フリーターと写本の仲間たちのリリックな日々   作:スピーク

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4~5年前の作品なのにも関わらず、覚えていてくださっている方がいて驚きです。そして嬉しい限りです。
基本は前の作品の加筆・修正を投稿ですが、まるまる1話書き直しもあるので暇つぶしとして片手間に楽しんでいただければ幸いです。


02

本日は日曜日。

世間は休日で、俺もバイトのシフトが入っておらず一日休みだった。こんな日は本来なら職安に行くかパチ屋に戦いに行くかするのだが、今日の俺は何を思ったのか家で読書。

朝10時に起き、近くのパン屋で大量購入しておいたパンの耳を朝食にし、11時頃から読み出したのだった。我ながらのアンビリーバブル事案だが、たまにはそういう日もある。

別段、小難しい本を読んでいるわけじゃない。主に漫画本、たまに就職についての教本をパラパラめくる程度。

 

そんな調子で時間を潰していたが、肩の凝りや目の疲れを感じた始めた午後2時頃に読書終了。

それから遅い昼飯を取り(パンの耳の卵とじ)、そのあとは……ああ、そうだ。何を思い立ってか掃除を始めたんだ。アンビリーバブル2だな。掃除機かけて、窓拭いて、溜まっていた洗い物を片付けて───そこで見つけたんだよ、あのアルハザードとかいう店の人に貰った古本を。

 

本棚の中ではなく、その上に無造作に置いてあったそれ。尋常じゃないほどのホコリを被っている。

俺はぱんぱんと叩き、そのホコリを取ると、そこにはあの自己主張全開の剣十字が見て取れた。ただタバコのヤニによるせいか、全体的に黄色くなってしまっている。

俺はタオルをぬらし、よく絞った後本を拭いた。見る見る内にタオルは汚れ、片や本は面白いように綺麗になった。まるで古本に見えない。

 

俺は綺麗になった古本を棚の中に戻す───ことはなく、それを鞄にいれた。また、もう読まなくなった漫画本も数冊入れていく。

向かう先は古本屋。

どうせ置いてても読まない本だし、本棚もすっきりする。さらに僅だろうけど金も出来る。まさに一石二鳥。

と言うわけで、古本屋に向かう道を自転車で走っていたのが大体3時すぎ。

 

そして──街が木の根に覆われたのは丁度その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ふぅ~~」

 

それは突然のことだった。

俺が自転車を押して横断歩道を渡っていたとき、いきなり大きな木の根が道の下から一気にせり出してきたのだ。

俺はなすすべなどなく、運と位置が悪かったのか、その出てきた根っこの上に乗ってしまい地上から約30~40mくらいの所まで来てしまった。

周りを見渡せばこれまた木。木。木。

下を見下ろせば唖然としたり、泣いたり、逃げ惑う人々。そして突如出てきた木によって壊れた道や建物。

 

取り合えず俺はポケットに入れていたタバコを取り出し一服。空が近けぇなぁオイ。

 

「なんてしてるバヤイじゃねぇだろ!」

 

悠長に余裕ぶっこいてモク吹かしてる場合じゃねーよ!?ナニコレ?

 

「なんでコンクリートジャングルがいきなりマジモンのジャングルに様変わりすんだよ!?地球はそこまで酸素不足か!?」

 

いやいやいや、なんなんだよマジで?

 

「そういや俺の自転車は……うぉ!?木と融合してんぞ……マジかい」

 

古本が入った鞄は肩にかけていたので無事だったが、自転車はタイヤがとれて近くの木と融合していた。

最悪だ。まだ買ったばかりの新品だったのに。1万2000円もしたんだぞ。本を売りに行こうとしてこれか?古本たちがどれくらいの値段で買い取って貰えるかは分からんけど、絶対に損だ。

俺はため息一つを大きく溢し、改めて周りを見る。

街はコンクリート&ウッドジャングルといった様変わりを遂げ、下々の人は慌てふためいている。唯一、この青い空だけが嫌味なほどいつも通り。

 

「ハァ……本当に何がどうなってんだよ。もう訳が分かんねーての。取り合えず地面が恋しいので降りたいが……こりゃ一人じゃ無理だな」

 

梯子も縄も階段もない木を降りられるほど、俺は田舎育ちではない。いや普通の木ならまだしも、ジャックさんが昇るようなこの大木は無理だろ。ここは消防機関にでも電話して助けを呼ぶほかない。幸い、携帯がジャケットのポケットに入っている。

