艦これ~とあるイージス艦の物語~   作:ダイダロス

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お待たせしました。前回より日数が開いてしまい、申し訳ありません。
あと、結構手抜きです。
それと、今回はちょっとあとがきが長くなっております。

2015.5.10追記
前編と同じく、この話も設定を修正させてもらいます。



邂逅・後編

「海上自衛隊?」

「第4護衛隊群?」

「愛宕型ミサイル護衛艦?」

「3番艦羽黒?」

「デース?」

「……?」

 

 加賀と正体不明の艦娘のやり取りを傍受していたらしい第1艦隊の艦娘達が、頭に疑問符を浮かべたような顔で口々に言った。

 加賀も無言だが同じく。

 まず第4護衛隊群という部隊どころか海上自衛隊という組織自体聞いたことがないし、愛宕型もとい高雄型は重巡洋艦だ。ミサイル護衛艦という艦種ではないし、その艦種自体なんなのかわからない。さらに言えば、羽黒という名前を聞いたことはあるが、確か妙高型重巡の四番艦だったはずだし、現在その艦娘は行方不明(・・・・)になっている艦娘の1人ではなかったか…?何かおかしい……。

 加賀はどういうことなのかさらに問いただそうとするが、そこに翔鶴が緊急の通信を寄越した。

「かっ加賀さん!偵察機より入電、我敵艦隊を発見!距離、当艦隊より53海里!方位1-3-8!それと、…ル級が艦隊を離脱してこちらに接近中!」

「何ですって?」

 羽黒の戦闘と対応に気を取られて、つい深海棲艦の艦隊のことを忘れていた。 だが、見つけたのであれば直ちに反撃しなければならない。敵艦隊には正規空母が2隻いる。40機を落とされたとはいえ、こちらは敵艦隊に対しては何も攻撃をしていない。おそらくまだ第2次攻撃隊を出せるくらいの航空機は残っているだろう。加賀は矢継ぎ早に指示を出す。

「…了解、ただちに五航戦は攻撃隊発艦準備。金剛さんはル級を迎撃してください。潮と曙は私たちの護衛を」

「了解ネ!」

「わかりました!」

「了解!」

 金剛が速度を上げて艦隊から離脱していった。

 さすがは高速戦艦と謳われる金剛型戦艦の長女だ。火力という点では大和型や長門型に劣るが、速力でいえば金剛型の方が優れている。

 彼女の背中を見送っていると、その先に小さな点に見える艦娘がいる。

 …彼女はル級の存在に気付いているのだろうか?

 彼女の言っていた艦級はよくわからないが、金剛のサポートをしてくれるなら心強い。

「羽黒さん聞こえますか?現在戦艦ル級が接近中です。今そちらに金剛さんが向かっています。貴女は金剛さんと協同してル級を迎撃してください」

『……………その前に幾つか確認してもよろしいですか?』

「?…何ですか?」

『貴女達は私の味方なのですね?』

「は?」

 予想していなかった質問に思わず加賀は半目になる。

 何を言っている?当然のことではないか。艦娘は皆日本海軍に所属している。敵であるはずがなく、味方でないはずがない。

 何だ、このさっきから感じる違和感は…?

 歯車が全く噛みあっていない、互いの認識に大きなずれがあるようなこの感覚は…。

「翔鶴、悪いけど攻撃隊は5航戦だけで出して頂戴。指揮は貴女に任せます」

「え?加賀さんはどうするんですか?」

 弓に矢を番え、加賀が「発艦始め」と号令するのを待っていた翔鶴が聞き返した。

「少し気になることがあります。彼女と話をするので、しばらく貴女に指揮権を一時的に委譲します」

「はっ、はい。瑞鶴、いい?攻撃隊、発艦始め」

 翔鶴と瑞鶴が攻撃隊を発艦させているのを横に、加賀は再び無線に向き直す。

「失礼しました。私達は貴女の味方です。決して敵対行動をすることはありません」

『……では、今私の方に南東から接近している艦隊は日本の敵なのですか?』

 艦娘なのに深海棲艦を知らない…?

 どういうこと?まさか、相手が何かも知らず戦っていた?

