比企谷 八幡の異世界漂流記(沈黙)   作:Lチキ

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IS 転校生は幼馴染 6

初めて彼を見た時の感想は、弟である一夏さんとそう身長も変わらないというのにひょろひょろとした出で立ちに何より目が酷く濁っている。正直な話一瞬不気味だと思ってしまいました。

 

それに彼を見ているとどことなく父を思い出してしまいまった。別に背格好が似てるわけでもないし顔だってまるで違う。

 

家族と言う事を除いてみても父の顔は一般的に美形の部類に入るし、あのような男とは似ても似つかない。

 

まあ、彼とてあの目がなければそれなりに整った顔立ちだと思いますがそれでもわたくしの父の方が男前です。ではなぜ、似ているなんて思ったのでしょうか

 

 

話してみると彼の印象は悪い方にどんどん変わっていきました。もとはわたくしが突っかかり彼や日本の国に対して暴言を吐いたことは深く反省してますが、それでもあのような辛辣な言葉を平然とかけてくるなんて・・・男云々以前に人間としてどうかと思います。

 

あの時のわたくしでは弁論の余地もなく彼と同類と言われても致し方ありませんが、それでも彼よりはましだったと思います

 

これでも気丈であり誇りとプライドを常に持つことを心がけているので並大抵な事では涙を流さないわたくしをあそこまで泣かしたのは後にも先にも彼一人だけでしょう

 

本当に最低な人、授業態度も悪いし、そもそもトランプやなんやで訳の分からない遊びをしているし、お姉様である織斑先生でさえ手をやく問題児

 

 

 

見た目も―――――――

 

 

素行も――――――――

 

 

言動も――――――――

 

 

性格も――――――――

 

 

そのすべてが、今まで見てきた情けない男達と同じ・・・いえ、むしろその誰よりも酷いとさえ

思える。

 

あの金の亡者共みたいに卑しく

 

そこいら編にいる有象無象と同じく取るに足りない

 

 

・・・・・・

 

 

そして、父のように弱弱しい・・・

 

そんな男達と同じようであり、誰とも似つかない最低な男

 

それがわたくしが彼に下した正当な評価です

 

 

 

一夏さんと戦い、世の男性の中にも例外がいる事を学びました。なので、今一度わたくしが接してきた男性に対して評価を下す事にしました。

 

と言っても金の亡者はどうしたって卑しい亡者でしかないし、父はやはり父ですし、有象無象はそもそも名前すら覚えていません。

 

実質評価を改める必要があるのは、身近におり尚且つ相手の事を良く知らない男性に絞られます

 

彼を最低な男と評価しましたが、もう一度考えましょう。

 

そもそも彼がわたしくしにしたことは国を穢された事に対する純粋な抗議です。若干やりすぎだとは思いますが・・・まあ、悪いのはわたくしです。やりすぎだとしてもわたくしに咎める資格はありません。

 

言い方やり方に問題は多々あれど普通に考えれば愛国精神であるはずです。何より彼はついこの間までISにもそれに伴う権力や権威というものとは無縁であったでしょう

 

いえ、織斑先生の事を考えればISとはなにかしらの接点があるかもしれませんが、それでも競技者の家族と言う域をでません。正確には分かりませんが、クラスの方の話では彼と一夏さんはISとなんの関係もない高校を受験する予定だったとからしいですし技術者などの男性がISに携われる職業に就くきもなかったようです。

 

代表候補生であるわたくしに対しての不遜な態度もそういう物に縁がなかったからだと考えられます。

 

むしろ、織斑先生は元国家代表であり世界大会の覇者、世界最強を誇るブリュンヒルデ。それに比べわたくしはまだ…まだッたかだか代表候補生どまりの存在です。

身近にいる先生と比べるとわたくしの権威なんてたかが知れてますし軽視するのもある意味頷けます

 

そう考えれば、あの教室での彼の言動は、この女尊男卑の世の中、それもクラスメイトのほとんどが女性で占められている状況下であることを考えれば

国のため、弟のため、ご自身のために勇敢にも立ちむかった行動だといえるのではないでしょうか?

 

でしたら彼の評価を改めるには十分すぎるでしょう。

 

評価のほとんどは第一印象ですし、何より見た目での判断が大きい。話してみたら思い描いていた印象とは別かもしれない

 

それに彼は、ブリュンヒルデである織斑先生と一夏さんのご兄弟です。織斑先生もなんやかんやで言葉の端々に彼に対し心を開いている事が伺えますし

 

一夏さんも大変懐いているご様子です。わたくしがお慕いする殿方のご兄弟がそんな最低な人間なわけありません!

