2015.5.10追記
この話に登場する深海棲艦隊の編成にちょっと違和感を感じたので、ちょっとその辺の設定の手直しをします。
今考えると、さすがにヲ級が2隻いるのに40機は少なすぎた。
まぁあまり多すぎてもはぐろの対空ミサイルの消費量がやばいと考えたので、40機なんて微妙な数にしたんだと思いますが。
あと、はぐろの原隊に関しても変更させてもらいます。
今はまだ自分の設定集中だけですが、執筆し始めた当初は特に考えていなかった中国軍との戦闘と護衛艦隊の編成についてようやく決まったからです。
というか、追記でネタバレしてしまっている…。当時の私は何考えてあんなクイズ形式にしたんだろう…。
その内プロローグと邂逅の部分だけでも修正しようかなぁ、と考えております。それがいつになるかは自分でもわかりませんが…。
1945年8月15日、大日本帝国で玉音放送が流れた熱い夏の日、一つの時代の区切りが打たれた。
その後、軍は解体され、国家体制も大きく変わり、日本は新たな道を進む―――はずだった。
それは玉音放送が流れてから数日後のことだった。
沖縄やマリアナ諸島付近などに駐留していた米海軍の艦隊が突如攻撃を受けたのだ。
当初は帝国海軍の中で、降伏を受け入れない部隊の攻撃かと思われた。
だが、目撃証言によりその疑いは晴れる。
それは巨大な魚のような怪物だった。
それらは米海軍の艦隊に対し、小口径の砲と魚雷で攻撃してくる。
大日本帝国を降伏させ、これからは対ソ連を想定していたアメリカは、未確認の生物、或いは未確認の国が作った兵器の出現に慌てるが、その後駆逐艦でも倒せると分かり、連合国はその未知の物に対して
しかし、敵は海の底から何度も現れ、逆に物量で米海軍を捩じり潰そうとする。
更には新型と思われる戦艦並みの火力と装甲を備えたタイプや小型の航空機らしきを使役する空母タイプなども出現し、それどころか太平洋にある一部の島が深海魚に占拠され連合国を悩ませていた。
一方、敗戦国の大日本帝国も困っていた。
海外から引き揚げてくる陸海軍将兵軍属民間人を帰国させるために復員船を送ったものの、復員船が深海魚の攻撃によって撃沈され、甚大な犠牲者が出た。
護衛の艦隊を編成しようにも油も無ければ、まともに動ける艦すら殆どないうえに、海軍上層部も戦後の混乱で右往左往しており、不可能であった。
アメリカやイギリスに護衛を依頼しても、深海魚の対応で忙しいと突っぱねられる。
どうしたものかと頭を悩ませていたところに、突然奇妙な恰好をした少女たちの一団を引き連れた帝国海軍の白い軍服に似た制服を着た男が現れ、日本政府首脳に言った。
「私たちが来たからにはもう安心してほしい。だから深海棲艦の相手は任せてくれ」
男は日本海軍所属の提督だと言い、連れてきた少女たちは艦娘という、深海魚改め深海棲艦に対抗できる存在だという。
正直得体のしれない集団であるが、軍事力が皆無の日本にとってはこれぞまさしく天の助けだった。
そして艦娘たちはどういう原理かはわからないが、海の上を滑走し、身体に付けた砲や魚雷、艦載機を以て赤子の手をひねるように日本近海に安全を取り戻した。
その後、アメリカは艦娘を取り込もうとするが、送った使節が艦娘たちを兵器扱いした挙句、上から目線で命令したため、砲撃され爆撃され雷撃されて最終的に提督に拒否された。
さらにアメリカは中部太平洋における深海棲艦攻撃作戦を艦娘の援護を拒否して実施したが、派遣した艦隊のうち、3/5の軍艦を喪失。残りも艦娘が駆けつけなければ沈んでいたと言われる。
これ以降、アメリカは海軍の再編成と拡充を行うため、太平洋における対深海棲艦を一旦日本に一任した。
理由は 現在太平洋にて作戦行動中の米軍の軍艦が少数であり、またアメリカの敵は深海棲艦だけでなくソ連や中国共産党も含まれる。
世界の主導権を握り、世界にアメリカの影響力を及ぼすためには強大な軍事力を有しなければならないが、そうなると急いで海軍を再編成しなければならない。では深海棲艦はどうするのかということになったが、ここで日本に目が留まった。
深海棲艦の出現する場所は、当時は主に西太平洋となっていた。日本のシーレーンも深海棲艦が跳梁しており、このままでは日本は干上がるだろうと予想された。
