フリーターと写本の仲間たちのリリックな日々   作:スピーク

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現在時刻は夜の12時。バイトが終わり、疲れた身体をどざえもんの様に漂わせながら帰ってきたのが今から約30分前。そして今、俺は風呂にも入らず10畳の狭い部屋で同居人共と顔を合わせて座っていた。

流石にこれだけの人数が一箇所に顔突き詰めて密集すると色々と、ムクムクと、むらむらと、湧き上がるもんもあるが取りあえず今はさておき。

 

「えー、んじゃあ今から第5兆2回鈴木家魔法会議を始める」

「そんなに回数やってねーだろ!てか、初めてだ!」

「ノリだよノリ。あ~あ、空気読めねぇガキはこれだから」

「て、てめ……!」

 

事の発端は俺が昼撮ったあのデカ猫の写メだ。それを帰ってきてそうそう皆に自慢げに見せたまでは良かったが、そのあとあの金髪のガキ魔導師に会った事まで喋ったのがいけなかった。

『なにかされなかったか』『怪我は無いか』『具合は悪くないか』などなど、うざってぇほど心配されたあげく、こんな話し合いの場まで設ける羽目になった。風呂、入らせろよ。

 

「つまり、その魔導師はジュエルシードなるモノを求めていたわけですね」

「ああ、確かンなこと言ってた気がする」

 

リーダー格のシグナムが質問や確認を一手に行い、俺がそれに答える形で話し合いが進んでいる。

 

「そのジュエルシードってどんなのか知ってっか?デカ猫もだが、先週のあのでっかい木。あれもジュエルシードってモンに関係してんじゃねーのか?」

 

完全に推測だが、あながち読み違えてもないような気がする。ほら、2つとも『異常にデカい』って共通点もあるし。

もしかしてジュエルシードって物をデカくするモンなんじゃ?で、あのガキはそれを求めてるっつう事はきっと大きくなりてぇんだよ。でも、ガキなんだからそんな焦って大きくなる必要ねぇと思うんだけどな。まあ、確かにシグナム並みのスイカを目指すなら必要かも知んねーけど。

 

「どうでしょうか……関連性はあるかも知れませんが。しかし、主からの情報を聞く限りでは、その金髪の魔導師は管理局員ではないでしょう。犯罪者ではないようですが、どちらにしろはぐれの魔導師。そんな奴が求めているものとなれば、あまり良いモノではないでしょう」

「あん?ちょい待て。その管理局員ってなんだよ?」

 

なんだその単語。俺、聞いたことねぇぞ?それに何か俺にとってあまり良い響きを感じない。

 

「管理局員とは時空管理局に所属する魔導師で……そうですね、この世界で言うところの警察でしょうか」

「ああ、警察ね………サツだああぁぁぁ?!」

 

はあ!?なにそれ、聞いてねぇぞ!そんな組織があんのかよ。

………いや、まあ、考えてみりゃああっても不思議じゃねーがよ。いや、でもいきなりそりゃねーべ。

 

「ちなみに聞くんだが、俺、しょっぴかれねーよな?」

「ええ。ここは管理外世界といって、滅多に管理局員の来ない所です。悪事を働かず、ただ暮らしているだけなら問題ないです。……………………たぶん」

「うぉい!?たぶんってなんだよ!この年になってもブタ箱にぶち込まれんのは勘弁だぞ!」

「大丈夫です。…………………きっと」

「だからいちいち最後に不穏な言葉くっ付けんなよ!」

 

ったく、ホント大丈夫だろうな?果てしなく怖ぇんだけど。こちとら善良な一般市民だぞ?

 

「ハァ…まあいい。なるようになるか。で、話を戻すけどよぉ、そのジュエルシードってのが何か知らねーの?この夜天の写本に載ってねーわけ?資料本なんだしさ」

 

俺は本を呼び出し適当にパラパラめくる。そこにはやはり変な文字がびっしりと書かれており、俺には一文字も読めない。

 

「書の中には残念ながら」

 

答えたのはシグナムではなく夜天だった。

 

「そもそも書は魔法の蒐集に限るもので、ジュエルシードというものがマジックアイテムだった場合は記載できないのです。もしもジュエルシードが魔法のプログラム名だったとしても、それが最近作られた魔法だった場合はほぼ100%載っていません」

「あん?なんでよ?」

「正本から写されたのが遥か昔だからです。そして初めて目覚め、主を持ったのがつい先週の事」

 

つまり俺が初主っつう訳か。てか、写されたのが遥か昔?確かあの店の男は自分が書いたっつってたよな……え?店長、何歳っすか?

