艦これ~とあるイージス艦の物語~   作:ダイダロス

16 / 21
どうもダイダロスです。
皆様、ちょっと遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。
今回はいつもより短めですが、どうぞ。





 いつでも会えた。これからもそうだと思ってた。

 ずっと一緒にいたいのに、どうしてか離れ離れになっちゃうんだよね。

 

 

 ◇◇

 

 

 たくさんの物資を腹に抱えた輸送船が、アフリカの草原にいる草食動物のように船団(むれ)を成して海を航行していた。

 いや、むしろこの場合輸送船達を動物に例えるとしたら羊かもしれない。すぐ近くで潜水艦(おおかみ)に襲われないように護っている牧羊犬――艦娘達がいるのだから。

 その艦娘の1人、曙は海鳥が呑気に鳴いているのを聞きながら、水平線の向こうを眺めている。

 そんな状態の曙に、潮が声を掛けた。

「曙ちゃん、どうかしたの?」

「……別になんでもないわよ」

「あ…」

 いつもより大分素っ気なく無感情に、曙は潮の好意を無下にした。潮が残念そうに表情を崩した。

 いつもなら、朧か漣が曙を茶化すか注意するかして曙が煙たがり、潮が宥める。でもその一連の行為の根底にあるのは親愛で、第7駆逐隊の日常だった。

 けどここ最近は曙の様子が変だ。しおらしいというか、大人しいというか。普段の溌剌とした雰囲気はどこにもない。そのことは他の7駆以外の隊の駆逐艦達も気づいているようで、特に霞は張り合いがないとつまらなそうだった。

 朧が神通に近づいて小声で話しかける。

「神通さん。最近曙の様子が変なんですけど、どう思います?」

「どうと言われましても、私は特に思い当たることがありませんね…。朧さんは何か気が付いたことがありますか?」

「いえ、私たちも全然わかんないんです…」

 朧の言う通り、周りにいる駆逐艦達は何故曙の様子が変なのか全く思い当たる事がない。

 胆力のある曙が訓練や口喧嘩で意気消沈するはずもない。となれば何か変な物でも食ったか、ということになるのだが、食堂や間宮の食べ物は曙以外も口にしているだろうし、薬を盛られないように鎮守府外の食事は禁止されている。

 当てずっぽうで、曙とはぐろの間に何かあったんじゃないのかと推論も出るが、その場に曙はいなかったはずだし、曙の性格を考えると違う気もして余計にわからなくなる。

 直接曙に聞いてもはぐらかされるばかりで、どうしようもない感じだ。

「そうですか…」

 浮かない顔で神通がため息をついた。本当にどうしたらいいのだろうか。

 頭上から聞こえてくる海鳥の鳴き声が、神通達にはやけに五月蝿く聞こえた。

 

 

 

 ◇◇

 

 

「え? 平沼のこと、ですか?」

 加賀がちょっと戸惑った様子で赤城に聞き返した。

 昨日の夜に南方への出張から帰ってきて、4日ぶりに横須賀の食堂で朝食をとっていたら、赤城に平沼の事を聞かれたのだ。

「昨日秋月さんと出撃したんですけど、どうも上の空なんですよ。なんだか危なっかしくて…」

「あ、赤城さん? 秋月の様子と平沼がどう関係しているんですか…?」

 平沼の事を聞かれたかと思えば、急に防空駆逐艦の話になった。

 加賀が話の流れの脈絡のなさに戸惑っていると、赤城が怪訝そうに首を傾げた。

「あれ? 加賀さんは例の噂を聞いていないんですか?」

「噂?」

 どの噂だろうか。鸚鵡返しに聞き返した加賀に、こくりと頷くと赤城は説明する。

「あぁ、そういえば加賀さんは昨日まで出張でしたね。いえ、なんでも間宮で急に平沼さんが泣き出したとか。その時現場にいたのが秋月さんや駆逐艦の()達らしいです」

 初耳だった。というかどうしてそうなったのか加賀にはわからない。

「泣き出したというのは、どういう…?」

「さぁ…。私も飛鷹さんから又聞きしたので、よく知りません。でも、その事を駆逐艦の娘達が気にしてるようなんです。自分達が気づかないうちに平沼さんを傷つけたんじゃないかって。平沼さんは何でもないとおっしゃってるらしいんですけど…」