 いや、彼女は先ほどヌ級から発進した敵航空隊を迎撃した。敵と認識していなければ何故攻撃したのか。

 いや、ちょっと待て。艦娘なのに深海棲艦を知らないと言うこと自体あり得ない。

 もしや長い間深海棲艦に捕らわれて記憶が曖昧になっているのかもしれない。

 加賀はわけがわからないあまり思考放棄しそうだが、そう結論付けることで何とか気を持ち直してはぐろにわかりやすいように簡単に言った。

「ええ、そうです。その艦隊は日本の、いえ日本を含めた世界の脅威です」

『………私はル級という船を撃沈すればいいのですね?』

「…えぇ、そうです」

 正直彼女と会話するのが億劫になってきた。これなら瑞鶴(5航戦)の相手をしていた方がまだ楽だ。

 だからだろうか。はぐろの話す雰囲気が僅かに変わっていたことに気づかなかった。

『……わかりました』

 雑音とともに突然無線は切られた。

 

 

 突然はぐろの耳元で無線ががなった。どこかから通信が入っているようだ。発信源を調べると北西にいる艦隊からだった。

 一体誰がと思っていると、凛という一文字が背景に浮かびそうな女性の声が聞こえてきた。

『……そこの貴女、聞こえますか?こちらは日本海軍横須賀鎮守府所属の航空母艦加賀です。貴女の所属と艦名を明らかにしなさい』

 日本……海軍?航空母艦かが?

 どういうことなのか、頭痛やら耳鳴りで情報の整理ができない。

 北西方向にいる艦隊から国際緊急周波数を使って誰かが日本語ではぐろに呼びかけて来ているのがわかる。日本語で問いかけてきているのだから日本の組織で間違いないだろう。しかし、日本海軍なんて組織は日本に存在しない。海自にはかがというヘリ搭載護衛艦はいるが、空母ではない。

『聞こえていないのですか?聞こえているならこちらの質問に答えてください』

 質問……?あぁ、そうか。名前と所属を聞かれていたんだっけ?

「……私は…………海上自衛隊第4護衛隊群所属あたご型ミサイル護衛艦3番艦はぐろです」

 ……。………。………………?

 応答がない?どうしたんだろう?

 疑問に思っていると、指揮決定システム(C&D)が警報を鳴らした。

 南東方向にいる艦隊から大型の反応が離脱し、はぐろに接近している。

 再び無線から先ほどの冷静な女性オペレーターの声が聞こえた。

『羽黒さん聞こえますか?現在戦艦ル級が接近中です。今そちらに金剛さんが向かっています。貴女は金剛さんと協同してル級を迎撃してください』

 ………。は?戦艦?るきゅう?あの国に空母はともかく戦艦なんてあっただろうか?ぅ…頭痛い……。

 頭痛と耳鳴りのせいで耳がいかれてしまったのだろうか?

 だがこんごうという名には聞き覚えがある。

 〝こんごう型ミサイル護衛艦1番艦こんごう〟

 海上自衛隊が最初に導入したイージス艦だ。はぐろの大先輩で第1護衛隊群所属だが定係港が佐世保だったため、第4護衛隊で唯一佐世保を定係港とするはぐろと親しい間柄の艦だ。

 しかし彼女は沖縄近海で行われていた中国人民解放軍との戦闘で僚艦と共に撤退したはずだ。

 それが何故日本海軍所属の空母かがを名乗る艦と行動している?それにリンク16がどういうわけか接続できない。

 本当に味方……?

「……………その前に幾つか確認してもよろしいですか?」

『?…何ですか?』

「貴女達は私の味方なのですね?」

『は?』

 冷静だった声が突然素っ頓狂なものに変わった。応えにもならない短すぎる返事だが、面食らった様子がありありと通信越しに伝わってきた。思わずはぐろが(あれ、何かおかしなことを聞いただろうか?)と考えるほどだった。

 その後しばらく経ってまともな返事が返ってきた。

『失礼しました。私達は貴女の味方です。決して敵対行動をすることはありません』

 ……本当に味方?だったらIFFに応答があるだろうに。しかし日本海軍という言葉がまるで釣り針が手に刺さったかのようにはぐろの心に引っかかる。

 だが敵対行動を取らないという言葉には素直に頷けた。

 先ほど攻撃してきたのは南東にいる艦隊から飛来した航空隊だ。もし南東と北西方向にいる艦隊が同じ組織に属しているなら、攻撃したのにわざわざ確認の通信をよこすのは妙だ。となると、2つの艦隊が敵対しているのは間違いないだろう。

