セントビナーに到着した。この町は薬品の生産地でもあるが、国境近くに位置するため城砦都市として常備兵がいるのだ。ここの兵士さん達の力を借りて、まだタルタロス内部に残っている魔物や
「セントビナーに着きましたが、敵の攻撃はありませんね。先ほどの六神将の命令で撤退したのでしょうか?」
ジェイドの言う通り、あの後も
「非常用の
その言葉に従い、俺達は全員で昇降口へ向かった。
昇降口から降りるとセントビナーの兵達がわらわらと集まってくる。
「マルクト帝国軍第三師団師団長ジェイド・カーティス大佐です。密命を受けた作戦行動中に神託の盾騎士団に襲撃された為、セントビナーに救援を頼みに来た」
ジェイドが前に出て事情を説明しだすと兵士達の警戒が緩んだ。
「私が把握している残存兵力は今後ろにいる数名だけだ。艦内には敵兵や使役された魔物が残っている可能性がある。臨検はセントビナーの軍責任者と話してから行って貰いたい。それまでは昇降口などから敵兵が出てこないか、見張りをお願いしたいが……構わないでしょうか?」
問いかけられた兵――多分小隊長か何かだろう――はジェイドに向けて敬礼をすると自分の周囲に居る兵士達に指示を出し始めた。そこで俺はジェイドに話しかけた。
「カーティス大佐、貴方はセントビナーの軍本部に出頭するのでしょうが、導師イオンと護衛のタトリン奏長は先に宿屋で休んで貰った方が良いのでは? ……それと、出来ればセントビナーの責任者と話す際は俺も同席させていただきたいのですが」
「イオン様は、確かにそうですね。先に休んでいただいた方がよろしいでしょう。しかし同席したいとは……一体何故?」
そりゃ不思議に思うよね。でもこれは必要な事なんだ。譲る訳にはいかない。
「私なりに、セントビナーの軍責任者に提案したい事があるんです。ご迷惑で無ければご一緒させて貰えませんか?」
ジェイドは俺の言葉に疑問を抱いているようだが、まあいいでしょう。とうなずいてくれた。良かった。これで第一段階はクリアだ。
そこで俺達は宿屋に行くイオンにアニス・ティア・マルクト兵三名と、軍本部に行くジェイドと副官のマルコさん、そして俺に別れた。
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「おお! ジェイド坊やか!」
白い髭を腰の辺りまで伸ばしっぱなしにした老人……老マクガヴァンは喜んだ顔をして迎え入れてくれた。しかしその彼の子でもあり、軍本部の責任者であるグレン・マクガヴァン将軍はあまり歓迎ムードとは言えないしょっぱい顔になった。
「
そう言えばこの人とジェイドの間には確執があったっけ。確執というかこの人が一方的にジェイドを苦手に思っているんだったか。
「ご無沙汰しています。マクガヴァン元帥」
「わしはもう退役したんじゃ。そんな風に呼んでくれるな。お前さんこそ、そろそろ昇進を受け入れたらどうかね。本当ならその若さで大将にまでなっているだろうに」
「どうでしょう。大佐で充分身に余ると思っていますが」
この二人の会話にある通り、老マクガヴァンは元マルクト軍元帥という立場にあった人だ。その後退役してこの町の代表者に選出されたというえらーいお人だ。
挨拶や俺の自己紹介などそこそこに、ジェイドは自分達の状態を報告し始めた。皇帝陛下から密命を受けて、導師イオンを伴って作戦行動中だった事。神託の盾騎士団、恐らくは大詠師派の連中に襲撃されて乗艦している兵士に多数の死傷者が出た事。なんとか艦橋を取り戻してセントビナーまで移動できたものの、まだ艦内には敵兵や魔物が居るかも知れない事。
「なんと……」
話を聞いた二人は驚いて目を見張った。まあ無理もないだろうな。導師イオンを伴うとか、それによって他国(厳密に言うとダアトは自治区だけど)の軍から襲撃を受けるなどかなりの大問題だし。
