ログ・ホライズン ~高笑いするおーるらうんだーな神祇官~ 作:となりのせとろ
─合宿五日目─
白く長く広がる砂浜。照りつける黄色い太陽の光。砂浜に響く新人プレイヤーたちの声。蹴散らされるカニ共。暇潰しに造られた姫路城。パラソルの影でカラリと音をたてる氷が一杯のソーダ水。夏真っ盛りだなー。
「モノローグなんかしてないで手伝ってくださいよ、千菜さん」
声をかけてきたのはさっきまで新人プレイヤーの模擬戦の相手をしていた小竜君。
私がやってもよかったんだけど、新人君のトラウマになりそうだったから自重させてもらった。
師範システムを使っても装備の差なんかもあって下手したらポックリいっちゃいかねないなんてやだよね。
「まあまあいいじゃない小竜君。君も一緒に泳いできなよ。飛燕君も楽しそうに泳いでるよ?」
「あっ!!飛燕おまえぇ!なにを普通に遊んでんだ!仕事しろ!マリエさんでさえ新人君たちの回復やってるんだぞ!」
「ねえ小竜君、今何気にマリエさんもディスってたよ?」
「千菜さんも!働いてくれないと、奏さんの秘蔵のお酒隠れて飲んでるのばらしますよ」
「おい、小竜それだけはばらしたら許さない。姫が全力でしばかれるから」
「合宿に行く前にヘンリエッタさんと奏さんに頼まれましたから」
「あの二人の差し金か!!」
「ええ、『どうせはめはずしてマリエちゃんと一緒に遊んでるだろうから、遠慮は要らねぇ……アイツが言うこと聞かない度に念話してこい。アイツの恥ずかしい昔話を教えてやる』だそうです」
「久しぶりに容赦がないっ‼」
◇◆◇◆
あー疲れる。
最近ちょっと兄としての尊厳が地に落ちつつあるから取り戻しておこうという兄さんの思惑にまんまと嵌められダンジョン攻略組の相談にでものってあげようと〈ラグランダの杜〉へと続く森の小道を歩いていた。
そこでサボろうとなんては考えていないよ?
「え~と、確かここら辺にキャンプ張ってたよなー、あっ!」
視界の先にはお馴染みの白い毛玉が木の上でモゾモゾと毛繕いをしている。使い魔の身体に乗り移ったら精神の方も寄るんだったけ?
だとしたら私、
さすがに動物のからだになったとしても、生肉とか虫とか食べたくないしね。
「お~い!マイクロフトさ~ん!」
「んにゃ~?およ、千ちゃんじゃんどーしたの?」
「ミノリちゃんたちの様子を見に来たんだけど、どこにいるのかな?」
「あーなるほど。奏クンの言いつけを守りに来たのねー。オーケーオーケー、案内するよ」
ピョンと木の枝から飛び降りてきた白い毛玉をヒョイと避ける。
受け止めて貰うつもりでいたらしい白い毛玉は避けられたことに驚いた顔をしたまま地面へとヒモなしバンジーに成功した。
グキュペェと見た目に会わないカエルの潰れたような声を上げて顔面から地面に叩きつけられ動かなくなった。
─待つこと五分─
「イタタ……ひどいなー千ちゃん。フツー避けるかい?」
「いや、避けますよ、フツー」
顔を小さな手?前足?で抑えながら起き上がる白い毛玉
なんで私が悪いみたいにいってんだろう?フツー抱き止めない。
「なんでさ、顔面ダイブ決めちゃったじゃないかー。思いの外痛いよ。タンスの角に小指を十連撃喰らったくらい」
「いや、私女だし」
「このぐらいの小動物だったら武士〈サムライ〉どころか〈冒険者〉だったら誰でも受け止められるよー」
「いや、だから姫女だし。
いくら見た目小動物の姿しててもなんで中身成人男性を胸で抱き止めなくちゃいけないのよ。亀仙人かおどれは?セクハラで訴えるぞ。絶対に勝てるよ、圧勝だよ」
「あ……
そうですね。まったくおっしゃる通りでした。ごめんなさい。いくら土下座してもし足りないなこりゃ……」