「では、今私の方に南東から接近している艦隊は日本の敵なのですか?」

『………ええ、そうです。その艦隊は日本の、いえ日本を含めた世界の脅威です』

 日本の脅威……か。なにか説明がやや大雑把な気がする。まあ頭痛が頭の中にガンガン響いているのに小難しい話をされても理解できるとは思えないので、その方がありがたい。しかしどうするか…。

 現在地、及び状況の詳細は不明。指揮系統を失い、孤立しているとはいえ、はぐろが所属していたのは海上自衛隊だ。断じて日本海軍ではない。故に従う義理もないが……。

 

 〝私たちは日本の盾だから〟

 

 ………………。

「私はル級という船を撃沈すればいいのですね?」

『…えぇ、そうです』

「……わかりました」

 オペレーターの女性の口調がややぶっきらぼうになった気がした、そんなの気にせず無線を切ると、はぐろは標的のいる方角を向いた。

「対水上戦闘用意」

 戦いに臨む者とは思えないほど静かに、はぐろは宣言した。

 イージス艦はぐろは再び戦闘態勢に入る。

 

 あの訳が分からない航空機を作った国が日本の脅威だと言うなら…。

 あの異様な兵器の矛先が日本の国民に向けられると言うなら…。

 

 それだけできっと、はぐろが護る(戦う)理由になる。

 

 

 

 人ではなくイージス艦はぐろの〝艦魂〟としてこの世に生を受けたはぐろは、日本を護るという己の責務を貫くために迷わず行動を起こす。

 

「対水上戦闘!90式艦対艦誘導弾(SSM)攻撃始め!目標、戦艦ル級!発射弾数2発(ふたはつ)。距離41、方位138」

 

 接続不良かそれとも別の理由でなのかGPS衛星から位置情報を取得できないが、水上レーダーなどから敵艦の位置や速度はわかる。おおまかな位置情報を入力すれば、誤差の範囲内で何とかなるだろう。

 対艦ミサイルに敵艦の位置情報などが入力され始め、バイザーに諸元が流れるように表示される。そして、バイザーの隅に表示された対艦ミサイル1から8番までのうち、1番2番の発射準備が整ったことが示される。

「90式SSM攻撃用意よし」

 時同じくしてはぐろの対空レーダーに感…。機数はおよそ60機…。IFFに応答はないが、敵味方不明機から敵機へと変化しなかったことを考えると敵ではないらしい。どうやらそのままはぐろの直上を通過するようだ。

 航空隊が飛んできた方向を見ると日本海軍の艦隊がいる。かがという空母もいるらしいから発艦した艦載機かもしれない。

 日本海軍所属の航空隊と見当をつけ、はぐろは気を取り直して攻撃を行う。

1番(ひとばん)発射用意、…()ぇっ!」

 はぐろは気合いと共にミサイル発射ボタンを押した。

 ブースターに点火され、発射筒(キャニスター)の尾部から勢いよく炎と煙が噴き出す。僅かな間白煙と炎に包まれるはぐろの身体を震わせながら、右肩に載せられた発射筒(キャニスター)の1つから対艦ミサイルが蓋を突き破り、先っぽを見せた。のっそりと現れたそれはミサイル内部に収納されていた翼を展開し、一条の白を描きながら山なりに飛翔していく。

 発射された対艦ミサイルは高く上昇した後、ブースターを切り離してターボジェットエンジンに再点火、シースキミングを開始。ターボジェットエンジンの重低音を響かせながらマッハ0.8の亜音速まで加速していく。

 そして最高速度に達した90式SSMは己が目標に向けて水平線の向こうへ飛んで行った。

2番(ふたばん)発射用意、…()ぇっ!」

 さらに追加で2発目の対艦ミサイルが発射される。

 さて、どうなるか…。遠くから爆音が近づいてくる中、祈るような気持ちではぐろは自らが放った矢の行方を見送った。

 

 

 

