悟空に憧れ、悟空のようになりたいウパは父のボラに修行を付けてもらっていた。昨日聖地カリンに来たおかしな姉妹、いや親子が来ても日課になりつつある鍛錬は続けている。
あと少し鍛錬をして、それから食材を調達することにする。いつもより早く鍛錬が終わってしまうが仕方ない。昨日はチチが持ってきた料理を食べたが、食い扶持が増えこれからのことを考えるならば少し多く食材を用意しなければならない。カリン塔を登って行ったカノンがいつ戻ってくるか分からないからだ。
「父上、カノンさんはいつ戻ってくるでしょうか?」
「さて。孫悟空が3日で仙人様の修行を終えたと聞くが、流石にあの娘がそんなに早く戻ってくるなど無理だろう。数か月になるかそれとも数年になるか」
カリン塔の上を見ながら心配する二人。その時、上空からバアン、バアンという音が響き渡りそのあと、ボラとウパに突風が叩き付けられる。その突風は二人を弾き飛ばし、住処にしている天幕を飛ばし周囲の木をしならせる。
ウパを抱え、木にしがみついたボラは上空を見た。そこにいたのは落下してくるカノンだ。しかしその落下速度は音が鳴り、突風が起こるたびに遅くなっている。カノンは気を空気に叩きつけ徐々に減速させているのだ。ある程度、地上に近づいたカノンは一回転し地面に降りる。
そして、突風がなくなり体が地に付き倒れこんでいるボラとウパ、木に叩きつけられ無残なことになっている天幕を見回しさっと顔が蒼くなる。
「も、申し訳ありません!!私ったら調子に乗ってしまって」
カノンは修行が上手くいったことと、3年後に悟空と戦えることが分かりテンションが上がりまくっていたのだ。そして、世話になっているのだからと衣服を近くの小川で洗っていたチチが異変を感じカノンたちの元に走ってきた。
「なんだあ。この惨状は、台風でも来たのけ。あれ、カノンちゃん!!帰ってきてたのか!!」
「あ、母様」
カノンはチチに事情を話し一緒に謝りながら吹き飛んだ天幕を直す。
「ほんとにすまねえだ。世話になっておきながらこっただことに。勿論、なくしてしまったものは弁償するだ」
しゅんとなりながら天幕とともに吹き飛んだ日用品を拾っているカノン。それを見て流石に可哀そうになったボラは、話題を変えることにした。
「いや、いいんだ。それよりカノンといったな。残念だったな」
「えっ。何がでしょう?」
ボラはカリン塔を指さし
「登りきれなかったのだろう。だが、無理をすることはない。また、力をつけて挑戦すればいい」
私も昔そうだったといいながらうんうん頷いているボラ。それをきょとんとした顔で見ていたカノンはボラの言葉を訂正する。
「あの、私、頂上まで行きましたよ。そしてカリン様に修行を付けていただきました」
「え?」
カノンがカリン塔を登ってまだ1日もたっていない、そんな短時間でカリン塔を登り仙人様に修行を付けてもらい、カリン塔を降りてくる。そんなこと有り得ない。
「う、うそでしょ?悟空さんでも3日かかったのに」
「そう言われましても」
信じられないウパに対して、カノンには証明する証拠がない為そこは納得してもらうしかない。
「いや、カノンが嘘をつく意味はない。と言うことは本当に修行を付けてもらってきたのだろう」
結局のところ本当のことだろうが、嘘のことだろうが他人には関係ないことだ。自分の力になったかどうかなのだから。
「カノンちゃんそれで、強くなっただか?」
そもそもカノンのことを疑っていないチチは、ここに来た目的が上手くいったか聞く。
「はい!母様!!強くなりました!!それにこれからもっと、もっと強くなる為のヒントも貰いました!!」
心底満足している顔のカノンにチチは嬉しくなる。
「そったら、悟空さと会えるだな」
嬉しそうに言うチチにカノンは説明する。悟空は今、天界の神様の下で修行を受けており次の天下一武道会までは会えない。
「すいません、母様」
「なして、カノンちゃんが謝るだ。そっか悟空さは神様に修行を付けてもらってるだか。さっすが、おらが惚れた男だ」
神に修行を付けてもらっていることには全く言及してこないチチ。
「?あの今、悟空さんの話をしていましたがあなた達は悟空さんの知り合いだったのですか?」
ウパは悟空の話題が出てきて、気になりチチとカノンの話に割り込んでくる。チチはカノンの肩を後ろから手で添え、誇らしげに言う。
「この子はおらと悟空さの娘、孫カノンだ」
『?・・・・・・・・・・・・ええええええええええ!?』
初め全く理解できていなかったボラとウパはその言葉の意味が理解できた時、驚き目が飛び出る。
『嘘だーーーー!!』
さっきは、カリン塔に登ったことを信じたボラさえ信じなかった。それにムッとしたカノン。今度は明確な証拠がある。帯を外し、その中の尻尾をフリフリ動かしながらどうだと言わんばかりに二人に見せる。
「どうです。これなら信じてもらえますか」
尻尾を見てまたもや目が飛び出し、口をあんぐりと開ける。
「さて、じゃあそろそろ帰るべ。おっとうも心配してるだろうしな。あ!!もし悟空さがここに来たら一応このことは、黙っててくんろ」
