「どこの部活の顧問になりたいか見学に行っといで。あと更衣室とかに監視カメラ仕掛けといて」
元帥校長のその命により、部活動見学へ。すげぇな。職員がどのクラブの顧問か決められるとか超ラッキーだわ。てなわけで、一番近かった美術部へ。ふぅ…やっぱ緊張するな…。
「あれ?なにしてんの先生?」
そんな声が聞こえたが、この学校には先生なんてたくさんいるし、俺のことじゃないだろ。
「先生?」
あー緊張するわ…なんて言って入ればいいんだ…。
「先生!」
「ひゃうっ!」
変な叫び声と共に振り返ると、茶髪の小さい子がいた。
「な、なに?俺のこと?」
これで違ったら転職しようと固く心に近いながら返事をすると、俺に話をかけているようだった。
「なんで無視すんのさ」
「俺のこと呼んでると思わなくてな。で、誰?」
「はぁ!?先生のクラスの秋雲だよ!なんで覚えてないの!?」
「え、覚えといた方がよかった?」
「いや教師としてどうなの…とにかく!私は秋雲だからね!」
まぁいいや。
「で、なんか用?」
「え?あー校長にどの部活の顧問やりたいか見回れって言われたからここに来た」
「美術部に興味あるのー!?」
「や、一番近かったから」
「あ、そう…」
キラキラした目を一発で腐らせる秋雲。なんだよ…。
「まぁ一応中だけ見せてくれ」
「はいはい、ほら入って」
中に入ると、シーン…と音がするほどシーンとしていた。あ、これ無理。一発で無理。
「あ、私着替えて来るから先生はここで待ってて」
お前は空気を読むスキルとかねぇのか。まぁここの部員だったら馴れてるんだろうけども。さて、とりあえず空気だけ分かったし、フェードアウトするか。秋雲が戻って来る前に。
とりあえずテキトーに歩いてると、武道館が見えた。そういえば中学時代に剣道やってたし中見てってもいいか。てなわけで武道館に足を踏み入れる。一階は柔道部。てことは上か…と、思ったら一階の奥にもう一つ部屋が見えた。気になったので、そこに行って見た。
「鎧袖一しょ」
ガララッ。
「なんだ、弓道場か」
てっきり面白い部があんのかと思ったけど期待外れだわ。姉上が弓道は耳取れるって言ってたし、さっさと退散しよう。
「提督先生?」
呼ばれて振り返ると、加賀先生が俺を睨み付けている。
「か、加賀先生?なんでここに…」
「それはこちらの台詞よ。顧問でもないあなたがなぜここにいるのかしら?」
やべぇよ…面倒な人だよ…。さっさと退散しねぇと…。
「や、あの…剣道場探してまして…校長に、アレ…顧問のアレでして…」
「あー!あなた!」
んだようるせぇな。人が説明してんのにしゃべんじゃねぇよと思って振り返ると、ツインテールの生徒。誰?
「あなた!今日の3年A組の授業に25分も遅れてきたでしょ!しかも『面倒だから自習で』とかよくわからないこと言って一人でログレスやってたし!」
「ちょっ!バカお前加賀先生の前でそんな…」
サクッと突き刺さる視線。加賀先生だ。うーわ…あの野郎…。
「瑞鶴?その話は本当かしら?」
「本当ですよ!ね?翔鶴姉!」
「え?そ、そうだったわね…」
「今日は自主練習とします。提督先生、ちょっとこっちへ来なさい」
「や、その…このあとちょっとアレでして…」
「はぁ?」
「ナンデモナイッス…」
弓道部の雑用で許してもらうことになったのだが、
「先生!早く次の矢とって来てよ!」
「先生!あの弓取って!」
「先生!喉乾いた〜」
おい、先生は奴隷じゃねぇぞ。特にあの瑞鶴とかいう奴が全力でこき使って来る。喉乾いたとか知らねぇっつの。
「では、今日はここまでとします。提督先生は私と矢の回収を手伝いなさい」
もはや頼まれるんじゃなくて命令ですねー。まぁ別にどうでもいいけど。
で、突き刺さってる的の矢を抜く。あぁ、面倒だ。しかもこれ、固くて中々…ぬ、け、ねぇ…。
「あ、矢まだ残ってた。うっちゃお」
「瑞鶴、前に人がいる時はうっちゃダメって…」
「大丈夫だって!私、そんな下手じゃないし」
で、ググッと矢を引く瑞鶴。おい、頼むから殺さないでよ?殺さないよね?と、思ったらその瑞鶴に生徒が後ろから当る。
「あら、ごめんなさい」
「わっ」
そのまま矢を放ってしまい、その矢の先には加賀先生。
「やっば!」
「加賀先生!」
叫ぶ二人を捨ておいて俺は加賀先生の前に手を伸ばす。ブシュッと音を立てて俺の手に突き刺さった。が、しっかり掴み、貫通はしたものの加賀先生には当たってない。
「うおっ!いってぇ…大丈夫ですか?」
全員、唖然とする。いや唖然とする前にこの矢どうにかしてくんない?