 何でもないと言うには平沼の様子がどこかおかしい。

 落ち込んでいるというか、気がそぞろというのか。それを見て駆逐艦達は責任を感じているのだとか。

「私としては、駆逐艦の娘達が困っているなら何とかしてあげたいんですけど、情報が足りなくて」

 なるほど、だから情報収集中と。索敵を忘れないとは、流石だと加賀は思った。

「で、話を戻しますけど、加賀さんが平沼さんについて知っている事教えてくれませんか?」

「知っている事、と言われましても…」

 困った様子で加賀は髪を撫でた。

 加賀とはぐろはそれほどお互いの事を知っている訳ではない。最初にはぐろの事を尋問した時に同席して、ある程度の事情を知っている事以外、加賀ははぐろのことを知らない。そして特殊兵装実験艦平沼として過ごすことになったはぐろに、加賀は深く立ち入らないようにしていた。

 聞くなと言われたわけではないが、装備以外の事をさらにはぐろに聞いていいのかもわからず、初めて出会った時に尋問した事以外知らないままになっている。仮に知っていたとしてもはぐろは記憶喪失の設定だから、話すことは不可能だろうが。

「すみません、私も平沼について装備以外で知っている事はほとんどありません」

 それを聞いた赤城は困った表情になる。優しい赤城のことだから、どうすればいいのか考えているのだろう。

 赤城が気になっているのなら、自分はどう動くべきか。

「加賀、ちょっといいか?」

 加賀がそう考えていると天龍が声を掛けてきた。何の用事だろうと振り向くと、彼女の後ろには由良もいる。

 天龍は空いていた加賀の隣の席に腰を下ろす。由良は赤城の隣に落ち着いた。

「実は平沼のことで相談があってだな」

「貴女達も、ですか?」

 加賀が聞くと2人は頷く。

「えぇ。6駆と秋月がとても気にしてて、訓練や任務にも影響が出そうなんです。曙も最近様子が…」

 由良が少し深刻そうに言った。

 軽巡洋艦達が揃って来た事情はわかった。駆逐艦達の様子がおかしければ、水雷戦隊の指揮官として駆逐艦を束ねる軽巡洋艦が出てくるのは当然だろう。

 しかし事情はわかったが、それとは別に加賀には分からないことがある。

「それで何故私達の所に? 本人の所に行けばいいのでは?」

 加賀の質問に、男勝りな天龍が珍しく困った様子で答えた。

「いや、俺も平沼に直接聞きに行ったんだがな。全然答えてくれねえんだよ。個人的な話だからって。なんか迂闊に踏み込めそうにもなさそうだしよ」

「金剛さん達にもお願いしてみたんですけど、失敗してしまったみたいで。他にも親しそうな方にお願いしてるんですけど、残りは加賀さんと赤城さんくらいしかいないんです」

 と、由良が補足した。

 親しい、と言われても何か特別な交流をしていたわけではない。ただ演習相手になっていただけだ。何故皆そう思うのか。加賀は不思議に思った。

「私よりも夕張さん達の方が知ってると思うのですけど」

「あの二人は工廠で潰れてました。いつ起きるのかわからないぐらいに熟睡しています」

 呆れ顔で由良が言った。新装備の開発に夢中になっているのはわかるが、せめて生活習慣は崩さないようにしろと加賀も思う。

 金剛達が失敗し、夕張達が行動不能だから自分に回ってきたのは理解できる。

 しかし金剛が無理だったというのなら、コミュニケーション能力が他と比べて乏しい自分が上手くいくと思えないのだが。

 とはいえ、放置して問題が大きくなるのはよろしくない。はぐろに何かあった時は、江李からサポートすることも命じられていた。向き不向きを論じるよりも行動するほうがいいだろう。