 第5航空戦隊の航空隊が金剛の直上を飛んでいき、ようやく羽黒の輪郭や艤装などがはっきり見えてきた時、羽黒のいる所から再び炎と白煙が上がったのを金剛は2回目撃した。

「(まさか、敵の第二次攻撃隊がいるのデスカ?…But、対空電探に反応がないデス…交戦中だとしても、静かすぎマース)」

 はぐろが対艦ミサイルを発射した際に生じた煙を見て、金剛は先程のように敵航空機を噴進弾で迎撃しているのかと思った。しかし、対空電探に反応はないし、目視でも敵航空機の姿は確認できない。戦艦と交戦中だとしても、砲撃の音が聞こえないのは不可解だ。

 さらに噴進弾は空高く上昇したかと思えば、雷撃を行う艦攻のように高度を落として低空を這いながら高速で水平線の彼方に飛んでいく。

 彼女が何をしたのかよくわからないが、とにかく状況を知るために最大速力で金剛ははぐろの元に向かった。

 

 

 

 

 ル級は進行方向から飛翔してくる物体を電探で探知した。そちらに目を向けると、航空機ではない柱か何かのような小さい物が空気を切り裂き、低空を高速で飛んでいた。

 ル級は初めて見る物に対し、何だあれは?とでも言いたそうに首を傾げている。

 そんなル級に構わず90式SSMはアクティブレーダーが探知した目標に向かってシースキミングのまま突撃する。

 無機物であるはずなのに生き物のように意思をもって向かってくる物に対しル級は目を見開き、己の本能に従って咄嗟に左腕で己を庇う。

 迎撃も電子戦も回避すらも行わない船は戦艦であったとしてもただの的に過ぎない。HE弾頭の矢がル級の左主砲に突き刺さった。左主砲の装甲を貫き、内部で爆発を起こす。そしてその爆発はル級の主砲の弾薬に引火してさらに大きな爆発が起こった。

 黒煙の中から現れたル級は左腕を失い、傷口からどす黒い液体が流れ出ていた。

 破壊された左主砲の破片を頭に受けて、ル級は錯乱したように吠え猛る。

 攻撃してきた敵はどこだ?戦艦である自分にこれほどの屈辱を味わせた敵はどこだ!?

 しかし、四方八方どこを見ても不逞な真似をした者の姿はない。電探にも影がない。

 怒り狂うル級の前に2発目の対艦ミサイルが飛来した。

 もはや対艦ミサイルの脅威を十分に理解したル級は、無事だった右腕の主砲と副砲で撃ち落とそうとする。

 だが、亜音速で低空を巡航する対艦ミサイルに照準が追い付かず、砲弾は対艦ミサイルの遥か後方に着弾する。

 そしてル級の目の前で90式SSMはシースキミングからホップアップに転じる。

 呆気にとられたル級はその動きにつられて天を仰ぎ見るが、彼女の目に次に映ったのは、太陽を背に自分目がけてダイブしてくる90式艦対艦誘導弾だった。まるで鉄槌であるかのように飛びこんでくる。

 獣のような雄叫びをあげて無念の気持ちを露わにするル級に、機械である90式SSMは頭の上から突っ込んだ。

 HE弾頭搭載の対艦ミサイルはル級の頭部を射抜き、内蔵されていた高性能爆薬が起爆する。そして内側からル級の上半身を粉々に砕いた。紅蓮の炎が高く上がる。

 上半身を失って炎上しているル級は、それ以上の行動の一切を停止し、まるで波間に揺蕩う墓標であるかのようだった。

 

 

 

 はぐろはバイザーに映っている輝点を注視していた。2発とも目標に命中。対水上レーダーは速度が落ちた目標の様子を捉えている。

 だがはぐろの顔に喜びの表情はない。頭の中で痛みがガンガン響いているのも一因だが、それだけではない。

 しかし、先ほどの通信の女性は、確かル級という船を戦艦と言っていた気がする。

 自身の記録に間違いがなければ、敵の戦艦と撃ちあった際に簡単に沈まないように戦艦の装甲は分厚く設計されているはず。

 90式SSMは優秀な国産の対艦ミサイルだが、前提として薄い装甲に包まれた現代の軍用艦を念頭に開発されている。戦艦という(くろがね)の城に対し、果たしてどれだけのダメージを与えられるか……。

