臆病な転生ルーク   作:掃き捨て芥

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 転生ルークの言葉遣い……ちゃんと書けているか不安。


第2話 渓谷の2人

 夜の渓谷、正しい地名はタタル渓谷か。――を出る事になった俺達だが最初に決めておく事があった。魔物、さらには盗賊などが出た場合の対処の仕方だ。普通に考えれば前衛型の俺が前に出て敵を塞ぎ、譜術攻撃型のティアに後ろから援護して貰うのが俺達の一番良いやり方だ。

 だが原作知識を持っていてもそれを明かせない俺としては

 

「ティアさんはどんな風に戦うんですか? 譜術は使えますか?」

 

 一々こういう質問をしなければならないということだ。

 

「私は基本この杖を使って戦うわ。……ヴァンとの時はナイフを直接振るったけれど、実戦では体の中に溜めた音素(フォニム)の塊を杖の先から飛ばして相手にぶつけるのが私のスタイルね。譜術については、……その、あなたの屋敷に侵入した時に使った【ナイトメア】という譜歌と、治癒術である【ファーストエイド】が使えるわ」

 

 ああ、まどろっこしいなぁ。

 

「なるほど。基本的には後ろから援護する後衛型のようですね。その【ナイトメア】という譜歌はどの様な性能があるのですか?」

 

「私の歌声が届く範囲にいる相手に、ある程度の痛みと同時に強烈な眠気を催させる術よ。基本的には1人の相手に絞って使うの。複数の相手に効果をもたらす事も出来るけれど、効果はその分薄くなるわ……です。」

 

 ん? 何だ?

 

「あの……貴方の方が年上なんだし、それに貴族なんですから私が敬語を使って、あなたは普通の言葉遣いでいいのではないかし……ないでしょうか?」

 

 ああ、そういう事か……さすがにこれは事前に考えていなかった事項だ。しかし煩わしいからバッサリ行くか。

 

「ティアさん、私は貴族とは言っても爵位のないただの子供ですよ。肩書きだけを言えば公爵子息ってことになるのかな? それにこれから旅をするにあたって、貴方が私にあまりへりくだった態度を取り続けると余人に無用の警戒をさせるかも知れません。まあ公の場では敬語を使って貰う事になるでしょうがそれ以外では砕けた言葉遣いでいいですよ。それから、私のこの言葉遣いは素です。……これでも貴族なのでね、それなりの言葉遣いや礼儀作法は仕込まれているのですよ」

 

「でも……」

 

 ええい! こんな事はどうでもいいのだ!

 

「とにかく! 私は素の言葉遣いのままでいきます! 貴方は無礼にならない程度に砕けた話し方で構いません! ……今はそんな事より話すべき事を優先させましょう。戦闘スタイルの話でしたね。それではその【ナイトメア】という譜歌を使って後ろから援護願います。……もちろん私は味方識別(マーキング)した上でですね。私は……練習用の木刀の他にちゃんとした剣も持ち合わせているのでこちらで戦います。前衛役ですね」

 

 味方識別(マーキング)とは大規模な譜術や広範囲の譜歌などで、敵だけに効果を発生させる為の術だ。自分の味方になる相手にマーキングを打ち込む事で、後方から放たれる譜術などの影響から逃れる事が出来るのだ。

 

「でもそれではあなたを一方的に危険にさらす事になるわ。私のせいでこんな状況になっているのに更に貴方だけに負担をかける訳には」

 

 恐縮してるな。まあそうなるように土下座までして「ティアのした事は重大な犯罪なんですよ」とわからせたんだが。原作ではなあなあで済ませられてたからなー。言っておくがティアを追い詰めたのには理由がある。最初に「自分は貴方によって危険な状態にさせられたんですよ」と伝える事によりティアより上の立場に立たせて貰った。これからの旅はある程度イニシアティブを取りたかったからな。

 

