フリーターと写本の仲間たちのリリックな日々   作:スピーク

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※この話にはR15的な表現が含まれております。またとあるキャラの原作崩壊っぷりが甚だしいです。読まれる際にはご注意ください。


02

さて。

 

目の前に扉でーす。

 

……ハァ、またか。いや、もう諦めたけどね。いっつもいっつも夢の始まりはこの扉。見飽きたよ。まぁ、幸いにも夢の内容は毎回毎回違う。違うっつうか、ちゃんと時間が流れてる。物事が、関係性が、継続している。

 

夢が続いてる。

 

だから、この目の前の扉も初めて見た時とは若干違う。──鎖がない。鍵がない。

数回くらい前の夢からこの状態。

その理由を前回、扉の中のガキに聞いた所『───だって全ッ然意味ないですから。諦めました、いろいろと』ということらしい。

いくつまでロックを破れるか、なんて密かに挑戦してたんだがな。ちなみに記録は58重ロック。

 

改めて。

さてさて。

 

こんばんは~、と。

 

 

 

 

─────あ、隼!こんばんは、です!今日はどんな話してくれるんですか!?

 

 

 

 

わくわくとした顔で、ぴょんぴょんと飛び跳ねるように近づいてくる。ウエーブした金髪がわさわさ。

 

ううむ、夢は己が願望と言うが、こいつが俺にとってそうなのか?確かにこういう愛くるしいガキは好きだが、それは夢に見るほどの願望なのか?俺ロリコン?ンなアホな。

 

お前、ホントに俺の夢?

 

 

 

 

───……はい、私は隼が見る束の間の夢です。それ以上でもそれ以下でもありません。

 

 

 

 

寂しそうに笑うガキに思う所がないわけではないが、まー実際問題夢しか考えられんのでとりま納得。

 

んじゃ、今日は何のお話をしますかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

02

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めたら、そこは見知らぬ場所だった。…………そんな経験をした奴はこの世にどれほどいるだろうか?

 

きっと、あまりいないと思う。大抵の場合は、寝て起きた時、そこには自分が寝た場所の風景が目に映るだろう。目が覚めたら、そこはゴミ処理場の中だった、なんて事はまず有り得ない。てか、そんなある種バイオレンス的な臭いのする場所で目覚めたくない。

ただ、それでも中にはいる事だろう。寝て起きたら知らない場所だったという経験をした事のある奴が。

『知らない天井だ』というのはエヴァ好きな奴らにとってはあまりに有名なセリフだが、それに似たような体験をした奴だって現実にいても可笑しくない。それこそ、寝て起きたら病院だった、なんて嫌な経験をした事がある奴だって絶対いる筈だ。

かく言う俺も過去に経験した事がある。

俺の場合は病院ではなく、あれは公園のベンチの上だった。居酒屋で飲んでたら、いつの間にか公園のベンチの上で目を覚ましたのだ。これは説明するまでもないとは思うが、つまりグデグデに酔っ払って記憶がカッ飛んだというオチ。

 

とまあ、このように『目覚めたら見知らぬ場所』という経験をする奴は少ないだろうし、逆に居ても決して可笑しくはないという事だ。可能性として充分有り得る事象だろう。

 

しかし。

だが、しかしだ。

 

そこで皆に聞きたい。特に『目が覚めたら見知らぬ場所だった』という体験をした奴に聞きたい。

 

記憶が無くなるほど飲んでもいなく、また身体のあちこちは痛いが病院に連れて来られたでもなく、さらに何故か起きたら上半身裸なうえ体中がベタベタし、ベッドの脇には女物のパンツが一つ落ちているこの状況を皆はどう見る?