「なので、申し訳ありませんがセントビナーの兵を借りてタルタロス内部の敵を掃討したいのです。マクガヴァン将軍には多大なご迷惑をおかけしますが、なにとぞお願い申し上げます」
マクガヴァン将軍は難しい顔をして考え込んでいたが、少しすると口を開いた。
「分かった。神託の盾騎士団に襲撃されたとなれば国際問題だ。残敵はできうる限り捕縛しよう」
なんとか話はまとまりそうだ。その後もこまごまとした決めごとを二人は話し合った。一段落付いた所で俺が口を挟んだ。
「マクガヴァン将軍、それからカーティス大佐。お二人に提案があるのですが。タルタロスの航行に必要な乗員をセントビナーの兵士から借り受けられませんか?」
俺が発言するとその場の全員が驚いた。その驚きも引かないままにたたみかける。
「カーティス大佐は、内容は密命なので明かす事はできませんが、皇帝陛下の勅命で動いています。勅命です。その為カーティス大佐と導師イオンはタルタロスを航行してケセドニアに入港し、キムラスカに入国しなければなりません。ですが今回の襲撃で大佐の部下には多数の死傷者が出ました。その分の人員をセントビナーの人員で補充する事を提案します。」
「ルーク様、それは……」
ジェイドが難しい顔をする。そりゃ和平交渉については密命だからマクガヴァン将軍達に明かす事は出来ないよな。けれどタルタロスの航行に人数が必要な事は確かで、その為にはどこからか人員を借りてこなければならない。だとしたらセントビナーで人員を借りるしかないじゃないか。
「タルタロスに補充して少なくなったセントビナーの人員に関しては首都グランコクマから補充の人員を送って貰えばいい」
それに俺は知っている。この和平交渉の先には災害が起きて被災地になっている「アクゼリュス」という土地に救援に赴かなければならない事を。タルタロスの人員はその救援を行う人員でもあったのだ。このままタルタロスをここに放置してキムラスカへ向かうとなると後々アクゼリュスへ行く時に全然救援の人員が居ないという事になってしまう。
加えてタルタロスには救援の為の薬など、物資が山と積まれているはずだ。それもタルタロスが航行できなくなると意味のないものになってしまう。だから原作の様に神託の盾騎士団にタルタロスが拿捕されていないこの状況では、タルタロスを航行させるかさせないかで今後の状況が大きく変わってしまうのだ。
「カーティス大佐。貴方の部下だけでは航行できなくなったタルタロスをこの場所に置いていくとなると、キムラスカへ入国できるのは1ヶ月以上先になってしまうだろう。だがセントビナーから人員を補充して貰いタルタロスが動かせる様になれば、マルクトの領海を通ってケセドニアに辿り着くのはすぐだ。」
「それは……確かにその通りですが」
俺達の言葉にマクガヴァン将軍が慌てて遮ってきた。
「ちょっと待って下さい! 勝手に話を進められては!」
まあそりゃあすんなり協力してはくれないよな。そこで妥協案だ。
「マクガヴァン将軍、先ほども言いましたがカーティス大佐が動いているのは皇帝陛下の勅命です。マルクトの臣民であれば皆が従わなければならない筈だ。もしどうしても補充の兵を貸していただけないというなら貴方から首都グランコクマに問い合わせてみればいい。今カーティス大佐とタルタロスがこの様な状況に陥っているが、セントビナーの兵士を補充人員として協力していいかどうか」
これが俺が考えた対策だ。マクガヴァン将軍はマニュアル人間とまではいかないが、皇帝の命令がないと動かない様な人物だ。だが逆を言えば皇帝からの命令があれば協力してくれるという事でもある。
「ふむ……皇帝陛下の勅命……かの。グレンや、ジェイド坊やの為にもグランコクマに問い合わせをするぐらいは構わないのではないかの?」
「父上……っ!」
おお、老マクガヴァンが賛同してくれたぞ。これは上手くいくか……?