ともあれ、情報はなしか。

 

「……お役に立てず申し訳ありません、主」

「ん?ああ、いいよ別に。んな悲しそうな顔すんなって。ほれ、ビール飲むか?」

 

夜天は騎士ん中で一番優しいんだが、どうも繊細すぎなんだよな。ヴィータくらいバカタレでもいいのに。……いや、それは嫌だな。

 

「まっ、魔法関係は飛行とかめはめ波以外は無視するって決めたし、どうでもいいよ。あの金髪のガキにしても無害そうな奴だったし、向こうから何かしてくる事もねーだろ」

 

楽観視が過ぎるかも知んねーけど、俺ぁいちいち何かに警戒して日々を過ごすなんて嫌だかんな。てけとーにやるさ。

結局、話し合おうが何かを知ろうが今まで通り過ごしていくだけだ。……喧嘩を売られねー限りな。

 

「ンじゃ、俺は風呂入ってくるわ。ザフィーラ、わりぃけど布団敷いといて。あと今日も枕な」

「……主、いい加減私を抱き枕にするのはやめて頂きたいのですが」

「いや、だってよ、お前ふかふかのもふもふで気持ちいいだわ。今日で最後にすっから」

「……御意」

 

そんなやり取りを挿み、ようやく風呂へと向かう俺。時刻はもう1時近い。明日は朝からバイトだってーのにやれやれだ。

俺はよっこらしょっと立ち上がり、狭い部屋を出る────その数歩手前で呼び止められた。

 

「主、最後によろしいでしょうか?知らせておきたい事が」

「知らせる事?どうしたよ、夜天」

 

少し神妙な顔つきで俺を見上げている夜天。

彼女はもうすでに風呂に入っており、その服装はパジャマだ。そのパジャマはつい先日俺が買ってあげた物だが、少しサイズが合っていなかったようで、胸元のボタンを上か2つほど開けている。つまり上から見下ろす格好になっている俺の目には、夜天のシグナム以下シャマル以上のお胸様の谷間が!

誰か~!誰かビデオカメラを!超REC!!

 

(取りあえず拝んどこう。ありがたや、ありがたや)

 

そんな俺の思いに勿論気づいた風もなく、夜天はシリアスに言葉を続けた。

 

「私の融合型デバイス、融合騎としての能力です」

「あん?融合騎?」

「はい。主は極力魔法に関わりなく、普通に過ごす事がお望みのようでしたので知らせる必要なしと思っていましたが、今回の件で事情が変わりました。万一、主にもしもの事があれば……」

 

万一、もしも……それはつまり、魔法関係のいざこざに本格的に巻き込まれた場合の事を指しているのだろう。

それが具体的には何なのか……漫画やラノベを参考にすっなら『戦い』ってところだろうな。ホントのとこはどうだか知んねーけど。

 

「万一、ね……まっ、んな事にゃあならねーとは思うが、備えあれば憂いなしっつうしな。で、その融合騎ってのはなんなんだ?どんな事が出来んだ?」

「はい。簡単に言えば私と主が融合し、魔導師としての強さを底上げする術です。主の力が最高で10、私を5とした時、融合すればその力が15……いえ、それ以上になります。また───」

 

と、まだ夜天のやつはまだ何か説明しているが、生憎と俺と耳には入ってこない。最初の言葉だけが頭の中をリフレインしている。

 

───私と主が融合し───

 

(私と主が融合……私は夜天、主は俺……夜天は女で俺は男……そんな2人が融合って、それつまり?)

