もし、俺が提督だったら   作:単品っすね

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執務室。

 

「えっと、大井はあの辺の書類やってください」

 

「はい」

 

素直に聞いてくれる大井。なんか久々に普通の子が来てくれたな。そのまましばらく書類を片付けたり遠征出したり演習させたりしてしばらく経った。

 

「大井っち〜暇〜」

 

ガチャッと音がしてドアが開かれる。

 

「誰だ!」

 

「え、いや北上ですけど…」

 

「あ、あぁ。ごめん入って…」

 

若干、引き気味に入ってくる北上。

 

「どうしたの提督?尋常じゃないくらい怖い声だったんだけど」

 

「いや、なんでもない…」

 

「そうですよ。私が部屋に入った時もそんな声出して…」

 

「………」

 

「ま、私はなんでもいいんだけどね。でも提督になにかあったら私達が心配するんだから」

 

北上の台詞に大井はうんうんと頷いた。俺なんて軽く涙が出そうになったくらいだ。俺のことを今まで心配してくれた人なんて母親か姉上くらいのもんだ。俺が軍に入ることになった時、二人は心配してくれたもんだ。父親は嬉々としてやがったな…思い出したら腹立ってきた。あとで迷惑電話掛けてやろう。

 

「……まぁ、気にしないで」

 

それだけ言って仕事に戻る。二人は心配そうに俺を見るが、昨日のお化けの衝撃で夜も眠れませんなんて言えるわけが無い。いや怖くはなかったけどね?あ、しつこい?分かった。もう言わない。

 

「それより大井っちがいないから暇なんだよ〜」

 

それを聞いて超絶嬉しそうな顔をする大井。まぁそうだわな。普段から二人は一緒にいるし片方がいなくなると片方は暇になるのだろう。

 

「だったら鈴谷と一緒にいればいいじゃん。お前ら仲良いし」

 

そう言うと、キッ!と視線を感じた。大井が「余計なこと言うな」と、視線だけで圧迫死させるかもしれん眼力を向けて来る。あぁ、やっぱこの子怖いわ。

 

「でもずやっち最近、出撃多いじゃん?だから疲れてるのかと思うと気ぃ使っちゃうんだよねぇ〜」

 

なるほどな…結構優しいところあんだな。俺も普段から気を使ってるから誰とも話してない。最近は秘書艦制度のおかげでよく話すけど。

 

「ま、それなら仕事手伝ってくれ。北上はこの書類、大井は今やってる分、俺は現場監督だ。よし、では頑張りたまえ…」

 

「なに監督っていう響きのいい言葉で誤魔化してフェードアウトしようとしてるんですか?本来、私達は手伝ってる立場なんですから提督にたくさん働いてもらいますよ?なにより…」

 

そこで言葉を切って俺に耳打ちする。

 

「北上さんに仕事させたら殺す」

 

ビクッと肩が跳ね上がる。なにこいつ…暗殺者?だが北上は、

 

「暇だから手伝うくらいならいいよ。どれやればいいの?」

 

「本人の希望ならいいんじゃないか?」

 

「チッ。仕方ないですね」

 

そのまま三人で仕事開始。途中まで仕事を進めるが、さっきから大井が怖い。北上にいきなり抱き着いたり、俺が二人にコーヒー入れると、消毒とか言って北上のカップ舐めるし、北上がいなかった時の大井か嘘みたいだ。

だが途中で、

 

「すいません。お手洗いに行ってきますね。北上さんも行きましょ♪」

 

「私はここに来る前に行ったからいいよ〜ごめんね」

 

「そうですか。では失礼しますね」

 

大井が出て行った。瞬間、北上を担いで窓から木に飛び移って逃走した。

 

「ちょっ…提督!?恥ずかしいんだけど!」

 

「あとでなんか奢るから許してください!とりあえず逃げるぞ!」

 

「どうしたの急に!?」

 

「大井が怖いんです!」

 

そのまま走り、近くのスタバまで逃げ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせしました。仕事を再開…あら?提督?北上さんも?へぇ…私のいない間に北上さんとデートだなんて…殺す…」

 

そのまま執務室を出ようとしたが、

 

