艦これ~とあるイージス艦の物語~   作:ダイダロス

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初めての方には最初に言っておきたいことがあります。
この話は次話の序章の加筆修正版です。
なので、次話は飛ばしてくれても構いません。


それからこの作品は仮想戦記ではありますが、あくまで艦隊これくしょんの二次創作です。
軍事に詳しい方から見ておかしい部分があるかもしれませんが、寛大な心で読んでくれたら嬉しいです。

その点ご留意の上、楽しんでいただけたら嬉しいです。


7.11。序章を削除しました。それから誤記があって修正しなければならない部分があったので修正したことと、少し加筆した事を報告します。




終始

 20世紀に人類は、世界規模の戦争を2度も体験した。軍民問わず大勢の人々が犠牲になり、数えきれない悲劇が起こった。

 特に2度目の世界大戦では、原爆という既存の兵器を超える、人類が滅亡する危険性のある兵器まで誕生してしまった。

 その反省から戦勝国は第二次世界大戦後に国際連合を組織、大国同士や世界規模の戦争が起こらないような仕組みを整えた。

 だが、第二次世界大戦終結後も世界各地で紛争は起こり、テロなど様々な問題が起こっていた。

 日本もまた対立とは無縁ではいられなかった。一部の周辺諸国とは歴史問題や領土問題で争っており、特に尖閣諸島では海上保安庁が中国船とにらみ合い、年々増加する南西諸島の空自戦闘機部隊のスクランブル。平和とはいうものの、いつ何があってもおかしくない危険性は日に日に増していた。

 そして日本では戦後82年を迎えた日、長く続いた平和が破られた。

 

 2027年。8月15日。

 東シナ海日中中間線付近で護衛艦ちょうかいが中国軍に撃沈される事件が起こり、直後に中国でクーデターが発生し、政権も変わった。

 アジアで燻り続ける火種がとうとう燃え上がり始めた。

 

 2027年。8月21日。

 宣戦布告もなく中国軍の航空隊40機、並びに駆逐艦、フリゲート艦17隻で構成された艦隊が沖縄本島近海に押し寄せてくるも、護衛艦さわぎりの沈没、及び空自戦闘機隊の5機の未帰還と引き換えに防衛出動した自衛隊によって1度は退けられた。

 

 2027年。9月3日。

 空と海、そして海中で熾烈な戦闘が繰り広げられていた。再び押し寄せてきた中国軍は前回の倍以上の戦力で自衛隊に牙を剥く。対する自衛隊も持てる全力で防ごうとしていた。

「うみぎり、ありあけ、轟沈!」

「いなづま、総員退艦を発令した模様!」

 沖縄を防衛するために出撃した、ひゅうが型ヘリ搭載護衛艦いせを旗艦とする海自の護衛艦隊乙部隊は、空母1隻と揚陸艦9隻を含む総数44隻の中国海軍を相手に苦しい戦いを強いられている。

 護衛艦隊乙部隊攻撃に向かった中国軍の航空隊70機を那覇の空自が邀撃(ようげき)するも、中国空軍や中国海軍の空母遼寧から発進した敵戦闘機に阻まれる。多く墜ちていくのは一本線に赤い星が尾翼にペイントされた機体だが、中国空軍の精鋭(エース)もいるのか日の丸の戦闘機も何機かが黒煙と共に墜ちていく。

 戦力が低下し、空自戦闘機隊が中国空軍の数の暴力に押し潰されそうになった時、ようやく援軍が到着する。星を翼に飾った戦闘機隊、嘉手納に駐留する在日米空軍の部隊だ。彼らが参戦した事で空自は盛り返していく。

