さて、アクゼリュスのパッセージリングを破壊すると決まったのだが、事はそう簡単にいかない。まず、マルクト側キムラスカ側両方ともに通行規制をして崩落に巻き込まれる人がでない様にする必要がある。ただまあ、これは思っているよりも楽だろう。だってあの辺りに都市はアクゼリュスしかない上に、アクゼリュスは数ヶ月前から被災地と認定されて既に通行規制されているのだから。
次に、アクゼリュスが崩落した後の想定だ。俺の原作知識通りならアクゼリュスが崩落するとセントビナー周辺のセフィロトツリーに負荷がかかってセントビナー周辺が崩落し始める。原作と違いこの世界では知識持ちの俺がいる為、アクゼリュスのリング破壊前に、既にセントビナーの住民を避難させる事が出来るのだ。
その次は戦争の準備だ。アクゼリュスが崩落すると、すわ
更に更に。その戦争を止める為にザオ遺跡のリングを操作して戦場を降下させる。俺の想定通りなら移動はアルビオールで行えるので、戦争は始まったとほぼ同時に終結する事になるだろう。少しでも戦争で負傷する人間が減れば幸いだ。
そこまでの作業が終わったら、次は世界各地を巡ってパッセージリングに降下準備の文章を書き込みに行く事となる。最終的にラジエイトゲートのリングを操作して、全ての大地を一斉に降下させ、作戦は終了だ。
そこに至るまで、六神将や
長い道のりとなるだろうが、俺は必ずこの“戦い“に勝ってみせる!
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そして、アクゼリュスへの崩落隊(嫌なネーミングだ)が組まれた。既に二つの封咒が解かれているのでイオンとヴァンはグランコクマに待機だ。
あー、今気づいたけどアニスと合流できてないな。イオンの護衛はマルクト兵を十人単位でつけて貰っているが、専属の護衛であるアニスは今そばに居ない。バチカルで(恐らく漆黒の翼に)攫われてから、ずっとイオンを探しつづけているんじゃないか? まあ一応(何故か)キムラスカに居るモースとダアトには、攫われた導師イオンは発見済みでマルクトの首都グランコクマで保護していると伝えてあるが。その情報がアニスに伝われば、彼女もグランコクマにやってくるだろうな。いつになるかは分からないが。
今回の旅路にはもちろん超振動でリングを破壊する俺と、俺の護衛のガイ、研究者として、又リングの破壊や崩落を観察し報告する人間としてジェイド、六神将達の襲撃を警戒してティアとマルクト兵を二十人ほど、そしてキムラスカの人間も居た方が後々和平を結んだ時に問題にならないという理由でナタリアも同行する。以上がアクゼリュス崩落隊のメンバーだ。
準備が完了したので皆してアルビオールに乗り込む。既に乗った経験のある人ばかりだから怖がったりする人もいない。さあアクゼリュスへ行こう。
アクゼリュスに着いた。相変わらず障気が蔓延している。長時間浴びると危険なので、素早く移動する。そしてやって参りました第14坑道。魔物はいつも通りホーリーボトルで回避回避。
奥に進みダアト式封咒があった場所を通る。
「ここだな。ダアト式封咒があった場所は。ここから通路の様相が変わるぜ」
アクゼリュスのセフィロトは紫色をした建造物になっていた。皆は地下にこの様な広大な空間があるので驚いている。円環の形をした通路を通り、最奥まで移動する。
「これが……パッセージリング」
さすがのジェイドも初めて見る装置に口を開けている。俺もつられて上を見上げる。空中にはセフィロトの樹形図が浮かんでいる。俺は本の様な形をした操作盤に近寄った。
「これが操作盤だな。事前に調査隊が来た時にここでユリア式封咒が解かれたはずだ」
ふと気づいたが、俺ユリア式封咒を解くデメリットに関して説明してなかったな。やべーやべー。一応は受刑者であるヴァンといえど、逮捕しているマルクト軍の許可なしに殺したりしたらやっぱり問題だよな。
「あー、ティア。ヴァンに解かせたこのユリア式封咒だけどな、実はちょっとしたデメリットがあるんだよ。アクゼリュスの崩落が終わったらグランコクマで説明するわ」
「……? ええ?」
ティアは急に言われて戸惑っている。デメリットの詳細を伝えてないからそーなるよな。何故わざわざ自分にそんな事を言うんだろう、とでも思っているのかも知れない。……まあいっか。
