フリーターと写本の仲間たちのリリックな日々   作:スピーク

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目を覚ましてまず一番初めに感じたのは、頭の中でカリオンでも鳴っているかのような頭痛、それに伴う吐き気。そして次に感じたのは、この場に漂う尋常じゃない程の酒や煙草の臭い。

 

俺はむくりと上半身を起こし周りを見やると、そこには死屍累々と表現するに相応しい有様が広がっていた。

 

ソファの上に四肢を投げ出して倒れ付している者、テレビに抱きついて寝ている者、窓ガラスに突っ込んでいる者、天井からぶら下がっている者、庭の地面に首元まで埋没している者、逆に首上だけ埋没している者、ステージ上でマイクスタンドをケツに突っ込まれて倒れている者、男装している女、女装している男etc……………まさにパンドラの箱だ。

 

「うあ゛あ゛……死ぬ。てか殺してくれ」

 

かくいう俺だって、まあ酷い有様だ。

パンツ一丁で床で眠りコケ、髪の毛や身体には酒やつまみがへばり付き、頭痛と吐き気と筋肉痛がパない。

 

「……いろいろ酷いな」

 

まあ昨晩のド馬鹿騒ぎを考えれば、こうなっても当然と言えば当然だろうな。てか、結局何人来たっけ?あまりに多くて、来てた知り合いにも全員には会ってないような気がする。

まっ、それでもきちんと押さえるとこは押さえたけどな!……何をって?そりゃ勿論女性の輪をだ!

 

さざなみ寮のクール美人な漫画家さんにリっつぁんたちの妹だというセルフィちゃん。ポン刀についた十六夜さんとかいう幽霊ちゃん。久遠もガキらしく可愛かった。あんなとこの寮長やってるデクが羨ましいわ。美人な嫁さんもいやがるしよ。いや、美人といえば美沙斗さんにその同僚という香港国際警防隊の人たちもだな。さらに見た目だけならイレインも文句ないし、月村家の親戚だという綺堂さんも可愛かった。

 

お陰様で俺の携帯の連絡先が女だらけだぜ!

 

…………………………。

 

(一部の女性に関しては、ホントにここは地球なのか疑いたくなるけど………)

 

俺が今まで知らなかっただけで、この地球も出鱈目度で言えば魔法世界に負けてねえんじゃね?

まあそれが困るのかって言えば全然困らないけど。むしろ歓迎!だって皆美人で可愛かったし。

 

「しっかし、まあ何とも……派手にチラかってんな~」

 

右を見ても左を見ても上を見ても下を見ても自分を見ても酷い有様だ。

何で天井に大穴開いてんだよ。何で壁が焼き焦げてんだよ。何で刀が何本も床に突き立ってんだよ。何でライフル銃の銃口に花が活けてあるんだよ。てかあのキッチンに立て掛けてあるバイク、美緒のだろ。なんで室内にあんだよ。

もう突っ込みきれねーよ。そもそも俺突っ込みキャラじゃねーし。いや、ある種突っ込みキャラだけどよ。ズッコンバッコン突っ込みたいと常日頃から悶々と考えてますよ、ええ。

 

ともあれ。

 

「は~い、皆さん起きましょう~。仕事はいいんですか~学校はいいんですか~、てか頭痛ェェェエエエ!!!叫ばせんなやコリャ、さっさと起きろ………ぐあああああああ痛いいいいいい!!」

 

頭の痛みを無視してぱんぱんと手を叩く。が、もちろんその程度で屍どもがリビングデッドするわけがないので、俺はボロボロの机に向かって魔法弾をぶっ放した。

 

「痛っ……!な、なに!?」

 

机の破砕音でまず目を覚ましたのは、その机の上で寝ていたなのは。それを皮切りに屍が一つまた一つむくりと起き上がる。

 

「はい、全員おはようさん。いや~、最低な朝だな。ところで皆さん、二日酔いで死んでるところ悪ぃがちょっと俺からハッピーな朝の挨拶を。えー、ごほん……………ただ今、朝の8時半でござ~い」

 

瞬間、昨晩にも負けないほどの喧騒が辺りを包んだ。「学校~!?」「仕事~!?」などなどの声を上げながらバタバタと動き始めた。

それを俺は横目に、

 

「さて、取り合えず胃の中のものぶちまけた後朝シャンしよ」

 