 海自の潜水艦部隊も中国海軍の潜水艦部隊と海中で死闘を繰り広げている。時折海面が盛り上がっては太い水の柱が現れた。

 航空機と艦隊から迫る対艦ミサイルをイージス艦2隻を中心に迎撃する乙部隊だが、イージス艦の処理能力を上回りかねない物量攻撃を前に迎撃だけで精一杯だった。

 やがて細かに張り巡らされた乙部隊の防衛網に、一瞬の隙ができた。

 一発の対艦ミサイルに主砲を吹き飛ばされたうみぎりは、弾薬が誘爆を起こし、前のめりになって艦首から海に飲み込まれていった。

 うみぎりの被弾で生じた防衛網の綻びは、さらに周りへと波及していく。

 3発の対艦ミサイルを立て続けに被弾したありあけは、乗員が脱出する間もなく大きな爆発音と共に轟沈した。

 いなづまは対艦ミサイルを1発被弾。その影響で機関が停止。必死の消火活動も空しく総員退艦が発令された。

 三隻の護衛艦が落伍し、乙部隊の陣形が乱れつつある。

 さらに敵の攻撃は止まらなかった。

「さざなみ、あきづき被弾!現在状況確認中!」

「……」

 部下の報告を、あたご型ミサイル護衛艦三番艦はぐろの艦長、橋元伸次郎一等海佐が険しい顔で聞いていた。

 戦闘開始から既に5隻の護衛艦が被弾している。敵の対艦ミサイルはイージス護衛艦の防空能力を力づくでこじ開けれるほどに多かった。

 さざなみは対艦ミサイルを1発被弾し、何とか航行能力を維持できたものの戦闘能力を喪失し、すずつきが護衛について後退した。

 あきづきも対艦ミサイル1発を受けて中破。航行能力、戦闘能力は共に辛うじて保持しているものの、その能力は低下している。

 不意にはぐろを衝撃が襲った。警報がCICに鳴り響く。

「被害状況報告ー!」

「…本艦に被弾はありません。直撃する寸前でCIWSが1発撃墜しました」

「ブリッジで負傷者2名!爆発の破片を受けたものと思われます!現在後送中」

「……!左前方SPY-1レーダー、及びECM装置故障!至近での爆発による影響かと思われます!」

 はぐろの副長と砲雷長を兼ねる松浦二等海佐が故障の報告を上げた部下に質問する。

「故障したSPY-1とECM装置は復旧できないのか?」

「……ダメです。ECM装置は何とか復旧できそうですが、SPY-1は今すぐには無理そうです」

「…わかった。ECM装置の復旧急げ」

「了解」

 とうとうイージス護衛艦にも被害が出た。現在この場で無傷の護衛艦は旗艦いせ、あけぼの、そして乙部隊に所属するもう1隻のイージス護衛艦こんごうのみだ。

 はぐろ達護衛艦隊乙部隊も中国軍の攻撃の合間に反撃して中国海軍の駆逐艦やフリゲートを8隻撃沈破するも、中国艦隊はまだ36隻と彼我の戦力差はまだ大きい。

 さらに飛来する第6波の中国軍の対艦ミサイルを、松浦二佐が声を張り上げて迎撃の命令をする。

 橋元艦長は険しい表情のままレーダースクリーンに映る状況を眺めていた。

 ひっそりとレーダースクリーンから光点がまた1つ消える。

「…いなづま、ロスト」

「艦長、旗艦いせより入電!」

 そこへ通信士が慌てて駆け寄ってきた。持ってきた電文を橋元に渡す。

 さっと目を通した橋元は軽く目を見開いた。

「……何?」

「艦長?」

 松浦二佐が怪訝そうな視線を向けた。

「…艦隊司令部が戦闘を一時中断し、現海域を離脱してこちらに向かっている甲部隊と合流すると言ってきた」

 第2護衛隊群を中核に編成され、いずも型ヘリ搭載護衛艦かがを旗艦とする護衛艦隊甲部隊。

 尖閣諸島に戦車揚陸艦を含む中規模の揚陸艦隊が接近中との報を受けて、甲部隊はそちらの迎撃に向かっていたはずだ。

「甲部隊が?尖閣方面はいいのですか?」

「尖閣方面は片付いたようだ。はるさめとたかなみを警戒に残して既にこちらに向かっているらしい。……もしかしたら向こうは囮だったのかもな」

 あっさりと片付いた尖閣方面の状況に、橋元はそう言った。

 何しろ今はぐろを含む乙部隊が対峙しているのは揚陸艦だけでなく中国海軍の虎の子である空母まで含む大艦隊なのだ。

 沖縄本島を押さえれば、沖縄本島以西の南西諸島を確保できると見込んでいるのだろうか。

 どちらにしろ、現状の乙部隊だけで対処できる相手ではない。

「しかし、離脱すれば中国艦隊が…。それに現在5航群がこちらに向かっています」

