似合わねーかもしんねぇけど、俺は物語りはハッピーエンド、大団円ってのが好きだ。
ご都合主義でもいい、無理やりでもいい。最後よければ全て良しってのが好きだ。意外か?ほら、俺って基本お気楽思考ですから。辛いのとか痛いのとかヤだし(喧嘩は除く)。
けど、だからと言ってそれ以外は見るのも嫌いなのかと言われればそういう訳でもない。例を挙げれば『僕の生きる道』、あれはいい。ドラマしか知らねぇけど。最後は結局死に別れちまって悲しいけど、でもそれを抜きにしても面白いと諸手をあげて言える。感動の極みだ。他にもそんなのは沢山ある。
面白い………そう。『面白い』んだ。───────それが、ある種いけない。
確かに面白いってのは大事だ。面白いってのは人が幸せになれる。人が生きてく上で必要な要素だ。俺もそれに重きを置く。
けど、その『面白い』ってのも種類がある。必要な時と不必要な時がある。
つまり、俺が言いたいのは。
この現実で、『僕の生きる道』で得るような面白さはいらない。だってそうだろう?この現実で、誰が人が死んで面白くなれる?結婚までしたような想い人が死んで、誰が面白がれる?………まあ、当然面白くないだろう。当事者なら尚更な。
なら、当事者じゃなければ人死には面白いのか?まさか。
ダチが死んだ。近所の人が死んだ。テレビでよく見る俳優が死んだ。この世界のどこかで赤の他人が死んだ。………………どうよ、面白がれっか?普通は悲しむか、少なくとも無関心だろう。面白がるなんて事は出来ない。
面白がる事ができるのは、それがフィクションだからだ。現実じゃなく作り物だから、面白いと悲しいが同居出来る。でも、現実はそうじゃない。悲しみしか残らない。
だから、俺はハッピーエンドを望む。それは誰の為でもなく、自分の為に。自分が幸せな気持ちになれるから。自分が心温まるから。
自己満足。
俺は自分の為なら何でもする。どんなものでも使う。例えご都合だろうが無理やりだろうが、俺の望むようになるならそれすらも使ってやる。
俺を誰だと思ってやがる?独善者であり、自分至上主義者だぞ(それ以前に史上稀に見る紳士だが)。だから、俺が成すと決めたなら、使われるモンは大人しく使われてりゃいいんだよ。仮に俺に使えないもんがあっても、なら使える奴に使わせて成してやる。他力本願じゃあない。他の奴の力も俺の力だ。
だから。詰まるところ、自己満足が為だけに───。
俺は、プレシアを助ける。知ってる奴が死ぬのは寝覚めが悪いから。
俺は、フェイトに笑顔をくれてやる。ガキは笑ってるのが一番だから。
全ては俺が満たされるため。相手の想いとか関係ねぇ。自然の摂理も関係ねぇ。現実の厳しさも知ったことか。世界の都合でさえガン無視してやる。
自分良ければ、世は事も無し。
ただ、そこで勘違いしてこんな意見も出てくるだろう。
曰く『何だかんだ言っても、やっぱり最後は相手の為なんだろう?』とか『自分の為とか言って誰かを助ける姿カッコイイんじゃね?的に思っちゃってる自惚れ偽善者なんだろ?』とか『ツンデレ?キモッ』とか『何だかんだ言い訳こいた挙句、結局は一周して善い奴なんだろ?』とか。
もし以上のような意見を抱いている奴、ハッ!バ~カでぇすかぁ?その考えは今すぐ改める事だ。俺に変な期待はしないほうがいい。
俺はどこまで行っても自分の為にしか動かない。今回の件だってそうだ。フェイトもババアも俺は少なからず気に入っている。そんな奴がもし死んだり笑わなくなったりすんのは俺の気分が悪くなるので、わざわざ助けてやるんだよ。もしこの2人が話しもしない赤の他人だったら、ここまで世話焼かん。精精が『あそう。頑張ってね。応援しているよ』と声に出さず心の中で思うくらいだ。
そして、これは偽善でもない。偽善ならもっと自分の利を追求する。偽善を出す場面は弁えてるつもりだ。
いいか?念を押すぞ?俺が誰かを助ける時は、俺の為の、俺の為による、俺の為だけの事しか考えちゃいねえんだよ。
助けられる側のことなど知らん。勝手に助かってろ。
と、それでもまだ俺に何かしらの思いを抱くやつ。
期待したいならしてもいい。侮蔑するならしてもいい。嘲るのも構わない。嫌悪感を抱くのも結構。
だが、俺はそのすべてを『関係ねーし』と斬って捨てる。他の奴の感情など俺の感情の前では、地球の未来を心配する事以下の優先度だ。物体で言うと排泄物程度。…………まあ、もしそんな感情を綺麗なネェちゃんが抱いたなら色々考慮するが。
なんか話が二転三転してる上に分かり難かったろうが、つもりどういう事かというと………つうか、あれ?俺ってなんでこんな説明してんだっけ?