その後、俺とジェイドと二人のマクガヴァンさん達とで話し合ったが、最終的にジェイドとその一行、タルタロスはしばらくここで待機し、マクガヴァン将軍はグランコクマに伝書鳩で問い合わせをする事になったのであった。
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「ルーク! ルークじゃないか! やっと見つけた!」
俺達が軍本部から出て宿屋に行こうとすると、町中で声をかけられた。家の使用人のガイ・セシルだ。……なるほどね。原作とちょっと状況が変わったからここで出てくるわけだ。あと公式の場では一応様付けしてくれ。使用人。
「ガイ! 良かった。バチカルから迎えに来てくれたんだな!」
ガイと会えた喜びもそこそこに、俺達は宿屋に向かう事にした。宿屋に主要な人物が集まっているから紹介するならその方が手間が省けると思ったのだ。
「お帰りなさい。ジェイド、ルーク。セントビナーの責任者との話はまとまりましたか?」
俺達を迎えてくれたイオンが話し合いの結果を聞いてくる。
「ええ、タルタロス内部の掃討についてはセントビナーの兵士達で行ってくれる事になりました。ただ、これからの事については意見が分かれてしまい……」
ジェイドが話し合いの内容を説明する。俺が提案したタルタロスへの人員補充についてもだ。話を聞いたティア達は無茶な提案をする、という様な顔を俺に向けて来た。……しゃーねーだろ。ジェイドやイオンは明かしてくれないけれど、アクゼリュスは一刻も速く救援に赴かなければならない場所なんだから。タルタロスを降りて徒歩移動や馬車移動なんて冗談じゃない。
一通り説明を終えた後に、俺の後ろから入って来たガイを紹介する。
「彼はガイ。ファブレ公爵家で世話をしている使用人だ。マルクトに飛ばされた俺を探してここまで来たらしい。セントビナーで合流できたのは幸運だった」
「ガイだ。よろしく」
ガイが自己紹介するのに合わせて皆も自己紹介をする。そして何故この様な状況になっているのかも。その中でティアを紹介した時は一悶着あった。
「君は……!!」
「ガイ。彼女は屋敷を襲ったけれど俺に害意は無いって言うんだ。ここに至るまでの旅においても、俺と一緒に魔物や神託の盾兵と戦ってくれた。彼女がいなければ俺はもしかしたら死んでいたかも知れない。バチカルに戻ったら逮捕されるかも知れないがここはマルクト領内だ。抑えてくれ」
実際、タルタロス内でも彼女を拘束するかどうかという話が出たが、キムラスカ国内で事件を起こしただけの人をマルクト軍が捕らえるのは問題があると言って事なきを得たのだ。
「……ルーク様がそう言うなら信用してもよさそうだな。だが俺はルーク様の護衛も仰せつかっているんだ。バチカルの屋敷に戻るまでは気を抜かないぜ」
少し距離を取られたティアは傷ついた表情をしつつもうなずいた。その後ろから飛び出したアニスがガイに近づこうとしたとき
「……ひっ」
ガイは悲鳴を上げて後ろに飛び退いた。
「……なに?」
避けられたアニスは怪訝な顔をした。ああこれがあったな。アニスとティアにはちゃんと説明しておいた方がいいな。
「ガイは女嫌い、というより女性恐怖症なんだ」
「わ、悪い……。キミ達がどうって訳じゃなくて……その……」
ガイは俺の後ろに回って震えながら弁解している。アニスは面白がる様な顔をして近づいて来た。
「ええーっ!? 女嫌い?」
面白がって近づいてこようとするアニスを体で制する。
「タトリン奏長。それにティアさんも。ガイの女性恐怖症はかなり深刻なんだ。幼い頃の経験でそうなってしまって、本人も本気でどうにかしたいと願っているんだが、どうにも出来なくてね。出来ればからかったり、思いつきで体を触れさせたりしないでくれないか。頼むよ」
俺はアニスとティアに向けて、腰から90°頭を下げた。
「分かった。不用意に貴方に近づかないようにする。それでいいわね」
「アニスちゃんも了解で~す」
俺のその真面目な態度を見たからか、二人とも分かってくれた様だ。……原作だと結構ガイは三人の女性パーティーメンバーにからかわれるが、恐怖症の原因を知ってしまうとちょっとしたからかいすらさせたくないからな。
その後はしばらくの間セントビナーに待機する方針なので、各人それぞれ休憩し始めた。
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「ルークもえらくややこしい事に巻き込まれたなぁ……」
今までの事情を全て話し終えた後、ガイはそう言ってため息をついた。
「ファブレ公爵家の人間ならキムラスカ人ですね。ルーク様を探しに来たのですか?」
「ああ、旦那様に命じられてな。マルクトの領土に消えていったのは分かってたから。俺は陸伝いにケセドニアから、グランツ閣下は海を渡ってカイツールから捜索していたんだ」
……ガイ。お前はそうやってずっと嘘をつき続けるつもりか。いや、嘘をついているのは俺もだからお互い様……か。でもそれも後少しだ。俺の計画通りなら、もう少しすれば俺は全てを明かさなければならなくなる。その時には出来ればガイにも打ち明けて欲しいな。
しかしそれはそれとして、この会話を聞いている皆も気づかないってどーよ。ガイの今の話には致命的な矛盾があるのだ。イオンやアニスはともかく、ジェイドや……特にティアは気づいてもいいと思うのだがなぁ。
(これも
それはさておき、ヴァンも俺を探しているって事か。原作のルークだったら一も二も無く喜ぶんだろうが、俺が気にするのは別の事だ。
「なあ、ガイ。俺の勘違いかも知れないんだが。俺の捜索でマルクトに入国したのはお前とヴァン
原作でも不思議に思った事だ。「ルーク・フォン・ファブレ」は単なる公爵子息ってだけじゃない。同時に王族でもあるのだ。現国王の甥で第三王位継承者、なのに捜索する人数がこの広大な大地に比べて二人ってどーよ!?
