「あれ、アベル?どこいったの?」
布団から顔を出し、仰向けのまま首だけ動かすが、彼の姿は見えない。
「ベッドで寝始めた」
隣で横になっているジーナが言った。
「え、この状況でベッド!?……ふん、ちょっとはやるじゃない」
「何がだ?」
「……何でもないわ」
「そうか。……なあフウカ」
「何?」
「フウカは、アベルと交尾しないのか?」
「し、しないわよ!?」
「どうしてだ?……アベルには口止めされているから、本当は言ってはいけないことなのだが……フウカはアベルを交尾の対象として見ているだろう?」
「まっさかあ。あんな奴、ありえないわよ」
「……やはり、人間はよく分からない。交尾したいなら交尾したいと言えばいいのに。断られても力ずくで押せば良いのに。本能に逆らってまで得られるものはなんだ?」
改めて、この娘はジンオウガだなと思う。
「うーん……得るんじゃなくて、今まで積み上げてきた関係を、失わないようにするため……かな」
私は自分でも意外なほど真面目に答えていた。
「今までの関係?それは交尾を要求しただけで壊れてしまうようなものなのか?」
「ん……可能性としてはね」
「……やはり人間同士のツキアイとやらは面倒くさい。そんないつ壊れてもおかしくない脆い、それでいて邪魔なものを大切にするとは」
確かに、言われてみればその通りだ。しかしここで納得してしまうと、彼女の人格形成に影響が出るかもしれない。私は必死に反論の道を探した。こんな時アベルだったら、ぽんと明快な答えを出すだろう。碌に考えもしていない、それでいて的を射た答えを。
「それでも……それでも、大事なの」
結局、こんなことしか言えなかった。非論理的で聞き入れる価値もないと受け取ったのか、ジーナちゃんは何も言わなかった。
私は体を起こし、ベッドで熟睡するアベルの方を見た。
貴方と出会った日。帰り道のガーグァ車で、貴方が言ったこと……覚えてる?
山が紅葉に色づく頃。私はクエストボードの前で腕を組んでいた。
「こんにちは。フウカさん、だっけ?ボクたちと一緒に狩りに行かないかい?」
バギィX装備の青年が話しかけてきた。下心を微塵に感じさせない、爽やかな口調だった。それでいて長身で、目鼻立ちはっきりしていた。彼の後ろには、彼の仲間だろう。G級ボルボロス装備の男と、G級ウルクスス装備の女がいる。一目で分かった。ああ、この人たちは、あれだ。仲良し軍団の類だ。
「ボクはオーウェン。いちおうボクたちもG級だから、そこそこ腕に覚えはある。きっとフウカさんに役立てると思う」
「……このクエストでなら、いいわよ」
クエストボードから一枚剥がし、オーウェンに突きつける。青年の笑顔がひきつる。
「じ、G級イビルジョーだって?それは無謀だよ!」
「じゃあ私は一人で行くだけよ」
「も、もう少し難易度を下げられないか?たとえば、リオレイアとか、ハプルボッカとか……」
「今更そんな雑魚、眼中にないわ」
「G級の大型モンスターが雑魚だって!?君だってそいつらを倒した時は、複数で、戦略を用いて、時間をかけて……」
「私はG級のリオレウス程度、一人で屠れるわ。つまり、貴方たちとじゃ力の差がありすぎるってわけ」
オーウェンが言葉を発するまえに、G級イビルジョー狩猟クエストと、契約金を受付嬢の前に叩きつける。
いつもは泰然自若な受付嬢のササユも困惑混じりな顔だった。しかし受付という職業は、受注条件が揃っている限り、ハンターに対して口出しできない。
極端な話、武器さえ備えていれば裸でG級リオレウスを申し込もうが受諾される。
「……分かりました。くれぐれも、お気を付けて」
ササユはクエスト受諾の印を押した。
「そんな……いくら君のような人でも、G級イビルジョーをソロでなんて……」
オーウェンが心配する。
「それ、おれも受ける」
その時、いきなり背後で男の声がした。振り向くと、見たこともない装備の男がいた。光沢のある黒い鎧が全身を覆い、一箇所たりとも肌が見えない。何より特徴的なのが頭装備から伸びたツノで、まるでカブトムシだった。そんな見たこともない奇妙な防具よりも私の目を惹いたのは、武器だった。
銀色のガンランス。その輝きが、上位の銀レウス素材ではないとは一目で分かった。
「おれはアベル。よろしく」
彼は手を差し出してきた。私は組んだ腕の力を強めた。
「今の話、聞いてた?私、これからG級イビルジョーに行くの」