「おいプレシア。俺、なんでこんな話────って、寝てやがんし」
ちっ、気持ち良さそうな顔しやがって。まあ、あれだけ飲んで、ぶっちゃけ話したんだから疲れもするわな。
まあ、それは兎も角。ええと、なんだっけ…………ああ、そうだ、なんで俺がこんな事喋ってんのかって疑問だった。え~っと、確かいろいろ話して、時折暴走して、で最後に『あなたは一体何がしたいの?』とかなんとか、そんな事をプレシアが言ってきたんだ。それで、俺は長々と思いのたけをしんみり気分で語り聞かせたと。
「───なのに聞いた本人が寝るとか、何様だコノヤロウ犯すぞ」
俺は寝ているプレシアのおデコに強めのチョップを一つ。『ん………ふっ、あ………』なんて色っぽい寝言(寝息?)が返ってきたが、起きる気配なし。
まあ、それだけ心身ともに疲れてんだろう。酒も入ってるし。かくいう俺もプレシアが寝たことに気づかないで喋ってたんだから、あんま人のこと言えねぇけど。つうか酒がいけねぇんだよな。くすねてきた酒、かなりアルコール度数が高く、俺もプレシアもかなり酔った。
(つうか、なに話してたっけ?結構、重要な事話してた記憶が………ああ、頭回んねぇ。てかクラクラするぅ~)
思い出せ。アルコールで腹を割らせるっていう俺の目論見どおりにいったはずだ。…………クソ、出て来ねぇ。
よし。こういう時はお約束、最初から順を辿っていこう。
え~、まず部屋の前でシャマルとちょい話して、で酒持って部屋の中入って─────────。
□■□■□■□■□
「起きろコラ」
俺は部屋に入って早々、プレシアが寝ているベッドへと近づき声を掛けた。が、当たり前といえば当たり前だが返事は無い。これでもかってくらい寝ている。ともすれば死んでんじゃねーのってほど寝ている。
顔色は真っ青で、傷だらけで、額には珠の汗が浮かんでおり、それでいて表情は穏やかと言えるほど普通。
しかし改めて見ると整った顔立ちだ。少々小皺があるし生々しい喧嘩の傷痕もあるが、それでも綺麗だ。シグナムやシャマルや夜天にも劣らない美女だなプレシアも。つまり。
(情欲を感じぜずにはいられないッッ!!)
このまま一匹の獣になりそうな高ぶりを感じつつも、そこは紳士な俺、けっして手は出さない。匂い嗅いで視姦するだけに抑えておく。
…………………………………ぐふふっ。
「なに目瞑って鼻の穴大きくして悦に入ってるのよ」
「………ほ?」
気づけば、先ほどまで普通に寝ていたはずのプレシアの目はおっ開いており、その目つきは殺処分寸前の豚でも見ているかのように冷めていた。
「お、おまっ、起きてたのかよ!」
「あなたの鼻息の五月蝿さで目が覚めたのよ。まったく、近年稀に見る不快な目覚めよ」
やれやれと言いながらベッドから上体を起こした。ただ、やはり体の痛みは誤魔化せないようで、たったそれだけの動作でも苦悶の表情を浮かべた。
まあ、それでも変わらず挨拶のように毒舌が吐けるだけまだマシなんだろう。
「それで、何の用………て言うのは愚問かしらね。さっきの続きをやるつもりなんでしょう?」
そう言ってベッドから出ようとするババアの脇腹をつんつんと2、3度突いた。
「ひゃっ!?い、いきなり何するの!?」
「ぷくくっ、いい年こいて『ひゃっ!?』だってさ!ぶはっ、ウケるし」
「っっ!?」
「だから、年考えた反応見せろって。ババアが乙女の様に頬染めても残念なだけだぞ?」
顔の色を羞恥の赤から怒りの赤に変え、ワナワナと震えだすババア。どうやら俺の言葉を受け流せない程、精神的にも疲れているようだ。
そして、いよいよもって魔法でも飛んできそうな雰囲気になる寸前、俺はババアの目の前にくすねてきた酒を突き付けた。
「落ち着けって。別に続きをしに来たわけじゃねーし、新しく喧嘩を売りに来たわけでもねー。…………50万くらいで買ってくれるなら話は別だが。まあ、なんだ、ようは腹ぁ割って話し合おうって事よ」
俺の言葉に従ったわけじゃねーだろうけど、怒りに震えていたババアは一度深呼吸をして落ち着きを取り戻し、最後に俺を嘲る様に鼻で笑った。
「話し合う?話し合うですって?この期に及んで何を話し合うっていうの?私とあなたでどんな事を話し合うっていうの?そもそも、『話し合い不要、喧嘩歓迎』とかほざいてたのはどこの馬鹿だったかしら?」
「話し合い不要なんて言ったっけ?わり、全然覚えてねぇわ。まっ、昔は昔、今は今。話し合い必要。ヘーワにいこう」
「…………相変わらずの身勝手さね」
「んでだ、何を話し合うかってぇと………気の向くまま、心のままに駄弁ればいいんじゃね?取り合えず全部ぶっちゃけろ。な~に、愚痴でも文句でも好きなだけ吐け。全部聞いてやっから。その為の酒だし」
キュッと酒の蓋を取り、俺はババアにそれを手渡そうとした。しかし、ババアはまたもう一度『ふんっ』と鼻で笑うと、酒を持ってる俺の手を払いのけた。
「スズキ、あなたが身勝手なのは構わないけど、いつもそれが通るとは思わない事ね。死にたくないなら今すぐ出て行きなさい。そして、二度と私の前にその不愉快な顔を見せないでちょうだい」
そう言うとババアはベッドに潜り込もうとし、その前に「ああ」といって言葉を続けた。
「ついでにあの人形も連れて行けば?あなた、アレが気に入ってるようだし。それに、アレも美的感覚が崩壊してるのか、どう言う訳かあなたを───────」
「巻いてるっつってんだろ?」
聴く耳持たんとはまさにこれ。問答無用の模範例。
俺はババアの言葉などガン無視で、そのぴーちくぱーちく囀ってる口に酒のビンの口を無理やり突っ込んだ。
「がもっ!?」
「飲め」
「~~~~~~っっっ!?」
おお、どんどん顔が赤くなっていく。
「ぷはっ!ごほっごほっ!」
「よっ、ナイス飲みっぷり!」
ババアの口からビンを引き抜き、ゴホゴホと咽ている姿を肴に俺も続いて飲む…………つもりだったが、そこでグラスが無い事に気づく。辺り見回してもそれらしい物も代用が効きそうな物もない。
