キュッキュッと廊下を歩く音が響く。俺は最上姉妹と忘れ物を取りに来た。で、すでに全員分の忘れ物は回収済みだ。
「あの、鈴谷。歩きにくいと言ってるでしょう?」
「だ、だって…」
「はっ、情けねぇな処女ビッチ。俺なんて完全に馴れたぞ」
俺はもう最上にしがみ付いてない。余裕まんまで一人歩き。離れた途端に最上が残念そうな顔してたけどなんでだろうな。
「う、うるさい!てかビッチ言うなし!」
「結局この程度の自然の闇は怖くねぇ。お前はそうやって一生熊野とクリンチしてろ」
むっキーとした顔になる鈴谷だが、その顔が小悪魔めいた顔に変わる。
「先生こわくないんでしょ?」
「おう」
「だったらみんなで七不思議を解明しに行こうよ」
……なんでそうなる。
「こういう噂が流れてる以上、みんな怖がってると思うからさ。いいよね最上?」
「僕はどっちでもいいけど…明日学校だよ?鈴谷お寝坊さんなのに起きれるの?」
「へ、へーきだよ!」
「俺はいかねぇぞ面倒臭ぇ」
「怖いんだ?」
「怖くねぇよ」
「怖がってるから敬遠してんじゃないの?ねぇ三隈?」
「私に振らないでくださる?下らない…」
「三隈、よく考えてよ。あの提督先生の超ビビった顔を見れるチャンスだよ」
「はぁ?ビビらねぇし」
「私は鈴谷に付き合いますわ。先生のビビった顔はレアですからね」
チッ、熊野はそっちに行ったか…最上もどっちでもいいとかほざいてたし…。
「わーったよ行けばいいんだろ。その代わり全部デタラメだったら…」
「だったら?」
「帰りにデスノート買う金出せや」
「それだけ?」
と、最上のツッコミ。
「じゃ、もし人間じゃないなにかが出たら鈴谷達に今日の晩御飯奢ってよ?」
「上等だコラ」
てなわけで、夜の学校編はまだ続く。
が、まぁお化けなんぞいるはずもなく、次々に謎は解明された。例えば、音楽室から聞こえてくる足音なんていうのは舞風が踊りの練習してたのがオチ。
教室の窓が風もないのにガタガタ揺れるっていうのは夕張がソーラーレイを作ろうとしてたのがオチ。
美術室の動く石像なんてのは長門が石像を背中に担いで腕立て伏せしてたのがオチ。
保健室の人体模型から髪の毛が生えるというのは、保険の山城先生が扶桑のカツラと洋服を人体模型に着せて抱き付いてるオチ。流石に三人とも引いた。
体育館から聞こえてくるダンッ!という音はまたまた長門。それも武装色の覇気の練習というのがオチ。
さらに、飼育小屋に現れる巨大生物なんていうのはまたまた長門。ウサギを全力で愛でていた。
もはや二分の一長門という明らかに手抜きだった。
「ま、これでラスト一個だ。賭けは俺の勝ちみたいだな」
「ま、まだ最後一個残ってるもん!」
無理無理、あきらめろ鈴谷。どーせお化けなんていない。俺達は屋上に向かっていた。屋上に現れる白い悪魔。ガンダムかっつの。最後の最後がガンダムだ。あんな巨大なもん本編の鎮守府とお台場以外にいてたまるか。で、ドアに手を掛ける。
だが、いた。ガンダムでもアムロでもない。頭になんかデッカいなにかを被り、全身白く所々黒く、目が青い。
「い、いるじゃん…白いなにか…」
いざ出会ってしまうとどうすればいいか分からない。しかも今回はどうしようもない。その白い奴は俺達に気付くとゆっくり歩いてくる。
「せ、先生……」
涙目で鈴谷が腕にしがみついてくる。もはや緊張感のなくなっていた俺達に迫ってくる白い何か。マズイな。
「最上、全員連れて逃げろ。あいつは俺が足止めする」
「で、でも……」
「いいからいけ。生徒守んのが俺の役目だ」
さて、どうするか。相手はお化けかもしれない。俺の釘パンチは聞くのか?いや足止めくらいにはなるだろ。そう思い構えた時だ。白いなにかの声がする。
「……シイ」
「あ?」
「一人、寂シイ……」
次の日の学校。鈴谷と熊野は提督の安否を気にしながらHRを待つ。あの後、四人は先に帰ってしまった。提督に帰れって言われたから。で、ガララッと開くドア。
「はーいお前ら席に付けー。喋ったやつは罰ゲームで一発芸なー」
「先生!昨日平気だったの!?」
「はい鈴谷罰ゲーム」
「や、そういうのいいから!」
「早く罰ゲーム。じゃないと眼球にしっぺ」
で、罰ゲーム。ドン滑りして号泣。それを捨て置いて提督は進めた。
「今日は転校生を紹介するぞー」
で、現れたのは昨日の白いの。鈴谷と熊野は吹き出す。
「転校生のヲ級だ。仲良くしなくてもいいからイジメはやめろよー」