俺は携帯を取り出し119を押そうとし、そこで遠くの方で消防車のサイレンの音が鳴っているのが耳に入った。

 

「まあ、街がこんな有様になったら呼ばなくてもそりゃ出てくるわな。そんじゃ俺は落ちないよう気をつけながらこのまま待つとしますかね」

 

ロック(ウッド?)クライミングの経験なんてない俺が、こんな高い所から一人で降りられるわけもない。なら下手に動かないのが吉。

レスキューは先に大きな被害のある所に行くだろうが、数時間くらいしたら来てくれるだろう。また、もしかしたら下にいる一般人も何かしらの手段を講じてくれるかもしれないし。

いきなり街が緑に覆われた原因も気になるが、考えた所でどうこうなるわけでもなし。その辺は研究者様にでも任せときゃいい。まあ取りあえず携帯で写メだけ撮っとこ。

 

(数時間経っても助けが来そうにない場合はこっちから動かないといけないだろうけど、それまでは気長に寝て待つ────あ?)

 

と、俺が悠長に事を構えていたその時。視界の隅に桃色の細い光が何本か横切った。

信号弾?花火?発炎筒?それともただの見間違い?

そう思った瞬間、次は先ほどと同色ながら一回り以上図太くなった光の線が空を横切っていった。その光線は真っ直ぐ進み、少し遠くに見える一番太い木にぶち当たる。

 

(植物異常発生の次はスペシウム光線か?けど残念、もう驚いてやんねーよ。ハァ、今日は一体どこまでふざけた日───)

 

次の瞬間、そんな余裕な感想を抱いている場合ではなくなった。

何か知らんが、いきなり根っこが動き出しやがった。見れば辺りの根っこもウネウネと動いている。───て言うか、消えていってる!?

 

「お、おい、待て待て待て!なんでそうなる!?それは不味いだろう!」

 

余裕こいて寝そべってた俺も、流石にこれはテンパる。

何故いきなり消え始めてしまったのかは分からんし、この際どうでもいい。問題は別のところにある。

ここは地上から30~40m地点。

もしこの木の根っこが消えたら、その上に乗っている俺はどうなる?

 

「いや洒落ンなんねーよ!?が、頑張ってくれ根っこ!お前は強い子だろう?出来る出来る、頑張れば出来るって!自分を信じろ!消えるな!」

 

そうやって根っこにエールを送ってやるが効くわけもなく。

数十秒の応援の末、なんの頑張りも見せず足元の根っこは消滅してしまった。自然、空中に投げ出されてしまった俺。

そうなった場合、人が何の補助もなしに浮遊できるわけがないのは誰もが知っていることなので、俺も順当な未来を辿った。

つまり落下。

 

「どぅおういやああぁぁあぁあああぁぁぁあああ!?」

 

一瞬の浮遊感の後、内臓が押し潰されるような感覚と共にフリーフォール。近くの景色は素早く流れ、遠くの景色はほとんど動かない。

人は死に瀕すると走馬灯を見ると言うが、どうやら俺にそれを観賞する権利はなかったようだ。ただ、現実の景色が無情にも流れていくだけ。

 

(死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬダーーーーイ!?)

 

なんてフザケた心境だが、勿論現実はそんな軽口叩けない程ダイ・ハード状態だ。いや、かのウィルス氏でもこりゃ死ぬよ。だって掴まるとこなんてねーし、掴まえてくれそうな人もいねーんだぜ?

……いや、マジかよ。

俺はまだ就職もしてないし、結婚もしてねーんだぞ?まだまだ遊び足りないし、ヤり足りない。ていうかそもそも童貞だし!彼女すらいねーし!

なのに死ぬ?こんな訳の分からん事で?25歳童貞、超常現象によって死亡ってか?……ざけんな!俺ァ生きる!たかだか30~40メートル落下したくらいで俺がくたばるとでも……。

 

(いやいやいや、絶対絶命~~!?!?軽く人死ぬ高さだっつうの!!)

 

だあああ、クソ!こうなりゃ誰でもいい!神でも悪魔でも何でもいいし、好きなモンくれてやる。一生童貞でもこの際……こ、この際……ぐぅっ……ああ、いいよ!一生童貞でもかまわん!

