「ジェイド、これで大体の俺達の旅は終わりだ。俺の未来の知識も打ち止めだよ。あと残ってるのは、前に話した最初の生物レプリカぐらいのものだ」
「…………」
「前にも話したけど俺は倒すのなら今の世代でやってしまうのがいいと思う。どんな事がきっかになって復活して、また誰かが犠牲になるとも限らないしな」
「……そう、ですね。私の愚行の結果で、また犠牲者を出すわけにはいきませんね」
ジェイドが決心を固めてくれた様なので、俺達は封印されている最初の生物レプリカ、レプリカ・ネビリムを封印から解く為に惑星譜術の触媒を集める事となった。
最初はメジオラ高原に出現する恐竜だが、こいつは簡単だ。こっちには幾多の戦闘を乗り越えたジェイド(俺ではない)が居るのだ! しかもこいつ火属性が弱点なんだよな。こりゃ勝てない訳がない。
「終わりの安らぎを与えよ――フレイムバースト!!」
「業火よ、焔の檻にて焼き尽くせ――イグニートプリズン!!」
「吹き飛びな! ――紅蓮襲撃!!」
「業火に飲まれろ――熱波旋風陣!!」
楽勝その二って所か。恐竜に勝った俺達は背中に刺さっていた剣を抜いた。これが魔剣ネビリムか。たしかに形は禍々しいな。とても斬る為の剣とは思えん。
次の触媒はピオニー陛下が持っている筈だ。俺達は陛下の私室に突撃した。陛下は気分屋な人だが、ネビリム先生に関わる事だと言ったら素直に貸してくれた。その際、ジェイドにとって決して悪い結果にはならないから、と念を押したのが効いた様だ。聖剣ロストセレスティゲット。
その次の触媒はマクガヴァン将軍が持っている筈。今度はセントビナーだ。セントビナーは降下の影響であちこち壊れていて今は復旧中だ。そんな中魔槍ブラッドペインを貸してくれと頼むと、逃げ出したブウサギを探してくれと交換条件を突きつけられた。俺達は泥だらけになりながら頑張ってブウサギを探す事になった。一人で優雅にしているジェイドが恨めしい。ブウサギを何とか見つけ、槍をゲットした。
次は特に問題のないバチカル廃工場だ。入り口だけ兵士に言って入らせて貰ったが、ジャンプして届く梯子に登り、火の譜術でスイッチを入れれば聖弓ケルクアトールゲット。
最後のもう一つの杖、魔杖ケイオスハートはダアトで保管されている。イオンの許可があれば持ち出し可能だ。二つ目の杖ゲット。
これに最初に手に入れた聖杖ユニコーンホーンを合わせれば、六つの触媒武器が揃う。
そうして、準備を終えた俺と護衛のガイ、ジェイド、アルビオールに乗れるだけのマルクト兵を連れて、俺達はネビリムの岩――ロニール雪山の奥地――へと向かったのだった。
俺達はそこで地面に敷かれた譜陣を見つけた。
「ここじゃないか?」
「そうですね。この譜陣が惑星譜術の譜陣でしょうか?」
「この譜陣によると、指定の位置に光と闇の触媒を設置しなければ譜陣が完全には機能しない様だな」
俺、ジェイド、ガイはそれぞれが譜陣から見てとれる情報を口々に話す。
「よし。そんじゃ設置していくか」
その時、ジェイドが異を唱えた。
「いえ……おかしいですよ。この譜陣は別の譜陣の上に新しく書き足されたものです。しかも書き足された譜陣はどうやら封印の様だ」
それはつまり、ここには惑星譜術というもの凄い譜術の譜陣と、その上に目的の人物を封印する譜陣があるって事だろう。
「はーっはっはっはっ! さすがですね、かつての我が友よ!」
そんな事を考えていたら、背後から逃げ延びていたディストの声が聞こえてきた。
「死神ディスト! 生きていたのか!?」
生きている事は分かっていたが様式美としてそう言ってやる。
「薔薇です! 薔薇! ……まあ、六神将での名前などもうどうでもいいですけどね。私が探していた触媒を、あなた方が揃えてくれるとはねぇ。くっくっくっ。さあ、その譜陣に触媒を並べなさい」
「……何が起こるか分かりませんが、構いませんか?」
ジェイドがそう聞いてくるので黙ってうなずいた。
そして、いよいよ六つの触媒が設置された。
「やった! やりましたよ! これでネビリム先生が復活するっ!!」
ディストは自分の思い通りになって喜んでいる様だが、それはこっちも同じだ。
「ここには貴方が最初に生み出したレプリカがいます! 我らが愛するゲルダ・ネビリム先生がね!」
並べられた触媒によって、目の前の岩が開いていく。
「……ごくろうさま……サフィール……」
「ネビリム先生っ!! 先生にお話したい事がたくさん……」
ディストがそこまで言った時だった。ジェイドが気配を察知し注意する。
「まずいっ! 伏せろっ!」
岩の隙間から放たれた光がこちらに飛んできて、ちょうどディストに当たった。
