工廠裏。そこに来る翔鶴、榛名、文月。
「ここなのぉ〜」
のほほんとした声で言う文月。その中を覗き込む三人。その時だった。後ろからドンッと押されて三人とも穴に転げ落ちた。
「きゃっ!」
「ふわぁっ!」
「ちょっ…なに!?」
「今だぁ!蓋を!」
で、その上に提督が板を被せ、完全に閉じ込めて三人その場を後にした。
続いて提督達は川内組を入渠ドッグに閉じ込めた。残るは最後の加賀さん組。
「俺の予想だとあの辺はガンダムの等身大の辺りにいるはずだ」
提督がこの鬼ごっこを始めたのは遊び目的じゃない。この鎮守府の提督の恐怖の対象を封じて、新世界の神になることだ。ちなみに提督は昨日、デスノートを読んでいて、少年提督はその時の記憶が朧げに覚えていた。だからこの始末である。
(残りは加賀さん、瑞鶴だが瑞鶴は気にしなくていいな。問題は加賀さんか。おそらく落とし穴やどこかに閉じ込めるだけじゃあの人は復活するだろうから、縛り付けるしかないな。だが、どうするか…こちらの手駒は駆逐艦2人で向こうは正規空母二人。チームワークでこちらが勝っていたとしても戦力は圧倒的過ぎる。やはり夜戦に持ち込むため夜まで隠れるか…)
「司令官」
「あ?」
「僕、やめる。なんかつまんなくなっちゃった」
「わたしもー」
「はぁ?なんで…」
「だからつまんなくなったのー!」
「ダメ!正規空母を倒すにはお前らがいないと…」
「やーだよー。さっきから人にやらせてばっかで自分はなんもしないじゃん」
「そーだそーだ!」
ここで提督がキレた。少年時代はわがままで自己中だったからだ。だから友達いなくなったんだろうなぁ…。
「うるせぇ!」
皐月を蹴っ飛ばす提督。
「痛いなぁ!なにすんだよ!」
「う、うるさいうるさいうるさい!お前らが俺に従わないのが悪ぃんだよ!」
また一発。とうとう泣き出してしまった。
「い、痛いよぅ〜」
「や、やめなよ提督!」
「う、うるさい!」
そのまま大喧嘩。三人で殴る、蹴る、噛み付く。だが、その途中で止められる。止めたのは、
「は、榛名!?なんでここに…」
「私が不自然に置いてある板を見つけたんです。そしたら案の定…」
加賀が後ろに立っていた。
「そんな……」
見れば、提督が閉じ込めた連中は全員いる。文月に至っては翔鶴の後ろで泣きじゃくっていた。で、榛名が一歩前に出て提督の前にしゃがむ。
「提督、謝りなさい」
「………」
元の提督なら謝っていただろう。だが、今は小学生だ。中々謝れない子なのだ。この提督は。今はガンガン土下座する癖に。
「………」
「提督……?」
経験ある人は分かると思うが、自分が悪いと自覚してて人に囲まれた時は、周りの視線が自分を責めてるように感じるのだ。まさに提督はその状態。目に涙を浮かべながらも絶対謝らない。いや、謝れない。
「………」
だがここで逆ギレしても悪化するだけであることは提督にも分かっていた。どうにかして誤魔化そうとしてるがキッカケがない。が、そこで皐月が言った。
「謝れよ司令官!悪いのは司令官だろ!」
「そ、そーだそーだ!」
島風もそれに乗る。なんとか翔鶴がなだめようとするが遅かった。提督は不貞腐れて私室に戻った。
提督は私室で寝っころがる。どうしてこうなったんだろうと心底思いながら枕に顔をうずめていた。あれ、本当にどうしてこうなったんだっけ。あぁ、シロッコか。不意にこぼれる涙。そこにノックの音がした。
「榛名です。入りますよ」
返事を待たずに入ってきた。
「大丈夫ですか?」
「………」
提督は答えない。ただ黙って下を向いていた。涙を流していたかもしれない。
「あの子達も悪気があったわけじゃないんです。それに、今回は提督が悪いんですし…」
「分かってるよ……」
「なら、謝りに行きましょう?ね?」
「無理だよ。今更……」
「そんなことありませんよ。榛名も一緒にいてあげますから」
すると、顔を上げる提督。そして、今まで我慢してたような崩壊寸前の顔から涙が出て来た。
「榛名ぁぁぁ………」
「はいはい……」
抱き着く提督に抱き返す榛名。なんだかんだで子供なんだなぁと榛名は思いつつ微笑んだ。が、その顔が曇る。なんか段々と提督の体が大きくなって来ていた。
「……あれ、なにこれ。なんかあったん?」
「なっなっなっ……」
元の姿に戻った提督だった。腹立つほどのほほんとした顔で欠伸する提督。
「あれ、なんで抱きしめてんの俺。てか榛名、なにしてんのお前」
「ば、バカァーーーーーッッ‼︎‼︎‼︎」
榛名の一撃が提督をぶっ飛ばした。