「さて、そんじゃそろそろ見物も終わっただろうし、リングを破壊するぞ。」
「了解しました。退避の準備をしておきます」
よし! 行くぞ! 俺は七年間の間に培った音素のコントロールを駆使し、超振動を発動させた。バチカルでは怒りに任せて適当にやったが、今回はそうはいかない。細かなコントロールを必要とするのだ。
パッセージリングを完全に破壊した。ゴゴ、ゴゴゴとセフィロトが揺れる音がする。崩落が始まったのだ。
「……よし。リングの破壊は終わった。急いで退避しよう!」
俺のその言葉を合図に、俺達は一斉に退避し始めた。
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「すごいな、こりゃ」
崩落してゆくアクゼリュスから飛び立ったアルビオールから、俺達は外を眺めていた。終わったんだな。原作よりだいぶ時間がかかってしまったが、アクゼリュスは崩落した。犠牲者も……いないはずだ。
「感嘆している暇はないぜ。ここのセフィロトツリーが消滅した事で隣のセントビナー周辺の大地に負荷がかかるんだから。急いでシュレーの丘に行って降下作業をしないとな。」
「その前に、グランコクマで報告ですよ」
ジェイドに注意される。おっとそうだったな。それにシュレーの丘のリング操作にはイオンとヴァンの両名が必要だし、どの道グランコクマに行かなければならないのだった。
「それじゃあギンジ、グランコクマまで飛んでくれるか?」
「了解っす!」
アクゼリュスを崩落させた俺達は、そうして外殻大地のグランコクマへ移動したのだった。
セントビナーの東にあるシュレーの丘に着いた。グランコクマについては特段変わった事はなかった。一連の事を見守ったジェイドからピオニー陛下に報告がなされ、イオンとヴァンが全く逆の待遇で連れ出された。あ、変わった事あった。ユリア式封咒のデメリットについて説明したのだ。
「ユリア式封咒を解くと、障気に汚染された
「それは……つまりヴァンに障気が流れこむという訳ですか? それではヴァンは
「そうなるな。しかも量が桁違いだ。通常の
「そんな!?」
ティアがたまらず声を上げる。
「普通に考えればかなりの障害だ。でも俺はこれを障害だとは思っていなかった。……ヴァンが封咒を解く人間だからだ」
「受刑者だから障気蝕害になっても構わない、という考えですか」
「ヴァンはアクゼリュス崩落の未遂犯だ。それ以外にも余罪はたっぷりある。生物レプリカの作成とかな」
「…………」
こればっかりは考えてどうにかなる問題じゃない。現在判明しているユリアの子孫はヴァンとティアの二人だけ。そして片方が受刑者なのだ。他に取れる選択肢は無いと思うが……。
「だとしても、事前に説明しておくべきだったな。これは貴公のミスだぞ、ルーク殿」
ピオニー陛下からの厳しいお言葉。ごもっともです。
「はい。確かに俺のミスです。ですが……どうされますか。世界各地のパッセージリングを操作する作業はこれからが本番です。それに健康体であるティアで封咒を解きますか?」
俺がそう言うと、その場の人間は一様に口を閉ざした。他に選択肢はないんだよなぁ。
「少し待て。議会で議論して結論を出す」
結局それで一日ほどグランコクマに足止めをくった。だが最終的に議会でもヴァン・グランツを使って解咒すると結論が出た。妹であるティアは納得していないだろうが、彼女に解咒をさせる事はできないのだから納得して貰うしかない。
さて話を戻そう。シュレーの丘だ。ここの仕掛けはゲームをプレイしていても厄介だった覚えしかない。しかし、実際にはその面倒な仕掛けを解く必要は無かった。俺も勘違いをしていたのだが、ゲームでプレイヤーの前に立ちはだかったあの仕掛けは、一度リングを操作した後に再びリングを操作できない様に施したヴァンの仕掛けだったのだ。だがこの世界ではタルタロス襲撃の時にイオンが連れ出される事はなく、ヴァンがシュレーの丘に入ってリングを操作する事もなかったのだから仕掛ける暇など無かったのだ。
「さて、ジェイド。初めての降下作業になるわけだが、文言は『ツリー上昇。速度三倍。固定』で問題ないよな?」
「……ふむ。ええ、確かにその文章で問題ないでしょう」
ジェイドのお墨付きも貰ったので超振動でその文字を彫り込んでいく。まずはセキュリティになっている赤い外縁部分を削り取って……と。上向きの矢印と、次に文言を彫り込んで、これでセントビナー周辺の大地はゆっくりと降下し始める筈だ。既にセントビナーの住民は軍によって避難させられているので問題ない。