 

フェ…フェ…フェ…フェ…ッ

 

「フェェェェェェド・イン!」

「あ、主?」

 

オイオイオイオイオイ!マジかよ!?融合型!?なに、夜天ってそんな存在だったのかよ!やべぇ、主と融合って……え?それつまりアレだよな、合体って事だよな?えーっと、確か財布の中に大切に温めておいたコンドーさんが。

 

「なんだよ、それならそうと早く言ってくれれば。夜天ってダッチワイフ型デバイ──じゃなくて、融合型デバイスだったのか」

「は、はあ……ええっと主、正しく理解されていますか?」

「勿論だ。抜かりはない。時に夜天よ、俺が初主って事はやっぱり合体も初めて?」

「合体ではなく融合ですが……はい、恥ずかしながら私も初体験です」

 

頬を染め、恥ずかしがる夜天。レアな表情だ。

 

「だが、それがいい。その恥じらいこそが、何よりの馳走です」

「?」

 

まさかそんなデバイスがあったとは。てっきりデバイスっつうモンはただの武器なのかと思ってたわ。

合体して強くなるってのはある意味お約束だが、こりゃたまんねぇな。

夜天の写本、恐るべし!

初めての相手が人じゃないっつうのはかなりレアだが、夜天ならオールOK!ばっち来いや!来てください!……いや、待てよ?俺は勿論OKなんだが、夜天の方はホントにいいのか?そういう存在なんだとは言え、それを仕方なく渋々行われるなんて俺ぁイヤだぞ。愛はいるぞ、愛は。

 

「よぉ、夜天。俺は全然構わないっつうか、むしろカマーンなんだがお前はいいわけ?俺が初めての相手で」

「私も構いません。……いえ、この言い方は適切ではありませんね。……主が良いのです。初めても、そしてこれからもただ一人の相手です」

「ッ!」

 

ここまで言われて、男として引き下がれるか?ノン!ありえねぇ!漢ならイクっきゃねーだろ!全・速・前・進だ!

 

「散れ、テメーら!金やるから今晩はどこか行ってろ!しっしっ!」

「は?いきなり何言ってんだよ?」

 

はッ!今の会話を聞いてて分からんとは、これだからお子ちゃまは!

と思っていたが、どうやら分かっていないのはヴィータだけではない様子。てか、当人である夜天も疑問顔だ。

 

「あの、主隼。今日はもう遅いのでユニゾンを試すなら明日でも遅くはないかと」

「なに!シグナム、なにをそんな悠長な………いや、確かにそうかもな」

 

考えてみれば明日は朝からバイト。それに今日はいろいろあって疲れたからな。

これからもたっぷり時間はあるし、急いては事を仕損じるとも言う。

 

男は余裕を持ってこそカッコイイ。

 

「ンじゃ、明日の夜だ!夜天、延期も中止もなしだかんな!絶対だぞ!もしやっぱ止めなんて言ったら俺泣くかんな!」

 

……童貞に余裕なんてあっかよ!

俺は鼻息を荒くし、風呂に入ったあとすぐに床に就いた。明日が待ち遠しい!

 

 

────翌日、改めて融合の真意を聞かされた俺は絶望したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

《あ、あの、主?どうかされたのですか?》

 

俺の頭の中に声が響く。その声は紛れもなく夜天のそれで、彼女の存在も自分の内側に感じ取ることが出来る。そして姿見の前に立てば、そこにはいつもの俺とは違う俺が映っていた。

V系アーティストのような灰色の髪の毛と赤茶色の瞳。ちょっと美白になった肌。2枚増えて4対になった羽。スウェット……これは一緒か。

 

これが俺と夜天のユニゾンした姿だった。……こんなモンが融合の真実だった。

 

「ハァ……確かによ、俺が勝手に早とちりして勘違いしただけさ。だからって融合が手を繋いで「ユニゾン・イン!」って言うだけって……ガッカリだ」

《えっと、よく分からないのですが……申し訳ありません》

「よせ、夜天は謝るな。余計俺が滑稽だ」

 

昨日の俺、馬鹿じゃね?なに舞い上がっちゃってたわけ?あー、恥ずかしい。第一さ、まだ日は浅いとは言え、これまでの生活の中で夜天が──いや、夜天だけじゃねぇ、守護騎士全員が俺にそういう感情を向けてる素振り見せたか?まあ確かに慕われてる感はひしひしとあったよ?愛情というのも、感じていなかったわけじゃない。

けどよ、そこに『男』と『女』のそれは皆無なんだよ。愛は愛でも"敬愛"とか"親愛"とか、そっちのベクトルなわけ。こいつらの俺に向ける感情は。

 