今日も一日頑張りましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

手早く風呂に入り、頭は痛いものの体の気だるさは無くなりフレッシュ男になった俺。

そんな風呂上りの俺を待ち構えていたのはノンフレッシュな部屋の空気だった。

 

「隼、今日こそは説明してもらうよ!何で隼が闇の書の人たちと一緒にいるのかを!」

 

可愛い顔を顰めたユーノがそう言って迫ってくる。

 

今、この場にいるのは俺と八神一家、そしてロッテとユーノ。ユーリは昨晩を遅くまで起きてたし、久遠と遊び疲れもあるのか、今はまだ夢の中。ジェイル組や他の者もどうやら俺が風呂に入ってるうちに帰ったようだ。帰ったつうか学校とか仕事場に行ったと言ったほうが正しいか?世の流れに縛られてる人は辛いねぇ。

 

「おいおいユーノ、そんなに可愛い顔すんなって。前々から言ってるけど、もっと男らしくしろよな」

「前々から言ってるけど、僕のこの顔は怒ってる顔なんだよ!」

 

顔も可愛い、性格も可愛い、声も可愛い我らがマスコット・ユーノ。将来は中性的な美男子になるだろうが、今はパッと見マジで女の子だ。この前なのはに『ユーノってさ、マジで女の子に見えるよな。てか、時々お前より女の子っぽく見えるぜ。わはははははッ!』つったら、ディバインバスターぶっ放された。

 

「というかお前も昨日からいたんだな」

「いたからね!?というか会話もしたよ!?」

 

すまん、あまり覚えてない。

 

「いきなりなのはに『ハヤさんがパーティするから来いって』とか言われて『は?』とか思って来て見たらホントにやってるし!隼、自分の立場自覚してるの!?僕もなのはも管理局の人間だよ!?もしここで僕が局に連絡取ればそれでこの物語終了なんだよ!?」

「大丈夫。お前もなのはもそんな事はしない。お前達は空気の読める子だ。そんな打ち切り展開じゃあ誰も納得しないと分かってる子だ」

「じゃあもうちょっとマシな展開になるように動いてよ!隼は自由奔放過ぎるんだよ!」

 

可愛い顔で激昂するユーノに八神家+ロッテが大きく頷いて同意する。

なんだよ、俺ってそんなに自由にしてる?これでもちゃんと考えてるんだけどな~、どうやったら面白い展開になるだろうかと。

 

「それに、えっと、リーゼロッテさん……でしたよね」

「にゃ?何かな、美味しそうな子」

「うっ!?いえ、そのですね、その制服、あなた管理局員ですよね?」

 

え、そうなの?確かになんか制服っぽい服装だなぁとは思ってはいたが、まさか局員だったとは。が、今更それがなんだと言うレベルだ。ロッテが局員?可愛いからOK。……彼氏持ちじゃなかったら尚良かったけど!!

 

「な、なんでリーゼロッテさんはここに?この件の担当はアースラの部隊のはずですけど、あなたをアースラで見た事は………」

「ふ~ん。つまり疑ってる?例えば内通者とかなんじゃないかって」

「あ、いえ、そんなつもりは……」

 

いささか剣呑な空気が流れる。シグナムたちも改めてロッテの事を警戒したようだ。……かなり今更感はあるが、まあ昨晩はその辺は無礼講(?)だったし。

まあ俺もさっきも言った通り別にどうでもいいけどね。てかさ、

 

「ユーノよぉ、内通者だなんだと騒ぐなんてケツの穴の小っせえ事言ってんじゃねーよ。そもそも、その程度で騒ぐようならジェイルと酒酌み交わした俺らはどうなんだよ?」

「ジェイル?」

「ほら、昨日人間花火してたやつ」

「ああ、あの人」

「あいつ、次元犯罪者だぞ」

 

そう言った瞬間、剣呑な空気は払拭され、ただただ沈黙が場を支配した。皆、どう反応すればいいのか戸惑っているようだ。だが、それも少ししてユーノが、

 

「とにかく隼、説明して」

 

どうやらジェイルの件は聞かなかった事にするらしい。良くも悪くも賢いガキだ。

 

「隼が何の意味もなく局や家族相手に犯罪行為に走るとは思えない」

「おっ、俺って信用されてる?」

「この半年いろいろ付き合わされて来たからね。隼は、自分の為かお金の為か子供の為か女性の為か面白い事の為か気に入らない事でしか絶対に動かないもんね」

 