「ああ、聞いていた。その上で、同行を申し出ている」
「……随分と腕に覚えがあるみたいね」
「まあな。受付、おれの参加も頼む」
アベルと名乗る男は、ギルドカードをササユに手渡した。それは見たこともない輝きを放っていた。
「そ、その色はプラチナ!?」
オーウェンが叫んだ。
「クエストをこなした量によって色が変わっていくギルドカード……その最後の色だ。国に十人もいないと聞いたが、まさかこんなところで会えるとは!」
オーウェンの解説は集会所中に響き渡り、興味を持った野次馬ハンターたちが集まってきた。
「なんだなんだ」
「なんかすごく強いやつが来たらしい!」
「なんだあのカブトムシみたいな防具!本当に強いのか?」
「うるせー!おれは目立ちたくないんだよ!おい、さっさと行こうぜ。ええっと、名前は何て言うんだ?」
「フウカ」
それだけ言って、つかつかと立ち去る。
「おいおい、どこへ行く。出口はあっちだろ?」
「風呂よ」
「はあ?なんでこのタイミングで?」
「この村の温泉は身体能力を高める効能があるから、ハンターはみんな狩りの前に温泉に入るんだよ」
無視した私の代わりにオーウェンが説明する。
「へえ、猫飯みたいなもんか。じゃあおれも入ろっと」
「ダメ!」
「何でだよ」
「アベルとやら、この村の温泉は混浴なんだ」
「マジで!?最高じゃん!あ、いや変な意味ではなくて」
ではどういう意味でだというのか。私は振り返り、アベルを指差す。
「私が出てくるまで、絶対に入らないで!」
「分かったよ」
フルフェイスのため表情は見えないが、彼の言葉は我儘な娘に呆れる父親のような余裕をはらんでいた。私は腹が立った。
狩り場は孤島。現地までは、ガーグァ車で向かう。
「フウカは、イビルジョーと戦ったことあるのか?」
ガンランスを研ぎながら、アベルが尋ねた。
「上位でならね」
「じゃあ、より慎重にいかないとな」
「あんたは?」
「あるよ。たぶんG級を、一回だけ」
「多分って何よ」
「おれのいた地方じゃイビルジョーの目撃例がなくてな。初めて現れた時に狩りに行ったんだが、ギルドも前例がなかったから難易度を決めかねたらしい。とりあえずG級ってことにされてたが、真相はどうだかね」
「そう」
普通の会話の流れなら、ここで私が彼の出身地を尋ねるところだが、あいにく興味がない。もし自分から言ってきたら、どうでもいいと一蹴してやろう。
「ところで、おれ、割とキレアジを砥石代わりにする方なんだよね」
「どうでもいい!」
予想を上回るどうでもよさだった。何なのこいつ。
「確かにどうでもいいな」
「それよりも……戦略について話し合うわよ。確認するけど、イビルジョーについてどれくらい知っているの?」
「弱点属性は龍と雷。肉質が一番薄いのは頭で、次点で後脚。奴の涎は腐食効果があって危険だから、脚元から崩すのがセオリー。他の主な注意点は捕食行為と龍エネルギーのブレス攻撃だな。前者はこやし玉で、後者は、おれの場合は容易にガードで対処できる。罠、閃光玉の類が有効な他、罠肉もかかりやすい。こんなところか?」
「ふん、いちおう知識はあるみたいね。爆弾はある?」
「ある」
「ベースキャンプに着いたら私が南から探すから、貴方は北から探して。見つけたら、できるだけアイテムを使わないように交戦。合流したら私が眠り生肉を設置するから、起爆に竜撃砲をお願いするわ」
「了解。その後はどうする?」
「私が別の罠肉を設置するわ。そのあとは閃光玉を使ってサポート中心に立ち回るから、貴方は確実に竜撃砲を当てて」
「了解だ」
作戦について話し終えたところで、会話が止まる。
オーウェンたちのグループならこの静けさには耐えられないだろうが、これでいい。これが正しい形。狩りとは、馴れ合いではないのだ。
ガラガラと車輪が鳴る。秋風が頬を撫でる。こんな男と二人で狩りなどと、何を考えているのだろう。彼が強い確証はない。本当にイビルジョーを倒せるのか。
……本当は、G級イビルジョーに行くつもりなんてなかった。行ったとしても、こっそりリタイアするつもりだった。いずれ狩らなくてはならないと思っていたが、現状、準備不足は否めなかった。オーウェンとかいうハンター達と同じになりたくなかったから、半ば勢いで受注してしまったのだ。
私は友情やら信頼やらを狩場に持ち込んで己を貶める人間になりたくないのである。