 

(………どう見るも何も、見たままでさえ分かんねーっつうの)

 

さて、参った。本当に訳が分からない。

 

俺は昨日、リっつぁんとフィっつぁんと3人で飲んでた。顔だけ見れば最高の二人なので、酒の相手としては充分に及第点。調子に乗っていつもより多く、またハイペースで飲んでいたが、経験から言ってそれは決して記憶が吹っ飛ぶ程じゃあなかった。

その証拠に今こうして覚えているし、二人と別れた後の出来事も鮮明に覚えている。

そう、二人と別れた後俺は喧嘩を売られたんだ。

どこのどいつだかは知らんし、どうでもいいが、確かに喧嘩を売られた。が、酒の入ってる身体に不意を突かれたとあっては流石に俺も儘ならず、結果は一方的にボコられ俺の意識は終了。…………負けたつもりはねーのであしからず。

 

「で、目覚めてみれば見知らぬ場所だった状態と」

 

訳が分からない。

俺はノされて歩道の真ん中で気絶したはずだ。そっから何でこんなどこぞの一室のベッドの上で寝てる状態になってるわけ?今までの経験を顧みて、普通喧嘩で気ィ失ったらその場所で目覚めるか、警察で目覚めるか、病院で目覚めるかだ。なのにここはそのどれでもなく、ただの家の一室といった所。殺風景ながら机や箪笥やベッドがあることから、人が生活しているのだろうという事しか分からない。

 

「マジで何で俺ここにいる訳?」

 

しかも何故か俺の今の服装は上半身がマッパ。そしてその上半身にベタベタというかヌチャヌチャとした液体が付着している。それはもうヘソや耳の中、脇から髪の毛の先までの付着率で不愉快な事この上ない。

 

「そして何よりコレだ」

 

ベッドの脇に落ちていたブツを指先で拾い上げた。

パンツだった。

女モンのパンツだった。

しかも、まだほんのり温かい。

 

きっと、普段の俺だったら被るまではしないにしても嗅ぐくらいはしてるだろう。そこにパンツがあるのだから。

けど、今回はそれを自重した。何故ならば、

 

「これが大人のパンツだったらなぁ」

 

そう、目の前にあるパンツはどう見たって子供サイズなのだ。デザインや作りも大人のより稚拙なので間違いない。なにせ毎日のように騎士共やテスタロッサ3姉妹のパンツ(洗濯物)を見ている俺が言うんだからな。

 

(見知らぬ場所で目覚めたら体中粘液だらけの男、そして部屋には一枚のパンツか…………………なんかミステリーっぽくね?)

 

…………………アホな思考はこの辺にしておこう。

つうか冷静に考えれば、普通にこれって事件じゃん。だってさ、昨日俺に喧嘩売った奴は十中八九魔導師だろ?結界張ってたし。そして気絶させられたって事は生かされたって事で、だったらこの見知らぬ場所にいる理由なんて一つしか思い浮かばない。

 

「俺、拉致られた?」

 

マジで?い、いや、管理局に捕まったって線も…………ないか。管理局はこの世界の警察と同じような機関らしいので、まさかそんなちゃんとした組織が警告もなしにいきなりぶん殴ってくるはずがない。

だとしたらこれはやっぱり誘拐であり、そして特上の厄介事だ。

 

(にしても、誘拐にしちゃあ温いな。拘束されてるわけでもねーし、治療までされてる)

 

まあ、監禁のやり方なんて俺が知るわけないが。でも、テレビとかで得た知識を今の自分に照らし合わせるとどうしても疑問が浮かぶ。

 

特に縛られてる訳でもないし、窓からは普通に外の景色が見える。部屋の中も暖房が効いていて、上半身裸でも全然寒さは感じない。ケツポケットには財布も入ったまま。携帯は流石に無くなっていたが、それは同じく無くなった上着のポケットに入れていたので、果たして携帯を狙って取られたと思っていいのかどうか。

 

「マジで訳分かんねーよ」

 

そしてこの体中にへばり付いた液体と落ちたパンツ。一体なにがどうなってこうなった?