うわお、ひっでえ言い草だ。最近俺の紳士キャラが薄れてきているな、困った困った。

 

「まあなんだ、説明っつってもな。逆によ、実は俺も説明して欲しい事だらけなのよ。な、フラン?」

「うむ。では、まず我の一度はやってみたい体位から───」

「ちっげえよ!」

 

いきなり話をお前に振った俺も俺だけどよ、即座にそう返してくるお前は、もう流石すぎてそろそろ憧れすら抱くぞ。

 

「じゃなくてだな、闇の書についてだよ。ぶっちゃけ俺あんま知らねーんだわ。取り合えず蒐集しなけりゃはやてが死ぬって事くらいしかな」

「え………」

 

ユーノがびっくりした顔ではやてを見る。それにはやては「そうそう、私このままじゃ死んでしまうんよ。およよ~」とふざけ半分。当事者なのにこの肝の太さはどうだ。

 

「だからフラン、てめえここで全部吐け。どうせあのホモ(アルハザードの店主)からいろいろと聞かされてんだろ」

「まあ聞かされたというか、追記されたというか……ふむ、よかろう。主からの命では仕方ない、そこの小動物とメス猫にも事の次第が分かるよう説明してやろう。アニメの総集編の回のようにな」

 

コホンと一度咳払いをし、無駄に偉そうに喋り始めた。

 

「闇の書……転生と無限再生機能、そして蒐集機能を有するロストストレージデバイス。その蒐集は半強制的であり、活動を怠れば主に死をもたらせる。さりとて完成させてしまえば主を認証せず、意思を飲み込み、破壊を振りまく最悪のデバイスである………とまあ要約したが、これは皆知っておる事だろう」

「いやいや、知らねーよ」

 

え、ちょい待って。主を飲み込むって何?めっちゃ初耳なんだけど?書が完成すればはやては助かるんじゃねーの?

 

「どっち道はやては助からねえって事じゃねえか!じゃあ、あたしらのやってる事は何なんだよ!」

「囀るな、ロリ鉄槌。勝手に勘違いしておったのはそちらだろう」

「俺も勘違いしてたけどな。というかマジか」

 

ここに来てさらっと重い新事実をありがとよ。

 

「主は気にせずよい。それに気に食わぬ事だが、主は小鴉を助けると決めておるのだろう?なれば勘違いや無知など些細な事。結果が『助かる』と決まっておるなら、今は黙って我の説明を聞いておれ。小癪な事に、この中で小鴉が一番落ち着いておるぞ」

 

見ればはやてはいつもと変わらぬ笑顔を浮かべていた。

 

「あはは。まあちょうびっくりしたけど、私は隼さんを信じとるから。せやからヴィータも、他の皆もそないな顔せんでや」

 

ちっ、このガキ、言ってくれるぜ。ああ、そうだ、助けてやるともさ。じゃねえと俺の気が収まらねえかんよ?

 

「話を戻す。闇の書、それは確かに凶悪な部類に入るデバイスだ。ロストロギア指定されてもおかしくはない。が、もともとの書はそのような形ではなかった。本来の名は『夜天の魔導書』。偉大な魔導を後世に残すために生み出されたただの資料本だったのだ。それが歴代の腐った主に改悪され、書は穢されてしまった。ヴォルケンリッター共も、その頃の記憶はなかろう」

「……そう、だったのか」

「ふん、人間も大概傲慢だからな……ああ、主は違うぞ。主はそんじょそこらにいる傲慢とは別格の傲慢だ」

 

…………それはフォローなのか?俺は喜ぶべきなのか、それとも全力で殴るべきなのか。

 

「そも誰が原因なのかというと我の創造主だろうがな」

「あ?あのホモ?」

「ああ、あれがヘマをして技術を流出させたのが原因なのだ。そのせいでベルカが戦乱期となる発端を作り、人間には手に余る魔導が蔓延る事となった。夜天の書の改悪に使われた技術もそう、それに銀十字のも……と、まあそれはまた別の話か」

 

ええ、別の話です。そしてそこまで続きません。そこまで続けたら俺の体と精神が持ちません。

 