 空の戦いはなんとか日本側に軍配が上がった。

 練度で勝る航空自衛隊の戦闘機部隊は数の不利を跳ね返し、さらに嘉手納の在日米空軍が加わったことで沖縄本島周辺の制空権を確保することができた。

 形勢不利となった中国海空軍の航空隊は撤退するか散っていくかのどちらかだった。

 そして制空権が確保された大空に、待機していた海上自衛隊第5航空群が満を持して那覇基地から出撃した。

 第5航空群に所属するP-1哨戒機は、91式空対艦誘導弾(ASM-1C)を主翼のハードポイントに8基搭載できる。1機当たりの対艦ミサイル搭載量はF-2A戦闘機よりも多い。そのP-1が8機出撃していた。

 さらに第5航空群を支援するために、この時那覇に進出していた岩国のEAP-1電子戦機2機と護衛の那覇空自戦闘機部隊が同伴していた。

 現在海空自衛隊の航空部隊は戦闘海域に進出中だが、距離と速度の関係でいまだ到着していない。

「やむを得ん。このままでは持たん。…悔しいがな」

 36対5。相手が揚陸艦などを含むとはいえ、半数の戦力を失い、弾薬も少なくなっている乙部隊は限界だった。

 この上は一旦この場を退いて5航群と潜水艦部隊に任せ、甲部隊と合流して再起を計るしかない。

 旗艦の命令に従い、護衛艦隊乙部隊は舳先を尖閣諸島方面に向ける。だが、手負いの獲物を逃すほど中国海軍も甘くはなかった。

「中国艦隊から艦隊が分離、追撃してくる模様!」

 レーダースクリーンに浮かぶ、敵を示す輝点が味方を示す輝点を追ってくる。数は13隻。

 対して味方は5隻。そのうちの1隻はヘリ空母であり、またあきづきなど被害を受けている艦もいる。敵の数は減ったといえ、さして状況は変わらない。

「間に合わん、か…」

 橋元は険しい表情で呟いた。

 データリンクで現在急行中の味方航空隊の状況なども把握しているが、やや時間が足りない。

 このままでは乙部隊は壊滅的な打撃を受ける可能性がある。それは今後の作戦にも響くだろう。これ以上犠牲を増やすわけにはいかない。だがそれにもやはり犠牲が必要だ。

 2つを秤に掛けて迷いながらも橋元艦長は決断を下した。

「…通信士、旗艦いせに意見具申。『本艦が当海域に留まり、艦隊の離脱支援にあたる。各艦は速やかに後退されたし』だ」

「!」

 松浦が目を見開いて無言で橋元を見た。CICの隊員達も信じられない表情で艦長を見た。

 橋元はマイクを手に取った。

「艦長より全乗員に達する。先ほど艦隊司令部から一時離脱し甲部隊との合流命令が出た。だが現在も中国艦隊より追撃を受けている。敵の方が数が多く、そして被弾した艦もいる中、この状況では独力で撃退すること離脱も難しい。よって本艦が他艦の盾となり、後退を支援しようと思う」

 困惑する隊員達を余所に橋元一佐は、最後に隊員達にお願いのような命令を発した。

「……私の独断に付き合わせてすまないが、どうか力を貸してほしい。無論退艦を希望する者は今のうちに艦を降りることを許可する」

 橋元艦長の言葉に誰もが黙っていた。当然だ。いくらイージス護衛艦でも、眼を一つ失い、対空ミサイルの過半数を消費している以上、敵の大軍を前に単独で留まるなど自殺行為でしかない。

 だがその言葉を橋元一佐の隣で聞いていた彼女は、誰にも見えないのに誰にも聞こえないのに、頷いて言った。

『いいよ、艦長。私を好きに使って』

 そして、決してその言葉が聞こえたわけではないが、松浦がため息混じりに言った。

「やれやれ、味方を離脱させるために単艦で敵艦隊と戦う…。これは因縁でしょうか?」

「さぁな。だが仲間のために戦うのは、古今東西どこでもある話じゃないか?」

「ですね」

 松浦の言葉に、CICにいる隊員達も覚悟を決めた表情で頷きあった。

 死ぬのは怖い。

 だが自分たちはイージス護衛艦であり、日本の、そして艦隊(なかま)の盾となるのが役目だ。

 それにまだ乙部隊には無傷のこんごうが、甲部隊にはあしがらがいる。

 そしてその気持ちは艦魂(はぐろ)も同じだった。

『全く、あけぼのったら…。そんな我儘私に言ったってどうしようもないのに』

『……はぐろ。また後で…会いましょう?』

『…はい、こんごうさん。また、あとで…』

 面舵一杯。針路変針。はぐろは艦隊から離れ、単艦で中国艦隊に突撃した。

 