「フウカもキレアジ使うか?」
アベルがまたしょうもないことを言ってきた。
「使いません」
「あ、そう。意外と手になじむもんだぜ?今度試してみろよ」
「試しません」
「お前、農場所持してるんだろ?投網漁でうざったいほど獲れるぞ」
「何で知ってんのよ」
「ギルドマスターがお前がユクモ村専属ハンターって言ってたから、農場も所持してるのかなと」
「あっそ。獲らないわ」
「漁をしないハンターって多いよな」
……うるさい。今確信した。この人は生粋のお友達ハンターだ。私は無視を決め込むことにした。
「カクサンデメキンは今や行商人を通じてたくさんの地域で購入できる。近接系専門のハンターが漁を避けるのも頷けるよな」
「……」
「しかしキレアジは砥石として使えるし、サシミウオは生でも美味いし焼いても美味い。クエストに持ち込むのもありだな。肉ばかりだとどうしてもカロリーを摂りすぎてしまうが、魚とバランスよく食べることによって……」
一方的なお魚談義は、しばらく続いた。私の反応がないことは、全く問題にしていないようだった。
「で、今度お前の所有してる農場行っていい?」
「駄目」
結局行きついたのは、また私と合う口実。これまで色々な男に、色々な言い寄られ方をしてきたが、こんなに無謀と分かりきった誘いは初めてだった。よくこの状況で言えたものだ。ある意味、すごいのかもしれない。
ベースキャンプに着いてから、私たちは作戦通り別れてイビルジョーを探した。これがなかなか骨が折れる。イビルジョーは移動性のモンスターだから、狩り場に着いたときには既に別の地へ……なんてザラにある。逆に予定外のクエストで現れることもあり、運が悪いと目的だったモンスターを食って報酬ゼロにしてくるというひたすら憎らしい習性である。
しかも凶暴竜と呼称されるだけあって凶暴で強く、G級ハンターといえどこいつをまともに相手にできる者はごく少数である。
正直に言って、私一人ではまだ無理だ。だから今回はサポート主体でいく予定だが、彼の実力次第では攻撃主体にならざるを得ない。いや……或いはリタイアか。
不安を覚えつつ河川敷を歩いていると、丘の向こうで打ち上げ樽爆弾が爆発するのが見えた。発見の合図だ。私は彼が死なないよう急いだ。
彼とはアベルを指していたつもりだったのだが。
五分と経っていないのにイビルジョーは身体中に切り傷を負っていた。咆哮し気迫をアピールするも、右後ろ脚の傷が深いせいか、動きが鈍い。
「フウカ、眠り生肉頼む!」
私が眠り生肉を設置するなり、イビルジョーは片脚をかばいながら近寄ってきて、それを喰らった。
ズシンという地響きと共に、巨体が地に横たわった。
私とアベルはイビルジョーの頭付近に大タル爆弾Gを置きまくった。私は大タル爆弾設置のスペシャリストと自負していたが、先に設置を終えたのは、僅差だがアベルだった。悔しい。
「竜撃砲発射三秒前!二、一……」
アベルが爆弾たちに向けてガンランスを構える。
「ちょっと待って、まだ私避難できてな……」
「ファイヤー!」
炸裂音が連続する。大地は震え、虚空は赤に色づいた。ついでに私のレウスX装備にタルの破片がぶつかりまくった。
過激な目覚めを味わったイビルジョーは飛び起きるなり、怒りの咆哮を轟かせた。キレたいのは私だ。
「わりい、ちょっと当たった?」
「あんた後で覚えときなさいよ」
私はポケットから閃光玉を取り出し、投げた。空中で破裂し、強烈な光が広がる。それを間近で見たイビルジョーは大きく仰け反った。
私は飛竜刀銀を抜いた。ものの数分でG級イビルジョーに対し一方的な展開を見せるアベルの腕前とやらは気になったが、今大事なのは迅速な狩猟である。
「はあああああっ!」
「おらあああっ!」
両サイドから、竜属性の刃が凶暴竜の厚皮を切り裂いた。イビルジョーは視界を失っているため、闇雲に尻尾を振り回した。アベルはイビルジョーの股下をするりと抜けたが、中途半端な遠さにいた私は回避で距離をとらざるを得なかった。
「くっ……」
風圧だけで吹き飛ばされそうだった。どうにか攻撃しようと試みるも、猛烈な暴れっぷりは近づくことすら許さない。私が歯ぎしりしている間も、アベルはちょこまかとイビルジョーの真下を位置取り、的確に脚や胴を突っついていた。
そして遂にダメージ蓄積量が限度を迎えたのか、イビルジョーの体がぐらりと傾いだ。
今だ……!