マイクロフト、〈モルグ街の安楽椅子〉の現ギルドマスター
激突したばかりの地面に再び頭をつけ土下座する毛玉。
なってないなー、兄さんならもっと流麗に土下座するのに。
「ミス千菜何をしてるんだい……」
「姉ちゃん、動物イジメんのは良くないと思うぞ……」
いつのまにやら黒いススで全身を汚したトウヤ君と金髪の王子様風の男の子ルンデルハウス君、略してルンディー君が立っていた。
ルンディー君はこの合宿でミノリちゃんとトウヤ君あとウチのギルドのセラランと鈴ちゃんこと五十鈴ちゃんと同じパーティーの
新人プレイヤーなのにソロとして今までずっとやってきたらしくなかなか骨のありそうな子だ。お調子者だけどどこか憎めないところがある。結構姫の好みのタイプだ
「この毛玉野郎が姫の胸に飛び込んでこようとしたから、裁判前に死刑に処そうかと思って。どう?二人も一緒に処す?処しちゃう?」
「姉ちゃん、絶対字が違うぞ、ソレ」
「何!?ミス千菜あなたが手を汚す必要はない。このルンデルハウス=コードがあなたに代わって相応の裁きを与えようじゃないか!
さあ、そこになおりたまえ」
「ルディ兄も乗らない乗らない。千菜姉の冗談だから……冗談だよね?」
「トウヤ君とルンディー君に感謝しなさいよ?」
「姫様の寛大なお心とトウヤ君とルンデルハウス君に感謝いたします」
「じゃ、トウヤ君たちにも会えたし、もういっていいよ」
「ははー。失礼いたします」
毛玉はもう一度頭を下げるとタッタッタッと走り去っていった。
「千菜姉、一応年上なんだろ?奏兄ちゃんにバレたら怒られちまうよ?」
「ダイジョーブダイジョーブ。あんなの途中からワザとやってるから、お互い。ルンディー君が本気にしてたところで笑うの堪えてプルプル震えてたし」
「それが恐怖で震えてたんじゃなけりゃいいんだけどな」
あー、あー、あー、聞こえなーい。
そんなこと冗談でも言っちゃいけないんだぞ!お仕置きが怖くなっちゃうじゃないか!
「二人ともダンジョン攻略は今日はもうお終い?」
「……あぁ、今日はもう終わったよミス千菜」
ルンディー君が唇を噛み締めながら答える。
おーおー、こりゃ相当上手くいってないなー?
ソロならまだしもパーティー戦は最初は誰でもそんなもんだけどね。
二人とも負けず嫌いっぽいもんね。
「今から汚れでも落としにいくの?私キャンプのところに行ってるから、あとで話聞かせてね?なんかアドバイスできるかもだし」
二人と別れて少し進んだところでキャンプを発見したりなんともいいニオイがするな~。
匂いのする方へと行ってみると、なんということでしょう。
本来、新人の面倒を見なくちゃいけない引率者たちが揃ってカニを食べているじゃないですか。
「センニャちも食べますかにゃ?」
ワーイ!師匠大好き!!
◇◆◇◆
「どう?ダンジョンは、大変?」
「正直…あまり上手くいってないです……」
夕御飯を食べ終え片付けやらいろいろ一段落がついた頃合いに焚き火をおのおの石やら椅子やらに腰かけ囲み落ち着いたところで私は単刀直入に聞いてみる。
全員が沈痛な面持ちの中代表してミノリちゃんが答えた。
「うん、だと思った」
私もそれに簡潔に返事を返す。
「なんで上手くいかないんだと思う?」
「それは…連携が上手くいってないから…」
質問に答えたのは、〈ハーメルン〉からうちに移籍してきた
答えはわかっていてもその答えにはまるで何か納得のいかないことがあるように私には聞こえた。気がする。
「僕たちは全力でやっているんだ!それでもまったく上手くいかない!
レベルも下のモンスターたちに何度も何度も撤退させられ
挙げ句の果てには今日は三時間ダンジョンに潜れていなかった!