 戦闘に集中することで何とか思考能力を維持している頭を押さえながらはぐろが黙考しているところへ、ようやく金剛が到着した。

「Hey!大丈夫デスカー!?」

 金剛は大声で叫びながら手を振った。

 叫び声に緩慢に振り向いたはぐろは、金剛を見て思わず目を疑った。顎が外れたみたいに、はぐろはあんぐりと口を開けたまま唖然となっていた。

 巫女のような服を着た茶色いロングヘアーの女性が、腰部に砲台を付けて海の上を滑走して接近してくる。だが、はぐろはそこに驚いているのではない。

「ハーイ!羽黒お久しぶりデスネー。会いたかったデスヨー!」

 手が届く距離まではぐろに近づいた金剛は、太陽のように微笑みかけた。

 一方はぐろは、怯えたような泣きそうな顔をしている。

 声も容姿も口調も違うのに、なのに…。はぐろはその女性から目を離せなかった。

「こんごう…さん……?」

 どうしてか、彼女の面影に尊敬する大先輩の面影がちらついた。

 顔をくしゃくしゃにしているはぐろに金剛は不思議そうに問いかけた。

「ドウシマシター?」

「こんごう…さん…ごめんなさい……」 

 頭痛や形状の変化だとかでもはや色々と限界だったはぐろは、金剛の登場で情報過多でイージスシステムもはぐろの(こころ)も過負荷がかかり、そのまま意識を失った。

 

 

 

「…か、加賀さん。偵察機より入電…。我、攻撃方法は不明なるも、ル級の撃破を確認す…」

「………………は?何ですって?」

 震える声で報告した翔鶴に加賀はその内容が信じられず聞き返してしまった。 

「攻撃方法が不明ってどういうこと?」

「…偵察機によると、高速で飛行する何かがル級に命中し、爆発炎上したとのことですが…」

 なんだそれは。荒唐無稽にも程がある。だが確か羽黒が撃沈すると言っていたような…。まさか…。しかし、先ほどの彼女が成し遂げた戦闘…。40機を簡単に撃墜した彼女ならもしかして…。けど一体どんな装備なの?

 加賀がそう考えていた時、瑞鶴が報告する。

「加賀さん、第1次攻撃隊から入電…軽空母ヌ級1隻撃沈、1隻大破、駆逐艦2隻撃沈、敵残存艦は東へ退避中…。撤退する模様」

「…了解、第2次攻撃隊を出します」

 見逃すと言う選択肢はもちろん加賀にはない。

 ここで見逃して禍根を残すのはまずい。幸い敵はまだ攻撃圏内にいる。今から出せば間に合うはずだ。

 先ほどははぐろとのやり取りに集中するために攻撃隊を出していなかったが、今度は加賀の航空隊も加わる。

 戦局は残敵掃討に移った。加賀達が第2次攻撃隊を発艦させようとした所へ別動隊としてル級迎撃に向かっていた金剛から通信が入った。

『Hey、加賀!聞こえマスカー!?』

「?どうしたんですか、金剛さん」

 陽気な彼女が無線の向こうで慌てている。

『羽黒が気絶しちゃったネ!ドウスルヨ!?』

 はぁ?一体どうして?衝突でもしたのか?

 加賀は喉元まで出かかったため息を飲み込んで、指示を出した。

「了解、こちらは現在第2次攻撃隊を発艦させるところです。敵艦隊にとどめを刺すので、できることならこちらと合流してほしいのですが」

『了解デース!』

 金剛の声を聞くに、それほど深刻ではない様子。とりあえずほっとしながら再度弓に矢を番える。

「攻撃隊発艦用意」

 第五航空戦隊も発艦準備が整ったのを加賀は目の端に捉える。

「攻撃隊発艦始め!」

 風切音とともに、矢が蒼空へ放たれた。矢はそれぞれ艦戦・艦攻・艦爆へとその姿を変え、銀翼を広げて群れを成して飛び立っていった。

 

 

 金剛は気を失ったはぐろを曳航しながら来た路を戻っていた。

 それにしても、と金剛は思う。

 15年間会ってなかったとはいえ、こんなに変わるものだろうか?