仕方なく俺もババアにやったように、そのままラッパ飲みした。回し飲みになっちまうが、まっ、別に構やしねぇだろ。
「ぐおっ!?の、咽喉が、胃が焼ける!!」
ラベルに表記されている『80%』って数字、こりゃやっぱ度数だったか。流石の俺もこのレベルのアルコールは初体験だ。美味いとか不味いとかも分かんねぇぞ。
「お前、よくこんな強ぇ酒ガブ飲み出来たな。下手すりゃ死んでんじゃね?」
「あなたが無理やり飲ませたんでしょ!」
「忘れた」
「………数秒前の自分の行いを忘れるなんて、どこまで身勝手で出来の悪い頭してるのよ。かち割って見てみたいわ」
都合のいい頭と言ってくれ。
ともあれ、こりゃあちびっとずつ飲んでった方がいいな。急アルになっちまう。
「悪りかったな。ほれ、今度は自分のペースで飲めや」
「飲むのは前提なのね。私、一応病人なんだけど?」
「地球じゃな、酒ってのは百薬の長って言って、謂わば万能薬なんだよ」
「へぇ、これがね」
勿論、大嘘なんだけど、ババアの奴普通に感心しやがった。なんかこの純粋さはどっかの誰かに通ずるもんがあるな。
ババアは酒をしげしげと眺め、それからビンを自分の口へと持っていこうとして、何故か途中で留まった。
「ん?飲まねぇの?」
ババアはビンの飲み口をジッと見て、それから俺の顔(口元あたり)を見て、それからまたビンの飲み口に視線を向けた。そして、その顔は『これはどうすればいいんだろう?』という思案顔だ。
その様子を見せられたら、流石の俺も何を考えてるのか分かる。
「お前さ、意識しすぎ」
「な、何がよ!」
「たかが回し飲み、どうこうなるわけでもあるめぇに。それともばっちぃとか思うわけ?ばい菌の心配とか?それだったら流石の俺もヘコむぞ………」
「べ、別に私は………ふん!」
意を決してってのは大げさかも知んねぇが、ババアは顔を赤くしながら酒をあおった。
ったく、一体いくつだって話だ。あれだろ?間接キスってのが恥ずかしかったクチだろ?そんな、中学生じゃねーんだからよ、間接チューの一つや二つなぁ。俺だって、それくらいなら今まで何度もやってきてんぞ。男女問わず。回し飲みとか罰ゲームとかで。
「さて、かけつけ3杯じゃねーが、お互い酒も入ったところで内緒のトークでもしようや」
この部屋には誰も入れないよう事前に全員に言っておいた。聞き耳も立てるなと強く言っておいた。もしこれを破れば、生まれてきたことを後悔させる辱めをしてやると脅しといたし。
「何も話すことはないわよ」
「まあまあ、そう言うなよ」
酒が入ったばっかじゃまだ口が柔らかいはずもなく。頑なな態度のババア。まあ、それでも喧嘩腰じゃなくなったのは面倒がなくていい。しかし、いつまでも喋ってくれないのはこちらも対処しようがない。
そうだな、最初はいきなり本題から入るんじゃなくて適当な話から入ろう。
「まずは、じゃあ……あ、お前、そういや旦那は?離婚?それとも死別?」
「いきなりで意味わからないし、不躾すぎるし、そもそも何であなたに私の事話さなきゃならないのよ」
「そうか、やっぱ離婚か。だよなぁ、こんな壊滅な性格してるんじゃあなぁ」
「勝手に決めつけるんじゃないわよ!」
「じゃあ死別?」
「………………」
あ、そっぽ向いた。やっぱ図星かよ、離婚だよ。
ニヤニヤと俺がプレシアを見やれば、それに気づいたプレシアが不機嫌そうに酒を呷った。
「クク、まっ、残念だなぁ。フェイトを見るに……ん?この場合はアリシアか?まあどっちでもいいや。ガキを見るに旦那さんもイケメンだったろうし。どんまい」
「ふん、勘違いしないで頂戴。あんな男、こっちから叩き出してやったのよ」
早くも酒の効果が現れたのか、少しだけ口が軽やかになったようだ。
てか効果出るの早ぇなぁ。こいつ、あんま酒飲み慣れてねーな?
「アリシアを授かったのが生涯最高の幸せなら、あの男と結婚したのは一生の後悔よ。私も研究のムシだったけど、あの男はそれ以上。私たちを顧みないクズだったわ」
「結婚までしといてよく言うぜ」
「アリシアが出来たからよ。だから結婚。お互い、体裁を守っただけのようなもの」
そしてまた一飲み。ダン、と瓶をベッドの縁に叩きつけ───
「まさか人生のたった一度の誤ちで子供が出来るとは……いえ、アリシアには何の罪もないし、むしろ嬉しかったけれど……あー、もう!」
──そして、またすぐさま取ると呷る。
おいおい、ピッチ早ぇなぁ。大丈夫かよ、顔が猿のように赤くなってきてんぞ。
しっかし、体裁を守っての結婚ねぇ。空っぽな幸せの代表例だな。プレシアもクズだが、その別れた旦那もこいつが言うようにクズだな。要は、見た目だけはいいコイツとヤるだけヤッて、ガキが出来たから結婚したけど研究優先してたって事だろ?こんなイイ女より研究優先するとか、元旦那はチンコついてんのか?いや、ついてたからデキちゃったんだろうけど。
「まあ、なんだ、そう気にすんなよ。お前ならまたすぐいい男が見つかるって。ああ、なんだったらその元旦那、俺がぶっ殺してやっからよ?」
「ふん、余計なお世話よ。それにあの男はもう死んでるわ」
「え?もしかして直々にヤっちゃった?流石だな」
「違うわよ!過労死したって風の噂できいたの。ふん、自業自得ね」
同情して優しい言葉を掛けても帰ってくるのは不敵な言葉。可愛気がないと言えばいいのか、強いと言えばいいのか。
「……というか、何で私はあなたにこんな話してるのよ。ああ、もう忌々しい!」
渋面をしてまたグイっと……って、だからピッチ早ぇって。ビールじゃないんだからよ。
「私の事よりあなたよ。……そうよ、あんたよ!いきなりあの人形と一緒にやって来たと思ったら、人の庭で滅茶苦茶やりたい放題!我が物顔で荒らし、かき乱して!一体何がしたいのよ!そもそも、あんた何者!?」
今更だなぁオイ。しかし、まあそれも当然か。会った当初なんてまるで虫けらを見る目で見てきやがったからな。虫に興味なんて沸かねーだろう。けどここに至って、か。
前回の押し付けがましい俺の意見に、多少は同意があって態度を軟化させたか?それとも単純に酒の効果か?
