アレから数時間後。加賀さんは戻って来ていて、俺の横で本を読んでる。俺は俺で榛名に持ってきてもらった漫画を読む。途中で、ちょくちょくお見舞いに来る子や、アダ名を聞きに来る子がいたが、すでに来なくなり、しばらく加賀さんと二人っきりだが電車の中みたいな空気だ。つまり、医務室に二人っきりになろうが、ラブコメイベントなんて起こらない。まぁ期待なんてしてないけど。
すると、加賀さんが本を閉じた。
「そろそろお昼にしましょうか」
「お、おー」
こいつ、さっきからちょくちょく食ってなかったか?と、思いつつも黙ってる。余計なことは言わない方がいいと、鈴谷と北上の件で学んだ。ちなみに大井のあだ名はヘビーアームズ改。いい加減にしろ。
「じゃ、取って来るわね」
そう言いながら加賀さんが部屋を出ようとした時だ。
「提督ー、お昼持って来ました」
「あら、鳳翔さん」
にこっと笑う鳳翔さん。あぁ…この人はべっぴんさんや…。
「あ、すいません…」
「大丈夫ですよ。提督も早く治して下さいね」
「……はい」
あぁ…実は鳳翔さんって全艦娘…いや全生物の母なのではないのだろうか…。この人の笑顔を見るだけで「今日も一日頑張るゾ☆(横ピース)」と、思える。
「いだだだっ!なんれ頬を引っふぁるんですか!加賀ふぁん!」
「別に」
手を離してぷいっと拗ねたようにそっぽを向く加賀さん。なんだよ…俺がなにしたってんだよ…。
「ふふ、提督。あーんしてください」
「へ?ほ、鳳翔さん?」
「その腕じゃ食べられないでしょう?」
「は、はぁ…あーん……」
うわなにこれ超恥ずかしい……。ちょっと加賀さんそんな目でみないで下さいよ…。が、そんなの気にした様子もなく鳳翔さんは言う。
「どうですか?」
「え、えぇ…美味しいです。でもこういうのって夫にやってあげた方がいいんじゃないんすか?」
「は?」
「え?や、すでに結婚してるんじゃ…」
「あの…私も艦娘なんですが……」
「え?艦娘って結婚できないんですか?」
「……………」
で、頭引っ叩かれて出て行かれてしまった。
「今のは提督が悪いです」
「わ、悪気はなかったんです…」
「そんなこと私に言われても困ります」
なんか今日一日で敵をたくさん作ってしまった…。ホントにコミュニケーションを取ると碌なことがねぇんだ。
「そのお昼は自分で食べてくださいね」
「へ?お、おう?」
そのまま加賀さんも出てってしまう。まぁ一人には馴れてるしいっか。と、思ったらまたガチャッとドアが開かれる。
「提督ー?」
「えーっと…瑞鳳か」
「ちゃんと大人しくしてた?」
「あ、あぁ…たった今鈴谷、北上、鳳翔さんに嫌われたとこだ」
「……なにしたの?」
大体の話をした。
「それは提督が悪いよ…」
「でもさ、俺今まで喧嘩したことないから謝り方分かんないんだよね…や、しょっ中加賀さんに謝ってるけど今回とは違うじゃん?」
「へ?私に相談してくれるの?」
「や、迷惑ならいいですけど…」
「い、嫌じゃない嫌じゃない!むしろ嬉しい!」
なぜか全力で首を振って否定する瑞鳳。
「相談されて嬉しいってどういうことだよ…」
「い、いいから!それで、提督はどうしたいの?」
「や、向こうが仲直りしてもいいっていうならそりゃしたいけど、鈴谷と北上には二度と話掛けるなって言われちまってるからなぁ…無理に仲直りしたいとは思わないかなぁ、向こうに迷惑だし」
そう言うと、瑞鳳は深く深く、マリアナ海溝より深くため息を付いた。で、両手を広げて「呆れて物が言えない」のポーズ。おい、結構腹立つぞその態度。
「あのねぇ、ここにいる艦娘は提督と縁を切りたいなんて思ってる子はいないよ?」
「なにを根拠にそんなことを…瑞鶴には爆撃されるし、あのサイドポニーの駆逐艦…なんつったっけ?あいつには毎回罵倒されるし…」
「それ照れ隠しだから。気にしちゃダメだよ。とにかく、仲直りしたいなら謝って!」
「や、ベッドから動けない…てか動きたくないから謝りに行けないし」
「それ面倒臭いだけなんじゃないの?」
「や、そんなことないです…多分」
「………」←ジト目
「分かったよ…復帰したらでいいか?」
「はいはい、それでお昼はもう食べたの?もし食べてないなら…」
「今食ってるとこだ。だけど利き手がこの通りで無理」
「あーなるほど…あ、じ、じゃあさ…」
急にモジモジする瑞鳳。なんだよ…トイレか?と、思ったらなぜか昼飯に手を伸ばす瑞鳳。
「あ、あーん…」
なにそれ流行ってんの?