なら、死に物狂いで深海棲艦を倒そうとするはず。
他に、提督が自分は日本と共に行動し、その力を深海棲艦にのみ行使すると明言したことや日本の現在の軍事力では深海棲艦の相手で一杯一杯で問題ないのではないかという見方もあり、結果帝国陸軍は解体されたが、帝国海軍は日本海軍と名を改め対深海棲艦の部署として再編成されて存続することになった。
通常の軍艦や軍用機などに関しても、深海棲艦に対処できるだけの戦力保持が連合国から許可される。
ここに、本来とは異なる歴史が進み始めた。
そして、深海棲艦が現れてから15年の月日が経った。
◇
今日も天気は晴れ。洗濯物もよく乾くだろう。
しかし遠くに入道雲が見えることから急な雨に注意しないといけないかもしれない。
いや、いっそ雨が降った方がマシだろう。暑くて仕方がない。こんな時は木陰でゆっくりアイスでも舐めていたい。
全く。世間一般ではお盆も過ぎて、そろそろ秋だというのに…。
そんな日でも、暑さにうだる事無く艦娘は日本の海を護るため、戦っていた。
太陽が頑張って坂道を登っていき、比例するように暑さも上昇していく中、哨戒中の潜水艦伊168から日本本土に接近中の深海棲艦の艦隊を発見したと通報があった。これを受け、日本海軍横須賀鎮守府からこれを迎撃する艦隊が緊急出航した。
航空母艦加賀を旗艦とする横鎮所属第1艦隊は現在、輪形陣を組んで偵察機の報告を待っていた。
中央に先頭から金剛、加賀、翔鶴、瑞鶴が一列に並び、戦艦と空母艦娘を挟むように2人の駆逐艦娘が海を進んでいる。
敵艦隊を発見した伊168によると戦艦ル級が1隻、軽空母ヌ級が2隻、他に軽巡と駆逐艦2隻からなる艦隊だということだ。
「空母の数ではこちらが上ですね」
余裕しゃくしゃくの瑞鶴に加賀が冷たい声音で注意した。
「慢心は危険よ。まだ敵機動部隊は発見できていません。私達の攻撃よりも先に敵空母からの攻撃隊が来るかもしれません。警戒を緩めないでください」
「……そうですね、赤城さんみたいに」
何か空気が凍った音を第1艦隊の艦娘達は感じた。
実は先日の戦闘で、同じ第1航空戦隊の所属で加賀の僚艦である赤城が大破して入渠中のため、加賀はやむを得ず第5航空戦隊と共に作戦行動中なのだが、加賀と瑞鶴は顔を合わせれば喧嘩腰で話すため駆逐艦娘などからは仲が悪いと噂されている。しかし、一方では変な見方をする艦娘もいたりする。
戦闘前だというのに一触即発になった雰囲気を元気な声が溶かしてくれた。
「2人トモー、仲が良いのはGoodデスケド、時間と場所はわきまえてくださいネー!」
「仲良くなんてありません!」
「5航戦の子なんかと一緒にしないでください」
英語交じりの片言で金剛に突っ込まれ、加賀と瑞鶴はほぼ同時に言い返してハッとなる。
「oh、息ピッタリデース」
肩をすくめ、やれやれと言いたげな金剛に、加賀はこれ以上反論はせず口を閉じた。
その耳は真っ赤だが。
だが瑞鶴はいつ敵が来るかもわからないのに、顔を赤くして金剛にまくし立てる。
姉の翔鶴が何とか宥めようとするが効果はない様子。
やれやれ、あとで説教ね…。
そう考えていると、特Ⅱ型駆逐艦の曙と潮が無線で何か話しているのが聞こえた。何となく気になって聞き耳を立てて見ると…。
「うーん…」
「何考えてんのよ、潮?」
「あのね、曙ちゃん。前にもこんなことがあったんだけどね、その時漣ちゃんが秋雲ちゃんに『瑞加賀キタコレ!』って言ってたんだけど、どういう意味かわからなくて……」
「あー…、あんたは別に知らなくてもいいわよ」
……………聞かなければ良かった。
あの娘は何を考えてるのやら…。これも帰ったら説教しなければいけない。
何故、自分たちがそんな風に見えるのやら…。
思わず頭を押さえた加賀の耳に、緊張した金剛の声が無線越しに響いた。
「!…対空電探に感!敵攻撃隊デース!」
「…ッ、対空戦闘用意!」
敵の方が早かったか……。
全員無駄口を収め、金剛と駆逐艦娘の主砲や高角砲、機銃が空をにらむ。
そして、加賀達空母は急ぎ戦闘機隊を発艦させようとするが、敵の編隊は艦隊より遥か前方で編隊を解き、上昇したり降下していく。
何故あんな遠くで?