 最後の一口を食べ終えると、とりあえず加賀は空の食器を載せたトレーを持って立ち上がった。

「わかりました…。私のほうでも考えてみます」

 取り敢えず加賀は、金剛か六花に最近のはぐろの様子について聞いてみることにした。

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

 〝ちょっと待って、どうして?〟

 〝どうしてあんたが残るのよ? あんたが残るよりもあたしが残るほうが損害としては少ないじゃない!〟

 〝艦隊を護るのがイージス護衛艦の役目? 最も能力が高い? 違う、違う、そういう事じゃない!〟

 〝だってあんたはまだ5年しか…〟

 〝待って! 待ちなさいよ!! あたしも一緒に連れて行って!!!〟

 

 

 〝なんで…。どうしてあたしも一緒に行けなかったの…?〟

 〝あたしは…。あたしはまだ……〟

 

 

 

 〝あんたと一緒に海を行きたかったのに……〟

 

 

 

「またあの夢…」

 天井を見上げて、曙は布団の上でポツリと呟いた。

 ここ最近、妙な夢を見る。黒髪をツインテールにした少女が出てくる夢だ。

 真っ暗な海の上で、その少女はいつも泣き叫んでいる。そして最後、夢から覚める直前で懇願するように涙目で自分のことを見てくるのだ。

 夢なんてすぐに忘れるようなものなのに、忘れることができない。夢に出てくる少女の事が頭から離れず、なんとなく調子が出ない。

 周りに心配を掛けているのはわかるが、夢に出てくる少女が気になっているなどと馬鹿馬鹿しくて言えるはずがない。からかわれるだろうし、話したところで解決するとも思えない。

「はぁ……」

 すっかり目が覚めてしまった。遠征から帰ってきた後なのだからゆっくり眠っていたかったが、諦めて起きることにした。

 曙は布団から抜け出し、同室の潮達を起こさないように静かに窓に近寄る。山陰に隠れる直前の月が外を照らしているものの、辺りはまだ仄暗い。僅かに鎮守府内に設置された電灯が限られた範囲を照らしている。

 眺めていても特に面白くもない風景だ。このまま朝日が昇るのを待つか、布団に戻って起床時間まで寝る努力をするか悩む。

「ん?」

 曙は窓に顔を近付けた。息がかかって窓が曇る。

 まだ暗い中を、ギリギリ眠りに就く前の月を頼りに誰かが歩いているようだ。

 こんな時間に誰が歩いているのだろうか。

 気になった曙は、一部の者以外出歩く事を許されていない夜間に、こっそりと部屋の外に出ることにした。

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

 まだ薄暗く、朝とも夜とも区別が付かない時間。まだ鎮守府も極一部を除いて眠りについている頃、はぐろは1人で埠頭にいた。体育座りをして、東京湾を眺めている。

 後ろで地面を踏む音が聞こえても気にせず、はぐろはジッと湾を眺めている。

 その聞いた通りの様子に、加賀は嘆息した。六花から夜も明けない頃にはぐろが埠頭に向かう事があるという目撃証言を聞いた時は流石にありえないと思ったが、まさかである。

 はぐろはただ無言で湾を眺めている。まだ冬ではないとはいえ日も昇っていない時間に、潮風に吹き曝しで寒くないのだろうかと思いながら、その寂しそうな背中に加賀は声を掛けた。