しっかし、やっぱあのホモやろう、一発どころか10発は殴っておくべきじゃね?何で俺があいつの尻拭いしなきゃなんねーんだよ。野郎の尻なんて拭いたくねえっての。もちろん、美女なら言わずもがな。

 

「あ、あの、誰の事を言ってるんですか?ホモって、ええと」

「小うるさいぞシャマル。お前は黙って空気になっておれ」

「フランちゃん酷っ!?」

「良かったな、シャマル。これでもう次の話まで喋らなくてもいいだろ?」

「隼さんも酷い!私の出番って二言だけ!?」

 

いや、三言だ。

 

「さて、空気の騎士が突っ込みを入れてきたので改めて話を戻そう。と言っても闇の書、いや夜天の書についてはこんな所だろう。どうだ、分かったか小動物」

 

フランが小動物はおろか虫でも見るような顔でユーノを見る。その視線にビクビクしながらもユーノは口を開いた。

 

「……つまり隼ははやてを救う為、魔力蒐集を強行してたって事なんだね。それも根本が間違いだったって事みたいだけど」

「まっ、な。でも、誤解だろうが何だろうがはやては助ける。その為の手段は選ばん!例え家族だろうと女子供だろうと……だろうと……」

 

よく考えたらはやてが助かっても助からなくても、全て終わったら俺死確定してね?………今更か、ははははは。いやいや、俺にはユーリがいるんだ。だから大丈夫。大丈夫。大丈夫。………はは。

 

「でも、実際問題助けられるの?」

 

顔で笑みを、心に絶望を携えていると、ロッテが神妙な顔でフランに訊ねていた。

まあ確かに俺もそれは思っていた事だ。いくら助けるっつっても願いや理想じゃ人は助からんからな。

 

「一つの手として、このまま書を完成させればいい。さすれば意思は飲み込まれるが、『はやて』という固体は生き永らえる事が出来る。その後の破壊などを考えなければな。ちなみに我はそれを望む。もともとそういう計画だった。そうなればこの星と住まう命を犠牲とし、我は主と二人でどこか別の世界に高飛び──────」

「駄目だ!!」

 

ふざけているのか真面目なのか微妙なフランの言葉に、急にロッテが大声を上げた。顔も険しく、しかしどこか悲しそうだ。

 

「もう闇の書のせいでクライド君みたいな人は出さないと誓った!そうなるくらいなら………!」

 

キッとはやてを睨むロッテ。

クライド君……確か昨晩もその名前を言ってた記憶がある……そう、こいつの彼氏の名前だ。

なんだ、もしかしてその彼氏は闇の書のせいで大怪我したとか?ふん、同情は出来んな。ロッテみたいな可愛い彼女がいるなら大怪我の一つや二つなんのそのだろ。むしろ俺が大怪我させてやりてえわ。

 

まあ、取り合えず今それはさておき。

 

「落ち着けや、猫」

 

俺はロッテの頭にポンと手を置いた。

 

「に゛ゃ!?い、痛ーーい!」

「あ、すまん。間違えてガツンと手を振り下ろしちまった」

「あ、あんたね、普通今の場面は優しくなだめる所だろ!?」

 

いやあ、俺もそうしようと思ったんだけどね。あわよくばそれでニコポ→彼氏より隼の方が好き→NTRフラグ成立、みたいなの狙ってたんだけどな。つい可愛いはやてにガンくれやがったから。

 

俺は謝罪と痛いの飛んでけーの意味も込めて、改めてロッテの頭を撫でてやった。

 

「まあ落ち着け。言っただろうが、俺ははやてを助けるって。それは何でかってよ、これから先はやてには無邪気に笑って生きて欲しいからだ。ガキなんだからよ。その為にゃ意思がなけりゃ駄目だろ?だからフラン、てめえの計画ってのは却下だ」

「ふむ、分かっておる。そんな事はせん」

 

しれっと何ともない風にフランは頷いた。

あれ?もうちょっと渋るかと思ったんだけど。

 

「一つの手、と言ったろう?確かに当初はその計画でいくつもりではあったが、事ここに至ってはもう諦めた。そんな事をすれば主に嫌われる。それは嫌だ。数多の生命を犠牲にする事など全く厭わん我だが、そのせいで主に嫌われたくない。よって主の望まぬ事をするわけがない。分かったか、猫」

「あ、ああ」

 

