臆病な転生ルーク   作:掃き捨て芥

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第20話 降下した世界。降下する世界

 それは全くの偶然だった。ジェイドが「降下したマルクト軍の様子を見たいのですが」と言い出したので、俺達はエンゲーブに駐留しているであろうマルクト軍の所に行ってみる事にした。

 

「ルグニカ大陸は丸ごと降下した形になるな。南はカイツールまで降下している筈だぜ」

 

 自分の声がどこか他人事の様に聞こえる。これを自分がやったんだ。自分の超振動が――どこか夢うつつな感じになってしまう。

 エンゲーブは、先日キムラスカとの戦争に備えて住民を避難させてある。今はマルクト軍が駐留していた。そこで俺達は二人の男がもみ合っている姿を目にした。一人がもう一人を殴っては地面に転がして、更に蹴りをくわえようとしている。

 

「やめろ! ダアト条約を忘れたか! 捕虜の扱いもまともに出来ない屑共め!」

 

 きつい言葉と共に殴っていた方の男、マルクト兵を止めたのは赤い軍服を身にまとった女性、キムラスカのジョゼット・セシル将軍だった。

 

「うるさい! キムラスカ軍の奴らは黙って地面に落ちた残飯でも食ってりゃいいんだよ!」

 

「貴様!」

 

 これはマルクト兵を諫めた方がいいか。つかジェイド、お前もぼーっと立ってるなよ。と思った時だった。マルクト軍の将校が駆け寄って来てセシル将軍の腕を掴んだ。

 

「は、放せ!」

 

「そうはいきません。彼は私の部下です」

 

 こちらはマルクト軍のアスラン・フリングス将軍だ。どうやら降下に巻き込まれていたらしい。一人の兵士を従えている。

 

「マルクト軍は最低限の礼儀すら知らないのか! その兵は、我々の食べ物を床に投げ捨て、這いつくばって食べろと言ったのだぞ!」

 

 それは酷い。戦時下ではダアト条約がまともに守られていないのか。

 

「それでも、彼は私の部下です。――ディラック! その者をハイデスの営倉へ連れて行け」

 

 どうやらフリングスは正しく現状認識できている様で、無礼を働いていたマルクト兵を営倉入りさせるらしい。

 

「フリングス将軍。自分は何も……!」

 

「私が何も聞いていなかったと思うか? 敵の将軍に対し、残飯を食えと言い捨てるのは、我がマルクト軍の品位を落とす行為だ。お前の言い分は後ほど取り調べで聞いてやる。連れて行け!」

 

 拘束されてマルクト兵は連れて行かれた。それを見送ったフリングス将軍はセシル将軍に頭を下げる。

 

「セシル将軍。私の部下が失礼しました。部下の失態は私の責任です。どうかお許し頂きたい」

 

 二人の視線が合う。セシル将軍は急に落ち着かない様子になった。二人は少しの間無言になった。……見つめ合ってやがる。

 

「……も、もう結構だ」

 

セシル将軍は赤面した顔のまま、殴られて倒れていたキムラスカ兵を起こすと宿屋に入って行く。

 

「カーティス大佐! 皆さん!」

 

 俺達の姿に気づいたフリングスに向かって、俺は尋ねた。

 

「フリングス将軍! 今の騒ぎは……」

 

「お恥ずかしい所をお見せしました。障気に包まれているこの状態に部下達が浮き足立っていて……」

 

 フリングス将軍はマルクトの上層部に当たるので、詳しい事情は知っている筈だ。だが部下までは降下に対応しきれなかったという事か。

 

「フリングス将軍、勝手を言って申し訳ないが、セシル将軍と面会させて貰っても構わないだろうか?」

 

「構いませんよ。話は通しておきます」

 

 そうして、俺達はキムラスカ兵の捕虜達を収監する場所、エンゲーブの宿屋に居るセシル将軍を訪ねた。

 

「これは! ナタリア殿下! それにルーク様も!」

 

 セシル将軍は魔界(クリフォト)に現れた俺達に驚いている。

 

「セシル。一体何故捕虜に?」

 

 ナタリアが尋ねる。

 

「いえ、それは……」

 

「将軍は自分を助けようとして下さったのです」

 

 セシル将軍の背後、ベッドで横になっているキムラスカ兵が答える。

 

