東方遺骸王   作:ジェームズ・リッチマン

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 第一回目のクイズ大会ということで、できる限り参加者は多いほうが良い。もっともな話である。

 なので私のツテを使って魔法使いの参加者を募りたいのだが……肝心の魔法使いの知り合いがそんなにいない。

 魔法クイズなのだから、当然参加者は魔法使いであるべきだ。

 しかし魔法使いを名乗っていなくても魔法がそこそこ使えれば問題はないだろう。

 そういうことで、私はとりあえず興味をもってくれそうな人に会いにいくのだった。

 

 

 

「やあ小悪魔ちゃん」

「あ、ライオネルさん。こんにちは」

 

 目当ての一人である小悪魔ちゃんは紅魔館の地下で彫金作業に没頭している最中だった。

 印刷に使うための古代活字を手彫りしているようだ。書体ごとに作っているとはなんともマメである。

 

 しかし悪魔として地上に出ていなかったのは幸運だ。

 

「何の御用でしょう?」

「いやね、小悪魔ちゃんなら既に知っているかもしれないけど、ほらこれ」

「ああ、クイズ大会。パンデモニウムで開かれるみたいですね」

 

 チラシを見せると、知っている風な反応が返ってきた。であれば話は早い。

 

「実は私、その大会の出題者として参加することになってね」

「ええっ! すごいですね! 運営さんってことですね!」

「そうそう。だからその目線でいくと、参加してくれる人が多いほど嬉しくてね。だから小悪魔ちゃんも一般参加するのはどうかなぁと思って」

「うーん……けど私、魔法はそれほど得意ではありませんよ……?」

 

 うむ、そんな気はしてた。争いごととはほとんど無縁だろうからね。小悪魔ちゃん。

 

「けど知識としては色々知っているんだよね?」

「ええまあ、色々と本を読んでいますから……」

「じゃあきっと大丈夫だよ。筆記試験もあるし、小悪魔ちゃんほどの知識ならば良いところまでいけるはずさ」

「そ……そうですか?」

 

 ちょっと照れている。立場上褒められ慣れていないというわけでもないのに、初々しい反応だ。

 

「それに、これは参加することに意義があるのだ。自分の魔法の実力を試し、推し量るには良い機会だと思うよ。自分の理解度を知るのは大事だからね」

「……私が参加しても、お邪魔ってことには」

「ならないならない。大歓迎だよ。お茶とかお菓子も出るから」

「お茶……お菓子……じゃ、じゃあ参加してみようかなぁ……えへへ」

 

 はい一名様ご来店!

 

「ありがとう小悪魔ちゃん。まぁ開催は半年は先だから、準備はゆっくり整えておくと良いよ」

「はい!」

 

 しかし半年などあっという間だ。テストの範囲もわかっていないのでは半年漬けするにも難しい。

 挑むなら気軽にが一番だね。

 

「……あの、ライオネルさん」

「うん? なんだろう」

「そのテスト、おか、じゃなくて。(コウ)さんも参加できるんでしょうか……?」

「紅?」

 

 紅という名前を聞いて、私は不覚にも少し考え込んでしまった。

 

「紅って魔法使えたっけ」

「あ、いえ、そんなに使えないと思います……」

 

 私の記憶違いではなかったか。紅は魔法というタイプじゃないからなぁ。

 けど、小悪魔ちゃんがシュンとする必要はないぞ。

 

「大丈夫。あまりわからなくても、紅だって参加はできるよ」

「ほ、本当ですか! 一緒に受けても平気ですか?」

「うむうむ。記念でもオッケーさ。紅と一緒に、遊びに来る感覚でおいで」

「ありがとうございます!」

 

 紅の性格でいえば、きっと小悪魔ちゃんのお誘いは断らないだろう。

 たとえ本人があまり乗り気じゃなくても、結構お人好しなところがあるからね。まぁ、実際お遊び気分で来てくれても大丈夫なイベントだ。悪い気分にはさせないとも。

 

 

 

 小悪魔ちゃんと紅の二人の参加者を確保した。

 このペースで更に知り合いを探して勧誘してみよう。

 

「やあ」

「……」

 

 というわけで次にやってきたのはブックシェルフだ。

 そこに見覚えのある豪華な寝台を見つけたので、私は礼を失さないよう“逃れ得ぬ穏やかな覚醒”でスッキリ目覚めさせてあげたのだった。

 しかし目覚めは悪くないはずなのに、目つきには殺気が籠もっている。

 

「……人の安眠を邪魔するとは良い度胸ね」

「おはよう幽香」

 

 訪ねたのは幽香だった。

 彼女は各地を転々としているらしいが、最近は移動の煩雑さをブックシェルフの回遊に任せていることが多いとの話だったので、来てみたら居たのである。居たのであれば起こすのも仕方あるまい。

 

「実は幽香にお誘いしたいことがあってね」

「……その手にしてるチラシの話かしら」

「おお、話が早いね。はいどうぞ」

「……」

 

 幽香はチラシを手に取って、目を細めて見つめ……そのままベッドの上に倒れ込んだ。

 

「まぶしい……」

 

 チラシを顔に被せて遮光までしている。これは完全に二度寝するパターンだ。

 

「“逃れ得ぬ穏やかな覚醒”」

「……それ、びっくりするくらい頭が冴えるから嫌なんだけど?」

「まあまあ話だけでも」

「何しろって話よ……さっさと済ませてくれない」

「では簡潔に。幽香には是非とも魔都で行われるクイズ大会に参加してほしくてね」

「……」

 

 そこでようやく幽香はまともにチラシを読み込み始めた。

 長々と規約が書いてあるわけでもない簡単なポスターだ。読み切るのは難しくもない。

 

「このクイズ大会、上位に入れば何か良いものが貰えるのかしら」

「おお、魔都の一等地とか、かなり良い土地とか貰えるらしいけど」

「その程度なら嫌ね」

「オゥフ」

 

 そうだった。幽香にかかれば土地なんて大した問題にはならないか。

 ふむ……彼女にとっては魅力が足りない、と……。

 

「……じゃあ幽香。どんな賞品があったら貴女は参加したくなるのかな」

「力」

「えっ」

「力が欲しい」

 

 ……力が欲しいか。って返せば良いのか。いや多分駄目だな。

 

「他人から与えられる力なんて反吐が出るけど、自分で掴み取る分にはまだマシかもね。私を更に強くする何かがあるというのなら、参加する理由にはなるわ」

「……よしわかった。その方向で善処しよう」

「聞いたわよ。忘れないから」

 

 幽香はそう言うと、ニッコリ笑って再びベッドの中に潜り込んだ。

 

「期日が来たら起きるから。おやすみ」

「……はい、おやすみー……」

 

 どうやら幽香は賞品を豪華にしてほしかったようだ。

 うむ。しかし賞品を水増しして参加者の意欲を上げるのは悪くない。

 幽香の言う通り、上位入賞者に対して何かいい感じの賞品を用意しておくことにしよう。

 

 しかしすごい自信だなぁ。

 幽香も相当に使える人だからわからなくもないが……それでも、クイズ大会はかなりの規模になるぞ。

 果たして悠々と眠っていられるほど、参加者のレベルは低いかな……?

 

 


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