 

「だから、誰か俺を助けやがれ!!!!」

 

助けを求める声にしては傲慢で、遺言にしては勇ましいその言葉。──勿論、俺はもうこの時点で死ぬだろうと思ってた。諦めてた。諦める事が嫌いな俺でも諦めてた。負け犬の遠吠えのそれと同じで言った言葉だった。

 

……だから。

 

《拝領──起動します》

 

どこからか聞こえたその声が、まさか俺の言葉に対する返答だとは思いもしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

来たる地面への衝撃に歯を食いしばり、その怖さに目を瞑った俺。

しかし、根っこが消えてから数十秒の時が流れたはずだが、未だその衝撃が身体を襲わない。もう十分に落ちきる程の時間は経ったはずなのに。

なぜだ?案外死ぬほどの痛みってのは痛くないのか?それとも記憶が飛んで、もう俺は死後の世界に足を踏み入れた?

……そうなのかも。きっと俺は呆気なく死んでしまったのだろう。せめて重傷でも生きたかったが、まあ、痛みがなかったのは僥倖だ。あれだけ願った結果がこれっつうのもちょっと納得出来ねーけど。

それにしてもなんだ?この誰かに抱きかかえられているような感覚は?もしや、これがあの世に渡る船に乗った時の感覚なのだろうか?だとしたら何とも乗り心地に良い船だ。渡し賃を六文以上あげられる快適さだ。7文くらい出そう。しかも何か超いい匂いするし。極楽極楽~。

 

「大丈夫ですか?我が主」

 

ふと、そんな声が俺の鼓膜を叩く。

俺は『は?』と思い、閉じていた目をおっ広げた。───眼前に女性の顔があった。しかもその女ときたら、俺がこれまで見たこともないような美女だってんだから驚きも一入。

 

「よかった、ご無事のようで。中々目を開けられないので心配しました」

 

さて、俺はこの現状をどう理解すればいいのだろうか。

落下して死んだと思われた俺の目の前には、何故かこちらを気づかう眼差しで見つめる女性がいる。その女性は俺の首の後ろと膝の裏に腕を回し、俺はいわゆるお姫様抱っこをされた状態。さらに俺の腹に女性のお胸様が当たってらっしゃる。ていうか豊満過ぎて乗ってるぅ!?

 

いやいやどうなってる?俺、あの世へと船で向かってたんじゃ……。でもこの女性の温かさは凄く現実味がある。

つまり、この場合のアンサーは。

 

「……もしかして、俺、生きてんのか?」

「はい。主の御身体も一切の無傷です」

「生きてる?ザ・生存?……イェア!!!」

 

初対面の女性の言葉を信じるのは普通なら危ないだろうが、今は別。死んだと思ったのに生きてると言われたんだ。この現実を信じないはずがない。信じたくないものからは目を背けるが、信じたいものはガン見する。こんな綺麗な女ならば尚更。

 

それに何故か……本当に何故かだが、この女は俺には絶対に嘘を言わないと思った。不思議とそう感じた。

 

「ああ、生きてるってスンバらしいなー。よォ、あんたもそう思わないか?」

「はい。本当に御身がご無事でなによりです」

 

いやいや、ほんとーに死ななくてよかった。やり残した事なんて一杯あるし、ヤリたいこともあるんだからな。

ひとまず、命の危機は回避できた事に喜ぶ。───で、次だ。

 

「んで、あんた誰だ?そしてなんで俺を抱えている?いやまあ、綺麗な姉ちゃんにボディタッチされんのは嬉しい限りだけど、流石にお姫様抱っこはなぁ……こう、不甲斐ないっつうか恥ずいっつうか。取り合えず降ろしてくれっか?」

「それは……あ!動かないで、どうかこのままで。落ちてしまいます!」

「は?」

 

そこで俺はようやく自分の現状を改めて把握した。

浮いてるのだ。この俺が。いや、正確に言えば浮いているのは俺を抱えたこの女性。地上から約20m付近で俺共々この女性は浮いているのだ。なんの補助も支えもなしに。

 

(なんじゃこりゃあああああ!?)

「失礼」

 

胸中で叫び、混乱の極みに置かれる俺の耳にまたも女性の声が聞こえた。ただ、その声は俺の抱えている女性のものではない。聞いた事もない、第三者のもの。

俺はその声が聞こえた方に視線を向け、そこで図らずもまた頭が混乱してしまった。

 

(浮いてる人がまだ他に4人もいるぞ……人間びっくりショーか?)

 

そう。浮いているのは俺を抱えた女性だけでなく、なんとその周りにも成人女性2人、幼女1人、成人男性1人が宙に浮いていた。

もう本当に訳が分からない。て言うか、まずあんたら誰だ?

