晩飯の時間。や、そんなの厳密に決まってるわけじゃないんだけど、翔鶴やら瑞鶴やらがわざわざ集めてくれたらしい。いらぬ世話を……。
で、食堂の前の廊下。うちの食堂には扉がないので、廊下の食堂からギリギリ見えない所で深呼吸。大丈夫、散々練習したろうが、女の子との会話の練習。何回脳内でシュミレーションして、鏡の前で練習したんだ。なにしてんだ俺は…。
フゥ…スーハースーハー…。いざ!出撃します!
食堂への第一歩を踏み出した!
が、中では、
「麻耶!てめぇ俺の肉返せコラっ!」
「っせぇ!お前だって俺の人参盗ったろうが!」
「人参と肉じゃ等価交換にならねぇだろうが!」
あぁ…麻耶と天龍がバトってる。これ帰っていいのかな…。普段なら加賀さんが止めそうだが、今は赤城と飯に集中してるしさ…。仕方ないか。
「なにしてんの」
俺の声に二人が反応する。クワッと睨みつけて来るが、その手の顔は怖くない。本当の怖い顔ってのは無表情だ。
「はぁ?提督には関係ねぇだろ!こいつが俺の肉取りやがったんだよ!」
関係ない人に説明してくれてありがとう。まぁ大体、話は分かった。
「二人とも落ち着け。食堂で暴れたりなんてしたら黒足に殺されるぞ」
「はぁ!?なにわけわかんないこと言ってんだクソ提督!」
「お前が殺されろバーカ!」
ほほう、ちょっとイラっとしちゃったZO☆が、そんな俺の気も知らずに二人はとうとう殴り合いを開始。先に摩耶の右手を掴み、小手投した。そのまま裏固。
「落ち着いたか?」
「痛たたたっ!てめっ!提督この野郎!」
落ち着いてないな…更に深く技を掛ける。
「いだだだだっ!ごめんなさいごめんなさい!」
なんてやってると天龍が好機と見たのか、麻耶を殴ろうとしていた。その手をまた俺は掴み、上受投。転がってる二人の腕を掴んで背中に回し、吊上。
「痛ぇ!痛ぇよ!悪かった!悪かったから!」
「面倒臭ぇから説教するつもりはねぇけどよ。次喧嘩したら解体するから」
「「分かったから離して!」」
ようやく二人を解放した。やべっちょっとやり過ぎたかな…二人とも泣いちゃったよ……。とにかく、空気が凍ってしまったので俺はここにはいられないよね。執務室に帰ろう…。
「すごーい!提督強いんだね!」
「へ?」
不意に言われて変な声が出てしまった。
「ホントだよ!人間が軽巡と重巡の喧嘩を止めるなんて!」
「かっこいいー!今のどうやったのー?」
「はやーい!」
マジか…女の子泣かしたからつい非難されると思ったんだが…。
「や、まぁ軍にいるんだからある程度格闘技は出来るけど…」
「その話、本当か?」
声をかけて来たのは長門。うーわ…戦闘狂みてぇなやつに目を付けられた。
「本当なら是非、手合わせ願いたいものだな」
「え、いや普通に嫌ですけど……」
怪我じゃ済まなさそうだし…。
「そういうわけにはいかない。私は提督を軍部のゴミ屑だと思っていたが、訂正しなければならないようだ」
うわ…ストレートに言うなぁ…ガーベラストレートよりストレート過ぎる。
「や、とにかく喧嘩とかごめんなんで…筋肉痛とかやだし…」
「ダメだ!」
うへぇ…面倒臭ぇ…。
「じゃあアレだ。3秒以内に腕立て伏せ5兆回出来るようになったら喧嘩してやるよ」
「本当だな!?第一戦隊、出撃するぞ!」
そのまま長門は食堂を出て行った。うん、まぁ頑張って。そんなこんなで、晩飯タイムだ。今日はなぜかバイキング形式。このクソ大人数でバイキングなんて大丈夫なのか間宮さん。
とりあえず、オセロで絶対に取られない位置に座る。いつでも俺はその定位置だ。だって人と関わらない率100%だもん。みんなで合わせていただきますでもすんのかね、もしそうなら先に食うわけにはいかないな。待つか。と、思ってたらいつの間にか横で、餌を待ってる犬みたいに待機してる響がいた。なにこれ超可愛い。
「どうした?」
「司令官、膝の上を要求する」
「え?あー…膝に乗って食べたいってことか?」
「すぱしーば」
まだOK出してないんだが…まぁいいか。
「ほら、おいで」
言うと、ひょこひょこと乗ってくる。
「あー!響抜け駆けはズルいわよ!」
「早い者勝ちさ」
「はうぅ…この私がやられるなんて…」
なんか穏やかじゃないな。と、思ったら、
「提督ーっ!私も乗せて下サイー!」
金剛がど笑顔で突撃してくる。
「えー…お前は子供じゃないだろ…」
「関係ないネ!私だって提督に甘えたいヨー!」
あれ、この子ってこんなにストレートな奴だったっけ?