「……。って!先生大丈夫ですか!?」
翔鶴だっけ?白髪の子が急いで駆け寄って来る。おいおい、これが大丈夫に見えるのか?
「大丈夫じゃねぇよ。今泣きそうだわ。てか全然俺今落ち着いてないからね?これ、あまりの咄嗟のこと過ぎて内心核爆発よりやばいことに…」
「言ってる場合ですか!いいから保健室に…!」
「お、おう」
「待ちなさい」
落ち着いた声だが、その声には若干の焦りも感じた。
「翔鶴と瑞鳳は提督先生を保健室へ連れて行きなさい。瑞鶴は話があるので残りなさい。他は片付けをしなさい」
うわー…加賀先生の呼び出しとか死んでも嫌だわー。まぁ今回は瑞鶴が悪いしなぁ…。
「ほら先生行きますよ!」
そのまま保健室に連れて行かれた。
「いででででっ!痛いってば!ちょっとタンマ!もうちょっとゆっくり抜いて!」
保健室の扶桑先生に矢を抜いてもらっていた。てか痛いんだけど…。
「ほら我慢しなさい。初日から無茶して…」
「無理無理無理!ごめんなさい!分かった!300円あげるから許して!」
「いや怒ってませんけど…」
そんな俺と扶桑先生のやり取りを見て瑞鳳が呟いた。
「加賀先生守った時はすごくかっこ良かったのに…」
「うるせぇ!お前も刺さってみろ!ホントヤバイから!泣きそうになるから!ていうかちょっと泣いてね?やべっ…涙が…」
いや実際痛いもんは痛いのである。だって痛いしさ、ほら痛いじゃん?貫通だぜ?
「いってぇぇぇぇっ!!」
ようやく抜けた。その瞬間、血が噴水の如く吹き出る。
「ちょっ…やばくない!?」
「大丈夫なんですか!?」
「取れるぅっ!手が取れるぅっ!」
「あぁ、大丈夫そう…」
おい、それどういう意味だ。で、そのまま一時間くらいで応急処置終了。
「はいおしまい。次からは無茶しちゃダメよ?」
「うぃっす…」
コツン☆と、頭を小突かれる。すると、保健室に新たな客が来た。加賀先生と瑞鶴だ。
「失礼するわ」
まずは瑞鶴。涙目で前に出る。
「その、ごめんなさいでした。私の、せいで…」
「や、平気だから。全然痛くなかったし」
『嘘つけ』
いやそんな声揃えて言わなくてもいいじゃないですか…。
「とにかく気にしなくていいから」
「は、はい…」
すると、今度は加賀先生が前に出る。
「その、ありがとう。助けてくれて」
「え?や、反射的に動いてたっていうか…別にその、や、ぶっちゃけお礼とか言われたの久々過ぎてなんて返せばいいかわかんね」
「だから、その…あまりこれからはそういう無茶は控えてくれるかしら?」
や、そんな頬染めるほど恥ずかしいなら言わなきゃいいじゃないですか…。
「了解っす…」
「それで、その……」
「はい?」
気が付けば、加賀先生はドンドン顔が赤くなる。周りの面子はにやにやしていた。
「な、なんでもないわ!さよなら!」
その瞬間、周りは「チキンだなー」とでも言いたげな顔になる。なんなんだよ…。