フリーターと写本の仲間たちのリリックな日々   作:スピーク

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※今回の話、理がとても愉しそうです。(意訳:残酷な描写やグロテスクな表現が含まれます)


19 後編

 

 

同じ鈴木家に住まう者として一応弁解というかフォローしておきますが、ザフィーラもザフィーラできちんと主の為の力をつけました。

 

とは言っても、主の矛はすでに十分に足りています。というか過剰な程です。それはザフィーラもよく分かっており、だから彼は盾として力になる事を決めたのです。

 

盾。つまりは防御。

 

どんな者にも貫かれなく、砕かれない。高収束・高展開・高密度のシールド。そして危機察知能力や索敵能力による奇襲への備え。

 

ザフィーラはそれを、それだけを磨き上げました。己が牙を捨てても、主の盾となる事を心に決めたのです。その甲斐あってか、今のザフィーラの防御力は我らの中でダントツ。彼の周囲数メートルは不可侵エリアと捉えても可笑しくない堅牢さを誇ります。おそらくヴィータや夜天の一撃を以ってしてもそう容易く破れる事はないでしょう。彼が主の隣にいる限り、世界のどんな場所よりも主は安全な場所にいると見ていいくらいです。

 

牙の抜けた獣という、それはある種の自己否定になるにも関わらず、ただただ主を護るというその思いには、私も尊敬の念を多少は抱きます。

 

………とは言っても、です。

 

「全面的には反吐が出る程気持ち悪い駄犬なのですがね。此度ものうのうと主を攫われましたし」

 

フェイトやアリシアの情操教育に一番悪いのは、私よりもあの駄犬でしょう。

 

「くくくっ、どうした雑種、訳の分からん事をほざいて?打たれすぎて、とうとう頭がイったか?」

 

頭上から見下すように断章の騎士フランが嘲る。それを私は地上で片膝を着きながら見上げる。

 

「ご心配なく。どこぞの変態ドM断章と違い、私は至って健常ですので」

「ふん、減らず口が。しかし、そのような無様でいくら鳴こうとも滑稽なだけぞ」

 

ふむ、確かにそれには一理ありますね。今、このような姿でいくら胸を張ろうとも滑稽なだけ。

 

なのはと色違いのこの騎士甲冑はフランの攻撃によりボロボロ。髪も何度か魔法が掠って焼き縮れ、疲労のせいで肩で息をし、手足に力が入らない。

一方のフランはほぼ無傷。余裕の表情で私を見下ろしている状態。

 

「ふっ、分かったか雑種。我と貴様とでは、強さも愛らしさもキャラの濃さも違うのだ!以後、身の程を弁えよ、この痴れ者が!」

「ええ、そうですね。まったく持ってその通りだと思いますよ」

 

次々と迫り来る魔力弾を紙一重で交わす。しかし、その幾つかは身体に掠ってしまい、徐々に徐々に私にダメージは蓄積されていく。反撃を試みるも、あまりの物量に為すすべなく、現状私は逃げ惑うばかりです。

 

そんな私の姿に溜飲を下げる面持ちで下卑た笑みを浮かべるフラン。

 

まったくもって癪に障る顔ですが、今は甘んじてそれを受けましょう。

 

「あはははは!逃げろ、怯えろ、竦め!そうやってる間は生かしておいてやろうぞ!!有り難みを感じながら逃げ惑え!!」

「…………」

 

楽しそうに、面白そうに、嬲る様に魔力弾を操作して私を遊ばせるフラン。

 

趣味の悪い事この上ないですね。

そんなに愉快ですか、私を嬲る事が?そんなに痛烈ですか、私を道化のように扱う感覚が?