貯めた練気ゲージを刀に乗せ、振り回す。そしてここで大回転を……。
「おい、下がれ!」
「うあ!?」
倒れていたはずイビルジョーの大口が間近に迫っていた。倒れていながらも危険を察知し、首だけ伸ばしてきたのだ。私は斬り下がろうとしたが、強靭な顎は私を逃さなかった。刀が頭を斬る前に、鋭い牙が私のレウスXメイルを捕らえていた。
「ぐっ……うっ……」
刀を持つ腕に、力が入らない。ミシミシと防具が軋む。腐食性のある涎が強度を弱めているのだ。
不味い、このままでは……。頭に冷たいものがよぎる。
「ふっ!」
そのとき、イビルジョーの喉元に、銀色の槍が突き刺さった。アベルだ。その速さと正確さは、今まで見たどのランサーよりも優れていた。
イビルジョーの血反吐が私にかかり、拘束が緩む。私は刀を強く握りしめたが、振るうことはしなかった。
「お、もう倒せたみたいだ。ラッキー」
アベルは楽しそうに剥ぎ取りナイフを取り出した。
「怪我はないか?」
「……ええ」
「よかった」
よくない。頑丈なレウスXメイルに、牙の跡が残ってしまっていた。まだ使えるだろうか?せっかく、最近揃えたばかりで気に入っていたのに……。
それにしても。
「……強いわね」
「ありがとう。お前の太刀も良かったぞ」
「世辞はいいわ。自分より上の人に言われても皮肉にしか聞こえないし。さっさと剥ぎ取るわよ」
「皮肉じゃないんだけどなあ」
帰りのガーグァ車で、アベルは言った。
「お前、俗に言うあれだろ。孤高系ハンターだろ」
カチンとくる。孤高という言葉は気に入っているが、いざ口にされると遠回しに友達いないねと指摘されているようなものだ。
「たまにいるんだよな、お前みたいな奴。複数人で狩りをすることは厭わないのに、その複数人が固定化された仲良しグループとなると途端に嫌悪する奴」
出た出た、先輩風吹かして、仲間は大事論を語り出すパターン。もういい加減うんざりなのよね、こういうの。
「というわけで今日からおれもユクモ村専属ハンターになる!」
「何がというわけで、よ!」
話の飛躍についていけない。
ハンターと言うものは基本的に、一箇所に定住しない。一方専属ハンターは、村のクエストを優先的に受注しないといけないために、ギルドのある地に定住することが余儀なくされる。これが大きなデメリットなのだ。
もしディアブロスの防具を揃えたいとすれば、砂原が近くにあるギルドに長期滞在すればいい。
一方専属ハンターはそれができない。基本的には日帰りで、いちいち自分の村に戻らないといけないため、すこぶる効率が悪い。
給料が貰えたりと優遇はされるが、このような制限や責任の重圧もあり、ハンターにとっては窮屈この上ない。
つまり、そういう専属ハンターの宣言を、何の脈絡もなく始めてしまうアベルという男は、いかれているか、私にベタ惚れしているかのどちらかなのである。
あーキモいキモい。
「お前は強い。しかしまだ、未熟さがある。……イビルジョー狩猟だって、半分ぐらいその場の勢いで受注したんだろう?何故意地を張ったのか理解しかねるがな」
うぐ。
「だから誰か格上の奴が導く必要がある。が、お前はどうやら仲良しこよしがお気に召さないらしい。そこでおれだ。おれはお前にいくら無視されようが気にしないし、率先して仲良くしよえともしないからな」
「自分で言うな」
「それに、専属ハンターはお前一人なんだろ?お前が死んだら誰が村を守るんだ?」
