魔法少女まどか☆マギカ ~ミサトとユウコはマドカの敵~ 作:Mr.モノクマ
現在時刻:16時19分
マミのリボンで縛られているほむらの目の前に、ナイトメアが立っていた。
動きが取れないのでこのままではどうすることもできない。
「ま、教えてあげる前にちょっとお話ししましょうか」
「ふざけないで。今そんなことしている場合じゃ」
縛られている状態のほむらの肩をポンとたたくミサト。
「そんなんだから誰も“信用”してくれないんだぞ」
信用という言葉にほむらは目を大きくした。
その些細な違いにミサトも気づく。
「何かあったみたいね。ま、信用されないのも無理ないよね」
「どうして?あなたになにがわかるの」
「そんなの普段の行動からして無理ないよ」
やれやれと首を横に振る。
「いつも何を考えているかわからず、危険極まりないお前が急に、私が狩るとかいってもねぇ」
「いくら私達でも信用できませんよ」
ユウコが考える人のポーズを立ったままやって考えた末にたどり着いた答え。
それは今までのほむらの常識を覆すものだった。
「そうだ、こうしたらいいんじゃありませんか?」
~ユウコの考えたほむらの最善の案~
『ねえ、この先の魔女は私が狩るからあなた達は帰って』
『そんなこと聞き入れると思ってるの?』
『も、もちろんあなた達の安全は保障するわ』
『そんなこと・・・信用すると思って?』
するとほむらの肩がすとんと落ちる。
『グスッ・・・私はあなた達を助けたいだけなのに・・・助けたいだけなのに』
2回言った。
ほむらの目からは小粒の涙が流れ始める。
『あ、暁美さん。そんな泣かなくても』
『ふえ~ん!!なんで信じてくれないの~!!』
ついに泣き出してしまったほむら。
『泣いちゃった』
『ごめんなさい、わかったわ。あなたを信じる』
『でもこの前酷いことを』
『そんなの気にしてないわ』
『ありがとう巴さん。嬉しい』
マミがやさしくほむらを抱きかかえる。
『マミさんって呼んでいいのよ』
『マミさ~ん、エ~ン!!これからもがんばろうねっ』
『ええ一緒にがんばりましょう』
マミの胸の中で大泣きするほむらと、それを優しく見つめるまどか。
三人は仲良くケーキを食べたのでありました。
「めでたし、めでたしですね」
パチパチと拍手をするユウコであったが他の三人は意外と冷めた顔をしている。
「あれっ?意外と不評」
「いや、不評以前の問題だと思うぞ」
「ああすれば無事に解決できると思いますよ、ねえ暁美さん」
「あなたって意外と抜けてるのね」
「抜けっ・・・!私がですか?」
「そんな都合のいい展開があるわけないじゃない」
「それは私もそう思うぞ。第一美樹さやかはどうした?」
忘れていた。
三人の友情物語に歯止めがきかず、美樹さやかのことはすっかり忘れていた。
「まあ、それそうとして」
「ともかく私は巴マミと仲良くする気はない」
ほむらはマミと和解する気はなさそうであった。
なぜそこまでしてマミに敵対心を燃やしているのかはわからない。
「あなたと巴さんとの間に何があったんですか?」
「・・・・・・・・・・・・」
それには答えようとしない。
「ではお話いたしましょう。ナイトメアこの町に来て最初の作戦を」
手からフッと一丁の銃が現れた。
ワルサーP38に構造が少しだけ似ているような。
「それは?」
「光線銃ですよ」
「光線銃?」
「ええ、でもただの光線銃ではありませんよ」
実際光線銃など、どこにでもあるような代物ではないが。
「それはいったい何」
「簡単に言うと使い魔を魔女に早急に成長させる銃器だよ」
ほむらの表情が険しくなる。
「名付けて“使い魔成長光線銃”なの!」
ビシッとかっこよく決めたつもりのキューピだったが、反応はいまいち鈍かった。
理由として簡単だった。
「ネーミングセンスがドラえもんみたいだぞ」
ミサトが言った的確な一言にキューピはショックで泣きそうな顔をしている。
「ナノがせっかく考えたのに・・・」
「ま、まあかっこよくていいんじゃないか?」
「そうなの!ありがとうなの!」
落ち込むのが早いのと同時にそこから元気になるのも早い。
「つまり、これを使えば使い魔を予定より早く魔女にすることが可能というわけです」
「なんてことを・・・」
「でも問題が一つ。この光線で成長させた魔女は本来の10分の1の量のグリーフシードしか持っていないんですよ」
そのデメリットがあるせいかこの光線銃は1年近く使用していなかった。
「そこまでして光線銃を使ったのには、ここの魔女を成長させなければならないからです」
「ここまで言えば暁美ほむら、おまえにもわかるよな?」
「巴マミ」
「その通り!アタシたちはここの魔女の特性を知っている」
「つまり真の目的はこの魔女と相反する巴マミの弱点を証明するためなの!」
作戦の全貌を知ったほむらだが今はなにもできない。
こいつらを止めることも、巴マミに伝えることも。
「ま、ここで一つの絶望が生まれることをかみしめるんだな」
ナイトメアは結界の奥へと進んでいった。
現在時刻:16時25分
魔女結界の奥にある小さな扉を開けるマミとまどか。
ここを過ぎればあと少しで魔女のいるところにたどり着く。
「あの、マミさん?」
「なあに?」
「魔法少女体験コースを通じていろいろ考えたんですけど」
「願い事でしょ。難しいものね」
「その願い事だってもしかしたら考えが甘いって言われちゃうかも」
「どんな願い事にするつもり?」
まどかの足が止まる。
後ろを振り向いたマミの顔をじっと見つめる。
