火拳は眠らない   作:生まれ変わった人

29 / 46
とある火拳の日常(リアル)

「火銃!!」

「く……ぁ…」

 

現在、エースは華雄に火銃を連発している。

 

華雄はそれに対して防御しかできずに一回り大きい斧で身を守ることしかできない。

 

その弾丸の嵐から抜け出すことしかできなくなっている。

 

そんな中、エースは弾丸を撃つのを止めて華雄の懐に一気に潜りこむ。

 

「懐がお留守だな!」

「ぐふっ!」

 

エースのボディブローが華雄の腹部に突き刺さり、華雄は崩れ落ちる。

 

「なんだ。こんなもんか?」

 

エースは腹を押さえて倒れている華雄に笑みを浮かべて言う。

 

それを見ていた張遼は笑いながら言う。

 

「なんや華雄! 威勢良く勝負挑んでおいてアッサリやられたやん!」

「ち…違う…エースがあんな攻撃ばかりするから……」

 

痛みを堪えた華雄が苦しげに言い訳をするが、張遼がそれを否定する。

 

「アホか。エースに全力をださせることのできん華雄が悪い。撃ち合いがしたけりゃエースに少しでも近付き!」

「ぐぬぬぬぬ…」

 

的確な指摘に華雄も何も言えずに唸るしかできなくなった。

 

現在、エースは華雄とその前に張遼と手合わせをしていた。

 

流石は正規の軍。戦闘も鈴仙とは一味違ったものがあって、修業する時の緊張感もあって最適だった。

 

そもそも、エースは現在では董卓の下にいることを了承した。

 

元々は管賂を探しに洛陽にまで来たというのに、管賂がいないのならまた探しに行こうとしていた。

 

しかし、そこで賈駆からの提案があった。

 

この城で衣食住を世話して管賂に伝わる情報は逐一連絡すると……

 

傍から聞けばとても美味しすぎる条件であり、誰もが怪しがった。

 

そして案の定、エースにも条件が出された。

 

時々でいいから街に繰り出て警邏をしてほしいとのこと。

 

エースとしてはそれだけのことで協力してくれるのはとてもありがたいことだった。

 

この洛陽は今まさに大陸で最も発展し、物流が盛んな国。

 

各地を転々とする管賂なら高い確率でこの洛陽にやってくると説明したらエースも納得した。

 

そして、それには賈駆の思惑もあった。

 

見た限りではエースは最低限の文字は知っていても(炒飯とか餃子とか…)書くことはできそうもない。

 

というより本人から聞いた。

 

そこは何となく分かっていたので、どうということはなかった。

 

今の問題は治安である。

 

君主が移り変わる節目には政治を根本から見直す必要がある。

 

その合間に悪事を働く者が現れる。

 

そこで大いに役立ってくるのはエースの風評である。

 

エースの火拳の名は既に洛陽の住民の心に多大な安心をもたらし、悪党には多大のストレスを与える。

 

これほどまでに有効で手っ取り早い防衛手段は今の段階では無い。

 

そう考えた賈駆はエースに『街を見回って不審者がいれば捕まえる』という条件をだした。

 

それを出されたエースは少し考えてしまった。

 

こっちとしては自由に過ごしていきたいのに、海軍のような規律厳守の所に入るのはあまり気が進まなかった。

 

しかし、風や鈴仙のこともあり、なにより董卓への礼がまだだったことも考えた。

 

川から拾って救ってくれたことの恩は張譲からの救出で、食事を作ってくれたことの恩は森へ連れ出したことで返した。

 

しかし、一晩泊まらせてくれた恩はまだ返せていなかったのでエースは自分が少し我慢することで賈駆との取引に応じた。

 

そして、今に至るのだが……

 

「よっしゃあ! おれが勝ったから持ち金いただきな♪」

「く…ぬぬぬ…」

「くっっっっっそ~~~~~! エエ加減に勝って取り戻したる!!」

 

正直、結構楽しい。

 

正規な軍のはずなのに酒代を賭けての勝負とか、やってることは海賊の時となんら変わらない。

 

しかも、警邏という時間には街を練り歩いて仲良くなった奴等と話したりするだけで金までもらえるのだからこれほど楽しいことはない。

 

時々、悪事を働く者を完膚無きまでに叩きのめしたりはするけど。

 

風はその智謀を、鈴仙はその戦闘力と指揮能力の可能性を買われてエースと一緒に董卓の下で落ち付いている。

 

「こらぁ!! あんた達ぃ! また賭けで闘ってるわね!!」

「やべっ、賈駆だ」

「ちょお待ちぃ! まだウチとの決闘はまだ終わってへんで!」

「私とも闘え!!」

「ちったぁ学習せぇ!! さっき負けたやろ!!」

「どうでもいいわよ!! 下らない理由で闘ってたら兵にも示しがつかない…って待ちなさいエース!! 城壁を跳び越えて逃げるな!!」

 

中庭に突如現れた賈駆に気付くとエースは一目散に逃げ出した。

 

「あぁんエースぅ…ウチを置いてくなんていけず~」

「黙れ!! この後すぐに執務室で話を付けるわよ!!」

「え~…」

「自業自得だな。張遼」

「華雄! あんたもよ!!」

「なんだと!?」

 

董卓と風は中庭で賈駆に叱り、叱られる光景を屋敷の中から微笑ましく眺めている。

 

「やれやれ、またここに帰ってくるというのに……お兄さんだけ大目玉ですね~」

「クスクス……そうですね」

 

嬉しそうに眺める董卓を見た風は董卓に聞いてみた。

 

「董卓様はお兄さんをどう思いますか?」

「エースさん…ですか?」

 

風はそれに頷くと董卓はにこやかに言う。

 