「貴方を助ける?」

 

「戦場にいる時、突然大地震が発生して、私は地割れに飲み込まれそうになりました。それを将軍が助けようとして……」

 

「私とこのハミルトン上等兵は大地の亀裂で孤立してしまいました。それをあのフリングス将軍が……助けてくれて……」

 

 将軍としては敵の将軍に助けられたのは不本意な訳か。しかし大地の亀裂か。そういう形でキムラスカ側に出る犠牲者は防げなかったという訳か。……これは俺の行動の結果だな。原作ではヴァン一味が悪いで済む事も、この世界では俺主導で事が動いている。何か起きたら俺のせいなのだ。

 

「無事で良かったです」

 

 ガイが本当に嬉しそうに話す。

 

「……恥ずかしい話です。敵将に命を救われるとは」

 

「そのような事を言うものではありませんわ」

 

 そういえば、国境の砦であるカイツールが降下したキムラスカの駐屯地になってるんだよな。

 

「そうだ、カイツールにセシル将軍の事伝えておくけど、何か伝言はないか?」

 

「殿下達に伝言をお願いするのは気が引けますが、宜しければアルマンダイン伯爵に私の無事とお詫びをお伝え下さい。アルマンダイン伯爵は恐らくカイツールにおられると思います」

 

(父親の事は……わざわざ言わなくてもいいか)

 

 宿屋を出た俺達をフリングス将軍が出迎えた。

 

「もしや、カイツールへお向かいになりますか?」

 

「そのつもりですけど」

 

「もしよろしければご伝言をお願いできませんか。ノルドハイム将軍がグランコクマに戻られた後降下が始まった為、今では自分がここの大将となりました。そこで一時的に休戦を申し入れたいのです」

 

「よい考えですわ」

 

 ナタリアが喜んで声を上げる。

 

「もしそれが受け入れられるのであれば、カイツールにて捕虜交換をと考えています」

 

 捕虜交換か、妥当な所だな。キムラスカにもマルクトにも自分達以外の兵士を養う余裕なんて無いだろうからな。

 

「セシル将軍を解放してくれるんですか」

 

 ガイはセシル将軍を気にしている。親類だから当然か。

 

「無論です」

 

「……あまり賛成しませんが」

 

 ジェイドはそうくるか。セシル将軍はキムラスカの優れた将軍だ。彼女を捕虜にしておく事は休戦状態にあるとしてもマルクトに有利をもたらす、とでも考えているんだろうな。

 

「大佐ならそう仰ると思いました。ですが、あの方は人質には不向きです」

 

「甘いですねぇ」

 

 甘いな。キムラスカ側の俺が言うのもなんだが甘い。フリングス将軍がセシル将軍を手放そうとしてる理由は甘い。戦場で何をやってるんだか。

 

「それでは、宜しくお願いします」

 

 

 

 カイツールへやってきた。キムラスカ側はマルクトと違って降下の事を何も知らないのだ。何も知らずに魔界へ投げ出されたキムラスカの皆を思って、心が痛んだ。偽善かもしれないけれど。

 カイツールの状況はそこまで悪くなかった。ほぼ一日で戦争が強制的に終結した影響もあるのだろう。倒れている負傷兵は少ない。俺達はキムラスカ側の施設へと足を運び、アルマンダイン伯爵と会見した。原作では何度か会う彼だがこの世界では今まで会った事無かったな。

 

「休戦ですか……。そうですな。この状況ではそれも仕方ありますまい。さっそく準備を進めます。この様な事にご足労頂き誠にありがとうございました」

 

 エンゲーブへは使者を送るらしい。原作だと最後までこのイベントにつき合うとセシルとフリングスの仲が進展するんだが……さすがに世界が危機に瀕しているこの状況でそれに長々とつき合う事は出来ないよな。俺はエンゲーブに居る二人の未来が幸せなものになる事を祈ってその場を後にした。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 さて、これでアクゼリュスが崩落してセントビナーとケセドニア周辺の大地が降下した訳だが、ここらでやっておかなければならない事がある。ユリアシティの住民、代表者のテオドーロさんに理解を求める事だ。ユリアシティは監視者の街。世界が預言(スコア)通りに動くかどうかを監視するだけの街だ。だがこの世界はユリアの預言から外れようとしている。その事をローレライ教団の中枢とも言うべきユリアシティに認識して貰わなければならない。