「その為の治癒術でしょう? 【ファーストエイド】期待してますよ。あ、そういえば私は第三音素(風)と第四音素(水)、第五音素(火)の初級譜術が使えます……まあ前衛で剣を振るうので使う機会はあまりないでしょうね」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 そうして、戦いになった際の対応を相談し合った俺達は急いで渓谷を降り始めた。

道中ではサイノッサス(猪のような魔物)とプチプリ(草の魔物)に出会ったが問題なく倒せた。

初めての実戦なので手傷程度は負ったが、ティアの【ファーストエイド】で回復して進んだ。

 

「双牙斬!」

 

 肩口から剣を振り下ろし、直後に飛び上がりつつ斬り上げる。アルバート流の基礎技、双牙斬をみまい、サイノッサスを撃破した。

 この世界の魔物は一定以上の傷を与え体が形成できないくらいに引き裂かれたりすると音素に還り消滅する。だが少々の傷を与えると肉などをそぎ落とす事が出来る。中には魔物から取れる食材を目当てに傭兵をしている者もいるくらいだ。

 その際には銅貨や銀貨(ごく一部の高位の魔物のみ)を落とす。俺も最初は不思議だったのだが、「銅貨を魔物が落とす」のではなく、「魔物が落とす銅の硬貨を一般的に流通させて銅貨としてる」らしい。そして一部の魔物が落とす銀貨を上位の硬貨とし、人の手で加工した特別な金貨を最上位の硬貨として扱っているようだ。

 

「ふう。終わったな」

 

「ええ、お疲れ様」

 

 今回は特に攻撃を受ける事なく戦闘を終えられたので回復は必要ないだろう。俺は油断する事なく周囲を見回して他の敵がいないか探る。……どうやらいないようだ。

 

「ねえ、ルーク。貴方ずいぶんと実戦慣れしているようだけど……」

 

「そうかな? まあ屋敷の中の訓練だけだけれど、真剣にやってたからね。木刀でガイ……使用人や警備の白光騎士団と打ち合ったりしてた。実戦で緊張してるけれど、油断だけはしないように気をつけてるからね、こんなもんじゃないかな?」

 

「そう。……ならいいのだけれど」

 

 さて、今回は戦闘になってしまったが、一々魔物と戦う必要もない。目に見える相手は避けて進もう。本当は夜の山道を行くのは危険なのだが、そういう一般的な思考はとある原作知識の前では無意味になるのだ。この原作知識がなければ俺は「夜の闇は危険だから安全な場所で朝になるまで待とう」と提案している。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 しばらく歩いただろうか、体を鍛えているとは言え初めての実戦や慣れない場所で疲れも出始めた頃、ようやく出口についた。

 

「やっとここから出られますね」

 

 すると、草をかき分けてこちらに歩いてくる音が聞こえた。魔物を警戒し構えをとる俺とティア。だが、出てきたのは一人の人物だった。

 

「うわっ。あ、あんたたち、まさか漆黒の翼か!?」

 

 失礼な。俺達をあんな悪徳集団と見間違えるとは。とりあえずバチカルの屋敷から出た事がないルーク坊ちゃんとしては知らない知識なので質問しておこう。

 

「しっこくのつばさってなんですか?」

 

「盗賊団だよ。この辺を荒らしてるって言う男女三人組で……って、あんたたちは二人連れか」

 

 

 こちらの人数を確認したその人物はほっと一息をついて安心したようだった。ふっふっふっ、原作知識でこの人物がここに現れることは知っていたからな。安心して対応できるぜ。

 

「俺達は道に迷ってしまってここに来ました。失礼ですが貴方は?」

 

「俺は辻馬車の馭者だよ。この近くで馬車の車輪がいかれちまってね。水瓶が倒れて飲み水がなくなったんで、ここまで汲みに来たのさ」

 

 男はそう言うと手に持ったバケツを掲げて見せた。やはり目的の人物で間違いないようだ。良かった良かった。

 

「馬車か、助かった。……けれど車輪がいかれたって、走行は大丈夫なんですか」

 

「ああ。自前だがちゃんと直せたよ」

 

 それを聞いて、ティアが馭者に尋ねる。

 

「馬車は首都へも行きますか?」

 

 来た! ここだ!

