臆病な転生ルーク   作:掃き捨て芥

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 前にも書いていた次回作のプロットが出来ましたので、活動報告で書きました。
 良ければ読んでみて下さい。
 率直な感想などを頂ければ幸いです。


第13話 親善大使

「……ふわぁ」

 

 俺は眠気からくる欠伸をすると、うーんと背筋を伸ばした。俺がバチカルに帰還したあの日から数日が経っている。原作とまた違いが出てきた。

 原作においてはルークがバチカルに帰還した翌日に王城へ呼び出しがかかるのだ。だがこの世界ではタルタロスを使って早めに帰還したからか、今だ王城への呼び出しは受けていない。

 

「……ん」

 

 呼び出しがかからないなら、俺はいまだにこの屋敷に軟禁されている状態だ。外に出ることは出来ない。なら毎日の日課である鍛錬を始めるか。

 

 部屋の中でストレッチをして、中庭に出てさあ走ろうとした時だった。中庭に出る扉が開きナタリアが姿を見せたのだ。

 

「ルーク!」

 

「ナタリア? こんな朝早くにどうしたんだ?」

 

「お父様からの伝言があります。これまでの軟禁をとくので、城に登城する様にとの事ですわ」

 

「俺、外に出ていいのか?」

 

 って事は和平は無事結ばれたって事か。まずは良かった……のかな。

 

「じゃあ軽く運動した後に朝食をとったら登城するよ。謁見の間に行けばいいのか?」

 

「ええ。なにやら貴方に命じる事があるとの事でしたわ」

 

 おや、ナタリアはこの時点で親善大使の事を知らされていないのか。まあナタリアは秘預言(クローズドスコア)も知らされていない筈だから、上層部の話し合いからは外されているんだろう。

 

 ナタリアと軟禁がとかれて良かったという言葉を交わしながら、俺はこれから始まる旅の事を思っていた。 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 朝食をしっかりと食べて腹を満たした俺は王城へと向かっていた。城の門を警備している兵士に呼び出しを受けたルーク・フォン・ファブレである事を伝えて通して貰う。その後謁見の間まで一直線に進んだ。

 

 謁見の間にはインゴベルト陛下とナタリアが玉座に腰掛け、父親のファブレ公爵とアルバイン大臣とジェイド。そして初めて顔を合わせる大詠師モース……だよな? が居た。

 

「おお、待っていたぞ。ルークよ」

 

「昨夜緊急議会が招集され、マルクト帝国と和平条約を締結する事で合意しました」

 

 アルバイン大臣が和平を結んだ事を報告してくれる。

 

「親書には平和条約締結の提案と共に、救援の要請があったのだ」

 

「現在マルクト帝国のアクゼリュスという鉱山都市が、障気なる大地(ノーム)の毒素で壊滅の危機に陥っているという事です」

 

 陛下と大臣が交互に発言してくる。知ってたよ。しかしジェイドとイオンも水臭いよな。アクゼリュスの事、俺に話してくれてもよさそうなもんなのに。そういやイオンはどうした? 大詠師であるモースがいるのになんでイオンはいないんだ?

 いや原作知識の通りならイオンは今頃攫われているはずではあるんだが、この場に居ないのは不自然だろ。誰か連れて来てやれよ。

 

「マルクト側で住民を救出したくても、アクゼリュスへ繋がる街道が障気で完全にやられているそうよ」

 

 ナタリアが補足してくれる。

 

「だがアクゼリュスは元々我が国の領土。当然カイツール側からも街道が繋がっている。そこで我が国に住民の保護を要請してきたのだ」

 

「それは……、マルクトの住民を救助すれば和平の証しにはなるでしょうね。でもそれと私に何の関係があるのですか?」

 

 茶番だなー。この後の展開も全部知っている俺にとっちゃ全部茶番だ。全て既定事項でしかないんだからな。

 

