死神代行のIS戦記   作:ピヨ麿

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これが今の限界です。


6.Valkylie Trace System

「ああああああっ!!!!」

 

 

デュノアのパイルバンカーの連射によってISが強制解除される兆候を見せていたのだが、突如ボーデヴィッヒが身を裂かんばかりの絶叫を発し、同時に激しい電撃が放たれる。

 

 

電撃が放たれた後には、ISが溶け、ボーデヴィッヒの身体を飲み込んでいく。そして現れたのは、全身を黒く染めたかのような『織斑千冬』。腰には鞘に収まった日本刀を差している。だが、何よりも特徴的なのは、織斑千冬の姿をとった後に現れた、顔を覆う(ホロウ)の仮面。

 

 

「黒崎君、あれは多分VTシステム」

 

「VT?」

 

「Valkylie Trace Systemの略称で、過去のモンド・グロッソの部門受賞者(ヴァルキリー)の動きをトレースするシステム。今はIS条約で現在どの国家・組織・企業においても研究・開発・使用が禁止されてる物……なんだけど」

 

「あいつのISに乗せられてたってわけか……」

 

 

簪からVTのことが語られるが、今二人にとってはどうでもいいことだった。

 

 

(これは……(ホロウ)化、なのか……? 俺や平子達とはどこか違うが……)

 

(なに、アレ……。一つの器に無理やり別の霊力(チカラ)を入れ込んだみたい……)

 

 

自身も使っていた虚化(チカラ)との違和感を感じる一護と、並外れた霊圧感知能力で『アレ』の異形さを感じる簪。だが、ゆっくり考えている時間は無い。

 

 

『オオオオオオオオオオッッ!!!!』

 

 

咆哮と共に、周囲に殺気と霊圧を振り撒く(ホロウ)化VT(仮称)。アレが動き出せば、シールドエネルギーの残りも少ないであろうデュノアも、空っぽな織斑と篠ノ乃もまとめて殺される。

 

 

「簪。あいつは俺が止める。お前はここを頼む」

 

 

険しい目つきでVTを見る一護。そして、一護が頼んだのは観客席の生徒達のこと。先程までは騒いでいたが、今の咆哮で竦み上がり、動けないでいた。

 

 

「……黒崎君?」

 

「なんだ?」

 

「ううん。……無茶しないでね」

 

「ああ。すぐに終わらせる」

 

 

 

 

 

 

「ち、千冬姉……!」

 

 

すぐに仮面に覆われてしまったが、その姿が織斑千冬だと気付かせるのはその僅かな時間で十分だった。唯一の家族であり、大切な姉。その姿を模倣されたのだと思い至った瞬間、織斑一夏の脳内は怒りだけに埋められる。

 

 

「許さねえ……! うおおおおおっ!!」

 

「待て! 一夏!!」

 

 

エネルギーが空だというのも忘れて、怒りに任せて異形の相手に突っ込んでいく。が――――

 

 

『オオオオオオオオオオッッ!!!!』

 

 

突然の咆哮に急停止……否、身体が勝手に足を止めた。

 

 

「ぐっ……」

 

 

無理やり止まったからか、前のめりに倒れる。それと同時に、白式が光と共に消える。元々エネルギーが消えていたのだから当然のこと。そのことに、彼は気を向けられずにいる。

 

 

「な、なんだよ……これ……」

 

 

目の前の異形のことを理解した訳ではない。理解出来る訳が無い。ただ、身体の震えが止まらず、目の前の異形に恐怖を感じる。

織斑だけでは無い。近くにいる篠ノ之とデュノアも、会場にいる生徒も、来賓も、教師でさえも。皆、訳も分からぬ恐怖に支配されている。

 

そして、その反応は生物として正しい。

(ホロウ)と人間の関係は、捕食者と被捕食者。例え(ホロウ)という存在を知らずとも、生物としての本能が、その存在に恐怖を抱かぬ訳が無い。

 

そして、(ホロウ)が人間を殺すことは、なんら可笑しなことではない。

彼が怯えている間に近づき、腰に差していた刀を手に持ち、振りかぶっていた。

 

 

「……あ……」

 

 

身を護る物は何も無く、動くことさえままならない織斑一夏に迫る死。それに気付きデュノアと篠ノ之が彼の下へ駆け寄ろうとするも、それが無意味な行為だと言わんばかりに刀を振り下ろされ、

 

飛来した青白い斬撃に弾かれる。

 

 

「「「!!」」」

 

 

その攻撃に驚きつつも飛んできた方を見ると、黒いISを纏い出刃包丁を大きくしたような大刀を肩に担いだ一護の姿が。

一瞬だけ、織斑の無事を確認するように目を向けた後、

 

 

「……来いよ。俺が相手してやる」

 

『グオオオオオオオッッ!!!!』

 

 

一護を"敵"だと認識したのか。先程の"挨拶"と異なり、一護という個人へ殺意を向ける。

 

そして、両者はぶつかり合う。

 

 

 

 

 

 

「一夏! 無事か!」

 