「しぇんしぇい……」
そしてついにレプリカ・ネビリムが姿を現した。
「こいつ……強い……」
肌にビリビリと感じる圧迫感。本物だ。
「貴方達が持ってきてくれた触媒のおかげで、私に足りなかったレムとシャドウの
ジェイドも言葉を無くして構えている。
「ふふふ。お久しぶりね、ジェイド。昔はあんなに可愛らしかったのに今は随分怖そうなお顔をしているのね。……レムとシャドウの音素が欲しくて、
知ってるよ。
「この触媒があれば、私は完全な存在になれる。ねぇ、ジェイド。貴方、私を捨てて殺そうとしたわね。私が不完全な失敗作だから。でももう完全な存在よ。そうでしょう?」
「……それは……」
おいおいジェイド、こんな事で崩れるなよ。
「黙れよ。何が完全だ。元々の、オリジナルのネビリム先生は自分の生徒を殺そうとする人だったのか? 平気な顔でディストを攻撃したお前が、完全な訳ない!」
「……いけませんね。私とした事が取り乱してしまった。この際、貴方が完全かどうかはどうでもいい。譜術士連続死傷事件犯人として、貴方を捕らえます」
どうやら持ち直してくれた様だ。このレプリカ・ネビリムは桁外れに強いからな。お前の譜術が勝利の鍵だぜ。ジェイド。
「あら、面白いわ。それなら試してみましょうよ。勝つのは……私だけれどね!」
戦闘になった。とは言っても基本の戦術は変わりない。数で押す! 前衛のマルクト兵がそれぞれ武器を構えて近接攻撃を仕掛け、後衛のマルクト兵とジェイドが譜術を連発する。
「さあ、どんな風に楽しませてくれるのかしら……!」
「戦いを楽しむ余裕なんて、作らせないぜ!」
「生け捕りにするとは言っていませんよ?」
「いくわよ――サンダーブレード!!」
詠唱くっそはええ。一瞬で唱え終わりやがった。まあ素直に食らってやる程こちらもぼんやりはしてないけどね。
「いくわよ――セイントバブル!!」
だから詠唱はええって。くそ、俺が剣で止めるしかないか!
「グランドダッシャー!!」
調子に乗るな!
「ぶっ潰れちまえ! ――烈震天衝!!」
これで少しでも相手を拘束して……ッ!
「ふふふっ――ビッグバン!!」
広域殲滅譜術!! マズイ、ガードしろおおおおっ!
「粋護陣!!」
耐えた! だがこっちの体力は相当削られた。マルクト兵も死屍累々、立っているのは半数といった所か。だが半数でも残っているぞ。まだまだ俺達はやれる。俺は腰のポーチからグミを取り出すと口に放り込みながら前進した。
「はぁっ!」
一瞬で四連撃の剣撃を食らわせる。ッマズイ!
「バニシングソロゥ!!」
一瞬の隙で近接技を放ってきやがった。こっちの後衛は何してるんだ? まだ詠唱が終わらないのか?
「煌めきよ、威を示せ――フォトン!!」
「食らえ! 光の鉄槌! ――リミテッド!!」
「歪められし扉、今開かれん――ネガティブゲイト!!」
「狂乱せし地霊の宴よ――ロックブレイク!!」
「燃えさかれ。赤き猛威よ――イラプション!!」
「荒れ狂う流れよ――スプラッシュ!!」
「終わりの安らぎを与えよ――フレイムバースト!!」
「全てを灰燼と化せ――エクスプロード!!」
「唸れ烈婦! 大気の刃よ、切り刻め! ――タービュランス!!」
「炎帝の怒りを受けよ。吹き荒べ業火! ――フレアトーネード!!」
俺がそう思った時、一斉に詠唱が終わった中級譜術の山が降り注いだ。よし、チャンスだ。こいつを少しでも後衛から遠ざける。吹き飛ばすのに最適な技は――。
「貫く閃光! ――翔破裂光閃!!」
吹き飛べええええ!
そこから戦いは小康状態になった。俺や前衛のマルクト兵が攻め、後衛はひたすら譜術を撃ち続ける。その中で俺は大技をぶち当てるチャンスをうかがっていた。
「連濤雷光弾!!」
あぶねっ! 少しでも隙があると凶悪な威力の近接技が飛んでくる。既に二人の前衛がこれにやられた。油断は出来ない。
「白銀の抱擁を受けよ――アブソリュート!!」
後衛に譜術を撃ちやがった。うめき声が聞こえたからやられたのか。だが振り返っている暇はない。
「逝かせてあげるわ――ディバインセイバー!!」
今度は前衛に譜術をッ! 俺は何とか躱したが一人がもっていかれた! くそっ! このままじゃ。
「獅子戦吼!!」
俺が奴の攻撃を躱せるのは一重に原作知識やこの世界での経験による所が大きい。奴の使う技は大抵仲間達が使う技だから見極めやすいのだ。譜術はいくら早いといっても詠唱する時間があるので動き回ってターゲットから逃れる事が出来る。後はこちらの大技を当てる隙さえあれば……。
「閃光墜刃牙!!」
それにしてもホントやりたい放題だなこいつッ!