「おはようございます」

「……」

 挨拶にはぐろは返事をしなかった。金剛が妹達と一緒にはぐろを交えてお茶会をした時も言葉があまり多くなかったと聞いていた加賀は、構わずはぐろの隣に腰を下ろした。

「寒くありませんか?」

「いえ、大丈夫です…」

 そう言いながらはぐろは指先を擦り合わせた。

 いつからこの場所にいたのか知らないが、潮風に当たり続けていれば冷えるだろう。

「こんな所でこんな時間に何をしているんです?」

「別に、何も…」

 素っ気なくはぐろは誤魔化した。

 加賀は話しかけるまでにどう切り出すか悩んでいたが、これでは策を弄しても意味がなさそうなので、単刀直入に質問する。

「最近、駆逐艦の娘達の様子が気になると、一部の艦娘から相談がありました」

 加賀のやや低い淡々とした言葉に、はぐろが僅かに身動(みじろ)ぐ。

「貴女の事を心配しているようです。間宮で何があったのか、噂程度でしか私は知りません。しかし、それが元で彼女達が沈んでしまっては困ります」

 それを聞いたはぐろの気配が少し変わった。1人でいたいという、はぐろの刺々しい雰囲気が和らいだ気がした。

「…話しにくい事であるのは承知の上でお聞きします。…何があったんですか?」

「………」

 はぐろの雰囲気に拒絶の色はない。なんと言えばいいか迷っている様子だ。

 加賀は辛抱強く待ち続けた。

 かなり長い間があって、ようやくはぐろが話し出した。

「…天倉司令にはお話ししたんですけど、海上自衛隊に所属する艦の中には、私のように旧海軍に所属していた艦の艦名を受け継いでいる艦もいます」

 それを聞いて加賀は目の前にいる存在の本当の名前を思い出す。確かはぐろという名前だった。艦娘の名前は大日本帝国海軍がかつて保有した、あるいは海上防衛軍が引き継いだ軍艦と同名である場合が多かった。何故妙高型重巡羽黒と同じ名前なのか、今更ながら加賀はなるほどと納得する。

「むらさめ型護衛艦いなづま…。彼女は私の仲間の1隻で、私がここに来る前の戦いで、沈みました…」

 その話を聞いて、加賀はそういうことかと思った。喪った仲間の名前と同名であれば、センチメンタルになっても仕方がない。

 だが、はぐろと電が出会ってからある程度時間は経っている。何故今になってなのか?