 

「フラン、あなたに一つ聞きたい」

「なんだ、命乞いでもするつもりか?くくくっ、よい、我への問いを許そう」

 

どこまでも上から目線のフランに、私が何も感じない訳もないが、ここはまだ落ち着いておく。

 

「あなたは、我ら主である隼をどうするつもりですか?」

 

断章の騎士は、もともと夜天の書には備わってなかった機能です。創造主が写本を作り出す際、悪用防止の為にと作り出した抑止の騎士。主の守護騎士ではなく、本自体の守護騎士です。だからと言って主は守護しないのかと言われると、そういう訳でもありません。

本の主なら、間違いなく我ら断章の主でもあるのですから。

ですが、ブルーメの席に着いていない私たちは、主の守護をしなければならないという、ある種の強制力は働きません………働きませんが、それでも大切に思う心は持っています。その心の強弱によって、主をどれほど真剣に護るか決まるのです。

 

主を強く想っていれば、我が身省みず守護したい。

主を歯牙にもかけないならば、適当に守護しとけばいい。

 

多少乱暴ですが、極論してみれば断章の私たちのスタンスはそのような感じなのです。

 

そして今回の主誘拐の件。

フランがどういうつもりで主を攫ったのかが気になっていました。今までの言動を見る限りでは、主を好意的に見ているようですが、ならば誘拐など出来るのでしょうか?あの主が大人しく誘拐される筈も無いので、その際にフランがかなりの暴力を用いたのは明らか。好いている相手を傷つけて誘拐などするものなのでしょうか?

 

私だったら、好意的に見ている主にそんな非道な事出来ません。…………なんでしょう、どこからともなくツッコまれた気がしますが………本当ですよ?………いえ、まあ喧嘩の時は容赦なくボコボコにしてますが、それはそれでしょうし。

 

「ふん、なんだ、何を聞くかと思えば、またそのようなつまらぬ事を」

 

フランは一度溜息をつくと、さも当然の如く横柄に喋りだした。

 

「どうするもこうするも、我は主だけの我になり、主もまた我だけの主にする。その他有象無象を滅し、二人だけの世界を作り出す。まあ小癪な事に今は主は小烏に夢中だからな、現状に機はないがそれも時間の問題よ。小烏の件にカタがついた時、その時が全ての終わり、そして我らの始まりよ」

「………そんな馬鹿げた思いで主を傷つけたのですか」

「ふっ、人間の言葉でよく言うだろう?『愛に傷害はつき物』と」

 

字が違いますよ。

 

しかし、なるほど、良く分かりましたよ。こういう奴が俗に言う『ヤンデレ』という奴なのですね。厄介極まりない。そして腹立たしい事極まりないです。

 

「あなたの身勝手な思いは分かりました。主だけでなく、どうやらあなたも一度死の間際というのを味わった方がよろしいですね。僭越ながら、私がその役勤めてあげますよ」

「くくっ、まこと口の減らぬ奴だ。そのような状態の貴様に何が出来る?実力差はとうの昔に歴然だろうに」

「ええ、そうですね、歴然ですよ。あなたと私の実力など」

「なれば疾く逝け!」

 

フランが魔法行使の体制に入ろうとした。これでケリを着けようと思ったのか、大きな魔法陣が足元に浮かび上がった。あのクラスからいって結構な大魔法でしょう。

確かにそんなものが当たれば、流石の私も堪ったものではありませんね。

 

当たる以前に発動すれば、の話ですけれど。

 

「なっ、これはバインド!?」

「レストリクトロック……私のオリジナルであるなのはの得意なバインドですよ」

「ちっ、このような物!!」

「加えて────」

 

パチンと指を鳴らすと、フランの周りに小さな魔法陣がいくつも浮かび上がり、そこから紅蓮の鎖が飛び出してフランの身体に巻きついた。

 

「チェーンバインド。私が何もせずにただ逃げ惑っていたと思いましたか?ハッ、愚かな」

「貴様ああああああ!!」

 

足掻こうと無駄ですよ。丹精込めて魔力を編んだバインド、そう簡単には破れません。

 

「いいですね、その悔しそうな顔。今、どういう気持ちですか?優位に立っていたのに一転して相手の成すが侭の木偶人形になった気分は。私の逃げる姿はどうでした?さぞ愉快でしたでしょう。相手を手の平の上で踊らせる気分は本当に気持ちがいいですからね」

 

私が、フランなんかに逃げ惑うなんて事になるわけないでしょう。すべて演技ですよ。

私を誰だと思っているのですか?

