臆病な転生ルーク   作:掃き捨て芥

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 このお話はマイナス3話となっております。1話が始まる前のマイナス。その3話です。ここから-2、-1と進んでゆき、0話を経て1話に繋がります。
 あと、今更ですがこの話には原作ゲームの重大なネタバレが存在します。



-3話 転生

 初めて周囲の世界を知覚したのは、自分の屋敷だった。……それさえも自分にとってはよくわからない場所だったが。

 

 

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 「ルーク、おおルーク。もう大丈夫ですよ。ここはバチカルの屋敷ですからね」

 

 始めに聞いた時、何を言っているか分からなかった。いや、言葉の意味は分かった。けれど俺にはその人が何を言っているか本当に分からなかったのだ。

少し時間がたってようやく、自分こそが「ルーク」と呼ばれているのだと気づいた。

 

 ルーク、バチカル、屋敷、公爵家…………始めは意味が分からなかった。いや、意味は分かっていた。ただ理解が追いつかなかったのだ。まさか自分が、「テイルズ オブ ジ アビス」の主人公、ルークに転生したなど誰が理解できるというのだ。

 

 それから1ヶ月ほど時間が過ぎた。と言ってもこの世界、オールドラントと呼ばれるこの世界では1ヶ月は約58日存在するがな!!

 

 ああそうだよ! 1ヶ月58日かけてようやっと認識できたんだよ! 自分がルークで、この世界はオールドラントなんだってな!

 

 そこから先の数日間の事は思い出したくない。何故かって? 「テイルズ オブ ジ アビス」この原作ゲームの主人公ルークには凄まじい数の死亡フラグが立っているんだよ!

 詳しく話すと長くなるので割愛するが、ルークは生まれた時から数々の死亡フラグが立っている人物なのだ。そしてゲームを進めてクリアすると(一本道のシナリオだ。マルチエンディングなどでは決してない)、ルークは必ず死亡する。それも「生きたい、生きたい」と望んだあげく自分の記憶だけ他人に持って行かれるという最悪な死に方をするのだ。

 

 ……こんな人物に転生してしまったら、それから数日間ただひたすら自分の境遇を嘆いていたとしても誰も文句は言えまい。

 死にたく、ない。……俺は死にたくない。俺は転生する前に一度死んだのだ。なまじ一度“それ”を体験してしまったからこそ、なおさら強く思う。死にたくないと。陳腐な表現だが死んだ後の意識は暗く、静かで何も無い所を漂っているような感覚だった。あんな状態には二度となりたくない。そりゃあもう一度生まれてしまったのだからいつかは死ななきゃならないのだろう。それでも! 俺は死にたくない!!

 そこから二週間くらいの時間をかけて、俺は考えた。「どうすれば生きられるのか」と。

 まず考えたのは原作知識の蓄積だ。周囲の人間の言う事を聞く限り、自分はレプリカ・ルークとして生まれたばかり、ルーク・フォン・ファブレとしては10歳にあたるようだから(原作ゲームをプレイしていない人が聞いたら意味不明だろうがまあ後々分かるので黙って聞いて欲しい)原作開始までは七年間の時間的猶予があることになる。

 

 

 七年間。長いようで短い時間だ。ただこのオールドラントという世界では公転周期が765日……つまり1年間が765日だから、1年が365日の世界から来た自分には倍の時間である14年という時間が使えるという考えになる。

 

 ここら辺の事は説明すると長くなる。時間に余裕のある方だけ読んでくれればよい。1年が765日と聞くと、「1年が765日もあるの? すっげーそれじゃかなり時間に余裕を持って過ごせるじゃん」と考えるのが普通だろう。だがちょっと待って欲しい。その考えで行けばこの世界の16歳の人間は俺が居た世界に換算すると32歳という事になる。35歳の人間は70歳になる。

 ……そんな事ありえないだろ? よって俺は現実世界で過ごしていた頃からこの設定をあまり重要視していない。

 例えば、1年が182日という世界があったとする。その世界の人達は俺が暮らしていた現実世界よりせかせかして過ごしているのではないだろうか? そしてオールドラントで暮らす人々は現実世界の人々よりゆったりと毎日を過ごしているのではないだろうか?

 現実世界で学生が1年間で学ぶ事柄があったとして、オールドラントでも1年765日をかけてゆっくりと学んでいくのではないだろうか?

 

 

 この俺の考えは実際にオールドラントで七年間過ごす事により実感に変わった。この世界の人々はみな俺が知っている人よりゆったりと日々を過ごしている。

 しかし逆に考えれば、現実世界からこの世界に転生した俺は、俺だけは1年が365日の過ごし方で765日過ごせるのだ。

 ……時間はある。俺が1年365日の過ごし方で生きる限り、14年という時間が俺には与えられた事になる。

 

  ――生きてやる。何が何でも生きてやる。俺(ルーク)に課せられた全ての死亡フラグを叩き折って、誰かを殺す事になったとしても生きてやる! 血をすすり、恥を晒してでも生きてやる。

何を犠牲にすることになっても、生きて生きて生きて生きて生きて生き抜いてやる!

 

……とりあえず、このろくに動かない体を動かして何とかメモを取らないとな。

 

 




 主人公の転生前の人生や死んだ時の状況などを描写する予定は今のところありません。
 1年が765日に関する考察。こうでもしないとヒロインのティアとか32歳のヒロイン(笑)になっちゃいますからね。私達が1年365日を過ごすのとは全く違った、2倍近いゆったりとしたペースで生活しているので、精神も16歳の人は16歳、という風に考えています。

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