 

 

‥‥‥

 

‥‥‥

 

 

と、あの時のわたくしは思ってしまったのです。試合前に教室での謝罪をし、お互い全力を出そうと鼓舞し合い彼もそれを受け入れてくれた。

 

ほらやっぱり、彼はわたくしの思っていたような人物ではなかったのです。

授業態度はともあれ、あの辛辣な言葉もわたくしが招いた種です。それで少し言い過ぎてしまっただけだったのです。

 

そんな風にあの時は本気で思ってしまったのです。初恋を自覚し舞い上がっていた感も否めませんがね‥‥‥

 

 

結果、わたくしは彼に一矢報いることも出来ずに敗北しました。

 

その時になりようやく分かったんです。似ても似つかない彼と父が似ていると思ったわけが

濁った瞳に写るそれは父が母に向けていたあの瞳と同じ

 

 

彼の挑発的で攻撃的な言葉

 

 

神経を逆なでするような行動

 

 

人を観察するように見つめる濁った瞳

 

 

どんな攻撃でも回避してみせる超人的な勘の良さ

 

 

どこか達観したように誰にも開かぬ心

 

 

それら全ては彼の圧倒的に捻くれたあまりにも卑屈すぎる精神からくる、そんなものであると

 

 

 

 

 

 

 

模擬戦の途中で意識を失い次に目覚めるとアリーナに設置してある医務室のベットの上でした。

保険の先生であろう白衣を着た女性が、体調について問いかけてきてわたくしもそれに答える。問題なしと判断されたが一応まだゆっくるした方がいいと言われ、お言葉に甘え少しの間横になる事にさせていただきました

 

見上げれば見た事のない天井

 

入学早々に医務室のお世話になる事なんてそうはないので当たり前ですが。目をつむり思い出すのは意識を失う前までの試合

 

自分が負けたという事はすぐに分かりました。なんせ片時も離れずに共に戦ったパートナーがない。その違和感にすぐに気が付く

 

ブルーティアーズはもうほとんど大破していたし、整備科の方に回され修理されているのでしょう。

 

自分が負けたショックもあります。でもそれ以上に彼のあの目が脳裏から離れない

 

本来なら卑怯な手で打ち破られ、完膚なきまでに叩き潰されたことに嘆き怒りでもするのでしょうが、不思議とそんな気分にはなれない

 

 

彼に改めて評価をつけるなら、卑怯な男、最低な男、どうしようもなく酷い悪魔などと色々あるがどれも当てはまるようで当てはまらない

 

 

それから数日の間、初恋の熱にうなされる間もなくずっと彼の事を考えていた。もちろんこんなドロドロしたものが恋であるはずはない

 

しかし、考えども考えども答えは出てこない。彼のような人間とは今まであったこともないし参考になるものがなければ答えを導きだせない

 

最低で卑怯で父のように卑屈な男

 

でも、彼は明らかに父とは違う。なんせ父は卑屈で弱い男だった。でも彼は卑屈ながらも強い男だ

 

卑屈とは本来、自分を必要以上に卑下し心の弱い者が物事から逃げるためによういる言葉だ

つまり卑屈という精神は弱者である者のはずだ

 

だが、彼はどうだ?

 

言葉にするなら卑怯より最低より卑屈というのが一番当てはまる。でも決して彼は弱くない

 

本当の弱者相手ならいかなる姑息な手段を用いてもこの私が負けるはずはない。これは慢心でも傲慢でもなくただの事実である。そうでなければ貴族なんてやってられないですもの

 

 

わからない

 

いくら考えようともわからない

 

なぜ自分は負けた?どうして彼は勝った?―――――――――わからない

 

 

父は卑屈な弱い人間だった、では彼はなんだ?

 

同じ卑屈でも彼は決して弱くない。でも卑屈とは弱い者を表す言葉だ

 

いったいあの男はなんだ?

 

織斑 八幡・・・

 

彼の正体がわからない

 

 

 

人は自身が受け入れられない知らない事柄に恐怖し否定しようとし排除しようとする

 

今の私も恐らくそんな感情で突き動かされていることだろう。わからない知らないそんな異物を受け入れられないから私は彼を呼びだした

 

私の目的はただ一つ、今日ここで織斑 八幡貴方の正体を見定める事

 

自分の中の異物を排除する。それが私が・・・わたくしがセシリア・オルコットであるために必要だから・・・!

 

 


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