加賀がそう思った時、敵機が突然火球に変わる。しかもそれは2つや3つではなく、10以上の敵機が瞬く間に墜落していくのだ。
「一体何が起こったネ!?」
金剛の叫びは艦隊全員の言葉を代弁していた。
まだこちらは誰も攻撃していない。なのに白い尾を描きながら光があがると、敵空母から発艦した艦載機は次々と粉砕され、墜ちていく。
「どういうこと?」
今まさに放とうとしていた矢を下ろして瑞鶴が呟いた。
おそらく誰かがあそこで戦っているのだ。
加賀は次々に白煙が立ち上るところを目を凝らして見ると、そこにいたのは…。
「……あれは、艦娘?」
◇◇
「ここは、どこ………?」
茫然とはぐろは呟いた。
あたご型ミサイル護衛艦はぐろに寄り付いた魂、それが己という存在であるはずだった。
だが船体はないのに、どうしてかはぐろは海の上に浮かんでいる。
おまけに自分の体には、護衛艦の装備に似ているが、初めて見る何かが装着されている。
「どうして私は、
今まさに目が覚めたような感覚で考えがまとまらない。
その時、
対空レーダーに感。カテゴリーにない小型の移動目標、数40。真っすぐこちらに接近してくる。
対水上レーダーも妙な艦影を捉えている。6隻ずつの2つの艦隊の中間点にいるようだ。だが、どちらも味方なのかわからない。
一体何が起こっているのかわからないが、少なくとも意識が途絶える前は戦闘中だった。万が一に備え、迎撃する準備を行う。
「対空・対水上戦闘用意。イージスシステムを半自動モードに設定。各システム・兵装に異常なし」
……まぁ、異常なのは今の自分の姿ではないだろうか? 改めて自分の姿を見ながらはぐろはそう思った。
海の上に仁王立ちし、腰に艦首と艦後部を模した可動式の台座(?)に5インチ単装砲とVLS、20mm高性能機関砲が載せられている。
右手は艦首側からコードで繋がっている、ミサイルの発射ボタンが一体化したピストル型のトリガーを、そして何故か左手は錫杖に
脚部に3連装短魚雷発射管、背部に機関と格納庫、そして両肩甲骨の辺りに90式SSM4連装発射筒が一基ずつ装備されている。他にもチャフ発射機やイルミネーター、ソナーに
というか、衣装も気を失う前とどこか違うような…。海自の白い制服の上に付いている
一体何なんだ、これは…。いや、そもそも私は…。
首をぶんぶん横に振って考えを断ち切る。
考えるのは後だ。
接近してくるのが何か確かめるため、目視外の対空ミサイルのよる迎撃は敢えて行わず
「あれは………何?」
あれが鳥かと聞かれたら、はぐろは違うと答えだろう。
しかし、あれは航空機かと問われたら返答に苦しむ。
日本の三菱、アメリカのボーイング、ロッキード・マーティン、フランスのダッソー、ロシアのスホーイ、ミグ、……どの国のどの戦闘機とも感触が違う。例えるならB-2のような全翼機に近いが、全体的に黒い機体の下部に機関砲らしき物を付けているところを見ると、A-10のような攻撃機かもしれない。
いや、とりあえず重要なのはあれが敵かどうかということだ。
不意にはぐろの胸の奥が急に跳ねたように感じた。
その瞬間、異形の航空隊の一部が上昇を始め、さらに旋回しながら低高度に降下してくる編隊もある。その時点で
「なんてこと…」
思わずシステムのエラーを疑った。だがシステムに異常はない。
「どうしよう……やるしかないの?」
平和は崩れ、つい先ほどまではぐろは殺し合いの渦中にいたけど、所属不明機を果たして撃っていいのか? 判断に迷った。だがここには自分1人しかいない。自分を動かす人間も指揮する人間もいない。
「一体どうすれば、うっ!?」
激しい頭痛が走った。ズキズキする頭を押さえ、青空を背景に飛ぶ異形の航空機の群れを睨む。航空機は敵意を纏い、爆弾や魚雷を手にして向かってくる。