 

「相手に優位の立場を与え、最後にどん底まで叩き落とす。私の逃げ惑う姿を見て喜んでいたあなたの姿、中々に滑稽でしたよ?ああ、愉快愉快」

 

ああ、我慢した甲斐がありましたよ。一体何度ぷっつんしそうになった事か。

 

「さて、では仕上げ……なにが可笑しいのでしょうか?」

 

見ればフランは完全に捕らえられているにも関わらず心底可笑しそうに笑い声を上げた。

 

「ふははははっ!これが笑わずにおれるか!優位が一転?愉快?くくくっ、愉快なのは我の方だ。───言うたであろう、格が違うとなあ!」

 

瞬間、フランを中心に吹き荒れる暴力的なまでの魔力の奔流。その激しさ、強さのあまり彼女を拘束していたバインドは事も無げに砕け散り、私自身も少し吹き飛ばされる程でした。

 

一体、なにが?

 

そう思ったのも束の間、眼前のフランを見てみれば理由が分かりました。

 

「ふん、まだ安定していないこの力を使うつもりはなかったのだがな。雑種、その点だけは貴様を評価してやろう」

「……その姿は」

 

黒一色だった羽に赤、青がグラデーションのように色つき、先ほどと比べると数倍に膨れ上がった魔力量。

見た目は些細な変化ですが、中身は先ほどまでの彼女とは別物です。

 

「慄き震えろ!これぞ我が真の力──トリニティモードよ!!」

 

ドヤ顔を決めるフランですが、確かにデタラメな程の魔力量です。いち魔導師が持てるレベルではありません。

 

フランも私と同じ断章の一基。些細なスペックの違いはあれど、ここまで魔力量の過多は異常です。

あの創造主がフランにだけ何かしらの力を与えたという可能性もありますが……しかし、私はもう一つの可能性を示唆しました。

 

「あなた、オリジナルの断章を……シュテルやレヴィ、さらには自分自身までも取り込みましたね?」

 

身にまとう魔力に僅かに漂う私やライトの断章特有の魔力質はまず間違いない。そして勿論私やライトはフランに力など与えていない。だとすれば入手先はオリジナルしかない。

 

「ふっ、察しが良いではないか。ああ、そうだ。この力は書の中で眠っていたオリジナルの断章共のものだ。我らと違いまだ自我の無い未覚醒の純粋な力の存在だったのでな、写本の力も合わせれば取り込むのなど容易かったわ」

 

炎が、雷が、闇が、まるで絡み合うようにフランの周りに出現する。

 

「しかし、その力の大きさゆえにまだまだ制御が不安定。よってこの辺りで遊びは終わるとしよう。我のこの姿が見れたのだ、あの世への土産としては上等であろう?」

 

絶大といっても過言ではない魔力がフランから迸る。

なるほど、言うだけあって確かにこれは魔導師としての格は違いすぎますね。私一人で抵抗できるレベルを明らかに超えています。真正面から戦える魔導師など、それこそ紫天の盟主くらいのものでしょう。

 

「認めましょう。あなたの魔導師としての格は、確かに私のそれを超越しています」

「はっ、漸く認めたか!だが遅いわ!我を愚弄した罪、その身に刻み闇に落ち────」

 

─────パンッ。

 

と、突然周囲にやや大きな乾いた音が響く。

その発生源をフランは呆然とした面持ちで見つめる。見つめる先は私の右手。正確に言うなら私が素早く懐から抜き放ったモノ。未だ小さく硝煙を上げている一丁の獲物───拳銃。

 

「……は?」

 

ふと、といった感じで彼女が今度は視線を自分の肩付近へと移す。そこには小さな穴が開いており、それを中心に赤い模様がドンドンと広がっていっています。おそらく熱した鉄棒でも刺されたかのような痛みが伴っている事でしょうね。

その証拠に。

 

「っっあああああああ!?」

 

先ほどまでのドヤ顔から一転、激痛に歪む顔をして撃たれた右肩を押さえるフラン。しかしそれも僅かな時間。すぐに何をされたのか分かった彼女は痛みに染まった表情に怒りをブレンドしたそれとなって叫びました。

 

