「提督、なにかして欲しいことがあれば言ってくれる?それまでここにいてあげるから」
「あ、はい…」
なんだ、変なものでも食ったのか?ヤケに優しいぞ加賀さん。もしくは夕張に変な薬でも飲まされたか…。
「あの…加賀さん、なにか変な物でも食べた?」
「……はい?」
「普段、アレだけ罵倒してくるのに今日はヤケに優しいというか…」
「………どういう意味かしら?」
「な、なんでもありません!」
気のせいだ。やっぱ怖いわこの人。
「別にそういうわけではないわ。ただ、怪我をさせてしまった以上、責任は取らないといけないと思っただけよ」
「なにお前、実はいい奴なの?それとも俺のことが好きなの?」
その瞬間、ピクッと加賀さんの眉が釣り上がる。しまった!余計なこと言ってしまった!
「う、嘘です!ごめんなさい!冗談です!許して…」
だが、意外なことに加賀さんから攻撃は来なかった。それどころか、顔を真っ赤にして俯いてる。
「か、加賀さん…?」
「バカ、提督……………」
「へ?」
だが、すぐにいつもの無表情に戻ると、
「なんでもないわ。携帯を渡しておくから、して欲しいことがあったら呼んでもらえるかしら?」
「でも俺、加賀さんのアドレス知らないんですけど…」
「そう。だったら交換しておきましょう。それとLINEも」
加賀さんLINEやってるんだ…ていうか携帯持ってたんだ…。二人ともマナーモードだった為、ピローンとは鳴らず、なんか地味な交換となってしまった。
おぉ、これ初なんじゃねぇの?家族を除く異性の連絡先が入ったの。しかも家族の連絡先変えたし。
「じゃ、またな」
そう言ったが、加賀さんは出て行こうとしない。若干、紅潮した頬で気恥ずかしそうに言った。
「その…やっぱりここにいても、いいかしら…」
「え?連絡先教えた意味は…」
「いいから。ちょくちょく呼び出されるくらいならここにずっと一緒にいた方がいいわ」
まぁ確かにそうかもな。一々こっちに来るのは面倒だ。俺なら呼ばれても「今トイレにいるから」で行かないだろう。
「まぁ好きにしてください」
そう言って布団に潜った。どーせ絶対安静だのなんだの言われんだから寝てよう。と、思ったらお腹がなった。
「そういえば、御飯がまだだったわね。取ってくるわ」
「サラダ、マヨネーズ抜いてください」
「……了解」
クスッと微笑むと、加賀さんは出て行った。さて、俺はどうしたもんかな。寝てたい。正直寝てたい。でも加賀さんが飯を持ってきてくれるって言うしな…。
「テートクーっ!」
どっかで聞いたことある声とともにトアがガララッ!と開かれた。
「大丈夫デスかー!?」
「あぁ、お前か…あの、大丈夫ですから正面から抱き着くのやめて腕が取れるほど痛い」
「私、心配で食事も喉を通らなかったネー!」
ダメだこの子、まったく俺の話を聞くつもりがない。後ろにいた榛名と霧島に助けてアイコンタクトを送ると、察してくれた。
「ほら金剛姉様、提督は腕が取れてるんですよ」
いや取れてねぇよ。取れてないよね?取れたらサイコガンかインコムにでもしようかな。
「で、なんか用か?」
「お見舞いに来ました。二階から落下したと聞いて金剛姉様がものすごい勢いで駆け付けたんですよ」
比叡もいたんだ。金剛型勢揃い、って言うほど珍しくないか。結構常に一緒にいるし。
「提督、紅茶入れてあげるからちょっと待っててネー」
「比叡カレーを作って来ました!」
「やめなさい比叡、提督にトドメを刺す気?」
「き、霧島ひどい!」
「は、榛名は執務室にあった提督の漫画とか持って来ましたよ!」
と、なにやら賑やかになってきた。つまり、俺の一番苦手な雰囲気だ。
「提督、紅茶入ったネ!」
「さんきゅ…」
ズズーっと紅茶を啜る。なんだかんだでこいつのティータイムのお誘いは断ってきたので飲んだのは初めてだ。
「……美味いな」
「そうでショウ?だからいつも誘ってたのに、提督なんでか断っちゃうんだから〜」
それでもめげずに誘ってたこいつの精神力ヤバイな。
「今度からは極力いい返事するから」
「紅茶に釣られただけでしょ?」
「まぁ、そうだな。10割ほど」
はぁ…とため息をつく金剛。なんだよ…。
「てかさ、お前いつも俺にベタベタ特攻してくるけど、そういうのって自分の好きな奴にやってやれよ」
その瞬間、空気が凍る。ピシッと音がするほどだ。榛名が驚愕の表情で口を開いた。
「あの、提督…今なんて……?」
「え、や、だから自分の好きな奴にやってくださいって…そういうのが全国の男子を勘違いさせるんだよ。ソースは俺。高二の時に『お前、俺のこと好きだろ?』ってドヤ顔で聞いてから、もうね……」
そこから流れる同情ムード。
「それ以来、最初から距離の近い女は信用してない。ていうか女子全体への信頼すら危ういレベル」
今度は霧島と比叡にゴミを見る目で見られた。
「じ、じゃあ…提督は私を信用してないデスか…?」
「は、榛名は…大丈夫じゃないです…」
「や、艦娘のみなさまは信用してますから!は、ハルさんとか信用しかしてないから!」
『は、ハルさん!?』
あ、やべ…。
「て、提督!榛名も!一体どんな関係ネ!?」
「そういえば、榛名はこの鎮守府で一番練度が高いですね」
「ひ、ヒエー…」
「は、榛名も初めて呼ばれました!」
ど、どうしよう…。まさか、一人の時は艦娘一人一人にあだ名を着けてるとは言えない…。や、少しはみんなと仲良くなろうと思って考えたんだよな。だけどいきなりあだ名で呼んだりなんてしたら気持ち悪がられると思って今だに呼んでないんだよな…。
「や、その…」
「朝食を持ってきたけれど」
ドアが開いて加賀さんが入ってきた。ナイスタイミンッ!