いや、もうこの際もろもろは無視して、今はまずこの部屋を出よう。部屋には扉があるが、馬鹿正直にそこから出る事もあるめぇ。

つうわけで、俺は拾ったパンツを投げ捨て、青空が覗く窓から外に脱出しようと窓枠に足を掛けた。───同時に背後から『ガチャ』と扉の開く音。

 

「ふん、やはりここにあったか。我とした事が迂闊であった」

 

入ってきたのは一人の少女。見た目、年の頃はフェイトくらいのパッと見可愛らしい少女だが、その口から出た言葉は歳不相応な不遜な口調。昨晩の喧嘩相手の声に似ているが、何分俺も酔っていたので正確なところは分からない。てか、こんなガキにやられたなんて考えたくない。

 

そんな少女はベッドの脇に落ちているパンツを拾い、両手で左右に広げた。そして片足を上げ、パンツに通すともう片足も同じように通し、一気にくぃと腰まで上げる。

つまり、この少女は俺の目の前でパンツを履いたってわけだ。

 

……………は?

 

「ああ、そうだ主。窓からは出ない方が身の為だぞ。我特製のトラップを仕掛けておいたからな」

 

そう言って踵を返し部屋から出ようとしていく少女………………。

 

「って、ちょっと待てええええええええええい!!!!」

「んっ!……ふぅ。いきなり大声を出してくれるな。びっくりして僅かばかり感じてしまったではないか」

 

何なのこのガキ!?ねえ何なのこのガキ!?初っ端から突っ込みどころ満載なセリフと行動ばっかしてんじゃねーよ!

 

「テメェは誰だ!ここは何処だ!なんで俺ァこんなトコにいんだ!何で俺がお前の主なんだ!そのパンツの意味は!俺をどうする気だ!」

 

混乱した頭が醒めるのを待たずに俺は矢継ぎ早に質問を投げかけた。

少女は立ち去ろうとしていた体を俺の方に向け、冷たい印象を抱かせる瞳で俺を真正面から見据える。そして冷静な口調で俺の質問に丁寧に一つずつ答えていった。

 

「我は八神風嵐(仮)。ここは小烏の巣だ。主が気絶してる間に我が連れてきた。主は主だからだ。このパンツは汚れるのを防ぐため脱いでおいた。どうもこうも、主は我の男にする」

 

だから突っ込みどころ満載なんだよ!簡潔に答え過ぎてて逆によく分かんねーよ!

 

俺は一度大きく深呼吸すると気を落ち着くかせる。

スー、ハー……………って、なぜか目の前のガキも俺に合わせて深呼吸し始めたんですけど?いや、深呼吸ってかありゃあ単純に空気を物凄い勢いで吸い込んでる感じだ。まるで俺の吐いた酸素を全て自分の肺に取り込むが如くのバキュームだ。

 

まあいい。取りあえず落ち着けたのでガキの奇行を無視して改めて問う。そんな事はせず、このガキを張っ倒してさっさとズラかろうという考えも頭に浮かんだが却下。今のところ興味心の方が強いのだ。

 

「もう一度聞く。お前は誰だ?」

「我は八神風嵐(仮)」

「それはさっき聞いた。もっと詳しくだ」

「良かろう。我は小烏、八神はやてのコピーにして夜天の写本の断章の最後の一人だ」

 

意外にもガキはアッサリと俺の質問に答え、自分の素性を明かした。てっきり隠してくるかと思っていた俺はちょっと拍子抜けした気分だ。

 

「つうか断章!?ちょっと待て、俺はお前の頁を本に追加した覚えはねーぞ」

「うむ、その認識で合っておるぞ。今の我の頁が入っているのはオリジナルの書だ。忌々しい我の創造主の手によって、奴の希望を押し付けられる形で我は小烏の元に身を寄せる羽目になった。…………我は主の傍に居たかったのに」

 

最後だけ少し寂しそうな顔を見せ、歯噛みをしたガキ。また俺も歯噛みというか苦虫を噛み潰したような顔になった。

 

(またあの変態男の企みか!俺のファーストキスを奪っただけでなく、新しい厄介事の種まで置き土産にするたぁどこまでもムカツク奴だ!)