 今金剛が肩を貸している艦娘とは元の世界で何度か共に戦ったことがある。だから金剛にとって羽黒は戦友なのである。

 だが艤装や服、それどころか面影さえ違うように見える。まるで別人のようだ。

 それに、彼女が気を失う前に何故か謝られたが、金剛には身に覚えのないことだった。

 〝あの時〟金剛と羽黒は別々の艦隊だったから、〝あの時〟のことで謝られることもないはず。

 ウーン……。

 金剛はもう一度考えてみるが、やはり思い当たる節はない。

(やはり気が付いてから話をするしかないデスカ……)

 らしくなく難しい顔で考え事をする金剛の頭上を、母艦に戻る航空隊とこれから攻撃に向かう航空隊がすれ違っていった。

 

 

 

 

 

 

 空母3隻から発艦した攻撃隊は、航空機の傘を失い無防備となった敵艦上空まで到達すると艦爆隊が爆弾の雨を降らせ、艦攻隊が海中から忍び寄る槍を放つ。

 唯一無事だった軽巡ホ級が対空砲を日本海軍航空隊に放つが焼け石に水、大破して速力が落ちたヌ級ともども瞬く間に撃沈された。

 また、既に行動不能のル級に対しても攻撃は行われ、炎と黒煙に包まれながら海中に沈下していった。

 

 こうして日本本土に接近していた深海棲艦の艦隊は艦娘によって全て沈められ、日本海軍の勝利に終わった。

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、戦闘が終わり、第1次攻撃隊の収容を終えた加賀達は金剛と合流したのだが、彼女に抱えられた艦娘を見て目を丸くしていた。

 目で見てわかるのは、12.7cm単装砲を1基装備していること。それ以外のはぐろの艤装は加賀達の理解の範疇を超えていた。

(愛宕型ミサイル護衛艦羽黒…だったかしら。でも愛宕さんの艤装とも妙高型重巡の艤装と全く違う…。これは一体?)

 先んじて羽黒と合流した金剛によると、上手く言えないが以前羽黒と会った時と何か違うらしい。

 元の世界では所属が別々だったため、加賀は羽黒と顔を合わせたことはあまりない。それ故金剛の言葉に何とも言えないが、現在羽黒が身に付けている艤装は高雄型と妙高型、両方の艤装と何もかもが違うことを、加賀はどう受け取ればいいかわからない。

 そして、このことを他の艦娘でも理解できるかどうか…。迂闊に広めれば余計な混乱が起こるのでは?

 そう考えた加賀は、現在この場にいる者全員に言った。

「全員、よく聞きなさい。第2次攻撃隊を収容した後鎮守府に帰還しますが、私の許可があるまでくれぐれも彼女のことは決して言い触らさないように」

「えぇ?どうしてですか?」

「こ、こら。瑞鶴」

 不満そうに瑞鶴が文句を言った。慌てて翔鶴が(たしな)める。

 仲のいい艦娘達と出撃中に起こったことなどを共有しあうのは別に禁止されることではない。

 共有しあうことで出撃した時にミスを減らせたり、よりよい作戦を練ることもできるからむしろ推奨されることだ。加えて、娯楽の少ない軍の生活においては噂話なんかも十分娯楽ともなる。

 かつて横須賀鎮守府に所属していた青葉が独自に壁新聞を作っていたのもそれが理由の一つだ。

 おもちゃを取り上げられたように不満を垂らす瑞鶴に加賀は毅然と言った。

「これは命令です。貴女達もいいですね?」

 しげしげと羽黒の艤装を見ている潮と曙にも確認を取った。

「は、はい!」

「…わかったわよ」

 2人の駆逐艦娘が頷くのを確認し、帰還してくる航空隊のプロペラの爆音を遠くに聞きながら、加賀は横須賀鎮守府に戻った際のことを想像して、いつもの無表情の下でため息を吐いた。

 さて、提督にどう報告しましょうか…?