「き、きさまぁあ───」

「ふむ、およそ0.6~0.4秒くらいですかね。かの偉大なるマンデン氏の0.02秒には程遠い。以降も訓練が必要ですね」

 

もっとも秒速300mの弾を3~4mの距離で避けたり防いだりするなんてこと、漫画じゃあるまいし、事前に予測でもしていない限り不可能でしょうけど。

 

─────パンッ、パンッ、パンッ。

 

またしても私の右手から乾いた音が今度は3つ。それに合わせてフランの左肩、右脚、左脚にも新しい小さな穴と赤い模様の出来上がり。

相当痛みがあるのでしょう。自慢のトリニティモードも解除されました。10秒にも満たないお披露目で残念でしたね。

 

「っっっ!?!?あああああああああ!!!!」

「喧しいですよ。では改めて」

 

私は改めてバインドを掛けなおします。出血多量で死なれては困るので銃創の上に。

 

「さて。これで少しは大人しくなりますね?まだ騒ぐようならもう一つ穴をこさえてあげますが?」

「じ、銃だと!?き、きさま、魔導師のクセに質量兵器を使うなど……!」

 

痛みに耐えながらもこちらに射殺さんばかりの視線を投げて寄越すフラン。

 

ふむ。囀る口は鬱陶しいですが……それを塞ぐと紡がれる悲痛の声が聞こえませんからね。まあ喉は潰さないでおいてあげましょう。痛みとその原因である銃のせいで抵抗する余力もないようですし。

 

「魔導師のクセに?はて、私がいつ魔導師としてあなたの相手をするといいました?」

「な、なに?」

「そもそも私は魔導師ではなく、ただの鈴木理ですよ。苦痛や恥辱を与えられるのであれば手段は問いません」

 

魔法で敵わないなら他の手段を取るだけです。というか我が鈴木家は全員が『魔法?一つの手段でしかないよ』という結論に至りましたからね。その点を鑑みれば鈴木家に魔導師は存在しないと言っても過言じゃありません。特に夜天やシグナムやシャマルは魔法なしの方がはるかに強いですし。

 

ちなみに私も魔法などよりか、銃や刃物による殺傷の方が好みです。たくさん血が見れますから。感触もダイレクトで気持ち良いですし。

 

「今更言っても遅いですが、あなたは間違っていますよ。魔導師としていくら格を上げ強くなろうと、相手を倒せなければなんの意味もありません」

 

ここに来る前に捕縛しておいた、あのユーリという幼女。紫天の盟主。彼女がいい例です。

いくら強くても奇襲されれば何も出来ない。スタングレネード、催涙ガス、暴徒鎮圧用ゴム弾、麻酔銃などがあれば人一人なんとでも出来ます。常在戦場・絶対無敵の強者でもない限り、戦場に立たせなければ案山子と同じ。

 

しかも質量兵器の類は魔法などと違い、入手が簡単ですからね。日本では難しいですが、サムおじさんの国にいけばゴロゴロありましたよ。スラムのギャングやマフィアを一つ二つ壊滅させただけでウチの一室が満杯です。

 

「さしずめ、あなたは茶碗に入ったご飯を食べる時、箸が使えなければ食べないという事です。スプーンやフォーク、手掴みや犬食いなど手段は様々あるのにあなたは『箸』に拘る。『いかに高級な物を使って』『いかに上手く使って』、と。………馬鹿ですか?」

 

目的はご飯を食べる事。

どんなにマナーが悪くても、見た目が悪くても、非常識であろうとも、それが絶対的な最終目的。ならば体裁を気にしている場合ではない。常識を気にしている場合ではない。

 

「目的達成の為の道のり……そこに"拘り"を持ち込んでどうするのですか。手段を選ぶな、というわけではありませんよ?むしろ逆です。ありとあらゆる手段を用意し、その中で最適な手段を選び抜いて用いろと言っているのです」

 

確かに魔導師として、魔法を使う者ならば魔法を最上の手段とするでしょう。それだけを修練し昇華するのが当然なのでしょう。見た目も派手でウケもいい。仮に観客がいれば満場一致で魔法での戦闘を推すでしょうね。

 

ならば言わせて貰いましょう。───ああ、なんて下手糞。魔導師、糞食らえ。

 

「『傷つける』『行動不能にする』『殺す』……これらが大事なのですよ。次に考えなくてはならないのが、それらを如何に迅速に、最小手で、被害なく行うか。魔法でそれが実行可能なら魔法も使いますが、不可能ならば他の手段を取るまで」

 

目的の為に考えられる範囲かつ成し得る範囲で、ありとあらゆる手段を用いる………『実戦』とは、そういうものでは?

