火拳は眠らない   作:生まれ変わった人

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最近は更新の時間さえ惜しい程忙しいDeathe。

とりあえず、そろそろ感想の変身をチョクチョクしようと思います。


歴史の分かれ目 江東の麒麟児立つ

エースが村に行き着いてから二日後。国の歴史が変わる日がやってきた。

 

「ふあぁぁぁぁぁ……眩しいなぁ……」

 

エースは小さな家屋から出てきて淡く、暖かな朝日を浴びる。

 

欠伸混じりの呟きの後には笑みがこぼれた。

 

「…いい天気じゃねーか……」

 

この村に少しでも恩を返すため、火拳の一日は始まった。

 

 

 

 

 

「報告!! 農民が徒党を組んで反乱したそうです!!」

「なんじゃと!?」

「数にして十万!! さらに近隣の村からも数を増やしていくと思われます!!」

 

一方、早朝に袁術の城はパニックに陥っていた。

 

いきなりの農民の反乱に動揺を隠せていなかった。

 

「うぬぬ……農民のくせに生意気なのじゃ! 七乃! すぐに倒してくるのじゃ!!」

「無理」

「はやっ!!」

 

袁術の腹心の張勲は間髪入れずに袁術の命令を拒否る。

 

「十万って私には対処しきれませんし~、基本城攻め専門なので衝車大量生産してドーンって戦法しかしませんしー」

「ならどうするのじゃ!!」

「もう、美羽さまってばうっかりさん♪ こう言う時にこそあの人を使うんじゃないですかー」

「? 誰じゃ?」

 

首を傾げる様に聞く袁術に張勲に袁術が首を傾げる。

 

「孫策さんですよ。美羽さまの盾であり、剣でもある」

「おぉ! すっかり忘れておったのじゃ! それなら全て孫策に任せるとしようかの!! 七乃!!」

「もう、お嬢様ったら狡猾で陰険、それでこそ偽皇帝に近いですよ」

「もっとじゃ! もっと褒めてたも~!」

 

悪口=褒め言葉と錯覚して喜ぶ主に兵士はとてつもない不安に襲われた。こうして、孫策に農民の反乱の鎮圧を指示しようと張勲は孫策の元に向かった。

 

 

 

 

それが結果的に自分達の首を絞めるのにも気付かずに……

 

 

 

 

 

「そういえば華佗」

「ん? なんだ?」

 

準備運動しながら後ろで荷物をまとめる華佗に声をかける。

 

「なんでお前は貂蝉と離れて行動してんだ?」

 

素朴な疑問だった。貂蝉と一緒に行動したほうが都合がいいと思った故の問いだった。華佗は「あぁ、そのことか」と普通に答える。

 

「ここにおれの知り合いの文官がいてな、そいつに頼まれてここに来たんだ」

「へぇ…これって計画されてたんだな」

「そのようだな……と、そろそろ集合しないと将軍が来るぞ? 先に出ててくれ」

「そっか…んじゃ行ってくる」

「あぁ……その前に一ついいか?」

 

華佗は家屋から出ようとするエースを引きとめると、感慨深く言う。

 

「……また戻ってくるな?」

「あぁ…おれもここで死んでる場合じゃねえしな」

 

冗談混じりに答えるエースに安心し、華佗は一呼吸置いて言う。

 

「……また会えたら一杯どうだ?」

「そっか……いいなそれ」

「決まりだな」

 

二人で笑いながら言うと、エースは家屋から勢いよく飛び出した。エースの後ろ姿を見送る華佗も気合いを入れる。傷ついた人を治すという使命を胸に秘めて……

 

 

 

 

「行軍するのはこれで全員ですね!?」

 

エースは村人の先頭に立って、目の前で参加の確認をとる忍者ルックスの少女を見据えていた。とりあえず突っ込めば問題無いだろうと思っていた。

 

「……質問はありませんね?」

「ん? あぁ…準備くらいできてる」

「分かりました。それでは周泰隊は進んでください!」

 

思考の海から抜け出したエースは周泰と名乗る少女の後に着いて行く。

 

 

 

 

 

「…という訳でー、暴徒の鎮圧に行ってくれますね? 孫策さん♪」

 

一方、孫策達に派遣された張勲は上から目線で孫策に一揆の鎮圧を命じる。それに対して孫策は盛大に溜息を吐く。

 

「あや? どうかしましたか?」

「いえ、ほーんと、張り合いのない相手って疲れるなーってね」

 

皮肉めいた口調に関わらず、張勲は気付かずに続ける。

 

「あらら、最近になって英雄なんて呼ばれていい気になってる孫策さんらしいお言葉ですねー」

 

孫策の言葉に違和感を感じないのか…張勲は続ける。

 

「分かりますよー。ただの暴徒に張り合いがないのは分かりますけど、美羽お嬢さまのご命令ですので出てくださいますねー?」

「えぇ…袁術ちゃんに『頸を洗って待ってて』って伝えておいて」

「はーい♪」

 

明らかに不穏な伝言のはずなのに張勲は気にも止めずにその場を去って行った。それを見ていた面々は盛大に呆れる。

 