「私、私はマミさんに憧れてるんです、だから魔法少女になって・・・それで・・・」
元々自分はこれといって得意な科目もないうえに、なんの取り柄もなかった。
そこでマミと出会って、誰かのために戦っているところを見せてもらった。
マミは自分自身になんの取り柄も無いというコンプレックスを抱いていたことは知っていた。
自分に憧れを抱いていたことは初耳だった。
それを聞いて、ちょっとばかり顔を下に向けた。
「誰かのために戦うってとっても素敵なことだなって」
キュゥべえに同じことが私にもできるかもしれないと言われたのは本当にうれしかった。
「あの、マミさん?」
どこか悲しげな表情でうつむいたマミの顔をまどかが覗く。
「私なんて憧れるほどのものじゃないわよ」
照れでもなんでもない、ある意味、自虐とも取れるような発言だった。
「怪我もするし、恋したり遊んだりする時間も無くなっちゃう」
「それでもがんばっているマミさんは本当にカッコいいですよ」
「無理してカッコつけてるだけで…怖くても辛くても、誰にも相談できないし、一人ぼっちで泣いてばかり。いいものじゃないわよ。魔法少女なんて」
2006年の時のあの事故の時以来、マミはずっと孤独であった。
たまにあの時死ねばよかったと思うときもあった。
「誰かのためになっているマミさんみたいに」
「魔法少女は人の目につかない、誰にも感謝なんかされないの」
「でもこんな自分でも誰かの役に立てるんだって胸を張っていけていければ」
「それがあなたの願いなわけね」
魔女と戦うという非現実的な世界に放り込まれ、誰か親しい人に相談できないまま孤独と寂しさ。
今となってはあの願い事が本当に正しかったのかはわからない。
「私は独りぼっち・・・」
「マミさんは独りぼっちなんかじゃありません」
まどかの強い言葉がマミの小さく閉ざされた心に一筋の光を与えた。
「そうなの?そうなのね」
ギュッとまどかの手をつかむ。
マミの瞳の奥底が熱くなるのを感じられた。
「本当に、これから私と一緒に戦ってくれるの?そばにいてくれるの?」
「はい、私なんかでよかったら」
その言葉に、目から額に涙が流れ落ちる。
先輩の貫録を持っていなければいけないのに、恥ずかしい所を見せてしまった。
「でもせっかくなんだし願い事は何か考えておかないとね」
「そうですよね」
契約はあくまで夢をかなえるためのついで程度、いっそのこと自由にかなえたほうがいい。
億万長者とか不老不死とか、素敵な恋人とか、いろいろある。
「じゃあこうしましょ。この魔女を倒すまでに願い事が決まらなかったら、キュゥべえにお菓子とケーキを頼みましょう」
「ケーキですか?」
「最高に大きくて贅沢なお祝いのケーキ」
これはマミとまどかの魔法少女コンビ結成記念だ。
またさやかが忘れられているのは言わないことで。
「私ってケーキで魔法少女になっちゃうの?」
先程の哀しい表情なんて微塵も感じられないくらいの満面の笑みを浮かべてマミは頷いた。
まどかもちょっと見ないうちに大人になった。
『マミ!まどか!グリーフシードが動き始めたよ!早くっ!』
和やかな雰囲気の中でキュゥべえのテレパシーが入る。
マミの表情が真剣になってすぐそこの扉に走ってゆく。
「今日という今日は速攻に片づけるわよ」
光に包まれると、マミの身につけている服装が変わっていた。
魔法少女に変身したのである。
「開けるわよ」
扉の先には広大なお菓子の世界が広がっている。
使い魔たちが待ち受けるフロアの下部に着地する。
マミの周りにいくつかの銀と黒の装飾がなされた古風な雰囲気を醸し出すマスケット銃が出現し、床に刺さる。
(体が軽い。こんな幸せな気持ちで戦うなんて始めて)
アクション映画さながらの光景に、思わずまどかは息を呑んで見守る。
(もう何も恐くない…!私、一人ぼっちじゃないもの!)
煙がお菓子のフロアを覆うと目の前にはさやかとキュゥべえがドーナツの陰に隠れていた。
奥にはやけに脚が長いテーブルとイスがある。
「おまたせ」
「間に合ってよかった」
キュゥべえがみんなの前に現れる。
「気を付けて、出てくるよ!」
巨大なお菓子の箱から液体が漏れると同時に内側から小さな物体が出現した。
~お菓子の魔女 シャルロッテ(Charlotte)~
ファンシーな人形のような可愛らしい姿をした魔女。
ぬいぐるみのようにも見えるその姿は、魔女であると言われても即座に納得できるものではないかもしれない。
むしろ、可愛いと言われた方が納得できてしまう姿。
「せっかくのとこ悪いけど、一気に決めさせてもらうわよ」
銃を連射するがシャルロッテは不思議と動かない。
「ティロ・フィナーレ!」
大きなマスケット銃とともにリボンがシャルロッテの体を貫通して縛り上げる。
「やった!これで勝てる」
さやかが歓喜の声を上げた。
だが三人は知らなかった。
ナイトメアがなぜこの魔女を選んだのか、なぜ巴マミなのか。
「???」
そして糸がぎゅっと魔女の胴体を絞めつけると、魔女の頬が膨れ上がる。
その瞬間、口の中からピエロの顔を持つ巨大な芋虫のような身体が出てきた。
「あれは!?」
大きな牙の生えた口がマミの目の前に広がる。
巨大な本体にマミだけでなく、全員が不意を突かれてその場に凍りつくように固まってしまう。
(えっ?私このまま死ぬの?せっかく後輩にいいところ見せられると思ったのに・・・)
「マミさ~~~~~~~~~~~~~~~ん!!」
結界に悲鳴が響き渡る。
現在時刻:16時31分