「陛下はありがたくもお前を、キムラスカ・ランバルディア王国の親善大使として任命されたのだ」

 

「私を……ですか!? ですが私は記憶喪失になってからずっと軟禁されていた身。公務の経験も全くありませんが……」

 

 俺がこうやって拒否しそうになれば、

 

「ナタリアからヴァンの話を聞いた。ヴァンが犯人であるかどうか我々も計りかねている。そこで、だ。お前が親善大使としてアクゼリュスへ行ってくれれば、ヴァンを解放し協力させよう」

 

 こうやって役目を押しつけてくると。

 

「ヴァン謡将(ようしょう)は捕まっておられるのですか?」

 

「城の地下に捕らえられているわ」

 

 ナタリアが言う。俺の師匠だから尽力してくれたのだろうか? だとしたら力が及ばなかった事を悔いているのかも知れない。さて、それはそれとして親善大使の任命を受けるか。

 

「陛下。事が王命だと言うのならこのルーク。親善大使の任命、ありがたく拝命させていただきます。ですが陛下、ヴァン謡将が疑いを持って捕らえられているというのなら、私の任命と引き替えに解放などしなくて結構ですよ。疑われる理由があって捕らえられているというのなら、存分に詮議して処遇をお決めになって下さい」

 

 俺がそう言うと、陛下を始めナタリアやファブレ公爵も驚いた表情をした。……どうやら俺がヴァンを一も二も無くかばうと思っていた様だ。だーれがあんな髭野郎をかばうもんか。城に捕らえられているというのならそのままずっと捕縛されていればよいのだ。

 

「……そ、そうか。まあよかろう。しかしよく決心してくれた。実はな、この役目、お前でなければならない意味があるのだ」

 

 するとファブレ公爵が、兵士に持たせた譜石を示す。

 

「この譜石をごらん。これは我が国の領土に降ったユリア・ジュエの第六譜石の一部だ」

 

 第六譜石か。第○譜石と呼ばれる譜石は、始祖ユリアが二千年前に詠んだ預言(スコア)だ。世界の未来史が書かれている。普通預言士(スコアラー)が預言を詠むと譜石と呼ばれる石が生成されるのだ。だがユリアが詠んだそれはあまりに長大な預言なので、それが記された譜石も山ほどの大きさの物が七つになった。それが様々な影響で破壊され、一部は空に見える譜石帯となり、一部は地表に落ちた。

 地表に落ちた譜石はキムラスカとマルクトで奪い合いになった。これが戦争の発端だと言われている。譜石があれば世界の未来を知る事ができるからな。

 まあぶっちゃけ俺の持つ原作知識のすごいバージョンみたいなものだ。なんせ二千年分だからな。

 

「預言士よ。この譜石の下の方に記された預言を詠んでみなさい」

 

 原作だとここで譜石を詠むのはティアだったな。この世界では俺が逮捕させたからこの場にはいないけど。……っつーか原作はどんだけ罪をないがしろにしてんだよ。王城のすぐそばにあるファブレ公爵家を襲撃した犯人だぞ。よく謁見の間に通したな。

 

「――『ND2000。ローレライの力を継ぐ者、キムラスカに誕生す。其は王族に連なる赤い髪の男児なり。名を聖なる焔の光と称す。彼はキムラスカ・ランバルディアを新たな繁栄に導くだろう。ND2018。ローレライの力を継ぐ若者、人々を引き連れ鉱山の街へと向かう。そこで……』……この先は欠けています」

 

 おっと、考え事なんてしてないで真面目に聞かないとな。だけどこの譜石が欠けてるのってわざと譜石を砕いたんだろ? えげつないわー。この後に詠まれた預言が大勢の人間が死ぬ内容だというのに隠そうとかえげつないわー。

 

「結構。つまりルーク、お前は預言に詠まれた、選ばれた若者なのだよ」

 