「……降下し始めた様ですね」
ジェイドが呟く。それはそれとして、つ、疲れるな。アクゼリュスでもそうだったけど、超振動を使うとやたらめったら疲れる。とはいえこればっかりは仕方ない。俺が頑張るしかないのだから。
「念のため降下が完了するまでパッセージリングの傍に待機していましょう」
そう言うジェイドに従ってしばらくの間待機する。降下作業を行ったので、俺達の周囲にはセフィロトの
「完全に降下した様です。パッセージリングにも異常はないですね」
「成功……だな」
「何だか上手く行きすぎて拍子抜けするぐらいだな」
「そうは言うけどなーガイ。俺は超振動を使うとめっちゃ疲れるんだぞ」
「そっか、悪い悪い」
ちっとも悪そうじゃないぞ、ガイ。
「まあ、油断だけはしない様にしよう。六神将達はまだ健在だからな」
「そろそろ外に出ましょうか。
外にでると、紫色の障気が渦巻く魔界だった。良かった。どうやら初めての降下作業は上手くいった様だ。この後はキムラスカとの戦争だったな。あまり魔界に長居するのも健康に悪い。さっさと外殻大地に上がってしまおう。
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「ふぅ。疲れたな。」
俺はそう言って全身の力を抜いた。ここはグランコクマ宮殿の客室だ。ふかふかのベッドに体を沈めて脱力している。
「気ぃ抜いてるなー」
ガイはそう言うが、せっかくの休憩時間なのだから休まないともったいないじゃないか。っとアッシュから手紙がきてたからそれの確認もしないとな。俺が手紙を広げるとガイがのぞき込んできた。
「なんて書いてあるんだ?」
「どれどれ……えっと」
アッシュからの報告によると、六神将は現在行動の指針に迷っているらしい。本来であればヴァンが俺を使ってアクゼリュスを崩落させる予定だった。だが時間が過ぎてもアクゼリュスは崩落しないしヴァンも戻ってこない。何でも、俺達が一度引き上げた後のアクゼリュスにも行ったらしい。だが誰も居なかったのですごすごと帰って来たそうだ。その後はとりあえずヴァンを探す事になったらしい。だがヴァンは見つからない。その頃はグランコクマの牢屋に入っていたからな。情報についても、ヴァンが捕らえられている事は最重要機密として扱って貰ったからグランコクマにいるとは思ってもみなかったとの事。そうこうしている内に今度はアクゼリュスが崩落した。ヴァン総長は行方不明なのに何故!? というのが今の状況の様だ。
今のところは何とかごまかせている様だな。だがいつかはばれるだろうな。俺達がヴァンを捕らえている事を。これから先降下作業で各地を巡るのだ。その際に数十名の兵士で引き立てたヴァンの姿は確実に目撃される。いつかは目撃情報から辿ってこられるだろうな。
「それにしても……いいのかねぇ。『戦争待ち』なんて」
「仕方ないだろう。俺達は降下作業を行いたいけど、もしキムラスカが仕掛けてきたらすぐにザオ遺跡のリングを操作しなきゃいけないんだから」
俺達はキムラスカが戦争を仕掛けてくるのを待っている状況だ。というのも理由がある。本来であれば俺達は世界各地のセフィロトを巡ってパッセージリングに降下の文言を刻む必要がある。だが、キムラスカが戦争をしかけてきた場合、ザオ遺跡のリングを操作して大地を降下させ、戦争を止めなければならない。
さすがに戦争が起きそうだからといって先に大地を降下させる訳にもいかない為、今の様な戦争待ちという奇妙な状態になっているのだった。もちろん戦場に近い位置となるエンゲーブへは、既に避難指示が出されている。
戦争か-。そういや恋愛系のサブイベントとかあったっけ。それも全部無くなるな。まあでも死ぬ事も無くなるんだからそれで勘弁して貰うか。
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戦争が起きた。こうまで予想通りだといっそ怖くなってくるが、まあそんだけキムラスカの連中が即物的だという事だろう。ユリアの
さて、ザオ遺跡に赴くかね。といってもアルビオールは砂漠に着陸できないので、俺達はケセドニア手前にアルビオールを乗りつける事にした。その際、街の代表者であるアスターさんに挨拶に行った。
