もし、俺が提督だったら   作:単品っすね

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ラッキースケベ

 

夜七時。ようやく加賀さんの説教から解放された。辛かった。まぁほとんど聞いてなかったから退屈で辛かったって意味なんだけど。それから、雷がまた膝に乗って来て、書類の片付け。ずーっと仕事してたら、気が付けば9時を回っていた。さっきまでハンコを押していた雷は、気が付けば俺の胸に頭を置いてすぅすぅと寝息を立てている。

……お疲れさん。そう心の中で声を掛けると、抱っこして執務室を出た。そのまま雷の部屋へ向かう。途中で大井やら山城やらとすれ違ってロリコンだのなんだのコソコソ言われたが、その手の陰口への耐性は強い。高校で俺のメンタル値はカンストしてる。

暁型の部屋の前に着くと、深呼吸。大丈夫、昨日の夜に練習しただろうが。えーっと、コンコンとノックして「どうぞ」と声がしたら「失礼します」と言って入室して……あれ?面接?

 

「なにしてるんだい?」

 

ビクビクぅっ!と俺の肩が震える。っと!雷が起きてしまう!と、思ったらそうでもなかった。相当、深く寝入ってるようだ。さて、俺を携帯のバイブみたいにした奴は誰だと思いながら振り返ると、響が立っていた。

 

「あ、あぁ。ピカチュウが寝ちまったから届けに来たんだけど」

 

「了解」

 

響が自分の部屋のドアを開けて中に入り、その後に続く。雷をベッドの上に置いて布団を掛けてやると、執務室に戻った。

 

 

 

 

 

 

次の日、結局徹夜した。いや昔ハマってたゲームとか漫画とか古いジャンプ見つけるとつい熱中しちゃうよね。という大晦日の大掃除に有りがちなイベントのお陰で徹夜した。ハッキリ言って超眠い。

いーや、寝ちゃおう。また今日徹夜すればいいよね。なんて夜行性人間製造サイクルの第一歩を踏み出しながらシレイはシレイはソファーにダーイブッ!

あっやべ…ここのソファーこんなにふかふかだったっけ…すぐに、寝ちまう……。

 

 

 

 

 

目が覚めると、頭の下になんか馴れない柔らかさの感覚。えっと…確か徹夜してそのままソファーにダイブして…あれ?目の前に薄いマウント富士…ていうか、

 

「うわあっ!」

 

膝枕されているという情けない自分の姿を認識してつい飛び退いてしまった。

 

「あら、お目覚めですか?」

 

そう落ち着いた様子で答えるのは翔鶴。五光線の姉の方。おい、ビーム五本放ってどうすんだ。五航戦な。

 

「えっと…」

 

「おはようございます。提督」

 

「え?あ、うん。オハヨウゴザイマス……」

 

あ、ヤバイ。昨日は駆逐艦の子供だったからまだ気楽だったけど…今日は成人してそうな女性か……。持つかな俺の精神。

 

「大分、お疲れの様子でしたけど、徹夜でもしてたんですか?」

 

「え?あ、はい…」

 

「ダメですよ。ちゃんと寝ないと。体に良くないですよ」

 

すいません。つい古いジャンプ読みふけってしまって…。

 

「あ、はい…」

 

「朝食は取りました?」

 

まだです…。

 

「は、はい……」

 

「なら、今から執務を始めましょう」

 

さっきから心の中では言葉が浮かぶのにまっっったく口に出ない。てかなんでさっき膝枕されてたのか気になる。確かダイブした時は誰もいなかったよな…。

なんて思ってると、お腹がぐぅ〜っと鳴る。恥ずかしさでバッと自分の腹を抑え、チラッと翔鶴を覗いた。ニコニコ笑顔を見せている。

 

「やっぱり食べてなかったんですね…。今から作りますから待ってて下さい。それとも食堂行きます?」

 

「や、あの大丈夫です…朝マック買ってくるんで…」

 

「そんな物食べてばっかいたら成人病になってしまいますよ。すぐ作りますから待ってて下さいね」

 