「そうですね……とても面白くて、強いお方だと…」

「本当はそうですよね~。あんな姿見たら分からなくなりますけど」

「ふふ…程イクさんは信用しているのですね」

「はい……別の意味でも信用できる……と言ってもいいでしょう」

 

その言葉に董卓が頭を捻ると、風は何気無しに答える。

 

「お兄さんは自分に向けられる好意には疎いのですよ」

「? それはどういう…」

 

董卓が風の言ってることが分からず、聞き返そうとすると、扉が開いて書類を抱えた鈴仙がやってきた。

 

「すいませ~ん。また追加です」

「あ、ありがとうございます」

 

話が逸れ、三人はまた仕事にとりかかる。

 

(お兄さんは風達の根本的な気持ちが分かってないことは、いずれ知ることになるでしょう)

 

そう思いながら董卓に見えぬ聞こえぬのエールを送ってやった。

 

 

 

「御遣い様。こんなところでどうしました?」

「いや、何でも…」

 

エースは茶屋で饅頭を頬張りながら主人と話している。

 

あれから大分経ったので、飛び出してきたのはいいが帰りづらくなっていた。

 

帰ったら賈駆の説教が待ってると思うと帰りづらい。

 

「はぁ……」

 

頭上で呑気に輝いている太陽がうらめしい。できるなら代わりたいとも思う。

 

そんなことを思っていると……

 

「エース?」

「ん? あぁ…呂布か。もう掃除は終わったのか?」

「……(コク)」

「そうか。なら一緒に食うか?」

 

エースは饅頭の皿を差し出しながら笑って提案すると、呂布は少し考える。

 

「……いいの?」

「別にいいよ。一人よりも大人数で食ったほうが楽しいからよ」

「……(コク)」

 

一回頷くと、呂布はエースの横にちょこんと座って皿から饅頭を一つパクリ。

 

「……美味しい」

「だろ? 最近できてよ、良い匂いだったから食ってみたらうめえんだ」

「……もっと食べていい?」

「おお、食え食え。おばちゃーん! もう二皿おかわりー!」

 

―――はいよ!

 

威勢のいい声が店の中から響いてきた時、急にやってきた。

 

「ちんきゅう……きーーーーっく!!」

 

外からの威勢のいい声の主はエースの元へとミサイルの様に直進してくる。

 

しかし……

 

パシ

 

「え?」

「ねね…うるさい」

「うきゃ!」

 

呂布に阻まれた陳宮はそのままポイと投げ出された。

 

しかし、陳宮は慣れた様子で猫顔負けの着地を見せる。

 

「はは…これで十三回目の奇襲。そして失敗だな」

「今のは違うのです!! お前は何もしてないのです!!」

「まあ、次があるさ。お前も遠慮せずに食え」

「ありがとうです…て、ねねまでも買収されてたまりますか!!」

 

こんなじゃれ合いはこの洛陽にとって日常的な物であり、名物とも言えるようになってきた。

 

今、この瞬間にも戦乱の波が押し寄せている。

 

だけど、エースにかかればそんな空気くらい簡単に壊してくれる。

 

武器を携えて闘う定めの兵士さえもが今、この瞬間に笑顔を浮かべている。

 

どうやら、賈駆の思惑は予想通りどころか予想以上に効果があったようだった。

 

「よっしゃ、じゃあ他に何か食うか? 金ならさっきいただいたからな…」

「……」

「どうした? 呂布」

「恋殿?」

 

饅頭を持って黙る呂布が心配になったエースだが、それは杞憂に終わった。

 

呂布は顔を上げ、エースを見つめて言う。

 

「……恋」

「ん?」

「これからは恋でいい」

「なんですとーーー!!」

 

呂布が急にエースに真名を許したことに陳宮は驚愕して呂布に詰め寄る。

 

「恋殿! 血迷ってはいけませんぞ!! そんなおいそれと真名を許すなど…!」

「いい、エースはいい人。月も助けてくれたから」

「恋殿~…」

 

折れない主に陳宮は涙を流す横でエースは気になっていた。

 

「えっと……りょ「恋」……いいのか? 恋」

「ん」

 

そう言って呂布…もとい恋は犬みたいに可愛らしく頷く。

 

それを見ていた陳宮も黙ってばかりではなかった。

 

「恋殿だけに茨の道は行かせませぬぞ~! 聞くがいいのです!! ねねもお前に真名を許すのです!! ねねの真名はねねねですぞ!!」

「ねねねねね?」

「“ね”が多いのです!!」

「ていうかなんか“ね”がお前が自称してる名前より多くないか?」

「それの方が呼びやすいと恋殿が言ったのです! 本当は音! 音! 音! と書いてねねねですぞ!」

 

何をいばっているのか分からないが、とにかくエースは二人が自分に真名を預けてくれたのが嬉しかった。

 

エースは素直に笑って返す。

 

「それじゃあ、今度からはその名でよろしくな。恋、ねね」

「うん……よろしく」

「ふん! 仕方無いからよろしくしてやるのです!」

 

二人の新たな仲間とも親睦を深めることができたエースは本当に嬉しそうに、夕方直前の街へ三人で繰り出した。

 

その際、恋とねねを飯に誘ったのだが、恋が予想以上に大食漢だったから張遼との賭け金が一気にパァになった。

 

そして、エースは忘れていた。

 

自分が賈駆を怒らせたままであったということに。

 

 

 

帰った後、賈駆に正座で説教され、風達の前で恋達の真名を言ったら風と鈴仙までもが参戦してきてダブルパンチを喰らった。

 

エースの一日はこうした波乱万丈で溢れている。

 

穏やかな日常はまだまだ続く。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。