もし、俺が提督だったら   作:単品っすね

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解決

 

 

 

その夜、全員で食堂で食べることになった。加賀さんのために。俺も食堂に向かうのは初めてで、若干緊張している。ドギマギしながら食堂に入り、席に着く。

俺の隣に加賀さんが座る。

 

「あー!正規空母のおねーさんだ!」

 

「さっきは遊んでくれてありがとうなのです!」

 

駆逐艦の皐月と電が集まる。少しぽかんとした表情の加賀さん。が、すぐに笑顔を作り、「どういたしまして」と返した。すると、間宮さんからご飯が運ばれる。

 

「た、食べていいのですか?」

 

当たり前のことを聞かれた。目の前に飯を出されて食っちゃいけないとかなにその地味な拷問。

 

「ど、どうぞ…」

 

「いただきます」

 

で、一口かじる。その様子を皐月と電がキラキラした様子で眺める。

 

「どーお?間宮さんのご飯美味しいでしょ!」

 

「電も大好きなのです!」

 

だが、加賀さんからは言葉は発せられない。代わりに落ちてきたのは涙だった。

 

「ど、どうしたのです?」

 

「す、すいません…なんでもありません、から…」

 

泣きながら電の頭を撫でる加賀さん。

 

「こんなに暖かい料理、初めていただいたので…」

 

おい、マジでどんな扱いされてたんだ本来の鎮守府で。さすがの俺も同情するぞ。

 

「まぁ、その…この際だから好きなだけ愚痴っていいですよ。別にチクったりしませんから」

 

俺の口から自然とその言葉が出た。基本的に誰に対しても無関心な俺から。で、聞いた話によると、まず間宮さんがいない。全部、こう、カロリーメイト的な食事しかないらしい。また、どんなに疲弊しても休みなし、中破しても入渠なし、大破進撃、轟沈が当たり前みたいな世界らしい。

 

「………」

 

思わず黙り込んでしまった。

 

「だから、その…嬉しくて…こんなに明るい、鎮守府で」

 

これは、久々にイライラしてきましたよ。高三の時にクラスの女王的な奴がアナ雪の主題歌を熱唱してた時以来のイライラですね。

 

「そっか、正直に言ってくれていい。その鎮守府に戻りたくないか?」

 

聞くと、無言で頷いた。

 

「俺に任せな」

 

コミュ症には一つ、利点がある。人によるんだろうけど、なんでコミュニケーションが取れないか、それは向こうに嫌われたくないからだ。余計なことを言って嫌われるくらいなら、会話をしなければいい。だが、逆説的に考えてみろ。こっちが相手を嫌っているなら、なにを言おうとこっちにデメリットがない。見せてやるよ、コミュ症の口喧嘩を。

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日。

 

「いやーすまんね。私のところの貴重な戦力を保護してもらって」

 

にこにこおじさん笑顔で言ってくるのは大将くらいだったか?面倒だからマダオでいいか。

 

「いえ、むしろこんな立派な艦娘がうちの鎮守府に少しの間でもいたなんて、なんか、こう…優越感?的ななにかに浸れて嬉しかったですよ」

 

「ははは、おもしろい奴だな君も。そうだ、お礼と言ってはアレだが、なにか私の出来る範囲で望みを叶えてやろう。金でもいいぞ?100万円までなら」

 

その額に若干、心が揺らいだ。

 

「では、その…せっかくなので歴戦の提督の鎮守府を見学させてもらえないですか?」

 

「そんなことでいいのかね?」

 

「そんなことなんてとんでもない。自分の憧れの方の鎮守府に顔を出せるなんて一生ないと思ってましたから」

 

そりゃそうだ。俺はまず人に憧れなんて持たない。二次元は別。俺は上ヤンに超憧れてます。

 

「そうか。ではついてきたまえ」

 

ぶぉぉーっとなんかアホみたいにデカイボートに乗って鎮守府へ。

 

「ところであのガンダムはなんだね?」

 

「自分の趣味です。や、割と深海棲艦除けになるんですよ」

 