 

「一つ言っておきますが、あなた方を殺す方法はいくらでもあったのですよ?例えば認識外からの超長距離狙撃。八神家を中心に半径100mの範囲を近隣住民巻き込んで一切合財爆破。局所的に郵便爆弾でもいい。炭ソ菌、ボツリヌス菌、サリンなどをばら撒いても良かった。シャマルも試作品の天然痘を使いたがってましたし。水道水にヒ素のような無味無臭の毒を混ぜるのも一手。道で歩いている時にすれ違いざまに横隔膜を通して心臓を一刺しも容易」

 

本来ならそうする事が一番確実です。古今東西、どの時代でも『奇襲』というのが一番効果的なのですから。

 

そう、もしこれが実戦だったならば。

 

「しかし、そうはしませんでした。何故だか分かりますか?」

「あ、主の為か?」

「それもあります」

 

何分、シャマルの作る兵器類は対国家と言っても差し支えない大量殺戮兵器が多いですからね。主まで余波で死んで貰っては困ります。といっても先にも述べたように、狙撃などといった個人を狙う事も十分可能。

 

「大きな理由がもう一つ」

 

私はフランに近づいて一発顔を殴りつけた後、彼女の髪の毛を掴み上げて顔を近づける。

 

「あなたは私に喧嘩を売った。そして売られた喧嘩は買うのが鈴木家の流儀」

 

今回のこれは戦闘ではなく、ただの喧嘩。いえ、もう喧嘩にさえなりえない。

ご丁寧に敵の前に姿を見せ、高らかと宣戦布告し『えい、やー』などと言って戯れるただのお遊びのようなもの。礼儀正しい、反吐が出るくらい良い子ちゃんの遊び。

 

だから今も肩と脚を狙った。実戦なら的の大きな身体に1~2発打ち込んで確実に動きを止めた後、トドメにドタマぶち抜いているところですよ?

 

しかし今は遊びですからね……愉しまないと。

 

「あなたに一つ教えておきましょう」

 

掴んでいた髪の毛を離し、かわりに米神に銃口をくっ付ける。まだ発砲の熱が引いていなかったのか、フランから苦痛の声と僅かに肉の焦げる臭いが出る。

何とも芳しい事です。

 

「ダークトライアド、という概念を知っていますか?俗に言う人間の持つ3大暗黒要素です」

 

ナルシズム。マキャベリズム。サイコパシー。

 

「人間なら程度の差こそあれ、誰もが持っていると過言ではない要素です。無論、鈴木家もきちんと常備しています」

 

もっとも他と比べて少々その『程度』が大きいですが。主が絡むと尚更。

 

「そ、それがどうした?」

 

そう怖がらないでください。その表情を出すのは……まだ早いですよ?

 

「言うまでもなく私も持っています。ただですね、他の者たちとは違いそれに加えてもう一つ、私だけが持っている要素があるんですよ。しかも色濃く、ね」

 

言うなれば4大暗黒要素。4つ目の人格特性。

 

「サ・ディ・ズ・ム」

 

これを以って『ダークテトラッド』の完成です。

 

もっとも、この場合サディズムというよりはどちらかというと加虐性向。本当のサディズム──性的嗜好としてのサディズムを私が向けるのは主だけです。

 

「さあ、お遊戯の時間です」

 

銃をしまい、代わりに転送魔法を使って大きなビンを取り出す。

 

「お、おい、待て。何だ、その中に入っているおぞましく蠢く物体は?」

「これですか?これはですね、所謂ゴキブリというやつです。補足するなら、こいつは日本にはいない肉食性の強いGです。あ、シャマルお手製の改良種ではないのでご安心を」

 