「あ、ああ……」

 

 

一護と異形の刃がぶつかり合う音が響く中、急いで織斑の傍へ駆け寄る篠ノ之とデュノア。

 

 

「良かった……。じゃあすぐにここから離れよう。ここにいたら巻き添えを喰らっちゃうよ」

 

「いや……俺はあいつを、ラウラをぶん殴らなきゃ気が済まねえ」

 

「なっ! 何を言ってるんだお前は!!」

 

 

恐怖によって一度は消えた怒りが、心に余裕が出来たことで再燃する。

 

 

「あいつ……千冬姉のことを真似しやがって。千冬姉の技を使ってあんなくだらないことを……!」

 

「だからと言ってどうやってあの中に飛び込むというのだ! お前の白式のエネルギーはもう空なんだぞ!」

 

「……エネルギー自体なら僕のリヴァイブから渡せば問題は無いよ。けど、渡せない」

 

「な、なんでだよ!?」

 

「一夏を死なせたくないからだよ。残ってるエネルギー全部渡しても、到底足りない。零落白夜を使うなら尚更。そんな状態であの中に入ったらどうなると思う?」

 

 

上空では、時折瞬間移動でもしたかのような動きで戦う二人。

 

 

「アレは代表候補生がどうにか出来るレベルを超えてる。一夏だって分かってるでしょ?」

 

「……くそっ!」

 

「一夏……」

 

 

デュノアに言われずとも分かっていた。自分ではあいつを殴ることすら出来ず、斬り倒されるだけだと。その事実を認められず、ただ怒りをぶつけようとしていたことを。

暗くなる織斑に声を掛けようとした篠ノ之だったが、

 

 

『落ち着くのだ! ボーイ&ガールズ!』

 

 

突如アリーナに流れた声に、動きを止める。

 

 

『こ、困ります! 関係者以外がここに入るのは……!』

 

『この非常事態(エマージェンシー)な時にそんなことを言っている場合かね! 会場には不安がっている子供達がいるのだぞ!?』

 

『そ、それはそうですけど……』

 

 

ドン・観音寺に一瞬で説き伏せられる、一年一組副担任山田真耶(22)。

 

 

『あの銀髪ガールは悪霊(バッド・スピリッツ)に取り憑かれてしまっている!』

 

『ええっ!?』

 

『だが、安心したまえ! カリスマ霊媒師であるこの私、ドン・観音寺がいるのだ! 君達のことは私が必ず護り抜くと約束しよう!!』

 

 

この事態は観音寺の手に負えるものではない。それは観音寺にも分かっている。それでも彼は子供達の笑顔を護る為ならば、勝てぬと分かっている相手にも立ち向かっていく。彼が、子供達のヒーローだから。

そして、根拠の無い言葉ではあるが、会場内の生徒から恐怖を吹き飛ばしていた。

 

 

『えっと、トーナメントは全試合中止! 状況をレベルDと認定、鎮圧のため教師部隊を送り込みます! 来賓、生徒は速やかに避難してください! アリーナの黒崎君もすぐに退いてください!』

 

 

流れたアナウンスに慌てながら、それでも悲鳴を上げず着実にアリーナの外へと出て行く生徒達。

 

 

 

 

 

 

『そこの三人、何してるの……?』

 

 

未だアリーナから逃げる素振りを見せない織斑達に、簪が開放回線(オープン・チャネル)で通信を送る。

 

 

『早くアリーナから避難してってアナウンスが流れたんだから、とっとと動いて』

 

「で、でも俺は……!」

 

『十数えて動かなかったら撃つから』

 

「ええっ!?」

 

『一、十』

 

 

ドガガッ、と手に持ったアサルトライフルで当たらないように撃つ。

 

 

「ほ、本当に撃つ奴があるか!?」

 

「しかもまだ十秒経ってないではないか!!」

 

『十秒とは言って無い。二進法での十』

 

「って! 漫才やってる暇無いでしょ!? 早く逃げるよ!」

 

 

デュノアが織斑と篠ノ之、二人の手を引いてアリーナのゲートへ向かうが、

 

 

「ちょっと待ったシャルル。更識さんはどうするんだ!?」

 

『……黒崎君に頼まれて、皆が無事逃げるまでここを護ってる』

 

 

簪の背後にはバリアーを挟んでアリーナの出入り口がある。一護が負けるとは微塵も思っていないが、相手は謎の(ホロウ)化VT。流れ弾がバリアーを貫通、避難している生徒に直撃、なんてこともあるかもしれない。そうならない為に簪がいる。

 

 

『それに、黒崎君はすぐに終わらせるって言った。だから、別に問題無い』

 

 

と言いつつ、簪は別のことを考えていた。

 

 

(きっと黒崎君は彼女……ボーデヴィッヒさんのことも助けようとしてるんだろうな)

 

 

一護と出会ってからまだ一カ月も経っていないが、一護がどういう人間なのか、簪は分かってきた。

見た目や言動から勘違いされやすいが、一護は優しい。彼は戦いを好まず、特に女性相手だと戦いを避けようとする。それでも今刃を振るうのは、一護の強い信念の為。目に映る人達を(ホロウ)から護り、(ホロウ)によって不幸になりそうな者を救う為。