ロッテは荒い鼻息を静めると同時に、ふとといった感じで続けた。

 

「ところで昨晩から気になってたけど。何でフランは隼の事『主』って言ってんの?」

「は?何をふざけた事を。主だから主だ、殺すぞメス猫」

 

言うが早いか手元にあったコップをロッテに向かってブン投げた。それを焦ってかわすロッテ。

 

「ちょ!?危なっ、今かすった!」

「ちっ、猫だけに俊敏性がいいか」

 

この距離でかわせるロッテの反射神経も凄いが、人の顔面に向かって何の躊躇いもなくコップをブン投げられるフランは相変わらずSかMか分からない奴だ。……いや、Mっ気を出すのは俺にだけだったか?

 

「あ、あのなフラン、もうこれ以上部屋の中を荒さんといてや……」

 

はやて、それはもう今更だろ。部屋どころか家自体をもう建て替えたほうがいいレベルなんだかんよ。

 

「はいはい、俺とフランの関係は後で話してやっから。で、フランよぉ、そう言うからにはまだ手はあるんだよな?素晴らしいエンディングになる手が、よ?」

 

と聞いてはみるが、実の所そんなのは分かりきっている。

だってこの俺が作り出す物語よ?バッドエンドが大嫌い、大団円大好きなこの俺が目指すエンディングなんだ。そりゃもう笑顔振りまくハッピーエンドしかねーべ。

 

「無い」

「そうだろう、そうだろう、無いだろう……………………………………あん?」

 

あれ?聞き違いかな?今、『無い』って聞こえたような………ああ、それとも最近ひらがなの『あ』と『る』が『な』と『い』に変わったのかな?

 

「フラン、もう一度言ってくれる?」

「ふむ、お約束のようなやり取りが主は好きだな。ではもう一度だけ言うぞ……………無い」

 

無い?……無い……ナッスゥイング!?

 

「………………ンだとおおおおおお!?!?」

 

ちょい待て!今の流れでその答えおかしくね!?そこは普通『有る』の一択だろ!!

 

「ふ、フラン、どういう事だ!主を助ける手はないのか!」

「ふざけんなよ!あれだけ思わせぶりな発言しといてそりゃねーだろ!」

「フランちゃん、何かないの!?」

「そうだ、俺たちが自壊すればもしかしたら主は助かるのでは…………」

 

フランに詰め寄るヴォルケンズ。流石のコイツラも主の命を救う手がないと言われたら大人しくはしてられんのだろう。

それに続くようにユーノとロッテも声を上げた。

 

「僕もはやてを助けてあげたい。君達がやってた事は間違ってるけど、僕と同じ年の子が死ぬのも間違ってる!」

「そう……やっぱり間違ってはいるんだよ。こんな良い子に闇の書の罪を背負わす事なんて……でも、それでも……いや……うぅ~」

 

はは……ホント、はやては愛されてんなぁ。

仮に俺が死んじまう事態になれば、うちの家族はこうやって怒ったり悲しんだりしてくれんだろうか?お隣さんはどうだろうか?…………その時、俺は独りではないのだろうか。

 

なーんてセンチな考えなんて俺にゃあ似合わねーか。まっ、俺ぁ簡単には死なねーけどよ。

 

「おいフラン、あんまふざけた事言ってんじゃねーぞ。はやては死なせねえつってんだよ。手が無いなら作ってでも助ける!」

「隼さん、皆………」

 

無理だろうと無茶だろうと願いだろうと理想だろうと、ンなもん全てを捻じ伏せた上で助けてやる。

そうしなきゃ、俺が俺でなくなる。俺がそうしたいからそうする。俺は、どんな事があっても俺を肯定する。

 

だから俺ははやてという命を、存在を肯定する。

 

「フラン、ホントに助ける手立ては無いのか?あのホモ野郎から何か聞いてねえのか?」

「ある」

「そうか、あるか…………………………………あん?」

 

今、こいつ何てった?『ある』?………ああ、もしかして最近ひらがなの『な』と………ってそうじゃねえ!!