「それとも提督はロリコンなのデスカー?」
「なに言ってんだお前…俺は妹キャラが好きでもロリコンじゃねぇよ」
「え……」
その瞬間、何人かがこっちを向いた気がする。え?ちょっ…なに?
「て、ててて提督!妹が好きなのは本当ですか!?」
「お、おう…御坂も妹のが好きだな。あ、でも火憐と月火だったら火憐かな…」
な、なんでざわつくんですか…?
「提督!長女のなにが悪いネー!私がなにかしました!?私のなにが悪いんデスカー!」
「べ、別に金剛さんが嫌いなわけじゃないです!ていうか妹のが好きなのはアニメに限った話です!ていうか揺すらないで!吐く!吐く!」
その一言ですぐにほっ…という空気が流れた。なんだよ…俺の発言で世界が救われたりすんのかよ…。
「では、そろそろいただきましょう」
加賀さんが言うが、前にはすでに空になったお椀がいくつもある。どんだけ食ったんだよマジで。
で、いただきますの声。
「司令官、口を開いてもらえるかい?」
「なに、歯医者?」
「いいから」
響に言われて、渋々口を開く。その中に唐揚げが入れられた。
「あーん」
「お、おう…さんきゅ」
この歳で幼女にあーんされるのは恥ずかしいな…。と、思ったら響が口を開けて待っている。
「あ、あーん?」
「あむっ…ハラショー、こいつは力を感じる」
飯食って力を感じるってグルメ細胞でも持ってるのか?すると、北上がからかうように言ってきた。
「提督、わたしもあーんしてあげようか?」
「や、あの…大丈夫です。恥ずかしいんで…」
「可愛いねぇ。提督って何歳なの?ぶっちゃけ高校生くらいに見えるんだけど」
「え?あー…19ですけど…」
「…成人してないの?」
「お、おう。なんで軍にいるのか不思議なんだよな…」
「へぇ、じゃあ私より年下なんだぁ」
いやらしい声と共に後ろからアスナロ抱きしてくるのは…
「あの、陸奥さん…そういうのはちょっと…」
「いいじゃない。照れちゃって可愛いわね」
「あの、ホント勘弁していただきたいんですが…」
「だーめ☆」
「司令官、キャベツを要求する」
「あーはいはい。あーん…」
あぁ…落ち着いて食えやしねぇ…。早く飯の時間終わらねぇかなぁ。
「提督!いい加減にするネ!いつまで他の女とイチャついてるんデスか!?」
「そう思うなら後ろの人をどかしてくださいよ…てか飯食わなくていいんすか?」
「あら、そういえばそうね。またあとで抱き締めてあげるからね」
もうこっちに来ないことを切に願う。さて、なんだかんだで食べ終わったし、そろそろ執務室に戻るか。
「響、そろそろ戻りたいからどいてもらっていいか?」
「zzz……」
寝ちゃってるか…仕方ないな。暁型の部屋に運んでやるか。響を抱えて廊下に出る。確か暁の部屋はっと……、この辺か。ドアを開けると、暁がなぜか着替え中。
「一人前のレディにもなってお味噌汁を溢しちゃうなんて…あっ」
「」
その瞬間、響く悲鳴。暁の渾身のボディブローが俺の溝に的確にめり込み、ぶっ倒れた。うん、もう二度と食堂で飯なんか食うもんか、グフッ。