「あ、いや。それなんだがな、今キムラスカとマルクトの間はかつてない緊張状態だろう。旦那様の部下である白光騎士団はマルクトに入国させられなかったんだ。同じ理由でキムラスカ軍の兵士も駄目だ。だから捜索は俺と閣下の二人だけなんだよ」
はは、と軽く苦笑いしながらガイが言ってくる。だとしても入国に問題ない民間人をお金で雇って捜索とか出来るじゃねーか! というのはツッコんじゃいけない事なんだろうな。
「まあそれはいいよ。こうして無事ガイと合流できたんだからな。それで……ガイ。俺は何の準備もなくマルクトの領土に投げ出されたんだ。ここからマルクトの出国手続きとキムラスカへの入国手続きをする旅券が無いんだよ。当然うちから旅券を発行して貰ってきてるよな?」
そう言うと、ガイは眉根を寄せて困った表情をする。
「あ、ああ。確かに旅券は発行してもらっているよ。けどそれは俺じゃなくグランツ閣下が持ってるんだ」
知ってた。しかし容赦なく追求させて貰うぞ。
「はぁ!? 何でそーなる! ガイ、お前はうちの使用人、ファブレ家の身内だろ。それに対してヴァン謡将は親しくしていると言っても外部の人間じゃないか! なんで謡将に旅券を預けるんだよ!」
しかもだ、俺とティアが飛ばされたのはケセドニアの北東にあるタタル渓谷だ。万が一の為に二手に分かれて捜索するのはまあ納得する。けれど、距離的に言えば海側から来るヴァンよりケセドニアから陸伝いで移動するガイの方が早く俺達に出会える確率が高いのなんて子供でも分かることじゃないか! 実際こうしてヴァンより先にガイと合流してるんだからさー。旅券はガイが持っておくべきだろうが。
「い、いやー。ははは。確かにその通りだけどグランツ閣下は神託の盾騎士団で主席総長だろ? 年も俺よりだいぶ年上だし旦那様も信用されているから……自然と閣下に旅券を預ける事になったんだ」
なんつー言い訳だ。まるで嘘をついている時の俺じゃないか。
「まあ終わった事はいいよ。しかしそれじゃあ俺は謡将と合流するまでマルクトを出国出来ないな」
原作知識で知っていたとはいえ、面倒な事になったとため息をつく。
「ま、まあ気を落とすなよ、ルーク。それより初めて見た屋敷の外はどうだった? 色々と見て回ったんだろう?」
ガイが気をそらす様に話を変える。……まあ、いっか。
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「ルーク様ぁ~♥」
ハートを飛ばしてくっついてくるアニス。正直苦手だ。この世界では俺達もイオンのそばに居たのでアニスはタルタロスから落ちていない。俺達と一緒に居る。アニスの事を思う。
大詠師モースがイオンにつけたスパイ。タルタロスの情報を漏らしてジェイドの部下が死んでしまう原因を作ったアニス。最終的にイオンを裏切ってイオンを死なせてしまうアニス。だがゲームではパーティーメンバーで仲間のアニス。両親の借金のせいで大好きなイオンを裏切らなけれればならないアニス。可哀想なスパイ。……だけど俺はアニスを救済するつもりは無い。
カッコイイ転生者ならば自分の力を使ってアニスを救済するんだろうな。だけど俺はしない。リスクに比べてリターンが少ないからだ。リスクはアニスの両親がした借金、あとは救済した後に「何故自分の状況を知ったのか?」と聞いてくるアニスを躱す事。リターンはイオンの側に信頼できる護衛が一人できるだけ。
お金くらい何とかしたらいいじゃないか、と言う人も居るだろう。だけどなぁ、お金ってのは大きいんだぞ。その為に人が人を殺したりするくらい大きなファクターだ。そして、俺は公爵子息ではあるが公爵ではない。自分の自由に動かせる金なんかないのだ。両親にねだる事もできない。両親からしてみたら、何故ダアトの