「電と…あの娘と何かあったのかしら?」

「…いいえ。何もありません。ただ、私が勝手に思い出して、泣いただけです…」

 はぐろは具体的な事は何も言わない。でも電を庇っている様子はない。大方事実なのだろうが、加賀には核の部分が分からない。その事を聞くにはもう少し踏み込む必要がある。

 どう聞くべきか加賀が言葉を選んでいると、俯いたはぐろが先に言葉を口にした。

「私は……何をやってるんでしょうか?」

 そう(こぼ)すはぐろの手は震えていた。

「仲間も、約束も護れず、一人だけここでのうのうと日々を送って…」

 はぐろは苦しそうに手で胸を押さえながら言葉を吐き出す。

「貴女は……どうしたいの?」

 ようやく加賀が捻り出せた言葉がそれだった。こんな言葉じゃなんの慰めにもならないだろう。

 しかし中途半端な慰めよりも良かったようで、はぐろは涙ながらに答えた。

「会いたい……。会いたいんです…。こんごうさんやいせさん達、皆に…」

「帰りたい、ではないの…?」

 加賀の問いに、はぐろは首を横に振った。

「…帰っても、私だけが帰っても意味ないです。ぐす…。艦長も副長もいなづま達もいないんじゃ、私だけ帰っても意味なんかない……」

 涙声ではぐろは訥々と胸の内を語る。

 加賀は、これがあの実験艦なのだろうかと少し信じられなかった。あれだけ高い戦闘能力を持っているというのに、こんなにも弱いのかと、目を疑った。

 そして羨ましいと思った。日本海軍の主力である加賀は、容易に他人に弱味を見せられない。強いのだからこそ、弱い部分を見せられない。

 だから他人の前で簡単に泣けるはぐろが、ちょっと羨ましかった。

 同時に親近感も湧いてきた。装備の能力に差はあっても、悩んだり悲しんだりするのは変わらないと思った。

 はぐろへの認識を改めた加賀は、思うままに自分の気持ちを伝える。

「……なら、ここにいればいいと思います」

「え゛?」

 涙声ではぐろが聞き返した。

 はぐろが加賀の方を見ると、加賀は東京湾を見ていた。そのまま言葉を紡ぐ。

「帰れないなら、ずっと私達の所にいればいいと思います。…いつか貴女が大切な人達の所に帰れる意味を見つける時が来るまで」

「…いいんですか? 私が、ここにいても」

「…はい。貴女は私達の仲間ですから」

 元の所属は違えど、横須賀にいて、共に戦う意志があるなら、それは仲間だ。

 加賀がそう言い切ると、はぐろが嗚咽を上げ始めた。

「ごめんなさい……ごめんなさい…」と謝りながら泣くはぐろの頭を、加賀は優しく不器用に撫でた。

「あ…」

 東京湾の向かい側に広がる港湾施設の、さらに向こうの町並みの向こうから太陽が昇った。夜明けだ。加賀は眩しさに目を細めながら日の出を見る。

 はぐろも濡れて赤くなった目で、空に昇り始めた光を見た。

 その様子をサイドテールの少女が建物の陰からこっそり眺めていた。

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

 

 朝食の席で加賀は、赤城と天龍、由良を呼び寄せて事情を説明した。

「なるほど…。急に故郷の記憶が少しだけよみがえって、それでホームシックになってしまったと」

「はい、赤城さん。そういうことらしいです」

 涼しげな様子で加賀はお茶をズズッ、と飲んだ。

 本当の事を話せば機密事項を話さなければなくなるので、少しばかり虚実を混ぜておく。

 だからなのか、天龍は不審そうだ。

「ホームシックねぇ…。まぁわからなくもねぇけどよ」

「へぇ、天龍さんもホームシックになったことがあるんですね」

 天龍が茶化すなと由良の顔の前で振った。

「あのよ、由良。俺だって感情が全く無いって訳じゃねーんだぜ? そう思うことだってあるっつうの」

「…似合いませんね」

「そりゃどういう意味だ?」

 軽巡のじゃれ合いは放置して、赤城がニッコリと笑顔で言う。

「でも平沼さんの記憶が戻ったのは、良いことですね」

「…本人曰く、ほんのちょっとだけとのことですが」

 いつもとほぼ変わらない表情で加賀は嘘をつく。はぐろは記憶喪失ではないのだから、戻る記憶はない。ただ忘れていた事を思い出していただけだ(と加賀は聞いた)。

(すいません、赤城さん…)

 心の中で加賀は謝る。天龍達はともかく、加賀にとって一航戦の相方である赤城に隠し事をするのは心苦しい。

 それでも天倉江李提督が機密と指定している限り、加賀にそれを話す権限はない。はぐろにもだ。

 赤城であるならば大丈夫だと思うが、江李からはない。今度上申してみた方がいいだろうか。

 いつか話せる機会が訪れるだろうか。はぐろが気兼ねなく自分の事を話せる時が。

 

 

 

 ◇◇

 

 

 その頃、在日米海軍横須賀基地では、重大な案件を作戦本部から送られ、基地要員が頭を悩ませていた。

「ワット大佐、これは本当なのですか?」

 軍曹がワットに質問する。ワットは険しい顔で頷いた。

 軍曹に続いて大尉も渋い表情で意見する。

「大佐、朝鮮半島を失った我が合衆国にとって、この地は重要な戦略的拠点になることは私も承知しております。しかし…、これは」

 大尉が喋るのを遮って、ワットは淡々と話す。

「大尉、我々は軍人だ。時に上申する場合もあるが、大統領命令ではな…」

 それを聞いた大尉と軍曹はもどかしそうに低く呻いた。

 一佐官如きが提言しても、合衆国軍総司令官の大統領が相手では難しい。海軍作戦本部の連中からは左遷先の認識で一致している日本の基地司令官の意見など無視するだろう。

 軍曹が呆れた様子で話す。

「しかし、上層部がこんな計画を進めていたとは…。空軍の怪物爆撃機と弾道ミサイルの配備で、もはやスクラップになったかと思ってましたよ」

「深海魚相手じゃ、軍艦はほとんど役立たずだからな。まぁ仮想敵は深海魚じゃなくて赤国だろう。赤国は海軍をほとんど整備していないらしいからな」

 どこからか聞きつけた情報を話しながら大尉は推測する。

「……水上戦力がその程度なら、わざわざ艦隊を寄越す必要があるんでしょうか?」

「さあ。このままだったら海軍から沿岸警備隊に落ちぶれそうだから、存在をアピールするとかじゃないのか? それに深海魚はともかく、人間相手には一応必要だろう。輸送できる量は船の方が多いしな」