 

「「「「「「「「あるの!?」」」」」」」

「我は一言も『助からぬ』とは言うてないぞ?」

 

ニヤリとサドッ気満載な笑みを浮かべるフラン。そんなガキに俺は皆の総意を持って拳骨を振り下ろした。

 

「いきなり何をする、気持ちいいではないか。やるならせめて夜、ベッドの中で─────」

「黙れ、真性マゾヒスト」

 

とうとう痛さを感じなくなっちまったようだ。

 

「やれやれ、早とちりしたのは主であろうに。『素晴らしいエンディングになる手は無いか』と聞かれたから『無い』と答えたのに」

「どういう事だよ」

「素晴らしいエンディングになる手は無い。が、『小鴉が助かるエンディングになる手は有る』という事よ」

 

フランは2本の指を立てた。

 

「…………我の考えている手は二つ」

 

粛々と述べる。それはどこか諦めているような表情だ。

 

「一つは闇の書を徹底的に破壊する。一度書を完成させ、小鴉が意思を飲み込まれる前に管制プログラムを奪取し、防衛プログラムを分離する。然る後、まずは防衛プログラムを破壊。次いで再生機能が働く前に制御下に置いた管制プログラムを破壊する」

 

おおっ、なんだよ、ちゃんとした手があるじゃん。それで行こう、それで……………………待て。

 

「そ、それって、シグナムたちはどうなってまうん?」

 

俺が思った事をはやても思ったのか、焦った様子でフランに訊ねる。それは縋るようだが、だからこそフランの答えも分かっているのだろう。

 

「ふん、死ぬな。いや、プログラムだから消える、か。仮にこやつらが消える事を防げても、最後の騎士は確実に消える」

「最後の騎士だと?待て、そのような者は………」

「やれやれ、やはりそれも忘れておるのか。将なら覚えておけ。騎士はな、4人ではなく5人。最後の一人は融合ユニットにして管制プログラム。ただ、今は防御プログラムによって封じられているがな」

 

ああ、だから夜天はいなかったのか。……て、ん?夜天が消えるだと?

 

「却下だ」

 

力強く言う。

うん、当然だよね。シグナムたちが消えるかもしれないのに加え、夜天は確実に消えるときたもんだ。ハハ、冗談ぶっこくなって話だよな?あの美貌を失うなど、人類史始まって以来の損失だっつうの。

 

「俺は大団円が好きなんだよ。皆生きてなくちゃいけねーんだよ。何で夜天……ああ、まだ名前ついてねえのか。ええっと管制人格だっけか、そいつを犠牲にしなきゃなんねーんだよ。絶対イヤだね」

 

夜天だぜ、夜天。夜天がダブルだぜ?銀髪美女が二人だぜ?いや、もうその光景考えただけでフィーバーしちまいそうなんだけど。ちょっと今回の件済んだら一夫多妻制がある国に移住しようかな。

 

「言うと思うたわ。だが、これが我の考えてる中で一番無難な計画なのだぞ」

「無難だろうが何だろうがイヤなもんはイヤだ!はい、二つ目の手は?」

 

駄々をこねる俺にフランは溜息をつき、一度だけ目を瞑ると覚悟を決めたかのように話し出す。

 

「二つ目……これは我は絶対に勧めん。主に頼まれなければ、今この場で提案する事すらしなかったろう」

 

は?なにそれ?一体それはどういう…………。

 

「主よ────小鴉の為、これから先の人生を犠牲にする覚悟はあるか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

重々しい沈黙が辺りを包む。誰も喋ろうとせず、身動きもとらない。外を通り過ぎる車の音と、時々部屋の壁などが軋む音だけが唯一のBGM。

 

この沈黙、つまりフランが二つ目の手の内容を喋った時からどのくらい続いているのだろう。

 

誰も喋れない。だが、皆の視線は一点に集中している。そして、その顔は悲しいような苦々しいような遣る瀬無いような、そんな複雑極まりない顔だ。

 

「…………ンなツラすんなっての」

 

今現在、注目の的である俺が久しぶりに口を開く。そんな俺は、一体どんな顔をしているだろう。

 

「フラン、その他に手はねえのか?」

「………無い。少なくとも我の思いつく限りではな。これが主の言う所の『大団円』に最も近い案だ」

 

そう、最後にフランが挙げた案ならば……俺の犠牲の上に成り立つ案ならば、確かに大団円だろう。

 

はやても、シグナムたちも、夜天も───誰も死なない。加えて闇の書の闇も完全に消滅させる事が出来る。

俺自身が犠牲になるとは言え、それは何も死ぬわけじゃあない。

 

ああ、確かに。確かに一見すれば素晴らしい案だ………………けど。

 

「却下……Noだよ。No、NoNo、NoNoNoNo!!」

 

素晴らしいが…………それは俺が素晴らしくない事態に陥っちまうじゃねえか!確かに死にゃあしねーが文字通り一生モンの問題抱えちまう!しかも比喩とかそんなの抜きで、ギャグとかコメディ抜きで、マジモンの問題をよぉ!