「さて、何者っつわれてもな。ひょんな事からフェイトに会った、善良な一般紳士?」
「寝言は寝て言いなさい」
「ひっで。まあぁ、んじゃお返しに俺の過去もちったぁお喋りしてあげようかね」
自分の身の上の事を喋るなんてガラじゃねーけど、しょうがねぇか。向こうさんがせっかく俺に興味を抱いてくれたようだし。ここいらで俺の事を話せば、もっと俺の事を信用してくれて、相手もさらに口が軽やかになるだろ。
「よーし、何からいくか。俺という空前絶後な存在の誕生の瞬間から語るか、それとも学生時代の毒いちご100パーな青春物語を語るか、はたまたあのアルハザードなんてトコのクソ野郎のせいでこんな魔導師生活する事になっちまった愚痴を──────」
「ちょっ、ちょっと待って!」
「決めた!まずは俺が初めて人の死を実感した感動話から。題して『最初で最後の涙~その向こうに~』!あれは丁度3年前だった、俺の大好きだった婆ちゃんが─────」
「待てって言ってるでしょ!!」
ハタかれた。
「なにすんじゃボケ!これからお前の同情心を煽るため、どれだけ人の命が尊いか語り聞かせるところなのに!そして、それに感銘を受けたお前は正直な心情を語るっていう、そんな流れだろ今のは!空気読めよ!つうか、マジで感動話なんだって!俺だって今思い返しただけで…………うぅ、婆ちゃん」
「どうでもいいわよ、そんな話なんて!それより、あんたさっきアルハザードって………」
あん?アルハザード?おいおい、そんなトコに反応したわけ?それで俺の感動話を無視しやがったと?なんだそれ。いらんとこに反応すんなよ。しかも早々と、こんな時だけ無駄なく。不要な巻き巻きだ。うわぁ、なんか冷めた。酒飲も。
「んん、一度飲んだからこの強さに慣れたか?すんなり飲めたな。胃はかなりファイヤーだけど。けど中々美味い」
「人の、話を、聞きなさい!」
バッと酒を取り上げられた。さらに俺の胸ぐらを掴み上げ、こちらにずいっと顔を近づけてくる。
「どういう事なの!なぜ魔法世界出身でもないのに『アルハザード』を知ってるの!それに、その言い草じゃまるでソコに行った様な…………」
なんだろう、このババアの顔は?戸惑っているような、何かを期待しているような。
「離せコラ。つうか顔近ぇよ」
「……………」
ダメだこりゃ。俺が何か話すまでこいつはずっと、この鼻と鼻がくっつきそうな至近距離でガンつけ続けるだろう。
いったい何なんだ?アルハザードが何さ?なんでそんなにリアクション強ぇんだよ。
「分かった、わぁーったよ。話しゃいいんだろ。で、アルハザードがどうしたよ?」
「どうしたよじゃないわよ!スズキ、なんであんたみたいな奴がアルハザードを知ってるの!」
「知ってちゃ悪ぃんかよ。つうかご推察の通り、行った事もあんよ。………ちっ、今思い返すだけでも忌々しい!あそこに行かなきゃこんな魔導師なんてモンにもならなくてすんだし、せめて2度までにしときゃ理なんてクソも生まれて来なかったろうし。ハァ、あの男、やっぱ今度絶対一発ぶん殴ってやる」
出来るならガキの頃の俺も殴りてぇ。いくら今と変わらないほどの純情少年だったからって、なんの危機感もなしにあんな店入るかフツー?てか、タダだからって本を貰うなよ。今考えりゃ怪しさMAXだ。
「魔導師に、なった……?」
「そそ。なんかよ、魔導書?それの主になったわけ。えーっと、何つったっけ………ああ、夜天だ、夜天の書。まあ、俺が貰ったのはオリジナルの贋作らしくてさ、そのアルハザードの店主?みたいな奴がコピったんだと。いやよ、別にそれだけなら増刷ってことでおかしくねぇだろうけど、ご丁寧に守護騎士っつう魔導生命体までコピるんだからタチ悪ぃ」
「ほ、ほんとなの?」
「マジだって。俺が連れてきた奴らがそう。ホラ、お前とガチンコした奴、あいつも魔導生命体だぜ?確か融合騎、っていってたっけ?いや、ダッチワイフ型デバイスだっけ?まあどっちにしろ、まったく、びっくりだよ。魔導師ってのは命までコピれるのか?いや、その能力もコピってるんだから、命っつうより存在そのものをコピーか?すげぇのな、魔導師って」
一つの意思を持つ存在を肉体付き、能力付きでコピーって、驚嘆に値するなんてレベルじゃないだろ。どう考えても、地球の科学力じゃ無理だな。
俺は一息つくため酒をクイッと呷り、次いで懐のタバコに手を伸ばそうとした所でババアの呟く声が耳に入った。
「………不可能よ」
「あン?」
「確かにデバイスを大量生産する事は可能よ。けど、融合型デバイスとなると話は別。いくら元があろうともそう簡単に複製なんて出来ない。しかも、5人の魔導生命体付きですって?今の魔法世界の技術力でもそんな事出来ないわ」
「ん?あれ?でも、それだったらアルフはどうなるんだよ。あいつだって魔法の技術で造られた生き物だろ?だったら魔導生命体じゃん」
よー分からんけど。
どっちにしてもアルフだって今の地球の技術じゃ生み出せねー存在だろ。もし生み出せるのなら、そこいらの野良猫や野良犬とっ捕まえて尽く擬人化させるな。メス限定で。