 

「主。いろいろとご質問はおありでしょうが、それは後ほど。今はこの場を離れるべきです」

 

そう言うと、その女性は先ほどスペシウム光線が発射された方向を睨みつけた。瞳には明らかな警戒の色が窺える。また、他の4人も同様に表情が険しい。

俺にはその5人の心情など分かる筈もないが、今すぐこの場を離れたほうが良いというのは賛成。なにせ、下の人々から驚きの目やどよめきが此方に向けられているから。

 

「行くぞ、お前達。主、しっかりと彼女につかまっていてください」

 

そう言って皆は俺の意見は聞かず、空を駆けていく。

俺は訳が分からなかったが、取り合えず言われたとおり、俺を抱えている女性の体にしがみ付いた。その際、いろいろと柔らかいものが当たったが、まあ、不可抗力だ。いちおう、ご馳走様と言っておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はまず最初に礼が言いたかったのだ。俺を抱えてくれた、あの綺麗な銀髪の女性に。

地上30~40m地点からの落下。それも頭から。まず五体満足で助かる未来はなかった。だから俺もあの時、死ぬ事が目に見えていたから『死にたくない』と心の底から願ったのだ。そしてその願いを聞き届けてくれたのが件の銀髪の女性。

お礼の言葉というのが大嫌いな俺でも、流石に今回は低頭だ。それが例え空飛ぼうが、背中に人類ではありえないモノが付いていようが、ヘンテコな服着てようがまずは礼を───。

 

(出来る訳がねーだろ!)

 

礼も出来ないし、それを華麗に流せるほど人間も出来てない。

だって空飛んだんだぜ?ビューンって。しかも羽生えてんだぜ?バサって。……そんなのどうやって流せっつうんだよ?助けてくれた人は実は人外でしたってか?ンなファンタジー、流せるかよ!

 

「で、あんたら一体何モンだ?」

 

人気のない森の中、その開けた場所に降り立った俺たち。

そこで俺は降ろして貰い、礼を言うよりもまず開口一番にそう言った。そして初対面にも関わらず敬語もなし。こんな訳の分からない状況で言葉遣いに気を使えるほど、俺の適応能力は高くない。そもそも敬語が嫌い。

 

「我ら夜天の写されし意思とその騎士──主を護りし徒花。此度、主の願いを聞き届けるためここに参上仕りました」

 

そう言い終え、片膝つき頭を下げる5人。

訳の分からん言葉を言われ顔を顰める俺だが、続く言葉にさらに俺は混乱した。

 

曰く、魔法の本の写本の正式名称はデバイス・『夜天の写本』。機能はありとあらゆる魔法を蒐集し、保存する、いわゆる資料本。

曰く、5人はその本から出来た魔法生命体であり、守護騎士。うち一人、銀髪の女性は本自体の意思。

曰く、5人の目的は本の守護、及びその持ち主(つまり俺)に仕え、護る事。併せて魔法の蒐集。

曰く、5人の総称は守護騎士『ブルーメ・リッター』

曰く、俺、魔導師(魔法使い)になっちゃった。

 

曰く曰く曰く曰く───。

 

5人による約30分の事情説明を聞いた俺の感想は以下のものだった。

 

「いや、ふざけろよ」

 

なんだそれは?魔法、デバイス、騎士……どこの御伽噺だ?今は21世紀だぞ。てか、主?魔導師?俺がいつそんな職業に就いた。履歴書なんて送ってないぞ?魔法使いだぁ?それになるには後5年早い。

 

「いえ、決してふざけてなど。主が16年前、夜天の写本を手に取ったその時から、もうすでに契約は成っていたのです。そして今回の件でリンカーコアが覚醒し、正式に魔導師になられました」

 

16年前、あの店で本を手に取った時?……正確にはあの男に持たされたんだ!