 

「何で今回だけそんなガチなんだよ!今までのご都合主義展開はどこいった!?」

「この世界にご都合など無いという事だな」

「お前、ちょっと半年前の出来事おさらいしてこい!」

 

あれだけご都合やってて、なのにここに来てまさかのリアル思考だぁ!?ふざけんなよ!

 

「ほ、ほら、例えばよ、俺の写本使って原本を再構成するとか?なんか出来そうじゃん、そういう展開に。それで行こうぜ」

「無理だな。そのようなありきたりな展開、この物語には相応しくなかろう」

「相応しいよ!お約束は守ろうぜ!俺、そういう王道大好きなんだよ!ご都合万歳!最後まで馬鹿なご都合貫こうぜ!」

「こればっかりは無理だ」

 

だああああああああああああああああああああ!!!

 

ど、どうするよ、俺!?マジでそれしかねえのかよ!ぶっちゃけイヤだっつうの!何で俺がガキ一人の為にテメエを犠牲にしなきゃなんねえんだよ!

確かにはやては助けたいよ?けど、その為に俺が被害を被るって…………イヤ!

 

「…………よし、管制人格にはお陀仏なさってもらおう」

「え、ちょ、隼、それでいいの!?」

「じゃあユーノが代わってくれんのか!?代わってくれないよね!てか代われないよね!だったら口挟むなや!!」

「ご、ごめん」

 

最低主人公、ここに再臨。

 

でも、しゃあねーじゃん!確かに夜天は大好きだよ?夜天二人欲しいよ?けど、その為に俺が犠牲になるとかマジ無理!この先まだまだ長い人生を犠牲にしてたまるかよ!…………死なないならいいじゃんとか思ったそこのお前!そう思うなら代わってくれんのか!?代わってくれないよね!てか代われないよね!だったら思うなや!人事だからって楽観視してんじゃねーぞコラ!

 

「………そやね、隼さんが犠牲になるんは確かにおかしいわ」

「はやて…………」

 

俺を犠牲にすれば生きることが出来るのに、それでも俺を踏み台にしないはやて。

俺なんかとは大違いの度量の持ち主だ。今だって笑ってはいるが、それでもまだはやては9歳児。絶対心は不安で満たされているはずだ。なのに人を気遣う事の出来るなんて、もしかしたら俺より大人なのかもしれない。

 

(………何やってんだ、俺は)

 

そんなはやてを見ると俺は自分が惨めになる。凄くガキのように見える。いや、事実きっとそうなのだろう。

 

俺は………俺は!!

 

「つうか元はと言えばお前が闇の書なんて持っちまってるから悪ぃんだろ、自業自得だ!暴走して破壊しつくす前にやっぱお前死ね、この公害魔導師め!」

 

惨めでいいもんね~。ガキでいいもんね~。最低でいいもんね~。

俺ァ自分が一番可愛くて大事なんだも~ん。

 

「最低だ」

「最低だな」

「最低ね」

「最低だ」

「最低だよ」

「最っ低」

「濡れる」

 

心底見下げ果て、さらに果てを目指すような視線が突き刺さる(一部を除く)。

そんな視線を物ともせずタバコを吹かす俺。そんな俺にはやてのポツリと呟く一言が聞こえた。

 

「そやね……やっぱ私が悪いんかな……あはは」

 

……………………あ、あれ?7割くらいは冗談だったのに、それを受け流せてない?なんか思いのほかガチで落ち込んでる?

 

「は、はやて?」

「は、隼さん、今までめ、迷惑かけたな。み、みんなもごめんな。わ、わたしが……ぐすっ……あ、き、気にせんといて……あはは」

「……………………………」

 

周りからの視線に殺気が宿ったのを肌で感じた。でもそれは好都合だ。なにせ今俺自身も殺してくれと願っているのだから。

 

「はやて、嘘だから!マジでゴメン!助ける!お前は絶対死なせねーって!ああ、俺がお前の未来を閉ざす要素なんて全部ぶっ飛ばしてやっから!」

 

さっき自分で思ったじゃねえか、はやてはまだ何だかんだいって9歳児なんだって。『死ね』とか『公害』とか言われて傷つかないわけがねーだろ!