「マジでか」

 

これはマジ。なんて会話してるうちにその鎮守府へ。中を見るとまぁ早い話がボロボロだった。いや鎮守府がじゃなくて艦娘が。そして、それを見るマダオの目もボロボロだった。なんか、こう…犯罪者の目をしてた。

 

「では、今日は特別に我が艦隊の出撃を見せてやろう」

 

いや頼んでません。とは言ってはいけない。

 

「お願いします!」

 

で、さっきの加賀さんや他の連中が出撃する。まぁさすが大将というだけあってめちゃくちゃ強かった。だが、どんなに敵を落としても艦娘の顔が笑顔になることはなかった。

 

「やられました!艦載機発着艦困難です!」

 

白髪の正規空母がそう言った。だが、隣の提督は

 

「構わん、進撃しろ」

 

「マダ…大将!?」

 

「なにかね?」

 

「あのまま進撃させるんですか!?下手すれば…」

 

「轟沈、するね。なにか問題でも?」

 

「問題って……」

 

「君は分かっていないようだね。艦娘なんて所詮兵器だ。沈もうがなにしようが戦争に勝てればそれでいいんだ。もっと道具のように使いたまえ」

 

「………」

 

「君のところの艦娘は、少し元気過ぎやしないかね?」

 

「………」

 

まぁここまでは予想通りだ。だからこそ、俺はマダオのマイクを奪ってこう命令した。

 

「全員、撤退しろ」

 

「なっ!?」

 

それだけ言うと、マイクを壊した。で、マダオを睨む。

 

「わきゃっ…分かってねぇのはあんたの方だ」

 

「今、噛んだろ」

 

ほっとけ、気を取り直してやり直し。

 

「分かってねぇのはあんたの方だ。道具ってのは大事に使うもんでしょ」

 

「………なに?」

 

「あんたの考え方は、役に立たない者は殺して行くギルバード・デュランダル議長と同じだ!」

 

「ごめん、例えがよくわかんない」

 

「あ、あぁそう…」

 

生まれる沈黙。なんでかな…シリアスムードにしたいのに全然場が整わない。

 

「と、とにかく!あんたのやり方は間違ってる!」

 

「ならそれを証明してみろ。今度、君と演習をさせてもらう」

 

あーそれそれ。それこそ俺が一番やりたかったこと。

 

「私が負けたら、私の持つ艦娘をすべて君にやろう。君が負けたら」

 

「しっぺ」

 

「わーいノスタルジック。ってそうじゃない」

 

「じゃデコピン」

 

「お願いだから最後まで聞いて」

 

咳払いして言った。

 

「君の艦娘をこちらによこしたまえ」

 

「………いいですよ?」

 

それくらい予想は出来た。俺の答えにギョッとするマダオ。

 

「ハンデありなら」

 

ずっこけるマダオ。

 

「では帰りたまえ。ハッキリ言って顔も見たくない」

 

「死ねジジイ」

 

「お前が死ね」

 

てなわけで、さっそく帰ったら作戦会議である。と、言っても俺がまともに戦うわけがない。だって勝てないもん。まぁ任せたまえ。

 

 

 

 

 

 

 

 

で、その演習は結局俺の不戦勝で終わったんだよなぁ…。あ、今現在な。どうやって不戦勝で終わらせたかって?加賀さんがセクハラされてたっていうから憲兵に通報しただけだよ?おかげで初風だの舞風だの秋雲だの建造出来ない奴とか手に入れちゃったし。あと海外艦もいるよ。レーベとマックス。ビスマルクはいない。

 

「懐かしいなぁ…」

 

「干渉に浸ってる振りしてサボってないで仕事してください」

 

千歳にニッコリ言われて思わず押し黙る。ダメだったか…。

 

「提督」

 

「はい」

 

「仕事終わったら、一杯付き合ってください」

 

「や、俺酒飲めないって…」

 

「ですから、一杯だけ。二人で、ね?」

 

そう言われればOKと言わざるを得ない。

 

「わかったよ…」

 

 

 


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