「……魔界ですか。俄には信じがたい話です」
全ての説明を聞いた後、アスターはそう言った。
「しかしどのみち、私達にはあなた方を信じるより他に方法はない。住民への通達はお任せ下さい。ケセドニアをお願いします」
いきなりこんな話をして信じてくれるか不安だったが、アスター氏の度量は格が違った様だ。俺達はケセドニアを抜けて南東にあるザオ遺跡を目指した。砂漠のオアシスには寄らない。薬品などの準備は万端だったから大丈夫だろう。ただ今回はボス戦があるからなー。どうなる事やら。
ザオ遺跡は石造りの遺跡だ。進む場所に本来であればミュウアタックで壊す岩などがある。原作だとここでソーサラーリングを強化するんだよな。んでチーグルのミュウが岩をぶち壊して先に進める様になる。だけどチーグルの森に行かなかった俺達にはミュウもソーサラーリングも無い。だけど
「狂乱せし地霊の宴よ――ロックブレイク!!」
こうやって譜術で壊していけばいいだけなんだよなー。ミュウいらずだわ本当に。そうして先に進んでいく。言い忘れていたが今回はヴァンを連れているがイオンはいない。バチカルで攫われた後、六神将によってここのダアト式封咒は既に解咒済みだからだ。
「橋が……揺れてる?」
橋になっている所を歩いていた時、足下が揺れ始めた。アクゼリュスとセントビナーの影響か? 原作でも外殻大地で地震が起きる描写が何度もあったっけ。
「帰りに橋がなくなってる……なんてのはごめんだな」
「おいおいルーク、嫌な事いうなよ」
「まあ大丈夫だと思うけどな。それより、そろそろだぜ」
本来ダアト式封咒があった辺りに来ると魔物の気配がした。名前までは分からないが岩で出来たサソリの様なボスが姿を現した。
「っ!? 来ますよっ!」
ジェイドのその叫びと共に、戦闘に入った。とはいってもそこまで緊張する戦闘ではない。こちらにはマルクト兵二十名がいるのだ。半分くらいの兵士は譜術を得意とする後衛だが、前衛型の兵士もいる。俺は彼らと一緒になって攻撃すればいいだけだ。
「荒れ狂う流れよ――スプラッシュ!!」
「氷の刃よ。降り注げ――アイシクルレイン!!」
「唸れ烈風! 大気の刃よ、切り刻め! ――タービュランス!!」
「仇なす者よ、聖なる刻印を刻め――エクレールラルム!!」
「出でよ。敵を蹴散らす激しき水塊――セイントバブル!!」
後衛からどしどしと譜術が降り注ぐ。それに合わせて攻撃していく。
「雪月花……ってな! ――氷月翔閃!!」
「穿破斬月襲!!」
前衛と後衛で絶え間なく攻撃を続けると、しばらくしてその魔物は耐えきれなくなって消滅してしまった。……なんだか弱い者いじめのようなフルボッコで申し訳ない気持ちになるが、降下作業をスムーズに行う為にも戦闘には時間を取られている暇などない。
「こいつは一体……?」
「創世暦の魔物じゃないかしら。以前ユリアシティにある本で見たことがあるわ。ただ、こんなに好戦的ではなかったと思うけど……」
「何でもいいよ。倒せたんだから。先に進もう」
魔物に関する考察なんかあとあと。さっさと行こう。この先も長い道が続いているのだから。
長い長い旅路の果てにようやっとパッセージリングに辿り着いた。アクゼリュスやシュレーの丘と同じに譜陣が刻まれている。
「ティア、操作盤の近くには行くなよ」
俺はユリア式封咒がティアの方に反応しないよう声をかけると、ヴァンを引きずっている兵士さん達に指示を出した。
「ヴァンをこっちへ」
ヴァンが操作盤の近くに移動すると、操作盤が本の形に開いて上空にセフィロトの樹形図が浮かび上がる。さて超振動の出番か。俺は軽く首をひねると図形に向けて意識を集中させた。
「ツリー上昇。三倍。固定っと」
そうしてシュレーの丘と同じ様に文言を刻む。全て操作が終わると俺は膝に手をつき息を吐いた。
(これで、ケセドニア周辺の大地も降下した。後は各地を巡ってリングを操作して行くだけだ)
俺は終わった作業とこれから行っていく作業を想像しながらその場に座り込んだ。
アクゼリュス崩落。こんなに平和的に崩落するのも珍しいんじゃないかしら。そしてシュレーの丘とザオ遺跡も終了。これからしばらくはこんな箇条書きの様なイベントが続きます。
転生ルーク君の言葉がぞんざいになってきてますが、さすがにずっと同じメンバーと行動してるので遠慮がなくなった様です。