 

いづれ絶対ェ殺してやる!俺の唇は高ェんだぞ!!

 

「お前の事は分かった。ついでに小烏って奴の事も大体分かった。そいつはオリジナルの夜天の書の主だな?」

「ほう、流石は我の主。聡明だな」

 

そりゃここまで言われりゃ流れで分かんだろ。コイツのコピー元となった八神はやて、俺と同じく夜天の主…………まさか同じ地球にいるなんてなぁ。びっくりだ。しかもこのコピー体を見るにその八神はやてって奴はガキだろう。

この世界って管理外世界ってやつで、魔導師は殆どいないんじゃなかったっけ?なのはと言い、すずかやアリサと言い、まだ見ぬ八神はやてと言い、普通に魔導師いんじゃん。管理局は一度全世界を調べ直したほうがいいんじゃね?職務怠慢だろ。これだから公務員は。

 

まあ、どうでもいいけど。

 

「その八神はやてがオリジナルの夜天の主だろうと、お前がそのコピー体だろうとどうでもいい」

「自分から聞いておいて『どうでもいい』ときたか…………流石は我の主だ」

 

満足そうに一度頷いた後、その体をぶるっと震わせた。若干顔が赤いのは気のせいか?

 

「次が重要だ。何で俺をここに連れてきた?俺をどうする気だ?お前は何を考えている?」

 

自分の身が一番大事なのは今更語るまでも無い。厄介事の臭いはぷんぷんするが、今ならまだ大丈夫。臭いを嗅ぐだけなら兎も角、身を浸したら終わりなのだ。

だから、理由を聞いてそれが俺の身に不幸しか訪れそうにないなら、このガキを殴り倒してでも脱出する!

 

果たして…………。

 

「主をここに連れてきた理由は主と共に居たいから。主をどうするかは先にも言った通り、我の男にする。その為に我の考えてる事は掃滅………オリジナル騎士、コピー騎士、テスタロッサ、主に関わった女、目障りな女を尽く闇に屠る」

「さよなら」

 

元から期待はしてなかったさ。聞かなくても絶対厄介事に身を浸す事になるだろうってよ。

俺は再度窓へと歩み寄って今度こそ脱出を試みた。と、それを阻止すべく後ろからガキが声を上げながら俺の腕に掴み掛かって来た。

 

「待て!我の元から離れる事は許さん!!」

「黙れ、知った事か。離さねぇとぶん殴────────」

 

振り返ってガキの顔を見た瞬間、俺は最後まで言葉が紡げず、窓に足を掛けた状態で体は硬直した。

それはガキの顔が高圧的で命令口調な言葉とは裏腹に、今にも泣き出しそうだったからだ。

 

「………ハァ、泣くなよ」

「泣いてない!王は泣かん!」

「ほら、いい子いい子」

 

俺はガキの頭に手を置き、乱暴に撫でてやった。

どうも最近ガキの涙に弱くなってきてる俺。これも全てアリシアのせいだぞ。あいつの泣き顔は有無を言わさず何でも許したくなる効力を持ってるからな。そのお陰で今じゃ条件反射でこの有様だ。

まったく、俺も大人になったモンだ。

 

「………濡れた」

 

確かにお前の瞳は濡れてるよ。足をモジモジさせてる理由は不明だが。

俺は大きく溜息を着くと、粘液が乾いてカピカピとなった髪を掻き上げながらベッドに座った。

 

「なんで断章のガキはこんなに変わり者しか生まれないんだ」

 

理然り、ライト然り。個性的なんてモンじゃねーよ。

俺は項垂れながらもう一度大きく溜息を吐いた。と、そこで『ぐじゅ』と鼻を啜る音が聞こえた後、ガキが鼻声で話し出した。

 

「我を他の騎士と一緒にするな。我は主を愛しているのだから」

 