「……」
「とにかくもう決定事項だ。フウカ、おれがお前を一人前にしてやる」
……なんて言われた時、正直、そんなに悪い気はしなかったけど。
「……ふん」
私はそっぽを向いた。拒否しなくていいのかと、自分に問いかけた。今はっきりと断らなくては、本当に彼は専属ハンターになるぞ。何度も、自分に言い聞かせた。それでも拒絶の言葉は出てこなかった。
「……あんたはそれでいいの?」
「ああ」
「お人好しがすぎるんじゃないの?それか……」
私のことが好きすぎるんじゃないの、と言おうとしたが、さすがに自意識過剰がすぎるのでやめた。
「自分でもよくわからんが、放って置けなくてな。なに、お前が一人前になったら辞めるさ」
「……あっそ」
これから面倒くさくなるな……こいつが農場に来たら、どうして漁の設備を整えていないのかと喚き出すに違いない。
私は振り返った。赤と黄の木々が夕日を浴びて煌めいている。
「綺麗でしょ、ここの紅葉」
思わずそんなことをそんなことを口走ってしまい赤面する。また、私は思ったことをそのまま口に……!いっそ車から飛び降りて、谷底まで転げ落ちたい。
「ああ。こんなに綺麗な紅葉、見たことがない」
私は景色を眺める彼を眺めた。
「……頭」
「頭がどうした?」
「頭装備。いつまでつけてんのよ」
「ん?ああ、すまんすまん。顔も見せずしてこれからよろしくだなんて無礼だったな」
アベルは頭装備をとり、顔面をあらわにした。
「ふん、予想通りぶっさいくね」
「そっちの方がいいだろ。ハンター同士で馴れ合いたくないんだろ?」
「それは別」
「何が別なんだよ。あ、恋人は別ってことか。なんだ、お前一人身?そろそろ結婚とか真剣に考えてるお年頃?」
「悪い!?」
「いや、そんな焦ることないぜ。おれは今年で23になるが未だに彼女すらできたことねえからな!」
「はっ!あんたは焦りなさいよ!」
「きっとユクモ村で過ごしている間に、運命の人が現れるはずだ。ユクモの女の子たちって全体的に清楚で素敵だよな!特に受付嬢のコノハちゃん」
「まさかコノハ目当てとか言わないでしょうね」
「そ、そんなことはないって!お前目当てだよ!」
「は!?キモッ!」
「今、語弊が生じた。そういう意味じゃない」
「言っとくけど私……面食いだからあんたみたいなのは絶対無理だから!」
「心配すんな。おれもお前みたいな女は好みじゃない」
気付けば、行きの50倍ぐらい喋っていた。私はそれが原因で自己嫌悪となりその晩はなかなか寝付けなかった。
貴方は宣言通り、ユクモ村専属ハンターとなった。貴方は必要以上に私に話しかけることはしなかったし、私の反発にも動じなかった。クエストも基本は別々で、G級のクエストでたまに協力する程度だった。
私の望んだ距離感を忠実に見極めたのだ。
私は一人前、とは言い切れないが、あれから少しは成長した。
そんな時、ジーナちゃんが現れた。ジーナちゃんと接するアベルを見て、確信した。
もう、私の番は終わってしまったと。
「……寂しいな」
ぽつりと呟く。
「何がだ?」
「ううん、何でもない」
私は布団から出て、アベルとジーナちゃんを交互に見下ろした。
「それじゃあ、私は帰るわね。またね、ジーナちゃん」
「ああ」
ジーナちゃんは眠そうに言った。出会った当初の、ピリピリとした圧力はない。アベル、貴方は妙に女の子を懐柔するのが上手いわよね。別に意識してやってるわけじゃないんだろうけど。