 

 

 太陽は山を登り終え、長い下り道を既に半分程降りている。

 それでもまだ空を青く染めんと、太陽は眩しく輝いていた。

 

 

 

 

 




今回はちょっと書くのが難しかったです。
作者の軍事知識の大半は仮想戦記やWikipedia頼りなので、完全に理解できてないところがあります。
特に、距離の設定が難しかったです。

90式艦対艦ミサイルの射程って150km以上だから、かなり遠くの敵も探知できるよな…。と思ってたらGPSだったり哨戒ヘリだったりを使って護衛艦のレーダーの索敵範囲外の敵を攻撃してるのかとまぁわかったんですが…。じゃSH-60K出せよと話になるんですが、その頃には大体話が出来上がってて、これ全部書き直すのは面d…時間が色々と掛かりそうで、とりあえず完成したのであげようかと感じです。

何か気になることがあったら、感想に一言言ってもらえれば助かります。次回からの教訓とさせていただきます。
ただ、全体の構成を見直すのは至極面倒なので、距離の設定だけを若干変えるぐらいのものになると思います。

(この話の設定だと、多分はぐろは水平線上の向こうの敵を探知できたことになるんですが、…あまり気にしないで頂きたいです。今回限りということでお願いします)



そういえば、はぐろのキャラ設定についてあまり説明してなかったと前編のあとがきを見て思ったので、ざっくり設定を書かせていただきます。


あたご型ミサイル護衛艦3番艦はぐろ
2017年度(平成29年度)の予算で建造が決まったことから、29DDGとも呼ばれる。
イージスシステムはベースライン9、BMD5.1を搭載している。
建造時期の違いから微妙に設計や装備が異なるため、はぐろ型ミサイル護衛艦や後期あたご型とも言われる。

2019年起工、2022年竣工。

就役した後は第4護衛隊群の所属になった。


という感じでしょうか。

それとちょこっとはぐろのキャラ誕生をお話させていただきますね。

まず、イージス艦はぐろの設定を考えたのは、元は艦これの二次創作ではなく、オリジナルの作品の登場キャラとしてでした。
ただ、イージス艦を登場させると主人公の影が薄くなるし、プロットを考えているうちに正直あまり活躍させる場所がないなとなりまして、しばらく放置してたんですけど、艦これの設定を色々考えているうちにここに復活しました。

はぐろの服装の設定に関しては、名前の由来である羽黒山などで修行している山伏の服装にしようかと思いました。でも海自成分入れたいとも思ったので、海自の女性自衛官の制服に錫杖や結袈裟というものを身に着けてます。頭のサークレットは修行の身となった孫悟空が頭に着けてた輪っかがモデルですね。別に呪文唱えると頭を絞めたりしませんけど(笑)。

武装に関しては、2525の静画に自衛艦の擬人化版がたくさんあったので、それを参考にしました。参考ですよ、いいですね?


性格は他の艦魂からは「泣き虫で落ち込みやすい、自分の殻にしばしば籠る」という印象ですね。
ただ、艦これのはぐろのように極度に引っ込み思案だったり人見知りはしませんね。
これ以上はこの場ではちょっと説明するのが難しいので、次回以降の話の中で描いていきたいです。


さて、最後に艦これの二次創作は色々あるので、「はぐろ」という名前は結構使われているのではないかと思うので、ちょっとここではぐろを選んだ理由を言います。

まず一つに、地元山形県の艦名であることが大きいですね。
そしてもう一つ、この作品では神話的・神秘的な部分を多く含む予定です。
鳥海や最上もいいなと思ったのですが、最上だとDEの名前になってしまうのと、鳥海は伝承はあまり知らないので設定にするのがちょっと難しいなと感じてしまったことから選考から外しています。
で羽黒山にある出羽神社が開かれた時の伝承などがビビッと来たので設定を一心不乱に考えて「はぐろ」に決めました。
ちなみに「ちょうかい」も登場させる予定です。
話の都合上先のことになるのですが、ただ、ちょっと悲しい展開になります。

できるだけ描写は忠実に再現したいけど、たぶん無理です。
現実の兵器じゃ絶対ありえないという感じになります。
作者の妄想がノンストップなので(笑)。


ちなみに、ここでちょっと予告を。

この後はぐろは南方や日本近海で日本海軍の所属として戦いますが、ラスボスは




〝潜水艦〟です。






次回は戦闘シーンの代わりに会話シーンが多いので、できるだけ早く更新するよう努力します。
ここまで長文読んでくれてありがとうございます。
それでは、また次回。さようなら。











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