 

「ああ、終点は首都だよ」

 

 この首都というのはマルクト帝国のグランコクマを指すのだ。俺達が今いるこのタタル渓谷はマルクト領だからな。しかしティアはキムラスカの首都バチカルへ行くと勘違いしている。俺達の目的であるバチカルに帰るにはここから南下して自治区ケセドニアへ行くのが一番の近道なのだが……例によって原作知識があるためここではティアに勘違いしたままでいてもらわなくてはならない。

 原作知識で勘違いしてもらう理由……具体的に言うと俺達がここでグランコクマ行きの馬車に乗らないと高確率である人物達が死ぬ。それは世界を救う為、ひいては自分が生きていく為にまずい事になるので防がなければならないのだ。

 

「助かりましたよ。俺達2人を首都まで乗せてもらえますか? ……えっと、いいでしょう? ティアさん」

 

「ええそうね。私たち土地勘がないし、お願いできますか?」

 

「首都までとなると、1人1万2千ガルドになるが、持ち合わせはあるのかい?」

 

 それを聞いてティアが呆然と呟く。

 

「高い……」

 

 確かに高い。だが心配は無用だ。この事を想定して用意はしてある。ポケットに忍ばせておいた宝石を取り出すと馭者に向かって突き出す。

 

「この宝石でどうかな? 買った時には7万ガルドした宝石なんだけれど」

 

「こりゃあ……大した値打ち物だ。これだけあれば充分だよ」

 

「ルーク! そんな!」

 

 俺が宝石を出して乗車賃を肩代わりした事を気がとがめたのだろう。ティアが声を上げた。

 

「ティアさん。これは必要経費ですよ。俺達は(疑似超振動って言う)不測の事態でここに来てしまったんです。お互い持ち合わせがないのはしょうがない。でも幸運なことに俺にはこの宝石がありました。だから使った。それだけですよ」

 

 疑似超振動、の所だけ声を潜めて語りかける。

 

「でも!」

 

「どうしても気がとがめるって言うなら屋敷まで行けた後、……さらにその後の自由の身になった時にでも返せる時に返してくれればいいですから」

 

 納得できなさそうなティアを無理矢理説き伏せる。いつまでも議論していても仕方ないので、さっさと馭者に馬車まで案内するように伝えた。もう歩かなくていいことに喜びながら辻馬車に乗り込んだ。さて、この後の手順を確認したい所だが暗いしな……とりあえず眠ろう。

 辻馬車の中でこちらに遠慮がちな視線を向けてくるティアを意識的に無視しながら、俺は眠りについた。

 




 ティアのゲームでの通常攻撃ですが、どんな風に描写したらいいか分からなかったので、音素の塊を飛ばすという表現にしました。純粋なその力の塊を体……ではなく手に持った杖の先から飛ばしているという事です。
 【ナイトメア】に関する設定ですが、他のアビス小説を読んでも意見が分かれるんですよね。
眠気だけでダメージはない派とダメージもあるよ派で。私はダメージがあるという設定にしました。ルークの屋敷にいる白光騎士団は従軍経験もあるちゃんとした(?)兵士の筈です。またLV48のラスボスヴァン師匠すら不意をうったとはいえ膝をつかせたのですから、それなりにダメージを与えているのでは? でないとあのヴァンが膝をつくことはないだろう、という理屈です。
 魔物についての説明ですが、ゲーム中で敵……レプリカなどではない普通の人なんですが、倒した後に体が消滅した事があったんですよね。それについてと魔物そのもの、また「魔物を倒すとお金を落とす」という設定をすりあわせたら作中で説明した通りになりました。


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