まあ、結局俺はそれを持って帰ってしまったので何とも言えないが、それにしたって滅茶苦茶だ。そこに俺の意思はねーのかよ。

 

「……確かに俺はフリーターだ。仕事も今探している。だからって主とか魔導師とか、そんな訳の分からん職業に就く気はねー」

「は、はあ……いえ、別に主や魔導師が職種と言うわけでは」

「兎も角、俺はそんなものに就職する気はサラサラない。誰か他を当たってくれ」

「申し訳ありませんが、それは出来ません」

 

は?出来ない?なんでさ……ああ、そうか。口頭だけでは駄目という事か。

 

「後日、改めて辞表を出す。それでいいか?」

「そうではありません!」

 

じゃあ、何だっつうの。

 

「この契約はそう簡単に辞めることは出来ないのです。また他者への譲渡も然り。唯一の手段は主、もしくは書の消滅のみです」

「……文字通りの終身雇用というわけか」

 

なんて事だ。普通の会社ならその雇用は歓迎なんだが、この場合は死ぬまでと来たもんだ。

まさか俺が知らぬうちにそんなモノに就職してるなんてな。職業・魔法使いでご主人様、てか?───頭いてー。

 

「だけどなぁ……仮に俺がその役職につく事を認めても、現実はそう簡単にはいかねーぞ?」

 

まず頭に浮かぶのはこいつらを置く場所。

俺の1DKのアパートは一部屋10畳くらい。そんな中で俺含め6人住むって……無理ではないが、少々無茶だ。こいつらが他の場所で住むと言ってくれるなら問題ないが、この様子じゃそれもない。5人から『ずっとお傍に』って感じの雰囲気が溢れている。嬉しいような、うざったいような。

それに、よしんば一緒に住むとなっても次に挙がる問題は金。これ、いっちゃん重要ね。

しがないフリーターである俺の経済力など高が知れている。とても5人を養えるモンじゃない。

 

魔法とか主とか、正直そんな事はもうどうでもいい。結局、そんな非現実的な問題より現実の問題の方が大きいのだ。

 

(反面、利点もしっかりあるんだよなぁ)

 

まず一つは女性と同棲出来る事。女性と同棲出来る事!ど・う・せ・い!!

うん、これ、かなりデッケェよな?しかも女4人のうち3人は極上と来たもんだ。しかも俺を(義務だろうがなんだろうが)主と言って慕っている………ヤバくねーか?いろいろと。他2人は野生系マッチョ風な美男子とちんちくりんなガキだが、この2人以外との同棲は正直惹かれる。……訂正、臓物の底から至極惹かれる。ご近所の目が些か小うるさそうだが、そんなもんを気にする俺じゃあない。

で、次に金だ。

確かに現時点では余裕はねーけど、それは俺だけの収入源しかないからだ。ガキは兎も角ほかは見た目成人。その4人にも働いて貰えばけっこう懐が潤うんじゃねーか?

俺合わせて5人でバイトするとして、一人頭月に最低10万。うち、もし誰か就職したらさらに増し。家賃3万5千で光熱費、食費、その他諸々合わせても5人でしっかり働けば…………おい、結構いけんじゃねーか?

 

(つーか、今よりいい暮らし出来んじゃね?)

 

魔法とか、騎士とか、主とか、そんな訳の分からんものはもう考えないで、この際単純に働き手が増えると考えよう。しかも、俺に従順なご様子。いろいろと拒否しないだろう。

ふ~ん……問題はいろいろあるだろうけど、まあ……。

 

「主。現実の問題やご自身の気持ちの問題もあるとは思いますが、どうか我々を……」

 

あまり感情の出ていない顔を俯かせ、片膝をついて俺に恭しく頭を垂れている5人。

俺はポケットからタバコ取り出すと火をつけ肺に思いっきり入れ、煙を吹き出す。赤毛のガキが眉をすぼめるのが見えたが俺は全く構わない。

ワリーけど、ガキの前でも吸わせて貰う。こっちももう一応覚悟決めたんでね。こいつらとの間でもう遠慮はしない。

 

「オッケー、オーライ、了解、了承、ばっちこい。夜天の主だっけか?それに就職してやんよ」

「主……ッ!」

「もちろん、いろいろと条件はあっけど、それさえ呑んでくれりゃあ取り合えずはドンと来いだ。ああ、そうそう。知ってっかもしんねーけど、俺の名前は鈴木隼な。鈴木でも隼でもハヤちゃんでも、好きに呼んでくれ」

「はっ。主ハヤちゃん」

「よし、隼と呼べ」

 

てな訳で。

どこかの桃園で義兄弟の誓いした人々よろしく、俺たちもこの辺鄙な森の中で偽家族の誓いを果たしたとさ。

 

さってと、結構勢いで決めちまったが今後どうなることやら。

 

(あわよくば、この中の誰かとカレカノな関係になりてぇなー。そしてそして……むふふっ)

 

まっ、何とかなるだろうし、何とでもならぁな。

 

 


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