「この重力の中で悶え苦しむがいい――グラビティ!!」
ジェイドから過重力空間を発生させる上級譜術が飛んだ。この譜術は相手の動きを鈍くする効果がある。チャンスだ。
「神速の斬り、見切れるか! ――閃覇瞬連刃!! 勝てない勝負はするもんじゃないぜ!」
一瞬の隙に素早さの高いガイが斬り込んだ。ここが最大のチャンス!
「無数の流星よ、かの地より来たれ――メテオスォーム!!」
は!?
凄まじい衝撃を受けて、俺は吹き飛ばされていた。周りを見回すと立っているものが数名、半数は倒れたまま。数名が俺と同じ様に吹き飛んでいた。
(グミを……)
まだ戦おうとしている自分に驚きつつ、俺はグミをまとめて食いかじり、前に出た。何が俺をこうまで突き動かすのだろう? それは分からない。ただ俺は死にたくない。生きたいのだ。こんな奴にやられて死ぬなんてのはごめんだ。もうほとんどの面倒事を終わらせたというのに。
「おおおおおっ」
遮二無二剣を振るう。基本に忠実なアルバート流。何度も剣を振るい注意をこちらに向ける。その隙に立て直してくれる事を祈って。
「凍結せよ――タイムストップ!!」
何ィ!!
「サンダーブレード!!」
一定空間の時間凍結……もはや手がつけられないな、こりゃ。それでも前に出るしかない。少しの望みを信じて(俺が狙われなくて良かった)。
「ストローククエイカー!!」
奴が飛び上がった! チャンス! 俺は一気に近づくと四連撃を食らわせ、技に連携させた。
「穿衝破! ――閃光墜刃牙!!」
四連撃で斬りつけた後、突き刺しからの右拳でのアッパー、そこから剣を旋回させての突き刺しに移行する。奴の体を俺の剣が貫いた! 俺は体に突き刺さったままの剣から手を離すと、意識を両腕に集中させた。
「やってやるぜ! うおおぉぉぉぉ! これでも……食らえ!!」
超振動。戦闘で使うのはリグレットを殺した事から抵抗があったのだが、もうそんな事を言っていられない。俺の放つ超振動が敵の体を文字通り引き裂いていく!
「天光満つる所我はあり、黄泉の門開く所汝あり。
出でよ、神の雷。これで終わりです! ――インディグネイション!!」
ジェイドもとっておきを出した。……これなら!
「……くっ……また音素が乖離する! 惑星譜陣で癒やさなければ……」
弱っている! 今だ!!
「ジェイド、もしかして封印の下に書いてあった譜陣ってのは惑星譜術の……!」
「試してみます」
ジェイドはそう言うとすぐさま惑星譜術の詠唱に入った。
「――母なる大地よ。その力を我に与えたまえ。天の禍、地の嘆き、あらゆる咎を送らんがため断罪の剣が降り下ろされる――滅せよ!!」
「いゃやぁああぁやあぁあ」」
ジェイドの詠唱によって惑星譜術が発動し、その叫び声と共に、レプリカ・ネビリムは消えた。
「……すげー威力の譜術だな」
「……ええ。セフィロトを利用して星の力を解放する譜術ですから」
「じゃあ習得したのか?」
起き上がりながらガイが尋ねる。
「いえ、残念ながら。譜陣が書き足されていたので本来の力の半分も出せなかった。ディストなら正しい惑星譜陣の資料を持っていたかも知れませんが……」
ジェイドがそう言った時、吹き飛ばされていたディストから声が聞こえた。
「……むにゃ……痛いよ……蹴らないでよジェイド……」
「…………」
とりあえずディストは逮捕しておいた。それでようやく、ネビリムとの戦いが終わったのだった。あー疲れた。あ、でもこれから幾つかの触媒武器を返却しなきゃいけないな。ピオニー陛下には事の顛末も話さなきゃいけないし。あー疲れる。
このネビリム戦に関しては、実際にゲームで戦った様子を書きおこしてみました。まあ実際はもっともっと長丁場なんですけどね。そこは全て書くとテンポが悪いので泣く泣く削っていますが。少しでも臨場感などが出ていれば幸いです。
最初はネビリムイベントなんて書くつもりは全くなかったのですが、SSを書いている内に妄想が止まらなくなり、書く事にしました。まあアビス二次でちゃんと完結しているもの、かつネビリムイベントやっているものなんて数える程しかないので書いてみてもいいかな? と思いながら書きました。