「あら大井。提督は?」

 

加賀が執務室の前に立っていた。

 

「逃げてしまいました。だから取り戻してきま…」

 

だが、そこから先は言えなかった。加賀が鬼の形相をしていたからだ。

 

「私が引きずり戻します。あなたは仕事をしていなさい」

 

「え、でも秘書艦として…」

 

「秘書艦ならここで少しでも書類を減らしなさい。それに私には艦載機があるのであなたより早く提督を探せます」

 

「は、はぁ。了解です」

 

そのまま加賀は外に出る。で、机の上には書類の山。大井はため息を着いて、言われるがまま書類を一枚一枚と減らして行った。

この時の嫉妬が、提督ではなく北上に向けられたものだと大井が気付くのは、もっと後の話である。

 

 

 

 

 

 

スタバ。北上にコーヒーを買ってあげて、しばらくぼんやりする。

 

「しかし提督も大胆なことするねぇ。鎮守府から脱走なんてさ」

 

「いや、実際これは仕方ない。普段のサボりはアレだけど今回は大井が怖過ぎる」

 

「ふぅーん。まぁなんでもいいけどねぇ」

 

慌てて出て来たから財布と携帯しかない。とりあえず時間が潰せそうな所を思い浮かべる。

 

「ゲーセン行くか…」

 

「お?ゲーセン?いいねぇ、痺れるねぇ」

 

「言っとくけど奢りとは言ってないならな」

 

「分かってるって。行くなら早く行こ?」

 

「はいはい…」

 

二人で店の出口に向かう。すると、「やばっ!出てきた!」「隠れろ!」なんて声がした。なに、ストーカー?でも声が幼過ぎるな…。とりあえず無視して歩く。後ろから「でも、尾行なんてしていいのかな…」「だって怪しいでしょ!?今日の秘書艦は大井さんのはずよ!」なんて声がする。あぁ、もう絶対知ってる連中だわ…。

 

「あれー?なにしてんのおチビ達」

 

いつの間にか北上が捉えていた。メンバーは暁型四人。いや、一人いないな。

 

「げげっ!見つかっちゃった!」

 

「だから言ったのです!少し近過ぎるって!」

 

「お前らなにしてんの…てかあの、なんだっけ?第四真祖みたいな名前の…暁はどうした?」

 

「暁ちゃんなら遠征で疲れて寝ちゃってるのです」

 

「やっぱ子供だな…てかお前らはなにしてんだよ」

 

「司令官をつけてたのさ、雷が秘書艦でもないのに二人きりは怪しいとか言ってね」

 

あぁそう…なにが怪しいんだよ。俺ってそんなに不審かな…。

 

「相変わらず駆逐艦はウザいなぁ…」

 

「あー、少し分かるわ」

 

「それで、司令官はどこに行くの!?」

 

「ゲーセン」

 

「だって!みんな行くわよ!」

 

「いや連れてくなんて言ってないけど」

 

だが、三人とも少年の目をしている。ダメだなこれは。

 

「北上、いいか?」

 

「仕方ないなぁ…」

 

そのままゲーセンへ行こうとした時だ。

 

「どこに行くつもりかしら?」

 

「ゲッ、加賀さん…」

 

「言い訳はある?」

 

「すいませんでした…」

 

 

 

 

 

 

 

あーあ、鎮守府に着いちゃったよ…with北上の時の大井は怖いから嫌なのになぁ…こうなったら腹括るしかないかぁ…。

 

「じゃ、行くか北上」

 

「そだね〜」

 

「待ちなさい」

 

言われて二人で振り返る。

 

「提督の方よ。このままじゃ、あなたいつまでたっても謝るだけでサボりをやめようとしないと思うわ」

 

おぉう…バレてる……。

 

「だから、罰を与えます。こっちに来なさい。北上は悪いけど大井のやってる書類を片付けてもらえるかしら?」

 

「はーい。じゃあ提督頑張ってねぇ〜」

 

北上は執務室に向かう。あーあ…とうとうこうなったか、高校の教師かこいつは。俺はなにさせられるんだろう…。

 

「こっちへ来なさい」

 

言われて慌てて追い掛けた。

 

 

 


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