「確かに根本は同じね、どちらもいわば命の創造。アルフには素体があり、そっちには原本があった。けど、この場合その成り立ちがまるで違う。そうね………アルフが『材料を使って作った料理』なら、あなたの騎士たちは『料理から料理を作った』って所からしら。それも、味、形、大きさ、食感、匂い、後味、果てはそれを食べた後の感想まで寸分違わず基と同じ料理。───────そんなの在り得ない。成し得るハズがない。ともすれば、それは無から有を生み出す事より難しいわよ」
さっぱり分からん。何言ってんだこのおばさん?いや、何となくすごいんだってことはニュアンスで伝わったけど…………ふーん、やっぱあの男ってすげぇんだ。ちょっと感心。殴るけど。
「それに夜天の書ですって?私の記憶違いで無いなら、ロストロギア指定されてたはず。そんな物を複製出来るなんて…………」
ババアはぶつぶつ何か言ってる。だが、先ほどまで暗かった顔は内からふつふつと喜びがこみ上げてくるかのように変化していく。
「やっぱりあったのね、アルハザードは………ああ、アリシア。やっと過去を取り戻せるのね!」
一体なんなわけ?てか、いい加減手ぇ離せや鬱陶しい。酒が飲みにくいんだよ。
「スズキ!!」
美女に、至近距離で、酒の混じった唾を飛ばされながら、酒臭い息を吹き付けられ、大声で呼ばれるという体験は初めてだな。
良いか悪いかは……まぁ半々だな。
「教えなさい!アルハザードの場所を──────」
しかし、うるさい。いきなりテンション上げんな。そして何より俺に命令すんな。
再度、おもむろにババアの口に酒を突っ込んだ。
「ガボッ?!」
「喧しい、黙れ、そして飲め」
「んー!?んー!?んー?!」
必死に瓶や俺の体を突き放そうと抵抗するが、その程度の力で俺がどうこう出来るはずもなく。
俺はプレシアの後頭部に手を回して固定し、瓶を思いっきり傾けてやる。
「たく、一人訳も分からずハイになりやがって。こちとら欠片も意味が分からねぇっての」
「んー!?んー!?………」
「これだから自己中は嫌なんだよ。あ、俺はいいんだよ?けど、他人の自己中は見てて腹立つんだよなぁ。ぶっちゃけ死んでほしいくらい」
「んー………」
「いいか、もちっと事を順序だててだなぁ…………ん?どした?」
「…………」
返事が無い、ただの屍のようだ……………て、やば。ちょっと加減間違えた。
プレシアの口元から、喉を通りきらなかった酒がダラダラと胸元に滴り落ち、そのでかいモノと服が濡れ濡れになっていた。
ちょっとエロい。
ではなく、取り敢えず瓶を口から離してやる。
「あ~あ、こんなに飲みやがって。一気に少なくなっちまったじゃんよ」
「ごほっ、……わ、私の、心配を、しなしゃいよ!ごほごほっ……」
「ダイジョウブデスカー?」
「大丈夫ひゃない!」
でしょうね。顔がマグマのように赤いぞ?局所的な紅葉の季節か?てか、なんか最後のほう言葉がおかしくね?
「私をアル、アルハザードり連れていひなはい!」
舌が回っていない、ただの酔いどれのようだ………………て、もう酔ったのかよ!強い酒を一気にヤってぶっ倒れるってなら分かるけど、こいつ普通に酔いやがった。しかも、これはまた定形例のような酔い方したな。下戸っつうか、即効性体質?
しかし、こりゃいい。当初の思惑通りだ。酔いってのは人を饒舌にするからな。ある種、酔ってる状態ってのは『無意識』に近い。そして、その無意識こそが人間の真実を出す。
俺はここぞとばかりに質問を投げかける。
「なんでそんなにアルハザードに行きたいんだ?」
「うるひゃいわね。あ、あんたは大人しく私のいう事に従えばいいのよ」
「まだ足りんか」
もう1回酒を突っ込んだ。そして仕切り直し。
「なんでそんなにアルハザードに行きたいんだ?」
「ごほっ、うぃ、う~………アリひアを生き返らせりゅのよ!」
今度は素直に答えてくれた。重畳だ。
それにしてもぶっ飛んだ答えが出てきたな。
「生き返らせる?あそこでそんな事出来んのか?まあ、確かに生命体は簡単に作り出してたけど。ああ、だからあんな液体の中で死体を安置させてたわけか」
にわかには信じ難い。馬鹿じゃねーかと頭を疑う。普通だったらな。でも『魔法』という要素が加わると、これが簡単にゃあ馬鹿に出来なくなってくる。
「…………ふ~ん、まあいいや。じゃさ、ジュエルシードだっけ?あれを集めてた目的は?」
「アルハ……う゛っ……アルハじゃーじょに行くためよ!」
おい、今吐きそうになった?だから段階の進行が早いって。もうちょい頑張れ。
「は?あそこに行くのにあんな訳も分からねぇ石っころ必要ねーだろ。俺、普通に入れたぜ?」
「そ、んなの知りゃな、い。アルハじゃ~どにちゅいては文献しか残ってにゃいんだから。伝説にょ地……う、失われた秘術が眠る地って言われてる……うぇ」
「ふ~ん、あの店がねぇ……」
「店?なにイッてるのバカなの死ぬの死ねば?」
人を罵倒する言葉だけはちゃんと言えるのな。
ともあれ、ここに来て漸くこいつの執念の根源が分かった。
死者蘇生。
ゲームとかだったら1コマンドでポチっとするだけで出来るそれだが、現実じゃそうもいかず。リアル魔導師でさえ、どうやら例外ではないらしい。こいつが、そんな文献にしかないような伝説を頼るくらいだからな。