…わからない。わからないけど、やらなければ、やられる……! また沈むわけにはいかない。
「対空戦闘、
トリガーのミサイル発射ボタンを押すとVLSの蓋が開口し、中から
対空ミサイルはイルミネーターの誘導に従い上昇する編隊に突進する。
混乱したようにバラバラに回避する敵機に次々と命中し、蒼空に12の黒い花が咲いた。
だが、敵は被害にかまわず突撃してくる。
「なんで対艦ミサイルを撃ってこないんだろう?」
一瞬疑問がはぐろの頭をよぎるが戦闘中だということを思い出してすぐに忘れる。そして、低空に舞い降りて接近してくる敵機に対し主砲による攻撃を開始する。
「主砲、撃ちぃ方ぁ始めぇ!」
トリガーを引くと単装砲から対空砲弾が撃ちだされ、狙い違わず敵機を撃ち抜く。正確な砲撃により、10秒足らずで3機が木っ端微塵になって海中に没する。
それでも数に任せて敵は押し寄せ、2機がSAMの防衛線を突破してはぐろの懐に潜りこんでくる。
主砲は別の敵を迎撃しており、そちらに割けない。
だがそれを見て冷や汗を掻くも、はぐろは慌てない。
「
2門の自律型ガトリング砲が稼働して火を噴く。か細い火箭が主翼を直撃し、攻撃する前にバランスを失った航空機は海上へと落下する。
いつしか辺りは硝煙の臭いと黒い煙で満たされていた。
ミサイルが主砲弾が機関砲弾が命中してまた1機、また1機と海上へと落下し、海の藻屑になる。
主砲は冷却装置が必要になるほど加熱し、CIWSがそろそろ弾切れになる頃、ようやく辺りは静かになった。
対空レーダーは周辺空域に敵機は存在しないと示している。一応周りをぐるっと見るが特に航空機はいない。尤も、ステルス機だったら探知できていないだけかもしれないが。
「対空戦闘用具収め…」
はぁ……、はぁ……、うっ、頭が………。
戦闘を終えて鈍い痛みが頭の中を走る。
煩わしいほどうるさい耳鳴りも聞こえてきた時、凛とした声がノイズ交じりに無線から響いた。
『そこの貴女、聞こえますか?こちらは日本海軍横須賀鎮守府所属の航空母艦加賀です。貴女の所属と艦名を明らかにしなさい』
◇◇
「オーマイガッ…。一体何が起こったデース……?」
信じられない様子で金剛が呟いた。
「金剛さん…?」
「電探から…敵編隊が消えたネ……」
それを聞いた第1艦隊の艦娘達は皆ポカンと口を開けて唖然としていた。
普段は冷静な加賀だって信じられない。例えるなら自分が瑞鶴を猫可愛がりするようなものだ。
たった1隻の艦娘が40機の敵航空隊を全滅させるなんて…。
しかも艦娘には特に被害もない様子。神業と称する以外何と呼べばいいのだろうか。
しかし、一体誰だ?この海域にいるとしたら横鎮所属の艦娘以外ありえないのだが、あのような芸当ができる艦娘はいない。
もしや他の鎮守府から転属してきた娘だろうか…。だとしてもあれほどの戦闘力を持った艦娘を手放すところがあるだろうか?
いや、大和型のように相当機密レベルの高い艦娘が試験中という線もある。
……考えていても埒が明かない。
加賀は無線を国際緊急周波数に合わせて正体不明の艦娘に問いかける。
「……そこの貴女、聞こえますか?こちらは日本海軍横須賀鎮守府所属の航空母艦加賀です。貴女の所属と艦名を明らかにしなさい」
『……………………』
「聞こえていないのですか?聞こえているならこちらの質問に答えてください」
『…………………………………………』
『…………私は…………』
長い沈黙が続き、痺れを切らした加賀がもう一度呼びかけをしようとした時、ようやく応答があった。
『〝海上自衛隊第4護衛隊群所属あたご型ミサイル護衛艦3番艦はぐろ〟です』