 古代イスパニア語でルークってのが聖なる焔の光って意味だからな。お前は選ばれた特別な人間ですってか? 生憎そんな美辞麗句にのぼせ上がる程若くねーよ。それにその預言に詠まれているルークってオリジナルのアッシュの事だし。

 

「英雄ねぇ……」

 

 ジェイドが不審に思う様な声を上げる。そーだよなぁ。うさんくさいよなぁ。

 

「何か? カーティス大佐」

 

「いえ。それでは同行者は私と誰になりましょう?」

 

「ローレライ教団としてはティアとヴァンを同行させたいと存じます」

 

 アホか。

 

「ちょっと待って下さい。大詠師モース殿。ティア・グランツはファブレ公爵家を襲撃した犯人ですし、兄のヴァンも疑いをかけられて捕らえられている筈ですよ。なのにこの和平の象徴、被災地への救援に同行させるとはどういう事ですか!」

 

 ふざけんなこのタルみたいな体型した豚野郎。

 

「ルーク。その事なのだがな、ローレライ教団から罪の軽減としてアクゼリュス救援に同行させる旨を申し出てきたのだ。罪を犯したのは確かかもしれぬが、アクゼリュスで救援の為に働く事で罪を相殺するという事になったのだ」

 

 おい国王。あんたがそんなんでどーする。俺があんたが寝ているところに暗殺しに行こうがボランティアやれば罪が相殺されて無罪放免になるってか? マジふざけんな。

 

「……はぁ。そーですか。分かりました。ティアとヴァンの二人は同行者になるのですね」

 

「ルーク。お前は誰を連れて行きたい? おおそうだ。ガイを世話係に連れて行くといい」

 

 公爵、これ分かって言ってるよな。この人はアクゼリュスが崩落するという秘預言の内容を知っているのだ。だったらこのガイを連れて行けというのは事実上の死刑宣告じゃねーか。

 

「そうですね。ガイも連れて行きましょうか。それと陛下、この度のアクゼリュス行きは大規模な救援になると思われますがキムラスカからは何十人、いえ何百人の人員を派遣するのですか?」

 

 これはちゃんと確認しておかないとな。

 

「む、むぅ。派遣する人員……か」

 

 おいおい言葉に詰まるなよ、陛下。

 

「私の知る限り、マルクト領の鉱山都市アクゼリュスは人口が一万人だった筈です。この様な救援ともなれば最悪の事態を想定して動くべき所でしょう。一万人全員が障気にやられていると想定すると数十人程度の人員では手が足りないでしょう」

 

 アクゼリュスの人口もちゃんと勉強してるぜ。原作でも救援の人員は派遣されていたが、この世界での人員はどれくらいになるんだ?

 

「う、うむ。なにぶん急な決定だったのでな。今すぐ動かせる人員は四十名といった所か。その人数をお前の指揮下の元派遣する事になるだろう」

 

 四十人、四十人か。ケセドニアに待機させているタルタロスの人員を合わせても二百人程度か。厳しいな。でもアクゼリュスに行く人員は死ぬ運命にあるからな。国王としても自分の国民を無駄に死なせたくないんだろう。……粘るのも駄目か。王命だもんな。

 

「かしこまりました、陛下。四十名の人員を持って、このルーク、無事アクゼリュスの救援をこなしてまいります。……両国の和平の為にも。それと公爵、ガイ以外にも私の護衛役として白光騎士団の者らを数名連れて行きたいのですがよろしいでしょうか」

 

「……護衛か」

 

 案の定父親は渋い顔をする。アクゼリュス行きイコール死だもんな。自分の家の警備兵をみすみす死なせたくはないだろうな。けどこっちも引けないんだ。

 

「既に報告してありますが、マルクトの領内で陸艦タルタロスが神託の盾(オラクル)騎士団に襲撃されました。六神将という幹部達は両国の和平について快く思っていない様です。この度のアクゼリュス行きの道程でも襲撃があるかも知れません。護衛役は必要かと」