伝説を追い求める、死者を蘇らせる……いいねぇ。そういう馬鹿、俺は嫌いじゃねぇ。現実思考な俺だけど、何も男の浪漫を持ってないわけじゃない。
「私はーアリシアをー蘇らせりゅー!!」
うがーと無意味に大声を上げながら、さらに酒を飲むババア。
ゴキゲンだね。うん、でも、そろそろその舌足らずな口調も可愛さ通り越して殴り倒したい気分だぞ?てか、『酒を飲んだらキャラが変わる』なんて、そんな安易に簡素にありがちなキャラ設定すんなよ。夜天とかシグナムなら兎も角、ババア相手じゃ全然萌えん。逆にそれがいいって奴もいそうだけど。
ともあれ、ちっとばかし飲ませ過ぎたか。ちょいちょい吐きそうな気配が窺える。
まっ、次で聞きたいことは最後だ。このまま上機嫌のまま全部ぶちまけて貰おう。─────と、その前に。
《よぉ、ロリーズ、聞こえっか?》
《ん?この気持ち悪い念話はやっぱ隼か?やべ、吐き気が》
《はて?この気色悪い念話はやはり主?うわぁ、鳥肌が》
《………今は俺も酒が入って多少なりともゴキゲンだから聞き逃してやる》
久しぶりの登場にも関わらずかましてくるロリーズ。
このクソガキどもとも一度はっきり白黒つけといた方がいいな。大人をナメすぎだ。
《それで、ヘタレチキン地球代表が今更何用ですか?》
《まったくだ。フェイトが傷心してるってのに、肝心な時に居やがらねぇし。死ねよ、役立たず》
落ち着け俺。奥歯に力を入れて耐えろ。いちいち反応せず、こちらの言いたい事だけ伝えようぜ俺。
《そのフェイトだ。いいか、今すぐババアの部屋の前に連れて来い。入っては来んな。ドア越しに中の声を盗み聞きさせろ》
俺は向こうの返答を待たず、念話をブツ切りした。これ以上あいつらの声聞いてっと自分が抑えられなくなりそうだから。
気を落ち着かせるため2、3度深呼吸し、改めて目の前にいるババアへと向き直る。
ババアは………なぜか泣いていた。
「うう、アリシア、何で死んじゃったの……いえ、私が悪いのよ。私があの子を一人にしたから……」
「………うざ」
と、そんな正直な感想を言ってる場合じゃない。フェイトが来る前までに、こいつの本心を吐かせるとこまで持っていかなきゃな。
「おい、ババア、ちょっと聞─────」
「誰がババアよ!プレシアって呼んで!」
「ハァ…………OK、プレシア。ちょっと酒置こうか?これが最後の質問だかんよ」
俺はババアから酒を取り上げる………て、うわぁお、もう1杯分もねーじゃんか!?ハァ、最悪。
結局俺はあんま酔えなかったが、まあ、話を聞く分にはいい感じだ。そう納得しとこう。
少ない最後の一口を飲んでしょげている俺だったが、ふと裾が引っ張られる感覚で顔を上げた。
目の前には、何故かこちらもしょげた表情のプレシア。………いや、なんでよ?もしかして、最後の一口を俺が飲んだから?
「最後なの?」
「あン?」
「私とお話してくれるの、最後なの?」
…………えーっと、とりあえずまずは『お話が最後じゃなくて、質問が最後』と突っ込んでおこう。次に『お前誰よ?』と突っ込んでおこう。
いい年こいたババアが上目遣いするな。目を潤ますな。酒のせいかも知んねぇけど、頬を染めるな。さらにこれも酒のせいかも知んねぇけど、幼児退行したような口調はやめろ。
こいつも結構ストレス溜まってんだろうなぁ。男もいねぇようだし。ストレス以外のモンもいろいろ溜まってんだろうよ。寂しさとか。性欲とか。
俺はババアを少しでも正気に戻すべく、先ほど空になった酒ビンで頭を殴った。わりかし、加減抜きで。
「づっっ~~~!?い、いきなり何するの!それはシャレにならないわよ!」
「ふむ、少しはマトモになったか」
少し惜しい気もしたが、流石にあんな状態じゃ真面目な話が出来ねぇ。てか、調子狂う。
「改めて質問だ。プレシア、お前はフェイトの事をどう思ってる?」
やっと言えたよ、この質問。
あの地下でも一応こいつの心情は聞いたが、今は酒が入ってっからな。それに今は俺と2人っきり。もしかしたら、本人の前じゃ言えなかった事も今なら言ってくれるんじゃないかという期待がある。隠された本心ってやつ?実はフェイトの事も実子と同程度くらい大好きって事も─────
「忌々しくて憎い子よ」
まっ、そうだろうね。そう簡単にはいかねぇよな。けど………ふん、まぁ、あの地下での反応よりはマシだな。怒り狂ってるわけでもなく、表情もさっぱりとしたもの。なによりモノ扱いせず、ちゃんと『子』と言ってるし。
けど、やっぱ根源はそうそう変わらないだろうな。嫌ってはいなくても、憎い対象だろう。あの地下でも言ったように、凝り固まっちまった気持ちはそれが偽物であっても真実と誤解させちまう。だから、きっと俺がどうこう言おうとこいつの気持ちは変わらない。
──────今の前提のままでいけば、の話だけど。
「じゃあよ、少し見方を変えようか。お前は過去を取り戻すっつったよな?それってつまり、アリシアが生きてた頃の生活をしたいってことでいいわけ?それとも、文字通り過去に戻りたいわけ?」
「どっちでもいいわよ。アリシアがいるなら……………う゛っ」