ハァ、マジ俺の馬鹿。

 

「よぉ、ヴィータ。一発アイゼンで殴ってくれや。横っ面をガツンとよ?」

「は?な、なに言ってんだよっ」

「いやよ、馬鹿な自分にオシオキみないな?さあ、遠慮なく来いや!」

「で、出来っかよ!」

 

ンだよ。いつもは景気良く振り回してくるくせに。今更なに無駄な優しさ見せてんだよ。あー、もういいや。

 

「じゃ、シグナムでもシャマルでもザフィーラでも誰でもいい。ちょっと現実見てなかった馬鹿に一発かましてくれ」

「いえ、主を殴るなど私にはとても……」

「い、いくらハヤちゃんの頼みでもそれはちょっと……」

「……むぅ」

 

 

ヴィータと同じく渋る3人。

その主を大切にする心は素晴らしいが、それ故に俺の勘違いが爆発しちまったんだから救えない。

 

《あの、主はなにをどう勘違いなされていたのですか?》

 

そんな夜天の疑問に答えられるわけがない。もし馬鹿正直に答えてみろ。いくら主と言えどぜってぇ軽蔑されんぞ。こんな綺麗な子にそんな目ェ向けられてみろ?軽くトラウマだ。

 

「ハァ……もういい。後で空気椅子30分の刑を自分に科そう。しっかし、これがユニゾンねぇ……なんか変な感じだな」

《私もです。………ですが、主に包まれているようで凄く心地いいです》

「………夜天、そういう物言いは反則な。また馬鹿な俺が勘違いすっから」

《?》

 

右手を動かしてみる。……普通に動くけど、なんかもう1本内側に腕があるような感じで違和感がある。同じく左手、右足、左足も動かしてみるがやはり違和感。ただ何故か羽だけ違和感なく動かせる。パタパタっと。

まっ、初めてのユニゾンなんだ。違和感があって当然なんだろう。

 

「それでこれが俺の、いわゆる魔法の杖か」

 

左手に持っている杖を掲げてみる。本の表紙にある剣十字と形が似ていて、そしてとても軽い。ためしにヴィータの頭をコンコン叩いてみたが強度もバッチリのようで、鈍器としても使えるようだ。

 

「喧嘩売ったんだよな?そうだよな?買ってやんよぉ!表に出ろや!」

 

ぎゃあぎゃあ喚く赤毛は無視し、今度は飛行の魔法を試してみる。

問題なく浮いた。

 

「お?なんかいつもより簡単に浮いた。しかもスイスイ飛べんぞ?」

《それは私とユニゾンしたことにより、主の魔導師としての質があがったからかと。私も補助してますし》

 

おお、そりゃ便利だ。今度から夜天と同じシフトん時はユニゾンしてバイトに行こう。

 

「おい、ヴィータヴィータ」

「あ゛あ゛?」

「お前の真似───らけーてん・はんま~。ぐるぐるぐる~」

「よし殺す」

 

本日の締めの衝突は俺in夜天のシュツルム・ウント・ドランクとヴィータの本家ラケーテン・ハンマーの回転対決だった。

もちろん、シグナムとザフィーラに仲裁に入られたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後には連休が控えている平日。

今日はバイトもオフだったので朝から遠見市にあるパチンコ店に行っていた。いつもは海鳴市内にあるパチ屋に打ちに行くのだが、今日はそこが新代入替の日だったのでわざわざ赴いたのだ。

他のやつらはバイトのため一緒には来なかった。ヴィータはバイトはしてないが、流石にパチンコ店には連れて入れねーし。

昼の3時くらいまで打って戦果はプラスマイナス0。

まっ、遊べたからいいかぁと思い、俺は店を出るとすぐに家には帰らず、近くのファミレスで遅い昼食を取った。その後、人気のない所から飛び立って帰るかと思ってぶらぶら歩いていた時、意外な人物に出会った。

 

「お?」

「あっ」

 

横断歩道を渡ろうとした時、こっち側と向こう側で視線が合い、お互いが少し驚き顔で立ち止まった。程なく、どちらがともなく歩み寄る。

 

「よう。奇遇だな」

「あ、あの、こんにちわ」

 