 

 タルタロス襲撃を引き合いに出して説得する。

 

「……分かった。お前と親しいもの数名、家の警備に支障がない程度に連れて行く事を許そう」

 

「ありがとうございます」

 

 大丈夫だよ。親父。俺は死ぬ気はないし。俺についてくる人間も死なせるつもりはないからな。俺はナタリアにだけ分かる様に目線で合図を送ると、陛下達に背を向けて歩き出した。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 謁見の間から引き上げた俺は王城の外に出た。

 

「ジェイド。俺は先ほどまで今回の件を知らされていなかったんだ。アクゼリュスまで旅をするのに何の準備もしていない状態だから屋敷で準備をしてきたいんだ。少しの間だけ港で待っていてくれるか?」

 

「分かりました。私と部下はバチカルの港で待っていますので、準備がすみましたら合流しましょう」

 

 俺はそう言ってジェイドと別れた。そこに謁見の間からナタリアが出てくる。

 

「ルーク。先ほどのは一体」

 

 先ほどのアイコンタクトについて聞いてくるナタリア。

 

「ああ、俺からナタリアに頼みたい事があったんだ。」

 

 そうして俺はナタリアに顔を近づけて声を潜めた。

 

「ナタリア。お前も聞いた通り今回キムラスカから出されるアクゼリュス救援隊の人員は四十人だ。でも俺はそれじゃとても足りないと思っている。だからな、俺達が出港した後でいいからナタリアの裁量で人員をまとめてアクゼリュスへ送ってくれないか。出来ればマルクトへ敵愾心の少ない人達がいいな」

 

 これはかなり無茶なお願いだ。それじゃとても足りないと思う四十人だろうが何だろうが、国王が四十人と言ったら四十人なのだ。その王命を覆せる人間は居ない。唯一ナタリアだけが例外なのだ。ナタリアは国王の愛娘、王女という立場もある人物だ。例え国王が四十人と発表していても、ナタリアなら追加の人員を送ってくれるかもしれない。……正直王命と違う事をさせる事に抵抗はあるが、頼れるのはナタリアしかいないのだ。

 

「無茶な事を言ってるのは分かってる。でも俺にはナタリアしか頼れる人が居ないんだ。協力してくれないか? アクゼリュスの民を救う為に」

 

「ルーク……。ええ。分かりましたわ。民の為ですものね。貴方の願い。わたくしが聞き届けましたわ」

 

 ナタリアはそんな俺の無茶な願いを聞いてくれた。良かった。上手くいくかどうかは分からないが、追加の人員が届く可能性が出てきた。

 それに原作ではナタリアが王女であるのにもかかわらず、アクゼリュス救援隊に加わるという謎の展開があるのだが、この話をした事で追加の人員をまとめる為にバチカルに残ってくれるだろう。原作では自己顕示欲に近い感情で(あとついでにルークの傍に居る女性に対する嫉妬も)アクゼリュスについてくるのだが、あれはないよなぁ。このナタリアはどうやら親善に赴く俺を信用して任せてくれそうだ。良かった良かった。

 

 ナタリアと別れて屋敷へと向かった。ちなみに囚われている筈のティアとヴァンに関してはキムラスカ兵に解放と事情の説明を指示しておいた。

 原作ではヴァンに会いに行って城の地下にある牢でヴァンと密談するんだよな。けど残念でしたーっ! 俺はてめーみてーな髭野郎に真っ先に会いにいったりしねーよ!