待て待て。この流れで吐きそうになんなよ。一応シリアス調なんだ、もちっと我慢しろ。
「そっか。なら、まずはその前提を一回白紙にしようぜ。『過去』じゃなく『今』、そして『未来』を見据えようぜ」
我ながらよく言う。『今』しか見てない俺が『未来』とは、ね。まあこれもプレシアの本心を見るための反吐だ。我慢して綺麗事を吐き散らそうか。
「…………なにが言いたいの?」
「今、この現実で、アリシアを生き返らせて、お前の病気も治して、さらにフェイトとアリシアを姉妹にして、さらにさらにアルフをペットにして、こんな辛気臭ぇとこは売っ払ってどっかに一軒家でも建てて、そして家族4人で幸せな未来を築く。最ッ高なハッピーエンドじゃねーかよ」
「───────」
プレシアはまるで無垢な少女のように目を数度パチクリし、しかし次の瞬間には世の中の辛い部分ばかり見てきた老婆のような渋い顔になった。
「そんなものが、それこそ現実で叶うわけが─────」
「黙れ。叶う叶わないはお前が考えることじゃねーんだよ。お前が考えなきゃなんねぇのはよ、その現実がやってきた時、ちゃんとフェイトも幸せに出来るかって事だ」
そう言った瞬間、プレシアの顔が戸惑いのそれになった。
「む、無理に決まってるじゃない!この憎しみはそんな簡単に拭いされるものじゃない!」
「本当にそうか?何も憂う事のない現実で、大好きなアリシアとそっくりな子が幸せそうに笑うんだぜ?なら、想像してみろ!アリシアとフェイトが2人並んで上目遣いで『ママぁ』って言ってる姿を!」
プレシアは少しの間何かを考えるようにボゥと上の空になったが、程なく真っ赤な顔を両手で包み込むとニヘラとだらしない笑みを浮かべた。
まったく、何だかんだいってやっぱこいつは母親だな。まあ、こういう正直な反応を見せるのは酒のお陰だろうな。素面じゃ絶対ありえんだろうよ。
プレシアはそのまま数秒だらしなくニヤけていたが(手で隠しているつもりのようだが、まるで隠れていない)、ハッと我に返り、ゴホンと一つ咳払い。
「妄想の世界からお帰り」
「う、うるさいわね!」
「で、どうだったよ。お前の妄想の世界でフェイトは笑えてたか?お前と一緒に幸せそうによ?」「……………………」
プレシアは先ほどまでの酔いどれ変態ちゃんのような表情から一転、冷め切ったような表情になった。
「──────叶わない現実よ」
「テメエが決める事じゃねぇ」
「──────憎しみは消えない」
「テメエ程度が持つ憎しみなんて時が解決する。いや、それより先にお前のガキ2人が吹き飛ばしてくれるだろうよ」
「──────私は……」
だんだんと沈み込んでいく表情と声色。それを聞き俺は─────
「だぁああああ!うだうだうだうだ、うるっせえよ!」
だから、俺は気が長ぇほうじゃねーんだよ!
プレシアの胸ぐらを掴み引き寄せた。ガツンとお互いのおでこがぶつかる音を聞きながら睨み付けた。
「人がテメエの気持ちをちゃんと確認してやろうとわざわざ我慢してやってんのに長々と!もう知るか!てめぇは黙って幸せになれ!そして、なんも考えずにただフェイトを幸せにしてろ!てめぇの意見、気持ち、その他諸々却下!それでもまだ何かぬかすようならいっそ死んじまえ!それも俺が許さねぇけどなあ!」
もう無理。もう限界。酒の効果も相まって頭痛ぇ。これだから年寄りの話は嫌いなんだよ!ぐだぐだぐだぐだと!
簡潔に要件をまとめ、言いたい事、思ってる事は人の目気にせずぶっちゃけりゃいーんだっつうの!
俺もいい加減、ストレスの限界。
「な、何を…………そう簡単に人が幸せになれるわけない!だから、私は今!」
「なれる!つうか、してやる!」
何遍も言ってんだろ!
俺は、俺が満足したいんだよ!テメエが幸せになれるなれないとか、そんな事、テメエが决めんな!いや、決めさせようとした俺が間違いだ!そも、そんな選択権すりゃテメエにはねえんだからよ!
一番重要なのは、俺がどうしたいか!テメエがどうなったら、俺が幸せになれるかだ!
「いいか、よく聞け!もう後悔や諦めや不幸自慢はお腹いっぱいだ!何もかんも知ったこっちゃねえ!メンドくせーんだよ!アリシア?クローンなフェイト?ジュエルシード?アルハザード?知るか!もうテメエは余計な事考えんな!黙って見てろ!」
「な、何を言って───」
俺はプレシアの胸ぐらを掴み、お互いの唇がくっつくんじゃないかと言うほど引き寄せて言い放つ。
「テメエの幸せは俺が作る!フェイトもだ!これから先、俺がテメエらを一生幸せにしてやるよ!」
「─────────」
…………後から思えばかなり大胆な事言ってるような気もするが、今の俺にはこれが最善に思えた。
そうだよ、もともとこいつの意見や気持ちなんて関係なかった。俺がそうしたいならそうすりゃいいんだよ。
俺は掴んでいたプレシアをぞんざいに離し、タバコを求めて手を懐に。そんな俺にポツリとプレシアが呟いた。
「スズキ………あなたは一体なにを求めてるの?なぜ、あなたがそんなに私とフェイトの事を気に掛けるの?ねぇ、スズキ、なんで─────」
□■□■□■□■□
回想終了。そして冒頭に戻る、と。……………俺、自分で思ってる以上にホンキ馬鹿?