以前はツインテールにしていた金髪を降ろし、ハイグレアーマーではなく黒のワンピースに身を包んだ少女。

あのかっけぇデバイスを持っていた魔導師のガキだ。

 

「今日は魔導師してねぇんだな。買い物か?」

「はい。ええっと、鈴木さんは……」

「俺ぁ今戦ってきたとこだ。つうか隼でいいし敬語もいらん。ガキが畏まんなよ、気持ち悪ぃ。ガキはガキらしく無礼で行け」

「う、うん」

 

そう言いながら俺はガキと並んで歩く。行き先はガキの向かう方。どうせ暇だし、適当について行く。

 

「えっと、今戦ってきたって言ったけど……」

「あ?ああ、約6時間にも及ぶ激闘をな」

「6時間!?そ、そんなに戦い続けてたの?」

「おうよ!まっ、ホントはもっとやるつもりだったんだけどな。当初の予定では帰る時間は9時くらいだった」

「9時!?わぁ~、すごいね隼。そんなに魔力持ってるんだ?」

「あん?魔力?……なんの話だ?」

「え?何ってだから戦ってたんだよね?」

 

なーんか話が噛み合ってねーな。いや、まあ、こいつがどう勘違いしてんのかは何となく分かるけどよ。

俺がいう戦いはパチンコ。こいつのいう戦いは純粋に戦闘行為。

馬鹿?てか、戦いっつうのを一つの表現じゃなくて文字通りの意味に捉えるか、フツー?このガキ、どんな人生歩んでんだよ。それともただの天然なアホの子か?まあ俺も俺でパチンコを戦いとか言っちゃってるんだから大概だけどよ。………まっ、おもしれーからこのまま話しを進めちまおう。

 

「そうそう。千切っては投げ、千切っては投げでもう俺大活躍よ!ただな、途中から分が悪くなっちまってよぉ。諭吉っつう隊長さんや一葉副隊長、それに漱石上等兵が何人も敵に捕まっちまったんだよ」

「えっ……そんな……」

「だがそこで諦める俺じゃねえ!なんと4人目の諭吉を前線に投入してすぐに大爆発!一気に戦況がひっくり返ったわけだ。そして捕虜だった仲間達が次々に戻ってきたわけよ」

「すごい!」

「けど、こっちも被害が大きくてな。これ以上の深追いは危険と判断し、撤退。最終的には痛み分けで今日の戦いは終わったんだ」

 

そう言い終わりガキの様子を窺うと、ガキはまるで英雄譚を聞かされた時ような興奮した顔でこちらを見ていた。しかも、その英雄譚の主役はどうやら俺らしい。『隼、すごい!』と顔に書いてある。

純粋というか、馬鹿というか……何か将来が心配になるな。可愛い子ほど旅をさせろという格言があるが、こいつだけはさせちゃなんねーぞ。親御さん、きちんと監禁調教しとけ?

 

「お、そうだ。お前にこれやんよ」

 

そう言って俺はポケットからお菓子を2~3個取り出した。

これはパチンコの玉が換金には僅かに足らず、よってお菓子と交換したのだが……ちょっと面白おかしく脚色して渡す。

 

「え、これ、貰っていいの…?」

「ああ、だが大事に食べてくれよ?これはな、散っていった仲間の遺留品なんだ」

「え!?」

「本当はな、もう一人漱石上等兵が帰ってくるはずだったんだよ。けど物資が僅かに足らず、結局こんな形でしか………」

「そんな……」

「だからせめてお前がそれを食べてやってくれ。お前みてぇな可愛い子に食べて貰えれば、帰ってこなかった漱石上等兵もきっと浮かばれるだろうさ」

「うん……うんっ!」

 

なんか涙ぐんでいるガキ。

純度100%の天然ミネラル水か、お前は。どれだけ心が綺麗なんだよ。やべぇ、流石に罪悪感が…………あれ?欠片も湧かないぞ?

 

「おっと、もうこんな時間か。わりぃけど、次のミッションの時間が迫ってっからここでお別れだ!」

「あ、うん。頑張ってね、隼!」

「おうよ!んじゃな~」

 

いやぁ、なかなか愉快な時間を過ごせたな。さて、次は帰ってヴィータで遊ぶとするか。

 

……あ、そういやあのガキの名前まだ聞いてねーや。

 


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