一緒じゃん。夜天とかからも時々『愛しています』とか言われるし。まあ、勿論、異性としての言葉じゃないのは明白だが。

そんな俺の心中を察したのか、ガキは一度フンと鼻を鳴らすと確固たる決意の眼差しでこう言ってきた。

 

「勘違いするな。我の言う愛は騎士が主に対して持つ『敬愛』ではない。家族が持つ『家族愛』でもない。我の主への愛は女が男に抱くそれだ」

「………は?」

「我は主に抱かれ、愛されたい。主の生涯のパートナーとなり、主が死ぬ時は我も一緒に死にたい。もしかしたらこれはそういう感情を持たせるよう設定されているプログラムなのかも知れん。が、そんな事知った事ではない。────────我は主が大好きなのだ」

「お、おう………」

 

ガキの言葉一つに狼狽するのは大人として情けないが、それでもこれはしょうがねーだろ?なにせ俺は異性から初めて真正面から『告白』されたんだ。

ガキとは言え向けてくる顔はどこをどうとっても『女の顔』をしており、俺は内心ドギマギ。

 

「で、でもな、お前は子供だしよ、色々と問題があるわけで………」

「それだったら心配いらん。我は守護騎士たちとは違い、人間のコピーだ。八神はやての身体情報を魔力から読み取ったコピー、つまり『成長するオリジナル』のコピーなのだ。ゆえに我も成長する」

「え、マジ?」

「主に嘘は吐かん。同類の騎士やオリジナルの小烏に嘘は吐けるし、神でも平気で欺いてやるが、主に対してだけは我は絶対に偽らん。主だけには全ての我を曝け出す」

 

ああ、だから最初から俺の質問にも超素直に答えてくれてた訳ね。裏がある、なんて事も考えられるが……いや、ない。それはないだろうよ。シグナムたちと初めて会ったとき感じたアレ、あの感じをこのガキからも感じる。

 

こいつは、きっと俺だけには誠実だ。

 

(つまり、マジでこいつ俺に惚れた?……童貞卒業確定しちゃいまいた!?)

 

ッて、待て待て待て!早まった考えは止すんだ俺!

いくら将来的にいい事が待っていようと、今はまだガキなんだ。さらにあのアルハザードの店主が一枚噛んだ厄介事が待ち受けてんだぞ。

それに自分で前から言ってただろう!『昔から知ってるガキと将来そういう仲になるのは萎える』ってよ。なら今から付き合えばって考えを持つ奴がいるだろうが、生憎と俺がロリコンじゃねーんだ。

 

(ああ、クソったれ!考えが纏まんねえええ!!)

 

頭が混乱して、俺は結局どうしたいのかが分からん。すぐさまこの場から去るのが適当な筈なのに、俺に来るメリットや周りに及ぶデメリットを考えちまう。

 

「クソ!おい、フラン」

 

俺はここで初めてガキの名を呼んだ。それに対し、ガキは少し不快な色を示す。

 

「風嵐ではない。風嵐(仮)だ」

「あん?なんだよ、その(仮)って」

「本来の我の名はロード・オブ・ディアーチェ。が、それでは名前らしくないからと小烏が風嵐と名付けたのだ。しかし我の名を決めていいのは主だけ」

 

だから(仮)?ある意味、律儀なこった。

俺は考えが纏まらないのをいい事に、この話題をもう少し続ける。

現実逃避とも言うが。

 

「いいじゃんか、『フラン』って響き。なんて書くんだ?」

「風に嵐と書いて風嵐。小烏曰く、自分の名前に関連性を持たせてるようだが、我には分からん。元よりどうでもいい」

 

関連性?…………確か八神はやてだったっけ?はやては漢字にすると『疾風』か?風繋がり?よー分からんな。

まあ、それはそれとして、でも確かにロードなんちゃらよりは女の子らしくていい響きだろう

 

「いい名前だと思うぜ?少なくとも俺は嫌いじゃない」

「…………うむ、何だか我もこの名が急に愛おしくなった。今この時を持って(仮)を取る事としよう。小烏もたまには良い働きをする。いずれ褒美を遣わそう」

 

そう言ってフランは淡い微笑みを浮かべた。そして、その表情のままこう言った。

 

「まあ、その小烏の命は後一月もないがな。奴の美々たる料理は惜しいが、これもまた運命」

「は?」

 

おい、今なんつった?それってつまり死ぬって事か?確かにコイツ、さっき「尽く闇に屠る」とか何とか言ってたけど、あれってマジなわけ?俺もよく『殺す』とか言うけどよ、勿論そんな度胸は無い。………けど、コイツはプログラムだからなぁ、やっぱマジか?