「あ、あの…恥ずかしいならやらなくていいよ」
「い、いいから!早く!」
「お、おう…」
パクッと一口。なんか、こう…味なんてわかんねぇよ…。
「ど、どう?」
「や、お前が作ったわけじゃねぇだろ」
「そ、そこは素直に感想を言えばいいの!」
フンガー!っと怒られ、とりあえず「美味い」とだけ言っておく。すると、満足そうに頷いた。
「さて、じゃあ私戻るね。昨日、夕張に一晩中アニメDVDの片付けさせられてて寝てないんだよね…」
「え、全部食ってないんだけど」
「全部私に食べさせる気だったの?」
「なに、違うの?」
「……て、提督がそうして欲しいなら…いいけど」
「や、眠いなら寝た方がいいんじゃねぇの?」
「いいから!やったげる!」
結局、全部食べ終わるまで食わされてしまった。その後、なぜか瑞鳳は医務室に残った。「加賀さんの代わりにここにいてあげるから」とかいうよくわからん理由で。まぁ別に困らないからいいんだけどよ。
「ちなみに、提督もアニメ好きなの?」
「え?あぁ、まぁ特に初期、逆シャア、ユニコーン、OOがオススメだな」
「いや全然聞いてないんだけど…ていうか全部ガンダムじゃん…」
「悪かったな…」
今のワードでガンダムとわかった君も大概ですけどね。
「あーやっぱ無理…私、眠いわ…」
「じゃあ、さっさと戻れよ」
「むっ、なんかその言い草ムカつく。戻ったら負けみたいに思っちゃう」
「なにその働いたら負け精神」
むー…っと唸りながらも考える瑞鳳。すると、なにかを閃いたように手を打つと、何故か恥ずかしそうに顔を赤くする。なんだよ…表情は読み取りやすいのになに考えてるかまったく分からん。
「あの…提督?」
「んー?」
「布団に、入れてもらえない?」
「」
なにいってんのこいつ。頭いってんの?
「や、なんでだよ」
「ほ、ほら…出て行くのは負けた気分になるし、でも眠いし…だったらこの部屋で寝るしかないじゃん?」
「いやお前の勝ち負けとかどうでもいいよ」
「いいから入れて!」
……面倒だな。まぁ別にもう誰も来ないだろうしいっか。
「いいよ来ても」
「………へ?」
「別に眠いんだったらすぐに寝るんだろうし、俺も寝ようと思ってたからいいよ」
「そ、そう…」
おい、自分で言って恥ずかしがんな。こっちも恥ずかしくなるだろうが。
「お、お邪魔します…」
か細い声でふるふるとベッドに入ってくる瑞鳳。あーやべっ、こいつが眠い眠い言うから俺も眠くなってきた。いーや寝ちゃおう。
うー…まさかホントに入れてくれるなんて…。提督ったらなに考えてるのよぅ…。かなり恥ずかしいんだけど。大体誰かが入ってきたらどうしようとか思わないわけ?恥ずかしくて提督の方向けないよ…。てか提督は今どんなこと思って…、
「zzz……」
早っ!私より先に寝てる!?な、なんか腹立つ…まるで私に魅力が無いみたいじゃない…そもそもそんな簡単に寝れるわけないもんね。ちょっと試してみよう。
私は提督の折れてないフリーの方の腕に抱き着いてみた。へへぇんだ、どう?と、思った矢先、提督が寝返りをうって私に覆い被さった。
えええええええええっっ!?なっなな、なっなにこれ!?こんな漫画みたいなこと…しかも骨折してるのにお構いなし!?
「っ痛ぅっ…撃たれた右手が…(寝言)」
寝言!?夢の中では撃たれたことになってるのその右手!?なにと戦ってるの!?
「あ、曙が……」
曙?曙ちゃんの夢見てるの?
「ファンタのCMに…」
そっちかよ!本人聞いたら泣いちゃうからやめなさい!
「ゆ、夕張ぃ……」
今度は夕張?なんの夢だろ…。
「……市ってなんで倒産したんだっけ?」
知らねぇよ!てかなんの夢見てんのよマジで!そしてなんで私の名前は出てこないの!?やっぱ、私はそこまで好かれてるわけじゃないのかなぁ…。
「ず、ずい…」
キタっ!
「…ずいずっころばし…」
「死ね!」
「いったっ!」
しまった!つい殴っちゃった!
「なにすんだよ…」
「う、うるさい!あんたはなんの夢見てたのよ!」
「なにって…サッカーだけど…」
「サッカー!?あの寝言でサッカー!?」
「え、寝言言ってたの俺…」
「ったく…ひ、人のこと抱き枕にしといてよく言えるわね…」
「あぁ、悪い離れるわ」
「ま、待って!」
あれ?なんで止めてるの私。
「も、もう少しだけ…抱いてて……」
「はぁ?お前なに言って…」
その時、ガララっとドアの開く音がした。
「提督、北上と鈴谷と鳳翔さんが話あるみたいですけど…」
「「あっ」」
あ、これ詰んだわ……。