言われて会釈する。さっきから笑顔が眩しい。なにこの人、天使?それとも神?ダメだ…なんにせよ言葉が出ない。俺のコミュ症ってここまで深刻だったのか…。とりあえずシャワーを浴びよう。昨日入ってねぇんだ。

 

 

 

 

シャワーを浴びながら気を落ち着かせる。やっべぇよ、心臓が通常の三倍の速さで動いてやがる。ドルンドルンッ!ってうるせぇ。おい、マジで黙れ殺すぞ心臓。暴走族かお前は。あーダメだダメだ!落ち着けねぇ。とりあえず、もう出よう。シャワーが糞の役にも立たないのは分かった。

がチャッと風呂から出た瞬間だ。

 

「提督、バスタオルを…」

 

「」

 

バスタオルを持ってきてくれた翔鶴とバッタリ出会ってしまった……。多分俺の顔、今真っ赤。ぶっ倒れるかも。だが、当の翔鶴は顔色を一瞬だけ赤くした物の、すぐに平常時に戻し、

 

「バスタオル、ここに置いておくので早くして下さい。せっかくの朝ご飯が冷めちゃいますよ」

 

「あっはい」

 

しまったぁぁぁっ!!そうじゃん!翔鶴朝飯作ってくれてたのになにしてんだ俺はぁぁっ!!そのまま出て行ってしまう翔鶴。おい、なんだよ今日という日は。さっきからトラウマを工場みたいに無心に精製しやがって。逆ラッキースケベとか誰得だよ。神様とか馬鹿しかいねぇのかよ。責めて立場が逆なら……うん、逆でも馬鹿ですね。

 

 

 

 

 

 

私(翔鶴)はシャワー室を出た。その瞬間、ソファーにダイブして置いてあるクッションで頭を抱える。

いやぁぁぁぁぁぁっ‼︎‼︎‼︎‼︎て、ててて提督の…提督のアレを、いやぁぁぁぁぁっっ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎見られるならまだしも見てしまうなんて……。たぶん、今の私の顔真っ赤。瑞鶴とかには見せられないくらいとんでもない顔してるかもしれない。うぅ…まさか、こんな気まずいことになるなんて…どんな顔して話せばいいのよ提督と……。

……っと、とにかく。だからと言って取り乱すわけにはいかない。平常心平常心っと……。ソファーから離れて朝食の置いてあるちゃぶ台で提督を待った。

それから間も無く提督が出てくる。まだ顔を真っ赤にして

いる。少し可愛い。

 

「あ、あの…提督。朝食出来てますので…」

 

「あ、はい……」

 

お互い目を合わせられないまま座る。提督はとりあえず私の作った野菜炒めを食べてくれた。ていうか、冷蔵庫にもやしとキャベツしか入ってなかったので、野菜炒めにもなってなかったかもしれない。

 

「あ、あの…どうですか?」

 

「え?あ、あぁ…美味しいです…」

 

あの、あまりいつまでも顔を赤くしてないで下さいよ…こっちが恥ずかしくなってくるじゃないですか…。

 

「し、翔鶴さんも食うか?」

 

「え?いや私は……」

 

「いいから食べてみろって。もやしとキャベツだけなのに美味いから」

 

言いながら提督は箸を渡してくれる。ていうかこれで食べたら間接的なあれなんですが…。が、こっちの気も知らず提督はのほほんとした顔をする。なんで私だけ焦ってるんだろう…女子高生か私は。

 

「い、いただきます」

 

パクッと一口。うぅ…味なんて分かんないよぅ……。ていうか味見しながら作ったから味は分かってるんですけどね。

 

「た、確かに美味しいですね。もやしとキャベツだけにしては…」

 

「ほら見たことか」

 

「提督が作ったわけではないでしょう?」

 

「あ、す、すいません」

 

「冗談ですよ。さ、さっさと食べて仕事を始めましょう」

 

私はそう言って立ち上がった。なんか、前途多難な始まりになっちゃったなぁ……。

 

 

 


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