 

「お前な、その八神はやてはお前のオリジナルなんだろ?それを殺すってのはやっぱ感心しねぇな。てか、普通に止めろ。馬鹿か」

「ふん、親はおろか親類もおらん小娘一人死んだ所で誰も悲しまん。騎士共は囀るだろうが知ったことではない」

 

理とヴィータなら兎も角、八神はやてってガキは少なくとも悪い奴じゃねーだろ。なにせ、フランというこんな訳の分からんガキを一緒に住まわせた上、名前まで付けてやってんだから。さらに夜天の書の主って事は騎士たちも迎え入れてんだろ?

はやてってガキの詳しい歳は知らんが、こいつの見た目からして10歳前後か?そんなガキが生半可に出来る事じゃない。フェイトやなのは並みに優しい奴だと予想出来る。それとも肉親が居ないから、そうなったのか。

 

「それにな、そもそも主は勘違いしておるぞ。小烏は死ぬがそれは我の手によってではない。夜天の書によってだ」

 

はい?どういうこった。

 

「面倒な説明は省くが、今の夜天の書には蒐集能力に強制力が働いておる。全666頁を埋める為、主の命を脅しに掛かるのだ。現に小烏はすでに下半身が麻痺し、車椅子生活を余儀なくされておるぞ」

「マジで?え、ちょっと待て。じゃあ俺の持ってる書もいずれはそうなる訳?勘弁なんだけど」

 

他人の心配より自分の心配、それが俺。

が、それは杞憂に終わった。

 

「それはない。主の持つ書はまだ辛うじて正常時だった頃の夜天の書を写した物。しかし現在の夜天の書は過去の持ち主が改悪に改悪を重ねた結果出来上がった汚物。今では綺麗な夜天ではなく、ただの漆黒の闇を広げるのみ。………闇の書へと成り下がった」

「その事を八神はやては知ってんのか?」

「いや、知らん。無知のまま騎士共と家族ごっこを続けて楽しんでいる。そして騎士共もそれを良しとし、小烏の命が尽きる前に今必死になって魔力を集め回っておるわ。小烏に悟られぬよう秘密裏にな。まあ、今のペースでいけば到底間に合わんだろう」

「………………………」

 

ンだよ、そりゃ。ちょっと待てよ、そりゃマジなのか?………マジなんだろうな。今更フランが嘘を吐くとは思えんし。

 

つまり。

八神はやては闇の書の主になりはしたが、その事実は知らず日々を安寧と過ごしている。新しく出来た『家族』と共に。

騎士たちは主には何も知らせないまま、そのまま幸せな日々を送って欲しい。そして全てが解決したあかつきには、コレまで通り主と一緒に『家族』を。

という事か?

 

(ちっ、ボケが……)

 

あ~あ、こりゃちょっとヤベェな。何がヤベェって、ここに来て考えが纏まっちまったって事が。しかも、どう転んでも『厄介事こんにちは』になる可能性大だ。でも無理、完璧スイッチ入っちまった。

 

「───気に入らねーなぁ」

 

ポツリと呟いた俺の言葉にフランが怪訝な顔を見せる。そして、俺の眉間に皺の寄った顔を見てさらに訝しんだ様子。

 

「おい、フラン」

「な、なんだ?」

 

急に調子の変わった俺に名前を呼ばれ、若干戸惑い気味のフラン。それを無視して続ける。

 

「今、八神はやてと騎士共は家に居んのか?」

「い、いや、小烏は病院、騎士どもは魔力蒐集の為外出しているが…………」

 

そうか。だったら今の内にシャワーでも浴びて、この訳の分からん液体を洗い流しておくか。それと、少しだけ頭も冷やしておこう。

きっと今のまま騎士の誰かに会ったら、問答無用で一発殴っちまうだろう。障害者である八神はやてに対しても、下手したら手が出ちまうかも知んねぇ。

 

俺、久々にキてますよ?