 

 屋敷についた俺はガイと、特に親密な白光騎士団の兵四名を集めて事情を説明した。アクゼリュスに救援に行く事。しかしここに集まった皆は救援が目的ではなく俺の護衛を主な任務とする事。アクゼリュスでは倒れ込んでいる重病者なども居るだろうが、そういった重病者に手を貸す事はせずあくまで俺の護衛として傍についている様にと厳命した。

 ガイはこの命令にあまり良い顔はしなかったが、タルタロスの乗員皆殺しは既に知っている筈なので、それを引き合いに出してアクゼリュス救援隊も襲われるかもしれない事。和平の象徴となった親善大使の俺が狙われるかもしれない事を説明して納得させた。

 原作だとガイはルークをほっぽって重病者の手当てをしていたな。イオンの護衛役であるアニスもだ。そりゃー目の前で倒れている人がいれば助けたいと思うのは自然な事かもしれない。けれど、イオンやルークの傍に常についている人がいればアクゼリュスの崩落は起きなかったかもしれないのだ。人を助けるのも良し悪しである。

 

 屋敷での旅の準備が済んだので俺とガイ以下4名は連れだって港へ向かおうとした。その途中で昇降機を降りているとアニスに出くわした。

 

「ルーク様ぁ!」

 

 ……原作知識通りならイオンが攫われている筈なんだが、なんで笑いながら駆け寄ってくるんだ?

 

「逢いたかったですぅ♥」

 

 ああうざったい。

 

「タトリン奏長、導師イオンについていなくていいんですか?」

 

「ルーク様。それが……朝起きたらベッドがもぬけの殻で……街を捜したら、どこかのサーカス団みたいな人が、イオン様っぽい人と街の外へ行ったって……」

 

「サーカス団? なんだいそりゃ」

 

 ガイが疑問の声を上げる。そっか、この世界での俺達は漆黒の翼に会ってないからな。漆黒の翼=サーカス団っぽい服装の奴ら、と連想されないんだ。

 

「タトリン奏長。朝起きたらって……交代制で寝ずの番とかはしていなかったのですか?」

 

 やや怒気をまとわせながら問いかける。

 

「えっと、あの。それが~」

 

 答えられないか。原作をプレイした限りじゃこの誘拐にはアニスは関わってないって印象だったんだが……違うのか? わざとイオンを攫われるのを見過ごしたのか?

 

「ともかくだ。導師イオンが攫われたというなら一大事だ。まだ城にいるであろう大詠師モースに報告して神託の盾騎士団の人員を総動員して捜させた方がいいですね」

 

「あ、モース様にはもう報告しました。怒ってましたよ。モース様」

 

 攫ったのはセフィロトに連れて行こうとする六神将だよな。ならモースは関わってない……という事はアニスも関わっていないと見るべきか。

 

「ならそれに加えてキムラスカの兵士も動かしましょう。攫われたのはバチカルです。キムラスカにも責任はあります。大詠師モースに言って陛下に上奏して貰えばキムラスカ兵も動員させる事ができますよ」

 

「なあ、ルーク、様。俺達も捜した方がいいんじゃないか?」

 

「それは駄目だ」

 

 そういう流れになるのは知ってたよ。でも原作と違って俺達はイオン捜索に加わる事は無い。

 

「何でだ? だってイオンは……」

 

「導師イオンが和平の仲介役で、世界でも重要な人物だというのは知ってるよ。でもなガイ? 俺達はインゴベルト陛下の王命でアクゼリュスの救援に向かう任務についているんだ。イオンの捜索に加わる事は出来ない。……今こうしている間にもアクゼリュスでは障気にやられている人がいるかも知れないんだぞ」

 

 そう、今の俺達はアクゼリュス救援隊なんだ。それを忘れちゃいけない。被災地へ行く救援隊と行方不明人を捜す人間は別だ。

 

「あうぅ~」

 

 アニスも俺達に捜して欲しかったのかも知れないが、当てが外れた様でうめいている。

 

「とにかく、タトリン奏長は大詠師モースの指示に従って導師イオンの捜索を続けて下さい。……ガイ、皆、俺達は港へ行くぞ」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 港へ着くと、ジェイドとマルクト兵、ティア、ヴァンが勢揃いしていた。

 