 

 

 

 撤退する護衛艦隊乙部隊を追撃するべく分離した中国艦隊。

 その分遣艦隊の旗艦を艦隊司令官から任せられた蘭州級駆逐艦西安指揮の下、追っていた。

「敵艦隊より1隻、こちらに向かってきます」

「ふん、馬鹿め。たった1隻で何ができると言うんだ。つくづく度し難い愚か者の連中だ」

 彼我の戦力差は語るものではなく、たった1隻で戦況をひっくり返せるようなものではない。

 神風でも期待しているのか、と西安の趙艦長は不機嫌そうな表情で思った。

「全艦、攻撃始め!」

 趙艦長の命令一下、たった1隻の護衛艦に向けて各中国艦から2発ずつ、合計26発もの対艦ミサイルが発射される。

 命中精度はある程度無視して速さと射程にこだわった中国製の対艦ミサイルは、瞬く間に迫る。

 イージス護衛艦は即座に自艦に迫る脅威に対し迎撃を開始する。

「第7波、来ますっ!数26!」

「EA攻撃、対空戦闘」

SM-2(スタンダード)ESSM(シースパロー)発射始め、サルボー!」

 13隻の中国艦隊から放たれた対艦ミサイルに対し、はぐろはSM-2対空ミサイルを10発、ESSM対空ミサイルを4発発射し、12発を叩き落すことに成功する。はぐろはさらに続けてESSMを6発発射。それではぐろの対空ミサイルの在庫は尽き、なけなしのESSMは4発が迎撃に成功した。さらに妨害電波によって惑わされた3基の対艦ミサイルが海面に突っ込む。

 だが対空ミサイルに迎撃されず、妨害電波にも惑わされなかった7発の対艦ミサイルはSAM防衛線を突破し真っ直ぐにはぐろに向かっていく。

残目標(サバイブターゲット)7、本艦に接近!」

「主砲攻撃準備。CIC指示の目標、主砲撃ちぃ方ぁ始めぇ」

「撃ちぃ方始めぇ」

 はぐろの主砲、Mk45mod.4が火を噴き、次々と中国艦隊が放った対艦ミサイルを撃ち落としていく。3発の対艦ミサイルが主砲弾を受けて爆散した。

「CIWS、AAWオート!チャフ発射!」

 主砲攻撃圏を抜けた4発の対艦ミサイルに対し、CIWSが迎撃を開始する。二門の高性能20mm機関砲が弾幕を形成し、その中に突っ込んだ1発の対艦ミサイルが爆ぜた。

 さらに1発ははぐろが発射したチャフに惑わされ、チャフ雲の中に突っ込み爆発した。

残目標(サバイブターゲット)2、さらに接近!…!た、対艦ミサイル第8波来ます!数2!」

「衝撃に備え!」

 対空レーダーで監視している隊員が悲鳴を上げた。隊員達は耐衝撃姿勢を取る。

 橋元一佐はレーダースクリーンから目をそらさず、自艦に迫る2つの輝点を見つめていた。

 先ほどとは比べ物にならない激震がはぐろを襲った。残った2発の対艦ミサイルは1発がはぐろの艦橋に、もう1発が格納庫を直撃した。

 いくらイージス護衛艦といえど、2発の対艦ミサイルを被弾しては耐えきれない。格納庫では哨戒ヘリ用の燃料に引火して火は激しく燃え盛り、ダメコン班の消火が間に合わないほどだった。また、艦橋とCICは音信不通であり、有効なダメージコントロールが行えずにいた。