 

「な、何を怒っているんだ?」

「…………………」

「反応なしか。だが、主のそんな顔も─────んっ、ふぅ…………結局パンツが汚れてしまったではないか。昨晩からこれで6枚目ぞ」

 

もうフランの目的とか願望とか知ったこっちゃねー。拉致られた今の俺の立場すらどうでもいい。昨晩から連絡してない夜天たちの事も今は無視。

俺は決めた。

だってよ、気に入らねぇなら、もういつものようにとことん突っ走るしかねぇじゃん?

 

俺ァいつでもどこでも誰に対しても正直に生きてるんでね。

 

「誰に対して怒ってるか知らんが、なんだ、説教でもしてやるのか?」

 

ンなもんしたところで効くとは思えん。なら、するのは実力行使のみ。

 

「言っとくがなフラン、俺は誰の思い通りにもなる心算はねぇ。テメェが俺をどうしたいとか、どういう目的があるとか、そんなもん知ったこっちゃねーんだよ」

 

あれだけ質問し、説明させておいてなんだが、俺はその全てを無視する。

今までのやり取り?忘れろ。

フランの気持ち?ガン無視。

俺はキッとフランを睨み付けると、高みから見下すように宣言する。

 

「俺は俺のやりたいようにやる。テメェは口も感情も挟まず、黙って見とけや。でないと縛り上げるぞ」

 

俺がそう言うと、突然フランは大きくくの字に体を折り曲げ荒い息を吐き始めた。頬は赤く、身体は小刻みに震えている。

 

え、なに、素でちょっと引くんだけど。

 

「ふぁっ!?────はぁ、はぁ、はぁ、はぁ………なんという事だッ!王でありながら服従される事に悦びを感じるとは!流石は主だ、我の新しい扉を開くとは!おかげで別の扉もガバガバ状態!!その最奥にある小部屋が疼いてしょうがない!!そこへと続くカズノコの道もグショグショよ!!!」

 

……………うすうす分かってはいたんだが、もしかして、こいつって巷で言う『変態』という分野にカテゴライズされる奴なのではないだろうか?

ちょっとどころじゃなく、ドン引きなんだけど。

 

「良かろう、我も今は主に全て従おう」

 

今は、ね。

はっ!お前のターンなんてもう一生来ねーよ。俺が俺である限りな。

 

「しかし、どうしてくれるのだ主?主のせいで我の秘なる所が大洪水ではないか。ぬちょぬちょだ。これは主のモノを持って栓をして貰わねばならんな。ああ、秘なる所とはつまり、俗語でいう所のm───────」

「言わせねーよ!?テメェはマジでもう口閉じろ!!」

「無理を言ってくれる。今の我の体に付いている口という口、いやさ穴という穴は全てフルオープンの駄々漏れ状態だ!さあ主よ、どこからでも、どこへなりとも、その股座でいきり起っておる熱き棒にて挿し穿てい!!」

「頼むからマジでホントに喋るな変態王!!」

 

R-15!これ、R-15な作品だからな!?

 

あー、もう!たまにはシリアス調で終わらさせろよ!!

 

 

 




まず最初に。
ディアーチェ好きな人、申し訳ありません汗
というわけで、断章最後の一人。ディアーチェことフランです。ほぼオリキャラ化してます。

いちおうR18な直接的な描写はしていないつもりですが、それでも「やりすぎだ」と思われた方は一報を。「いっこうにかまわん」というのであれば、今後もこの路線で行きます。

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