 そんな部下達の会話を聞きながら、ワットは命令書を手に取る。

 その命令書には、一ヶ月後にアメリカから日本に艦隊が派遣される予定だと書かれていた。理由は在日米海軍の戦力を再建するためだという。

 深海棲艦を対処するのは日本海軍だし、ソ連も中国もろくな海軍がいないのだから果たして再建する必要があるのか疑問だが。

 それに今回、日本に派遣されてくるアメリカ合衆国海軍太平洋艦隊第7艦隊所属第70任務部隊の所属艦は、同部隊旗艦のミッドウェイ級航空母艦ミッドウェイの他、駆逐艦や巡洋艦などの戦闘艦、輸送艦や補給艦といった補助艦艇も含まれている。

 今まで艦娘の監視が主だった左遷部署だけに、いきなりこれほどの部隊を受け入れられるのだろうか、とワットは心配になるが、上層部は全く考えてないんだろうなと思って、ため息をついた。

 

 

 

 




どうもダイダロスです。


前回の投稿後、いろんな方から感想や評価をいただきました。ありがとうございます。
少なくない方から面白いと言われ、高評価もいただきました。自信が湧いてきました。とても嬉しかったです。そして皆様が評価していただいたおかげで日間ランキングにも載りました。改めて、本当にありがとうございます。<m(__)m>


さて今回のサブタイトルですが、今回から曙編が始まります。最初は「朝日」にしようかとも思いましたが、明け方の意味と曙がメインの新たな話の幕開けと言う意味を込めて、この名前になりました。

そしてミッドウェイの登場で予想がついている方はいると思いますが、曙編の戦場はミッドウェーです。
ちなみに、原作のAL/MI作戦は既に行われ、中間棲姫は既に倒されています。
なので、今のうちに言っておきます。次回はオリジナルの敵を登場させる予定です。
たぶん、ミサイルを装備したりジェット機を搭載した深海棲艦が登場するだろうな、と予想する方がいるかもしれませんが、それはないです。
なので何が出てくるか、ちょっとヒントを出します。
人をたくさん運んだ日本の軍艦がモデルになった深海棲艦です。


余談ですけど、この前C89に一般参加してきました。色々と艦これの薄い本を買いました。チキンな自分は全年齢ばっかですけどw。
で、会場内で18駆とむらさめが描かれたポスターを見つけて、自衛艦これのSSを書いてる身としてはゲットしなければ! と意気込んで行ってみたら、既に売り切れてました。(´・ω・`)
もっと自衛艦これ増えるといいんですけどね…。
では、また次回お会いしましょう。


今回の解説


・金剛が失敗した理由
事情を聞かれたときに比叡達がいたから、はぐろが平沼として通すしかなかったため、話すに話せなかった。

・ミッドウェイ級空母ミッドウェイ
史実の米空母ミッドウェイ。
深海棲艦にエセックス級空母が多数大破、撃沈されたため、ミッドウェイ級の建造が追加で10隻計画されたものの、日本海軍の設立で白紙になった。その後、核兵器や空軍の爆撃機、弾道ミサイルの配備に力を入れ始めたアメリカは、大型空母の実用性の疑問もあってフォレスタル級などミッドウェイ級以降の空母は建造されていない。が、アメリカ海軍上層部が暗躍しているという噂もあり、大型空母が生まれる日が来るかもしれない。


・深海魚
連合国が深海棲艦が現れた当初に付けたコードネーム。正式名称がわかっても、未だにこれを使う米軍人もいる。



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。