 

「お祖父様、力を貸して下さい!」

 

 ユリアシティとの話し合いでは主にティアが頑張ってくれた。ローレライと完全同位体の俺が未来の知識を有していると聞いた時は色めき立ったが、ユリアシティはおおむね理解を示してくれた。パッセージリングが耐用限界を迎えているのは大勢の人間が確認してる事実だ。テオドーロさんも認めざるをえなかったのだろう。

 

 こうして、俺達はマルクトだけでなくユリアシティも味方につけたのだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 さて、世界を降下させる作業に戻ろうか。既に操作が済んだものは16年前に崩落したホド、リングを破壊して崩落したアクゼリュス、降下したシュレーの丘、ザオ遺跡、だな。これから操作していくセフィロトは、アブソーブゲート、ラジエイトゲート、ロニール雪山、メジオラ高原、ザレッホ火山、そしてタタル渓谷だ。だが、まずはダアトだ。

 

「ダアト? 何故です?」

 

「ダアトには創世暦の歴史書があるんだ。ローレライ教団の禁書だ」

 

「禁書……ですか」

 

 いぶかしげな様子のジェイド。

 

「えっと、魔界の液状化している原因とかが分かる筈なんだ。地核の振動を止める方法も書かれている筈……だ。とにかくその禁書を調べて、地核の振動を停止する作戦を立てないと、降下した後の世界で暮らせない」

 

 ここら辺の詳しい理屈とかうろ覚えなんだよなぁ。原作でも大体ジェイドが担当してくれていたし。

 

「とにかく、ダアトに行かなければならないんだ」

 

 

 

 報告の為にグランコクマへ戻った所、アニスが来ていた。どうやら俺の予想通り、グランコクマでイオンを保護しているという伝達を聞いてやってきたらしい。久しぶりのイオンの傍という事で彼にひっついている。

 

「それで……イオン。俺達は今度ダアトに行くわけだ。同時にダアトにあるセフィロトでも降下作業を行うんだ。お前にも来て貰いたい」

 

「ダアトに……ですか。そうですね。しばらく帰っていませんし、行きましょう」

 

 

 

 と、言う訳でダアトへ移動中。今回はイオンも一緒だ。ヴァンの奴もな。

 

「あのぅ~これって一体どういう事なんですかぁ~」

 

 事態を全く説明されていないアニスがたまらず声を上げる。既に行動を共にしているメンバーは現状を正確に認識しているが、新たに加わったアニスは説明されていないのでこの集まりが何か分からないのだ。

 

「ルーク」

 

 イオンが説明しても良いか? とでも言いたげに俺の名前を呼ぶ。まあ仕方ないだろう。

 

「うーん。分かった。アルビオールでの移動中にでもイオンから説明してやってくれ」

 

 ただし、ちゃんと釘は差しておくけどな。イオンが大体の事情を説明し終わった辺りで俺が口を挟む。

 

「タトリン奏長。言うまでもないが、これは余人に話してはいけないからな。特に! ヴァン・グランツを捕らえている事は最重要機密だ! もし漏らしたりしたらマルクト軍の刑罰に処する事になるぜ」

 

「は、は~い」

 

 アニスは汗をタラリと垂らしている。まあアニスは大詠師派のスパイであって六神将と繋がっている訳じゃないから、直で六神将に連絡を取られる事はないだろうが。後で俺からイオンに言っておくか。アニスがスパイである事を。

 

 さて、ダアトだ。まずここでやらなくてはならない事がある。

 

「タトリン奏長。確か君の両親はダアト住まいのローレライ教徒だったよな。六神将の現状を知りたいんだ。案内してくれるかな?」

 

「ほえ? どーして私の両親の事を?」

 

 俺が未来の知識を持ってる事まで話してないのか。アニスは両親の事を知られていて不思議そうだ。

 

「まあまあ、とにかく両親の所に案内してくれよ。いいだろう?」

 

 

 

「やあ、アニス! 久しぶりだね。元気にやっていたかい?」

 

 アニスの父親、確かオリバーとか言ったっけ。は娘の顔を見るなり破顔して近づいて来た。タトリン夫妻の私室は教会の中に用意されている。この事からみても夫妻が教団の中で要職についている事がうかがえる。

 

「パパ、ママ。六神将の奴らがどうしてるか知ってる?」

 

「まあ まあ まあ。そんな言い方よくないわよ、アニスちゃん」

 

 アニスをたしなめる母親。名前はパメラだったか?