「ほ、ほらみんな俺飯食うから一旦出てって下さい」
「あとで絶対問い詰めるからネ!」
と、四人は出て行った。ふぅ…あとは上手くやり過ごせばいいな。「また今度な」「今忙しいから」「もう眠いからまた明日」の無限ループを繰り返せばいい。
「で、提督?ハルさんってなにかしら?」
か、加賀すわぁぁぁぁぁんっっ!?怖い!怖いよマジで!あの鋭い眼光から逃れられるの犯人は一人もいないんだ!(クマ吉ボイス)。
「だ、誰にも言わない?」
「内容によります」
自白した……このまんまじゃ俺の命が危ない。
「……なるほどね」
死んだな…俺の立場はこれで崖っぷちだ…。
「ちなみに、ちなみに聞くけれど、わ、私のあだ名はどんな物だったの?」
「……俺に死ねと?」
「黙ってて欲しければ言うことね」
「本当に黙っててくれるんですよね?」
「……ものによるわ」
くっ…死にたい恥ずかしい殺せぇ!まぁ、周りにバラされるくらいならいいか…。
「か、加賀ちゃん…」
死にたいですマジで。仕方ねぇだろうがっ!最近まで業務内容以外で人と話してなかったんだからさぁっ!なんか仲良くなってある程度話せるようにはなりたいだろ!
この回答に加賀さんはどう反応するか?と、思ってチラッと顔を覗くと、真っ赤な顔を必死に誤魔化そうと逸らしていた。
「ちょっと席を外すわね」
「えっ!?ちょっと待って!ダメだった!?今のあだ名そんなにダメだった!?」
「ダメなのは『仲良くなりたい』という願望があった癖にコミュニケーションを取ろうとしなかった提督のヘタレ具合です。よってバラします」
「待って!ごめんなさい!加賀ちゃん!」
「なっ……!か、加賀ちゃんって呼ばないで!」
そのまま出てってしまった。あぁ…さよなら俺の鎮守府ライフ…。せっかくもってきてくれた朝飯も持ってかれてしまった。と、思ったら数秒後に鈴谷と北上が飛び込んできた。
「へぇー!提督って鈴谷達と仲良くなりたかったんだぁ!」
「それであだ名ってw可愛いじゃん提督www」
二人に頭を撫でられる。やめろ…いっそ殺してくれ…。
「い、言わないでくれ……」
死にたい。てか死のっかな…いっそ殺してくれ。
「でさでさ、私にはどんなアダ名考えてたの?」
「ほれほれ言ってみ〜?」
「お、覚えてねぇよ!てかやめろ寄るな!近い近い近いっつーの!」
だが、二人につねられ撫でられ頬つんつんされ終いには髪の毛を女の子みたいに結ばれそうになった辺りで妥協した。
「えと、北上が確かヘビーアームズだったな」
「……なにそれ」
「ちょっと待ってろ」
携帯に入ってる画像を探し、見せた。しばらく固まる北上様。鈴谷、爆笑。
「あははっ!確かにそんな感じだよねぇっ!で、鈴谷は?」
「す、鈴谷は…」
言わなきゃダメかな…でもこれ、完全に期待しちゃってる目だよなぁ…。
「鈴谷は…」
「引っ張り過ぎぃ!早く早くぅ!」
「ヒデノリ」
「「は?」」
鈴谷だけじゃなく北上も声を出す。まぁそうだよね。
「えっと、チャートで説明するとだな
鈴谷→女子高生っぽい→JK→ジャック→俺の名はジャック!(男子高校○の日常)→ヒデノリ……ってわけだ」
「なんでよ!そのJKからジャックに飛んだのはなんで!?」
や、スズとかの方がいいとは思ったんだよ…でもそれじゃつまんないと思って。
「き、気に入ってくれたか?」
その瞬間、拳骨。
「最低」
「しばらく話掛けないで」
そのまま出て行かれてしまった。うん、今回は僕が悪いですよね。