 そこに第8波の対艦ミサイルが船体側面に立て続けに直撃し、大きな破孔から海水が流れ込んで乗員達を次々に呑み込んでいった。

 艦隊の盾となって中国艦隊から集中攻撃を喰らった護衛艦はぐろの灯は、もはや消えかけていた。

 対艦ミサイルが直撃した箇所からダメコンの手の施しようがないほど水が浸水し、時間を経るごとに勢いを増して、封鎖された水密扉も破った。

 さらに火は艦内のあちらこちらに及んでいた。海水に混じった油に引火し、水の上で火が燃え盛っている。

 艦の心臓部である機関も停止して、大半部分が水に浸かっていた。

 火や水から辛うじて逃れた少数の隊員達は救命ボートの上で乗艦の最期を見届けていた。

 そして護衛艦の最重要区画であるCICは、全滅していた。艦橋への直撃で艦橋要員は全滅、CICにも着弾の衝撃は及び、壁や机などに頭をぶつけて橋元艦長以下多くの隊員達が気絶していた。気絶しなかった隊員達も、衝撃でドアが開かず、なんとかこじ開けようとしているうちに火災の煙に巻かれてしまった。

 無表情ではぐろの艦魂はCICで息絶えた橋元艦長や隊員達に黙礼した。

 

 そしてはぐろの艦魂は外が見渡せる場所に行く。

 対艦ミサイルの直撃で目も当てられない惨状となってしまった艦橋。その屋根の上に降り立った彼女は見渡した。イージス護衛艦特有の高い艦橋から景色を見渡すのが、はぐろは好きだった。だがその景色も普段より低くなってしまったのが少し残念だった。

 

 これが最期の見納めなんだ……。

 沈むんだ…、私。もうこれでお終いなんだ……。もう二度とみんなと一緒に海を行けないんだ……。

 ……でもまぁ。皆の盾になれたから、いい、かな…。

 あぁでも…こんごうさん怒るだろうな、また会うって約束したのに破ったって……。

 あけぼのにも何言われるか…。いせさんにも無理言っちゃったし…。

 あ、でもこんな事考えても意味ないか…。もう…………皆に会えないんだから…。

 あぁ、そういえばあきづきやさざなみは無事かな……。

 

 

 少女の瞳が涙で溢れる。涙を拭くこともせず、少女は自身が沈む悔しさともう2度と仲間に会えない悲しみに打ちひしがれて震えていた。

 再び大きな爆発音が響いた。弾薬か燃料に引火したのか、爆発は連鎖して止まらず、艦を飲み込んでいく。

 船体が水圧に軋む音は断末魔の悲鳴のよう。そして、轟く爆発音は最期を彩るフィナーレのよう。

 最期の時を悟り、少女は目を閉じた。

 

 

 皆…。あとは、お願い……。

 

 

 今際の際に仲間達へ届くかどうかわからないメッセージを彼女は送った。

 

 

 

 そして、最期に意識が途切れる直前。少女は誰かに願った。

 

 

 

 あぁでも……。

 

 

 

 できることなら、叶うことなら…。

 

 

 

 もう一度、皆に会いたいなぁ。

 

 

 

 少女の瞳から一滴の雫が頬を伝って床に落ちた時、護衛艦の船体が爆発音とともに裂けた。爆発と焔の中に艦魂の姿がかき消える。

 黒煙をもうもうと立て、船体を軋ませながらはぐろは海中に没していった。

 

 それが、あたご型ミサイル護衛艦三番艦はぐろの最期だった。

 

 

 ◇◇

 

 

 だが一方の中国艦隊は敵イージス艦撃沈の喜びに浸る間もなく混乱の渦中にあった。

「…!か、艦長!れ、レーダーに異常発生!僚艦との通信も困難な状況にあります!」

「これは……電波妨害です!電波妨害を受けています!」

「なっ、何だと!?…ちっ、とにかくレーダーの復旧に努めろ。見張り員は対空警戒を厳にしろ!」

 電測員の悲鳴に趙艦長は冷静に返した。

 だが既に彼らの中国軍のレーダーに捕まらないよう無線封鎖し、低空飛行かつレーダーを使わずにデータリンクで敵艦隊の位置情報を掴み、彼らがここまで気づかれることはなく迎撃されることもなかった。

 そして電波妨害も可能な電子戦機に転用されたEAP-1が、中国艦隊の対空レーダーに引っかかる前に電波妨害を行う。

 EAP-1のスタンド・オフ・ジャミングのもと3機のP-1は沈められた護衛艦の乗員達の仇を討つためにそれぞれ8発の対艦ミサイルを中国艦隊に発射。合計24発の矢が唸りをあげて襲い掛かる。