お金を返すというリスクは大きいのに、返ってくるリターンは少ない。イオンの護衛ならそこら辺に居るマルクト兵でもキムラスカ兵でも引っ張ってくればいいだけだ。守られる側のイオンからしたら、心を許せるたった一人の存在は大きいかもしれない。でも実際に「体だけ」を守るなら兵士さえいればいいのだ。アニスである必要は無い。
だから、俺はアニスを救わない。リスクに比べてリターンが少ないから。
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夜も更けた頃、トイレに行き廊下に出た時だった。扉の前にジェイドが待ち構えていた。
「どうかしましたか? カーティス大佐?」
言った後に、そういえば切羽詰まった状況ではジェイドって呼んでいたっけ、と思う。……まあいいか、呼び名なんて。
ジェイドは神妙な顔をして俺に問いかけてきた。
「もしも、自分が自分でなかったらどうします?」
おっと、その話がきたか。アッシュとの顔合わせが前倒しになったからこの会話も今するって訳か。ジェイドにとっては悩んだ末の言葉かも知れないが、俺に取っては七年間で想定した会話の内の一つに過ぎない。
「いえ……。我ながら馬鹿な事を聞きました。忘れて下さい」
そう言って、話を切り上げようとするジェイドを止めるように言葉を放つ。
「ジェイド。俺はさぁ、自分が生まれた事を恨んだ事はないよ。生まれた事を呪った事もない。いや、生まれた以上いつかは死ななきゃいけないからさ、それに対しての絶望はある。でも生まれた事そのものは恨んじゃいない」
ジェイドが、ゆっくりと、こちらを向いた。
「例え俺が俺でなかったとしても、俺は俺だ。俺は自分が過ごしてきた七年間にかけてそう自信を持って言えるよ。……それから、俺を
俺の言葉に驚いたのだろう、ジェイドは目を大きく見開いて、口もポカーンと開けてしまっていた。
「ルーク。貴方は、まさか」
それ以上言葉を紡ごうとするジェイドに、人差し指を唇に当てる事で制する。これ以上は内緒だ。今はまだ、な。
この作品ではタルタロスが拿捕されていないのでマルクト軍で使用できる状態です。しかし動かすにも後々のアクゼリュス救援の為にも人員が必要なのでセントビナーで借り受ける事に。
プロット段階では「貸してくれYO」「OK」見たいな軽い応酬で済ますつもりでした(汗)でもさすがに現実的に考えるとそうはいかねーだろ、と思ったのでワンクッションを置く事にしました。
そしてガイさん合流。華麗に参上は出来ずじまい(笑)まあタイミングから言ってこの辺りで接触してくるだろうな、と思ったのでセントビナーの町中で合流させました。
いまだにティアさんと呼んでいる主人公しかり、ティアに対して距離を取ったガイしかり、この作品では険悪でこそないものの、原作よりも各人の距離が離れているイメージで書いています。……アニスも救わないしね。本編に書いた通りイオンを守るだけなら兵士を三人とか四人つければいいだけなんですよね。必要以上に頑張ってまでアニスを救済する理由はないのです。
ガイに対する(?)ツッコミ。王族がいなくなってるのに世界中で捜索するのが二人だけとかありえないでしょう。しかもルークは繁栄の預言に詠まれた存在だと言うのに。……どーせ「預言で詠まれているからそれまでは何があっても死なないでしょ」とか考えたんだろうなぁ。
あと旅券ね。これはホントに意味が分からない。なんで身内のガイじゃなくて外様のヴァンに預けちゃうの。まあこれも主人公は対応を考えていますけどね。