 

「ぶー」

 

「あはははは。アニス、膨れっ面しちゃ駄目だぞ」

 

「そんな事より六神将とか大詠師モースは? 何してんの?」

 

「モース様とディスト様は、キムラスカのバチカルに行かれたよ」

 

「リグレット様はベルケンドを視察中よ」

 

「シンク様はラジエイトゲートに向かわれたなぁ」

 

「アリエッタ様はアブソーブゲートからこちらに戻られるって連絡があったわ」

 

 丁度もぬけの殻だな。これは都合がいい。だが、

 

「あの、すみません。ちょっと事情があって六神将と顔を合わせたくないんです。もし六神将が戻って来ても、俺達が教会に居る事は黙っていて貰えませんか?」

 

 俺のその言葉にタトリン夫妻は怪訝な顔をしつつもうなずいてくれた。よし、これでアリエッタと顔を合わせる事もあるまい。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「うーん。中々見つからないな」

 

 俺達は人海戦術でもってダアトの図書室を調べていた。例の禁書を見つける為だ。原作ではイオンが見つけてアッシュに託していたアレだ。イオン一人で見つけられた物だからそんなに時間がかからず見つけられると思ったのだが。俺達は人数もたくさんいるし。

 

「あ! あの、これじゃないでしょうか!」

 

 その時、マルクト兵の一人が大声を上げた。図書室の司書にじろりと睨まれるが構っていられない。俺達は皆で兵士の周りに集まると本の中身に目を向けた。

 

「どうだ。ルーク、これで間違いないか」

 

 俺は本の内容に素早く目を滑らせる。……どうやらこれで間違い無いようだ。

 

「これで間違いないみたいだ。やったな」

 

 これで今回ダアトに来た目的の一つが達成された。

 

「よし。それじゃダアト、つーかザレッホ火山のセフィロトに行こうか。今回は直の降下じゃなくて降下の前段階、準備だけだけどな」

 

「準備だけ?」

 

 ティアが不思議そうな顔をする。まあ説明は後だ。さっさとセフィロトに行こう。

 

 

 

 そんでセフィロトに向かう事になった訳だが、ここでも障害があった。入り口が分からないのだ。俺は原作ゲームをプレイした事があるので、そのゲームの知識と実際に目の前にある景色を照らし合わせて移動すればいいだけなのだが、このザレッホ火山への道だけは隠されているのだ。原作においては何故かその道を知っていたアニスが下手な芝居で隠し扉を開いてくれるのだが……。

 

「見つからないなぁ。本当にここに隠し扉があるのか?」

 

 疑問の声を上げるガイ。いやホントにここにあるんだって! そんな疑わしそうな目で見ないで!

 

「ひゃっ、転んじゃったよ~ぉ!」

 

 隠し扉を探している途中、いつか見た様にアニスが転んだ。…………。

 

「あ、あれぇ?」

 

「こんな所に隠し通路があったとは……」

 

 呆然と呟くイオン。

 

「しかし、何でイオンはこの通路の事を知らないんだ? 導師なのに」

 

 ガイが質問する。あ、この世界ではまだイオンがレプリカだって皆知らないから。

 

「ま、まあいいじゃないか。行こうぜ」

 

 原作知識を利用するのはいいが、原作と違う事があると途端に困っちゃうな。なんとかしなければ。

 隠し扉の中は小さな部屋になっていた。中央の床に譜陣が描かれている。

 

「あ、この譜陣に入ったら行けるんじゃないですか?」

 

 そう言ったかと思えばさっさと一人だけ譜陣に乗ろうとする。

 

「アニ~ス、ちょっと」

 

 ジェイド、声怖いよ。

 

「貴方はここを知っていましたね?」

 

「本当ですか?」

 

 ジェイドの言葉にイオンが驚く。

 

「知りません! 全然知りません。それより行きましょう! ほら! 早く早く!」

 

 焦るアニスは譜陣から浮かび上がる光に包まれてその場から消えた。あからさまに嘘くさい態度しやがって……。

 

「ルーク。お前は何か知らないか?」

 