まだ固まっている二人はコクコク頷く。確かに牛魔王は心配しているだろう少しでも早く帰らねばと思いカノンも頷くのだった。
そしてまだ驚いている二人に頭を下げ、礼を言う。
「ボラさん、ウパちゃん。世話になっただな、このお礼は後日させてもらうだ」
「母様がお世話になりました。どうか息災で」
二人は近くで待機しているだろう運転手のところに歩きだし、ボラとウパの方に何度も頭を下げ遠ざかって行った。二人が見えなくなりようやく動き出す二人。
「さ、流石、孫悟空だな」
「う、うん。流石、悟空さんだ」
チチとカノンが去って行った方をずっと見つめる二人なのであった。
数日ぶりに帰ってきたフライパン山。牛魔王や村人全員に出迎えられ、何故か城でカノンが帰ってきた記念の大宴会に突入する。翌朝、昨日の宴会ではしゃぎ疲れたみんなは、寝こけて起きだしてくるものはいなかった。その城を抜け出し近くの森に行くカノン。
「天下一武道会は3年後、それまでにもっと!!もっと強くなる!!」
カノンは前世や亀仙流で習った基本的な修行を中心に鍛錬する。カリン塔で覚えた気の感覚が基礎的な訓練でもより強く、鋭敏にしていく。確実に依然やっていた時より何倍も効率が良くなっている。そしてそれに合わせて、気のコントロールを操作しまだまだ不慣れな気功波の練習をし、研究していく。
果たしてこれらの修行が悟空に通用するのかどうか、ワクワクしながら修行を続けていくカノン。そして瞬く間に3年が過ぎていった。
第23回天下一武道会前日の出場選手受付日は、生憎の雨模様だった。しかしそれにも関わらず受付前には出場選手を一目見ようとたくさんの人でにぎわっていた。
そしてカノンもチチと一緒に会場前に来ていた。
「ほら、カノンちゃん。もっと近くによるだ、雨に濡れて風邪を引いたら大変だからな」
タクシーから出たチチは、カノンの体を自分の方に近づけ傘を広げる。
「ふあー。ここが武道会会場ですか」
チチの腰を掴みながらあたりを見回す。フライパン山以外カリン塔に行っただけのカノンはここに来るまでもきょろきょろしていたが、武道会場にも興味津々だった。何せ前世の町と全然違う。
「ふふっ、楽しいだかカノンちゃん。そういえば3年前に遊園地に行こうって行ってたのに結局、行けなかっただな。この大会が終わったらおらとおっとう、悟空さと一緒に行くべ」
「はい!母様!!でも残念ですね。お爺様、急なお仕事が入っていけなくなるなんて」
「それは仕方ないべ。おっとうも村のみんなの為に遊んでいる訳にもいかねえからなあ。それにおっとうが来たら一発で悟空さにばれてしまうだ」
あの巨体だ。確かにばれてしまうかもしれない。おらも気を付けないととカノンと手をつなぎ大勢の参加選手が並んでいる最後尾に向かう。美しく成長したチチとカノンが並ぶ姿は3年前と違い、若い母親と子供という風に見える。その親子が手をつなぎ、ニコニコ笑いながらしゃべっている。
完全に場違いだ。何人かがここは参加選手の受付だからと言うがここで間違いないと言う。そして、カノンの番になる。
「えっと、それではお名前をどうぞ」
チチの方を見ながら受付担当をしている者が言うが、その隣のカノンが答える。
「カノンです」
「いや、お嬢ちゃんの名前じゃなくてだね」
「え!でも参加する人が直接受付しないといけないんですよね」
受付担当者はチチの方が参加すると思ったようだ。しかしそれは当然で、普通こんな小さい子が参加するとは思わないだろう。ポケッとしている受付担当者と後ろに並んでいる試合に参加する屈強な男たちの様子に不安になるカノン。
「あ、あのもしかして年齢制限とかあるんですか?」
「あ、いや、そんなことはないんだがね。本当に参加するの?」
「そういってるべ。早く受付してけれ」
中々終わってくれない受付に横にいたチチはイライラしながら急かす。雨の中ずっと待っていたのだ、早くホテルに行ってカノンの体を温めないといけない。
「わ、わかりました。えっとカノンと。」
やっと終わった受付と同時に雨が止んでいく。
「なんだ、今頃雨が止むなんて。さっ、カノンちゃん寒かったべ、ホテル行って風呂に入って、たらふくご飯を食べて明日に備えるだ」
「・・・・・・・」
「カノンちゃん?」
「あ、そうですね。今日は明日に備えて早く寝ないといけませんね」
チチと連れ立ってホテルに向かっていくカノン。そしてカノンは感じていた、自分の近くにいた大きい気を。これが悟空だということを。
しかもそれだけではない、悟空と同じくらいの気の持ち主、そしてその気に似た気、遠くてよくわからないがここに近づいてくる多数の気の持ち主。カノンの体が震える。
「カノンちゃん。大丈夫だか?早くホテルさ行かねばな」
カノンが震えているのが寒さのせいだと思ったチチはカノンの手を引っ張りやや早足になる。しかし違う、カノンの震えは武者震い。その証拠に口元が笑っている。
(父様のほかにも、こんなに強い人がいる!!なんて楽しい世界なんだ!!!)
この世界に転生したことを心底幸運だと思いながら。
ようやく原作に絡めていけます。