 電波妨害の最中にある中国艦隊はECCMを展開しレーダーの復旧を試みるも間に合わず、次々と対艦ミサイルを被弾する。13隻の追撃部隊のうち3隻が瞬時に轟沈、5隻が撃沈され波間に消えていく。他に4隻が大破炎上する壊滅的な被害だ。

 さらに中国艦隊にとって悪いことは重なる。沖縄本島に向かった揚陸艦隊も海空自衛隊の航空部隊、そして中国原潜を片付けた海自の潜水艦により撃破され、空母遼寧は沈没は免れたものの甲板に対艦ミサイルを被弾して中破。揚陸艦6隻が撃沈されるなど大損害を被ったのだった。

「お、おのれ…」

 趙艦長が座乗する西安は唯一被弾していない。だがそれは辛うじて西安が目標から外れたためであった。

 趙は自らが無事で状況が把握できているからこそ、より屈辱感を味わっている気分だった。

「撤退か…。覚えていろ、日本軍!」

 忌々し気に趙は吐き捨てると、撃沈された艦の生存者の救助を命じた。

 そして救助があらかた終わると西安は中国本土に向けて撤退した。

 

 

 

 2027年9月3日。

 

 護衛艦隊乙部隊は、遼寧と揚陸艦6隻を含む44隻の中国艦隊を相手に善戦するも護衛艦三隻が中国軍の攻撃によって沈没し、さざなみとあきづきも中破、新鋭のイージス護衛艦はぐろもSPYレーダー一面が撃墜したミサイルの破片で損壊するなど劣勢となった。このため、司令部は一時離脱と甲部隊との合流を命じる。

 しかし中国艦隊の一部が離脱する護衛艦隊乙部隊を追撃した。

 味方の一時離脱を支援するため、はぐろは単独で戦闘海域に留まった結果、中国艦隊から集中攻撃を受けて沈んだ。しかし、残存艦4隻は無事かが以下の甲部隊と合流することができた。

 また、海自哨戒機部隊から対艦攻撃を受けた中国揚陸艦隊は戦力の大半を失うか、被害を受けたため沖縄侵攻作戦を中止して撤退した。

 この後、沖縄侵攻作戦が失敗した中国では派閥同士の争いが起こり、内紛状態となる。

 

 

 ◇◇

 

 

 会いたい…。

 皆に、会いたい……。あぁでも、私は…。

 

 

 少女の意識が闇に飲み込まれて薄れてゆく。まるで溶けていくような感じだ。

 そのまま暗く、冷たく、太陽の光さえ届かない深いところに堕ちていく。

 

 会いタイ…。会イたいのニ……。

 アァ、もウ、痛イだケ…。苦シいダけ…。

 私は……。デもワたしは……また、皆ニ…!

 

 

 その時、何か温かなものが自分の身体にまとわりつくのをはぐろは感じた。懐かしさを感じる、優しくも激しさを内包した温かな光。その光がはぐろの艦魂を護るかのように包み込んだ。

 温かなものに包まれたまま、体が一気に浮上するような感覚の後、はぐろは風の流れを感じて目を見開いた。

 そこは海の上だった。明るい陽が差し、潮の香りがする冷ややかな風が通りすがっていった。

 青い空と白い雲の下、はぐろがボーっとしていると無線が入った。

 

 

『そこの貴女、聞こえますか?こちらは日本海軍横須賀鎮守府所属の航空母艦加賀です。貴女の所属と艦名を明らかにしなさい』

 

 

 

 イージス護衛艦はぐろの物語は、まだ終わらない。

 

 

 

 




どうでしょうか?だいぶ加筆しましたが。
これがはぐろの沈む直前に起こったことです。
まぁこの作品読んでくれる皆さんは軍事に詳しい方ばかりなようなので、何言われるか少々怖いですが、批判も批評も甘んじて受けます。
しかし本作ではストーリー性を重視しております。なので、イージス護衛艦が殿に立つのが軍事的常識から考えておかしいとか言われても、この話を改稿することはありませんので悪しからず。

というか自分のミリタリー知識と文才ではこの辺が限界でした…。

それから数日間は序章を公開しておきますが、金曜日までには削除したいと思います。
序章と終始の違いなどについて感じたことがあったら感想書いてくれると嬉しいです。
では。


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