 ガイやジェイドがこちらを向く。こういう時未来の知識を持ってるという俺の立ち位置は最悪だな。

 

「あー。知ってるといえば知ってるよ。うん。でもそれはこのセフィロトでの作業を終えてからにしよう。うん、ちゃんと説明するから」

 

 俺はそんな言い訳の様な事をいいながら、アニスと同じ様に譜陣でワープするのだった。……後でちゃんと説明しないとな。

 

 

 

 譜陣で移動した先は熱気に包まれた洞窟の中だった。自分達が立っている岩の下には溶岩が蠢いている。

 

「ここは……何かの研究をしてるみたいだな」

 

「モースのものでしょうか。こんな所で何を……」

 

 譜陣の周りにある施設らしきものを見回してガイとイオンが言った。

 

「そんなことより、パッセージリングはどこなんでしょう!」

 

 あ、怪しい。怪しすぎる。少しは自重しろアニス。

 

「……アニス。あまり怪しすぎると、突っ込んで話を聞きたくなりますよ」

 

 ジェイドに見つめられ、アニスは言葉を詰まらせる。

 

「……う……」

 

 ティアがその場の空気を変える様に話を変える。

 

「パッセージリングはこの奥でしょうか?」

 

「行こう」

 

 俺は皆を促すと先に立って歩き始めた。ここの仕掛けは単純だ。空に浮いている燭台に火を灯すと、空に浮かぶ透明な通路が浮かび上がる。本来はミュウファイアというチーグルの力が必要となるのだが、この世界では以下略。俺達は譜術でもって燭台に火を付けて先に進んだ。

 パッセージリングはさほど遠くない場所にあった。

 

「じゃあイオン、ここも頼む」

 

「はい」

 

 イオンはいつもの様に扉に両手をかざす。譜陣が回転して砕ける様に扉が消える。それと同時にイオンがふらつき倒れそうになるのを支えてやる。

 

「っと。大丈夫か。イオン?」

 

「……は、はい」

 

 どう見ても大丈夫じゃないよな。だがこれはダアト式譜術が使えるイオンにしか出来ない事なのだ。この世界にいる他のレプリカ・イオンは二人。六神将烈風のシンクと、後にフローリアンと名付けられる彼だけだ。だがどちらにもイオンほどの力はない。イオンに頼むしかないのだ。俺達に出来るのは、封咒を解いた後に充分休ませてやる事ぐらいだ。後はヴァン、おまいの出番じゃ。キリキリ来んかい。

 

 そして行われるのはいつもの超振動だが、今回は違う。

 

「違う? 何がだ?」

 

「ええっと、まずはセフィロト同士を線で結んで、このセフィロトの横に『ツリー降下。速度通常』と書いて、それから『第一セフィロト降下と同時に起動』と書く」

 

 俺の説明があまりに端的なので分からないのであろう、ガイやナタリアは頭に? マークを浮かべている。

 

「それって、どういう意味なんですの?」

 

「第一セフィロト――つまりラジエイトゲートのパッセージリング降下と同時に、ここのパッセージリングも起動して降下しなさいっていう命令よ」

 

 俺の後方で作業を見守っていたティアが説明する。ナイス説明。

 

「こうやって、外殻大地にある全てのパッセージリングに同じ命令を仕込んでおくんだ。で、最後にラジエイトゲートのパッセージリングに降下を命じる。そうすっと外殻が一斉に降下するんだ」

 

「なるほど。大陸の降下はいっぺんに済ませるってことか」

 

 この説明でメンバーも大体理解してくれた様だ。……よし。超振動の操作完了。

 

「終わったぜ」

 

 その言葉と同時に、俺達は引き上げの準備に入ったのだった。

 

 




 セシルとフリングスのイベントをちょろっと。全部やるとさすがに長いので。その代わり主人公の原作知識で色々変わったこの世界でも二人は出会ってますよーという描写でした。
 そしてやっと、やっとアニス合流。長かったなー。ですが転生ルーク君はアニスを信用しておりません。
 ザレッホ火山の降下準備完了。ゲームをプレイした人なら知ってると思いますが順番が前後してます。一番最初に降下準備完了するのはタタル渓谷ですね。ですがこの世界ではイオンがダアトに戻っていないので禁書をゲットする必要があったのです。そのついでに降下作業も行いました。


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