「…開いた口が塞がらないとはこのことだな」

「楽だからいいんだけどさー…」

 

周瑜と孫策が思わず呆れて脱力する。二人のこういった言動は結構レアなのだ。それを見ていた鈴仙と風は苦笑しながら呟く。

 

「今まであれに従ってたんだ……なんかゲンナリ…」

「雪蓮さまも苦労してたんですね~…」

「そういうのは本人が聞こえないところでやってよ…今すっごい心が抉られた…」

 

孫策自身も今までの負の歴史を思い返して地に手を付いてうなだれる。そんな孫策を周瑜が立ち上がらせる。

 

「今日でそんな歴史を終わらせるんだからいつまでも落ちこまないの」

「それもそうね……鈴仙、風」

「「はっ!/はい~」」

 

立ち直って孫策は雰囲気を一変、鈴仙と風に鋭く号令を出す。

 

「穏と共に兵站の準備を!」

「御意!」

「御意です~…」

 

それぞれ答えると、周瑜の傍で控えていたダイナマイトならぬニトロボディの陸遜がほんわかと前に出てきた。

 

「それじゃあ鈴仙ちゃんと風ちゃんお願いしますね~」

「はい!」

「は~い」

 

やる気充分の鈴仙に比べて風は陸遜と同じくのんびりとしている。

本人は本人でやる気と実績を出してるのだから全く問題は無いのだが。

 

「それじゃあ私達も準備ができ次第出発、江東には入らずに明命と思春に合流しましょう」

「そうね」

 

孫策と周瑜も戦闘の準備に入るのであった。

 

 

 

 

 

 

「それでは一旦止まってください!! 本隊と合流まで待機でお願いします!!」

 

江東内では周泰は合流地点に到着し、進軍を止める。

 

その際、エースは腰かけて堂々と休む。

 

「ん~……結構多いな」

 

エースが見渡すと、周りからも続々と兵が集まって来ている。

 

地平線まで見えなくなると、最早壮観である。

 

「これで全部か?」

「思春殿。はい。こちらの行軍は完了です」

「そうか。先程雪蓮さまも到着なされた。合流するぞ」

「はい!」

 

そんな中、見たことがある甘寧の顔を見て、前のことを思い返す。

 

(甘寧がいるってことは、やっぱりここは孫策の……)

「それでは行きます! 私に付いて来てください!!」

 

自分がやっと目的地に着いたのだと思い返している中、周泰の声で我に戻った。

 

エースはそのまま周泰の後に続くのだった。

 

 

 

 

「前方に寿春城あり! 敵影無し!」

「ちょっ…! 敵影無しって…!」

 

しばらくして孫策本隊との合流を果たした甘寧と周泰。

 

しかし、全軍+民兵が出揃ったのにも関わらず、袁術の城は閉ざされたままだった。

 

それには他の面子も呆れ果てる。

 

「全く危機管理がなってないな…」

「あ! 今兵が出てきました! それから旗も!」

「おっそ…袁術ってもしかしてばか?」

「もしかせんでもばかじゃな」

 

周泰の報告に孫家の末娘の孫尚香の素直な感想に黄蓋も同意する。

 

「相手が混乱しているので一当てした方がいいかと……雪蓮さま?」

 

方針を決めていた新参者の呂蒙が孫策を見ると、孫策はうなだれていた。

 

「今までこんな奴に…こんなばかに…コロスコロスコロ…」

「作戦はそれでいいだろう。この戦は亜莎に任せる」

「あの…雪蓮さまがなにかに覚醒しそうなんですが…」

 

孫策に同情できる周瑜は呂蒙に気にしない様に行動で示す。少し主君を心配するが、相手はそんな暇を与えるはずがなかった。突然、城の門が開いたのだ。それに気付いた全員が気を引き締める。

 

「旗はっ!?」

「旗は『張』! 大将軍張勲です!」

「あぁ…あの将軍モドキね…」

 

張勲の登場に孫策のテンションしぼむ。

 

「やる気出しなさい。さっと倒して袁術を引きずり出すわよ」

「そうね…それなら蓮華! さっきも言った様にあなたが指揮してみせなさい!」

「はい!!」

 

孫権は美しい髪をなびかせ、荒々しくも宣言する。

 

「これより、我等孫呉の宿敵、袁術と相対する!! 何も恐れるな!! 誇りを奪われることを恐れよ!!」

 

孫権は剣を天に掲げ、全軍に見える様に輝かせる。そして、その時が来た。

 

「全軍、突撃ぃぃ!!」

 

その瞬間、歴史が動いた。兵の猛りが辺りを震わせる。まるで、積年の恨みを晴らすかのように……

 

「あの嬢ちゃん……前に会った時よりも気合い入ってるじゃねーか…」

 

鼓舞する兵とは対照的にエースはじっと孫権を見据え、その傍で控える鈴仙と風に目をやった。

 

「……仲間を世話してくれたんだ……恩くらいは返してやるか…」

 

そう呟いて、エースは静かに口の端を吊り上げて笑った。


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