今日は盛大な結婚式の日。そんな日にこんな顔をしているのは自分だけだろう。いや、あの男も同じ様な顔をしているのかも知れない。
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今日はキムラスカ・ランバルディア王国の王女様の結婚式。マルクトやダアト、ケセドニアからも多数の来賓が呼ばれている。自分にも招待状がきた。でも……。
(何故私は、ここにいるんだろう)
所在なげな気持ちが抜けない。自分が酷く場違いな存在に思えてならない。街では皆盛り上がっている。国中に愛されている王女様の結婚式だから当たり前と言えば当たり前だ。あの旅を共にした仲間達も彼らの結婚を祝福している。
(私も……祝福、しなければ)
そう思うのに体がついていかない。顔がこわばる。何故だろう。素直に喜ぶ事が出来ないでいる。
(私は、薄情な人間なのだろうか?)
いいや違う。兵士として感情を殺すのは当然と思っていた。けれど。
「ティア、お待たせしました」
「あ、いえ、大丈夫ですイオン様」
導師が戻ってきたので慌てて襟を正す。
「良かったのですか、挨拶してこなくて?」
「はい……」
本来であれば、自分も導師と一緒に挨拶に行くべきだ。その筈だった。
「気が……進みませんか」
「申し訳ありません」
「謝らなくていいのですよ。でも、そうですね。貴方はもっと自分の感情に素直になった方がいいのかも知れません」
自分の感情に? 自分の感情とは一体なんだろう。分からない。何もかもが分からない。
「分かりません。何故こんな気持ちなのか」
何故私は素直に二人の事を祝福できないのか。
「…………もうすぐ式典です。そろそろ行きましょうか」
「……はい」
控え室を出る。そうして式典が始まった。おごそかな、だけれども簡素なその式典は控えめに見ても良いものだった。そしてその中で優れない顔をしているのは自分だけだった。
(何故……何故私は)
式典は進む。指輪の交換。花嫁は幸せそうだ。
(……あ)
気づいた。唐突に、気づいた。そうか。そうだったのか。
(私、は……)
「貴方はもっと自分の感情に素直になった方がいいのかも知れません」
(そうか、そうだったんだ。私は)
今やっと自分の気持ちに気づけた。でも、全てが遅かった。
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式典は終わりを迎えていた。でも自分はこの場所を去りたい気持ちで一杯だった。
(早く終わって、終わって欲しい)
こんな気持ちでいる事を申し訳なく思いつつも、とにかく早く終わって欲しかった。その時だ。
「それっ」
花嫁がブーケを投げる。それが、ゆっくり、落ちてくる。
――次の幸せは、貴方に――
彼女の元に静かに、ブーケが舞い降りた。
短すぎだろ! というツッコミとこれはあまりに酷くね? という声を避けつつ後書きです。
IF 1 と同じくこの話も完全なIF話です。もしもの可能性と思っていただければ幸いです。
この話で本当にこの作品は終わりです。続きを書くつもりは全くありません。
ここまでおつきあい頂きありがとうございました。