 

俺ははやてに近寄り抱き上げ、きつく抱きしめてやる。そして赤ちゃんをあやすように背中をポンポンと叩いてやった。

 

「泣き止めって、ホント。マジで言い過ぎた。ありゃ冗談のつもりだったけどさ、確かにないわな」

「ぐすっ……傷ついた」

「ああ、ホントすまん。大丈夫だ、お前の未来は俺が作ってやる。俺含め誰も犠牲にならない未来を、よ?」

「………その後は?」

 

ん?その後?その後ってどの後?

 

「………未来を作ってくれた後、傍におってくれる?」

「あ?ああ、な。もちろん、傍にいるぜ」

 

その方が何かと好都合だし。おもに知り合える女性の数が。

 

「………一生?」

 

一生?まあ、それもその方がいいだろうな。

 

「ああ。俺が一生傍にいてやるぜ」

「………………(ニヤリ)」

 

なんだろう、ごく最近同じような台詞を誰かに吐いたような気がするんだけど……まあ、いいか。はやてに笑顔も戻ったようだし。そうだな、ガキはやっぱ笑ってなきゃ駄目だ。

 

しっかし、一体どうしようかね~。誰も死なず、俺も犠牲にならない方法ねぇ…………もう一回アルハザードに行けばどうとでもなりそうだが、流石にこの流れであの店が出てくるはずがねーよなあ。

 

さて、どうしたもんか…………。

 

(ん………?)

 

ふとロッテの姿が視界に入った。その姿は相も変わらず可愛らしく、尻尾が規則正しく動いており一層………………て、そうじゃねえよ!

 

俺は泣きやんだはやてを降ろし、ロッテに詰め寄る。彼女は何故か面白そうな顔ではやてを見つめていた。

 

「あの子、将来いい参謀に──────」

「おい、ロッテ」

「ん?なにさ」

「お前もさ、闇の書を壊したくて俺たちを助けたんだろ?手伝わせるためか、それとも利用するためかは知んねえけど」

 

詳しくは聞いてないが、これまでの発言とこいつの動きで何となく。

 

「…………まーねぇ、それが父様の願いだったから」

 

少し迷ったようだが、しかし意外にもするりと白状した。

隠すのは今更かと思ったのだろうけど、ロッテ自身の感情もはやて寄りになるには、昨日の晩は長いくらいだったからな。

 

「ふ~ん。つまりお前のその父様は闇の書についてある程度知識があり、かつどうにか出来る手段も持ち合わせていると」

「うん、私たち姉妹も闇の書を封印するつもりで動いてたからね…………でも、その封印手段は─────」

「あ、もういい。分かったから」

 

そっかそっか。封印手段を持ち合わせているのか。それが使えるものであれ、駄目なものであれ、持ってはいるんだな。

 

「よし」

「え、あ、ちょっと!?」

 

俺はロッテの腕を掴むとそのまま割れた窓ガラスの上を跨ぎ、庭に出る。いきなりどうしたのかと皆が見つめる中、俺は爽やかに一言。

 

「ちょっとコイツのご主人様とやらに会って来るわ」

「「「「「「「「は?」」」」」」」

 

いや、だってよ、今俺たちの考えてる案はどれも大団円とは程遠いじゃん?で、これ以上このメンツで考えても良い案なんて出るわけがねえ。

だったら知識がある第3者に考えを求めるのが定石だろ。

 

「は、隼、いきなり過ぎるって!」

「考えるな、感じるな、ただ動け、それが俺の信念だ。今作ったんだけど。さあご主人様の元へワープだ!それともテレポート?言っとくが拒否権はねーぞ?拒否ったら内通者として、ユーノから管理局に引き渡すから」

「…………ああ、もう!なんでこの男って!」

 

俺は絶対に犠牲になんねーぞ!

 

さあ、俺が目指す大団円へ向かっていざ!

 

 




今回からまた徐々に物語が進んで行きます。

相変わらず主人公が好き勝手するので、真っ直ぐには進みませんが汗

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