 

 

 

 

『俺のお袋は(ホロウ)に殺された。だから、俺と同じ目に合わせたくねえんだ。

世界中の全ての人を護るなんて言わねえ。けど、この手が届くとこにいる人は護りてえんだ、俺は』

 

 

 

 

何故危険を冒してまで戦うのかを聞いた時、そう答えたのを簪は覚えている。だからこそ、一護がボーデヴィッヒを助けないはずが無いと。

 

 

(だけど、さっきの表情は何だったんだろう……。どこか辛そうな……)

 

 

VTを見たときに一瞬だけ見せた表情を気にしながら、上空で繰り広げられる高速戦闘を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちいっ……!」

 

 

鍔迫り合いの状態から強く弾き、お互いに数メートル後退しながら地を滑る。

 

 

(霊圧はそれほどでもねえ。こっちがISを使ってることを考えても、十分に倒せるレベルだ)

 

 

響転(ソニード)で瞬時に一護の前に現れたVTは踵落としを放つ。それを半歩下がることで躱すが、次は居合の型での一閃が抜き放たれる。

 

 

(けど、VT……織斑千冬がここまで強いとはな。偽物とはいえ、流石は世界最強ってとこか?)

 

 

刃を斬月で受け止めると同時に、VTの腹部目掛けて蹴りを放つ。が、足裏で受けられ、その反動を用いて飛び退る。

 

 

(前は剣八だって思ったけど、今のコイツはどっちかっつーと白哉だな……。戦い方が優雅……いや、型に忠実って言った方がいいか)

 

 

斬月を構えながらも、織斑千冬の剣の腕に驚く一護。剣だけでいえば、今まで戦ってきた者達の中でも上位に位置するレベルにある。強敵相手に勝ってきた一護とはいえ、その技巧の数々に苦戦していた。

 

 

「まぁ、大分慣れてきたけどな!」

 

 

背後からの一閃をしゃがんで躱し、振り向きざまに斬月を横薙ぎに振るう。

 

 

『ガアッ!?』

 

 

振り下ろされる刃に対して、カウンターで拳による突きを胸部に突きさす。

 

 

「それに、技が上手くても思考が(ホロウ)なら怖くねえ」

 

 

(ホロウ)は本能で動く。ごく稀に知的に動くのもいるが、大半が思考を捨て、ただ只管に魂魄を喰らおうとするだけ。戦闘能力もそうだが、そういった面でも破面(アランカル)とは雲泥の差がある。

 

長く、纏められた髪が尻尾のようになって頭上から襲うが、片手で掴み取り、握り潰す。

 

 

(けど、俺はこいつのことをとやかく言えねえんだよな……)

 

 

脳裏に過るのは、ウルキオラに敗れ、完全(ホロウ)化した自身の姿。自身の意思と異なる形で(ウルキオラ)を倒し、仲間(石田)にまでその力を向けた。あの時のことは、今でも一護の心の中に深い傷跡として残っている。あと一歩というところで完全(ホロウ)化が解かれたことで何とかなったが、それがあと一秒でも遅かったら仲間を消し飛ばしていたかもしれない。そうなったら、一護は立ち直れなかっただろう。

 

 

(だからこそ、こいつに誰かを傷つけさせる訳にはいかねえ……)

 

 

確かにボーデヴィッヒは織斑千冬以外をどうとも思っていないのかもしれない。そして、この先どうなるかも彼女次第だ。だが、今ここで止めなければその"未来の可能性"すら無くなる。

 

 

(織斑には(わり)ぃが、こいつは俺が止める!!)

 

 

自身の手で倒したいという気持ちは一護も理解出来た。誰にでも、汚されたくない大切なモノがあると分かっているから。

それでも織斑に譲らないのは、彼では勝てず、命を落とすから。ただの(ホロウ)とはいえ、何故かVTと融合しているアレは代表候補生を上回る戦闘能力を有しているのだから。

 

 

瞬歩と同じ感覚でVTへと接近し、斬月を振り下ろす。当然それは防がれるが、

 

 

「月牙天衝」

 

 

斬月を手で押し込むと同時に刃に月牙を纏わせる。ゼロ距離からのそれを避けられるはずもなく、

 

 

『ギ、ギギッ……』

 

 

大きく後退するも、好機を逃がさぬように追従する。

そして、迎撃の為に振るわれた刃を左手で止め、掴み、

 

 

「これで……終わりだ!!」

 

 

斬月を振るうと同時に放たれた月牙が、VTを丸ごと呑み込み、

 

 

――――ここまで、か。やはり雑魚では無理だったか。だが、次は必ず殺してやる! 待っていろ、死神!!!!

 

 

その怨嗟の声に呼応するかのように、VTは派手な音を上げて爆発した。




戦闘回と予告しながら戦闘描写が少なかったですね。

……すみません。精進します。

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