僕たちは、どうすれば強くなれるのか、わからない」
「ルンディー君、私は別に強くなる必要はないと思うの」
「何を言ってるんだっ‼ミス千菜っ。こんなところまで来て来て強くなる必要がないなんてふざけるのも大概にしてくれ‼」
ルンディー君が聞き捨てならないといった風に座っていた岩から立ち上がりすごい剣幕で大声をあげる。
「まあまあ、最後まで私の話を聞こうよ。ルンディー君。
セララちゃん、ダンジョン攻略してるときにミノリちゃんと一緒に回復をやってても回復が追い付かなくなることってあったでしょ?」
「はっはい。何度かありました」
「トウヤ君、モンスターのタゲとりしてるときヘイトが集めきれずにルンディー君辺りにタゲがとられちゃったりしたことがあったりしたんじゃない?」
「う、うん。俺がタゲをとりきれずに
「ミノリちゃん、一回の戦闘が終わってもいきなりモンスターの襲撃を受けちゃって連戦でじり貧撤退したことは?」
「…三回くらいあります。今日もそうやってダンジョンから出てきました」
「じゃあそこら辺の理由はみんな考えてみたかな?」
全員の顔を眺めながら質問をすれば全員がコクりと頷き返答を返した。
「それじゃあ、その考えたことを全員で話したことは?意見を言い合ったことはあったかな?」
「全員で話し合ったことはないけど、俺はルディ兄と川で話したりしたことはある。ミノリとも何回か」
「私も五十鈴ちゃんとミノリちゃんと話したことはあります」
「うん、それじゃあ当たり前のことかも知れないけど君たちはお互いを知っているのかな?」
「何を言ってるんだミス千菜。そんなこと聞くまでもなくバッチリとわかっているとも」
「五十鈴ちゃんの使える常時発動型の歌の数は?」
「うっ、それは……6つだ‼」
「ルディ、ハズレだよ。正解は9つ」
「セララちゃん、トウヤ君の使う〈武士の挑戦〉の効果範囲は何メートルでしょうか?」
「あわわっ…私ですか!?えっえーと…よ、四メートルくらい?」
「おしい、セララ姉ちゃん。五メートルそこそこだよ」
「ミノリちゃん、ルンディー君の使える支援魔法を一つ答えよ」
「〈エターナルフォースブリザード〉」
「それっぽいものを言えば当たる訳じゃありませーん」
「あう」
久しぶりにそんな中二全開の魔法名は聞いたなー。
昔、いたっけ『ダークネスブラックサンダーサンシャイーーン‼‼』とかダークなのかシャインなのかわからない魔法名チャット越しに叫んで〈ライトニングネビュラ〉撃ってたやつ。
別に〈ライトニングネビュラ〉のままでカッコいいと思うんだけど。
「ほら、君たちはお互い知ってるつもりでもまだまだわかっちゃいなかったんだよ。
やったね!それがわかっただけでもめっけもんだ!
これからもっとお話ししたらいいんじゃないかなぁ。特技とかそんなのに限らず趣味とか好きな食べ物とか。せっかくの合宿なんだからもっと楽しんでいいんじゃないかな。お姉さんはそう思うよ?」
「そうですね!私たち全然お互いのことをわかりあえてなかったんですね」
「さすがミス千菜だ‼僕たちが悩んでいたことをいとも容易く看破してしまうとは!もはやミスと呼ぶのでは不敬に当たってしまうなこれからはマスター千菜と呼ばせてくれ!」
「いや、それは勘弁」
「よっしゃあ!じゃあこれから徹夜してみんなで駄弁り祭りだ!」
こうして合宿五日目の夜は更けていった。
「他の人が眠れないのでもう少し静かにするのにゃ」
師匠に怒られた。
─合宿7日目─
ミノリちゃんたちのパーティーがダンジョン攻略に成功したとマイクロフトさんから聞いた。
急いでみんなのところに行って思いっきりみんなを抱き締めてあげた。
男の子二人がキョドっていたのは面白かったな。
今日も楽しい夏季合宿です。