いや、こりゃねーわ。なんだよこのやり取りは?突っ込みどころ満載過ぎる。支離滅裂。いくら酒に酔ってたからって、これはあまりに酷い。これなら思い出さないほうがよかった。
「まっ、凡そ言いたい事は言えたし、聞きたいことも聞けたからいいんだけどな。明確にやることも定まったし」
一部、言わなくてもいいようなハズい台詞を言ったような気もするが、その辺は大丈夫だろう。酒のお陰で記憶が飛ぶってのはお約束だ………現実じゃあ確立は2割くらいだけど。
まあ、取り合えずまずは自分自身が忘れよう。現実逃避だ。
(さて、今日は疲れたし、俺もプレシアのようにそろそろ惰眠を貪るか)
てか、もうこのままプレシアの横で寝ちまおうかなぁ。うまい具合にこのベッド、セミダブルだし。
言っておくが、決して下心はないよ?あーんな事やこーんな事をプレシアが寝てる間にしようなんて、そんな非紳士な事をまさか俺が、ねえ?
むくむくと湧き上がるナニカをギリギリの所で抑えながら、イヤらしい笑みを携えてプレシアの横に入る──────その時になって気づいた。
プレシアの口元にある『モノ』に。
「ね、寝ゲロしてるぅぅううう!?!?」
ダメだろ!それは致命的だろ!そのビジュアルで、その穏やかな寝顔で、その汚物は完全にアウト!百年の恋も冷める状態だぞ!!
「………………別の部屋で寝よ」
流石にそんな有様のプレシアの横で寝るなんて事は出来ず、俺は粛々と部屋を出た。
けど、まあ、結果的にはそれが良かった。俺はある事をすっかり忘れていたのだ。
扉を開ければ、目の前に金髪少女の姿があった。
「あ、フェイト」
そうだった。中の会話を聞くよう言ってたんだ。まるっと忘れてたZE☆
しかも、そこにいたのはフェイトだけじゃなく、ロリーズにシャマルにアルフ、さらに喧嘩していたはずの夜天、シグナム、ザフィーラの姿も。
「よう、御揃いで出迎えご苦労。つうか、シグナムと夜天とザフィーラはひっでぇ格好だな。さぞ楽しかったんだろうな。こちとら馬鹿みたいに長~い話を─────」
ドンッと腹にタックルされたお陰で言葉を最後まで言えなかった。ちょっと顔を下に向ければ金髪の下手人が俺の腹に顔を埋めていた。
「あのなぁフェイト、抱きついて来るのは構わねーが、その勢いはよせ。特に今は酒入ってっからキツいんだよ」
「ぐすっ……ありがとう、ハヤブサ……ありがとう……はやぶさぁ!」
「……………ふん、意味分かんねーよ」
何に対してのお礼だよ。それに、その泣いてんのに笑ってる顔はなんなんだよ。気持ち悪ぃな。俺はなんもしてないっつうの。
俺はただプレシアと秘密のお話をしてただけで、お前が勝手に盗み聞きしたんだろうが。
「たく、まだ泣くのも笑うのは早ぇっての」
そう、まだなんだよ。
やることは定まってる。訪れるハッピーエンドも決まってる、てか成す。けど、その為にはまず見つけなきゃなんねーんだよなぁ…………『あの店』を。
俺の、こうなっちまった原点を。そしてそこが、きっと終着点でもある。
俺は腹の辺りにある綺麗な金髪を優しく撫でた。
さて、俺が笑えるハッピーエンドはもう間近だ!
次話へつづく!!
「ところで主」
あれ?終わらない?
「ちょっと聞きたい事があります」
なんで騎士の皆々様は殺気だってらっしゃるのでしょうか?
「大丈夫です、ハヤちゃん。時間は取らせません」
その笑顔がかなり怖ぇぞシャマル?
「先ほど小耳に挟んだ事で問いたい所があります。特に『俺がテメエらを一生幸せにしてやるよ!!』という部分に」
なるほど。盗み聞きしてたのはフェイトだけじゃないわけね。つうか、なんでそんくらいで怒るかな?たかが一つの言葉だろう?
「あんな終わってる糞ババアの何処に惹かれる要素があんだよ?この熟女マニアがぁ」
「あんな垂れ乳で枯れ乳の年増のどこがいいんだか。よろしい、ロリっ娘の良さを判らせてあげましょう」
「ヴィータ、理、母さんはすっごく若いよ!私なんかより全然!」
クソロリーズ、お前ら、プレシアに聞かれてたらぶち殺されてっぞ?
それとフェイト、そのフォローはちょ~っと苦しいぞ?涙を誘う程に。
「う~ん………なんだろう、なんかこう、ムッとするっていうかイラってするっていうか………。取り合えず隼、一発殴らせてよ」
いやいやいや、アルフよぉ、お前が一番意味分かんねーよ。なんだよ、その『取り合えずビール』的なノリは?お前、きっと場の流れに乗っかって言っただけだろ。皆がするなら私も、みたいな?一番タチ悪ぃぞ。
もうこいつらの考えてる事が分からない。分かりたいとも思わないけど。あれか?つまりは喧嘩売ってるって事?ちょっと今は買いたくないかなぁ。頭痛いし。
(ハァ………………ここは綺麗に終わっとこうぜ)
腹減ったなぁ。そういえば最後に飯食ったのいつだっけ?てか、風呂も入ってねーよな?頭、痒ぃ。風呂入りてぇな。そういやこの家の風呂ってデカいんかな?入りてぇな、風呂。風呂っていいよな~。風呂風呂風呂。
よし、これだけ伏線張っときゃそろそろエロいお風呂イベントくるだろ。
まあ、現実逃避はともかくだ。
(たまにはシリアスで終わろうぜ?いい雰囲気で終わろうぜ?)
どうやっても綺麗に終わらねぇな。
いつも感想ありがとうございます。執筆の励みにしています。
無印編も終盤です。8月中には終わらせようと思っています。
ここ数話、ちょっとだけシリアスな感じも入りましたが、これから先はまたコメディ色が強くなります。プレシアも例に洩れずリリックに壊れていきますのでw
それとプレシアの離婚話のくだりは創作です。調べてもちょっとよく分からなかったので。