「遅れて申し訳ない。それで? 出発はいつになりますか?」

 

「その事で提案があります。……ヴァン謡将にお話するのは気が引けるのですが……まあいいでしょう」

 

 ジェイドの提案か。ここは原作をプレイしていて気になった所だからな。覚えているぞ。

 

「中央大海を神託の盾の船が監視している様です。大詠師派の妨害工作でしょう」

 

「大佐……」

 

 ティアが異を唱えようとするが「事実です」というジェイドの声に封殺される。

 

「まあ大詠師派かどうかは未確認ですが、――とにかく海は危険です」

 

 海は危険って言っても急いでいるんだから海路しかないじゃないか。

 

「海は危険って……じゃあどうするんです?」

 

「海へおとりの船を出港させて、我々は陸路でケセドニアへ行きましょう。ケセドニアから先のローテルロー海はマルクトの制圧下にあります。そこからなら、船でアクゼリュスへ向かう事は難しくありません」

 

 ジェイドの提案にヴァンがうなずく。

 

「なるほど。では、こうしよう。私がおとりの船に乗る。私がアクゼリュス救援隊に同行することは発表されているのだろう? ならば、私の乗船で信憑性も増す。神託の盾はなおのこと船を救援隊の本体だと思うだろう」

 

「よろしいでしょう。どの道貴方を信じるより、他にありません」

 

 いやよくねーよ。何言ってんだこいつら。

 

「ちょっと待った!」

 

 俺は語気を強めて呼びかけた。

 

「ジェイド。お前何言ってんの? アクゼリュスは一刻も早く救援に赴かなければならない場所だろ? それなのに陸路を行く? そんな悠長な事をしてる暇は無いだろ」

 

「しかし……」

 

 しかしじゃねーよ。

 

「おとりの船を出港させるという所まではいい。じゃあその次、おとりの船を出して監視している船がついて行くようなら、その後に救援隊の本体を乗せた船で出港すればいいだけの話じゃないか」

 

 原作をプレイした時から思ってた事。おとりの船を出した後に本体の船で海路を行けばいいじゃねーか。そうすれば陸路を行くなんていう悠長な事をせずにすむ。

 

「もしおとりの船に監視している船が反応しないのなら、本体の船でも同じ様に反応しないだろ。それでケセドニアに行けばいい。違うか?」

 

「いえ、それは……確かに」

 

「アクゼリュスはお前の国の領土で、アクゼリュスの住民はお前と同じ国民だろ。1分1秒でも早く救援に向かう必要があるだろ」

 

「そう……ですね。しかしよろしいのですか? おとりの船と別に本体の船を手配する必要がありますが」

 

「陸路を行く手間と時間を考えりゃその程度の手間なんてことねーよ。俺が今から言ってくる」

 

 俺はジェイド達を置いて救援隊の船を出す水夫の元へ向かった。アクゼリュスは被災地なんだ。一刻も早く辿り着かないとな。

 




 親善大使に着任。原作をプレイしている時から不思議だったのですが、何故誰も謁見の間にイオンがいない事にツッコまなかったのでしょうか。モースがいるなら仲介役を頼まれたイオンも居るのが自然だと思うのですが。
 キムラスカから出る人員は四十人。この人数はかなり悩みました。救援の人数としては少ないけれど、陛下は死兵と分かっているので人数を抑えたいでしょうし……。感想で少ないのでは? 等々指摘されたら直すかも知れません。
 イオンを探さない。被災地へ救援に行く自衛隊の人達と、攫われて行方不明になった人を探す警察官は別です。アクゼリュス救援隊のルーク達が探す理由は全くありません。
 陸路を行かない。ゲームではちょちょいと歩くだけですが、現実の世界としてバチカルからケセドニアまで徒歩移動したら週単位の時間がかかっちゃいますよ。被災地が待っているというのにそんな悠長な事はしていられません。なので船移動です。



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