そう、ビンの中には数匹の大振りなゴキブリがかさかさと動いている。

 

私はそのビンを片手に持ち、もう片手で身動きの取れないフランの騎士甲冑、その腹部の布を捲くり上げる。

なんとも可愛らしいおヘソが外気に晒された。

 

「な、なにをする!?我にそっちの気はないぞ!主一筋だ!」

「私もですよ」

 

私は勘違い爆発のフランを他所に、持っているビンの蓋を開ける。その開いたビンの口をフランのお腹で塞ぐように押し付けた。捲くった服から離した手で魔力変換で火を作り出す。

 

「さて、ここで問題です。今、あなたのお腹に押し付けられたゴキブリの入ったビン。このビンに火を当てるどうなると思います?そう、ビンが熱くなりますよね。───では、中のゴキブリはどうなるでしょう?」

「………お、おい、ち、ちょっと待てっ」

 

流石に馬鹿な変態でも、ここまで材料が揃えば察しはつきますか。

 

「フライパンのように熱くなっていくビン。しかしゴキブリにはどうする事も出来ません。火を止める事は勿論、ガラス製のビンを破る力も彼らにはない。このままでは死んでしまう。どうすれば、どうすればと悩むゴキブリたち。───しかし、そこでハッと気付く」

 

カサリとゴキブリが動いた。

 

「ガラス製のビンに閉じ込められた所で唯一………"食い破れそうな箇所"があるじゃないかと」

「───────」

 

サァと青ざめるフラン。

 

おやおや、どうしたのでしょう。顔色が悪いですよ?バインドで止血しているとはいえ痛みはありますから、そのせいでしょうか?痛み止めでも飲ませてあげましょうか。確かメタドンなら持ってきていたはずです。

 

「ま、待て待て待て待て待て!?それは洒落にならんぞ!?それもうR15以上であろう!?」

「ご安心を。過程の描写は控えるので。結果だけを簡素に『ゴキブリに腹を食い破られて死にました』と、そう綴りましょう」

 

皆からは殺すなと厳命せれてはいますが、まあそこはゴキちゃんの食欲次第といたしましょう。

 

「本当はゴキブリかブタかで迷ったのですがね、手間などを考えて前者にしました。あ、知っていましたか?ブタも人間を食べるんですよ。あまり知られてませんが雑食性なので」

「どうでも良いわ!むしろ知りたくなかった!」

「糞にも劣る身からゴキブリの糞になれるのです。特進ですね、誉としてください。それともやはりブタの糞になりたかったですか?ですがブタは骨まで食べる事もありますからね。骨くらいは残して差し上げようという私の慈悲だと思って納得してください」

「慈悲の分量が極僅か!?」

 

では着火。

 

「わあああああああ!?待て待て、流石にこれはやり過ぎだと我は提言する!」

「そうですか?不本意ながら『ドS』と呼ばれてしまっているので、ならば、まあこのくらいはやらないと。それに昨今の魔法少女モノはグロテスクと相場は決まってますし。流行には乗らないと」

「右倣えは良くないと思うぞ!?雑種、いやさ理、どうかビンを除けて……熱っ、痛っ!?」

「気持ちいいですか?流石はドMですね」

「ガチで苦痛と恐怖しかないわ!!」

 

まっ、ここらでこの話は終わりにしときましょう。これ以上描写するとR18にしなれければならなくなるので。

 

さて次回ですが、次の話は主が虐められる話です。今まで好き勝手やって来たツケを払ってもらわなければなりませんからね。主には大変恐縮ですが、やはり主人公としては一度死に瀕して頂かなければなりません。それがお約束というものですし。それに今回は加虐性向をお披露目したので、次回は性的サディズムもきちんとご紹介しないと。

 

ああ、それと、次の話から登場人物が一人いなくなってしまっているかもしれませんが悪しからず。

 

「なに悠長に次回予告し、同時に我の死亡宣告をしておる!?わ、分かった!お前には褒美をやろう、だからこのビンを早く─────」

 

では、最後に改めて。

 

 

 

─────ああ、愉快。

 

 

 


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