさ。僕は水ようかんの全てを検索することに忙しいからね!」
「また、いつものですか」
「今回は水ようかんらしいな。前の餅の時のようなことにならないよにフィリップ見張っとけよ、亜樹子」
「らじゃー!……それじゃ、ほらほら、行った行った!」
そうしてオレ達は事務所を後にする。
「フィリップくーん!水ようかんの美味しいの知ってるけど食べにいかない?」
「それはいい!早速行動しようじゃないか、あきちゃん」
こんな声に見送られながら。
「……ホントに大丈夫なんだろうなぁ」
「き、きっと大丈夫ですよ、多分」
「はげますんだったらもっと自信を持って言ってくれよ、一樹」
「無理です」
「だよなー……」
それからオレは翔太郎さんと一緒に色んなところを回った。
ウォッチャマンのところやサンタちゃんの所、クイーンとエリザベスの所、刃さんやマッキー、照井さん達の所も回り、話を聞いたり、情報を集めたり。
途中、今までの依頼人に出会うこともあり、皆元気そうにしていた。
また、フィリップさん達だけ食べるのは癪だからと風麺を食べたりもした。
そうしているうちに時間はどんどん過ぎていくのと同時にオレの中での違和感も一緒に大きくなっていっているのだった。
依頼人の皆と会うのはこれで何度かあったはずなのにどの人と会う度に初めて会ったような気になるのだ………。
そしてオレは何か大事なことを忘れてしまっているのではないかと思ってしまうのだ。
そんな違和感を携えたまま、オレは何とか依頼を遂行した翔太郎さんと一緒に事務所に帰ってきたのは夜に差し掛かった時間だった。
「2人ともお帰りなさい!無事に依頼こなせたみたいだね!」
「当たり前だろ、風都は俺の庭なんだ。俺にかかって探せないものなんてないさ」
「さっすが、翔太郎君ー!!」
「褒めても何もでねーぞ、亜樹子!」
………。
「フィリップさん、なんで亜樹子さんはあんなに翔太郎さんの事を持ち上げてるんですか?」
「簡単なことさ、翔太郎のへそくりを勝手に使ったんだよ、あきちゃんは」
「あ~……それで少しでも気付かれないように、と」
「そういうわけさ。でも……」
「おい、亜樹子、さっきフィリップが言ってたことはホントか?」
「えーと、何の事かなぁ?」
「………亜樹子ぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「ごめんってば、翔太郎くん――――!!」
大捕り物の始まりだった。
というより事務所のスペースで追いかけっこなんてしたら……!
「危ないですって!翔太郎さん!亜樹子さん!」
「狭いここでは追いかけっこには向かないと思うんだけどね」
そうして、オレ達も巻き込まれてしまうが、やっぱり何かが拭えないのだ……。
どうしても何かが違う気がして……いや、ホントは分かっているんだと思う。
ここは夢なんだって。
現実に翔太郎さん達はいない。それ以上に、オレの隣にはアイツがいるんだ。だからこそ……
「翔太郎さん、フィリップさん、亜樹子さん……ここは……」
そうオレが告げようとすると、皆がこっちを向いてくる。
「あぁ、ここはお前が思ってる通りの所だよ」
「本来なら、僕らと君との道がつながることは無いからねぇ」
「それで?お前はどうするんだ、一樹?」
「どう、する……?」
「ここは俗にいう
「あとは、お前の気持ちだけだ。お前がこの夢に逃げていたいと思うんだったらそれでもいいと思う。でもな、ここは現実じゃない」
「あくまで、僕らは君が作り出した幻想にすぎない。だからこそ、ここから抜け出すには君の心が必要なんだよ」
「翔太郎さん……フィリップさん……」
「もしもお前がこの世界に残るってんなら……」
「いいえ。残りません。確かにここはオレの憧れの場所です。でも……」
「でも、なんだい?」
「オレの隣にアイツがいないのなんて耐えられそうにないんですよ」
「アイツ?」
「慧理那です。あんだけ啖呵切っといて
「そうか。じゃあ、ほら」
「これを」
そう言って2人が渡してきたのは、ロストドライバーとジョーカーメモリだった。
「これを使って帰ればいい。なぁに、オレ達はお前の心にいるんだ。いつだって力になってやるよ」
「さぁ、いくといい。大丈夫さ、誘惑に打ち勝った、君なら」
「はい……!ありがとうございました!!」
そうしてオレはドライバーを巻き、ジョーカーメモリを使う。
《Joker!!》
そうしてオレは見慣れたテイルジョーカーの姿になり、事務所の扉を開く。
「行ってきます!」
「おう、行ってこい」
「またね」
「がんばれー!!」
そして光に満ちた扉の先にオレは飛び込んだのだった。