企業戦士アクシズZZ   作:放置アフロ

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 やっぱり2話構成になっちゃいました。

 せっかく、他にもヤヨイとか、キャラ・スーンとか強力な人材がいるんだから、出してあげればいいと思うんですが、中々筆の力がなくて動かせません。特に、ヤヨイは好きなキャラです。酒好きだから!

 投稿済の話に次回予告を付けてみました。今後は後書きに入れてくつもりです。




6 ジンネマン(前編)

 幼稚園の夏休み。最後の金曜日。

 念願かなって、妻と娘の三人で話題のオムライスとパフェを食べに出かけた。

 

「あー、こらこら、真里」

 

 食後、父親の手を振り払い、5歳になったばかりの娘が地下食堂から駆け上がる。

 片手に握るうさぎのぬいぐるみ。耳を掴まれたそれは幼女が階段を上がるごとに、左右に大きく揺れていた。

 妻の風衣(ふい)は髭面の夫を軽くたしなめつつ、娘の後を追った。

 後頭部をかきつつ、男は笑う。

 視界の先、上り階段の向こうに妻も消えていった。

 

 

 直後。

 

 

 轟音と爆発。

 衝撃に吹き飛ばされ、男は上りかけの階段の下まで落ちた。

 何が起きたのか分からなかった。

 照明が落ちた暗闇の中で、男は這うように崩れかけた階段を上がり、瓦礫にあふれる玄関ホールをくぐる。

 外は生き地獄だった。

 きらめく光と、灰色の瓦礫。それは割れたガラスと、破砕したコンクリート。

 通りに横たわるのは、頭上から降り注いだガラスのシャワーを浴びた通行人だ。

 呻き、苦痛、断末魔が呪詛のように男の耳朶をうつ。

 

「真里ぃぃぃ!風衣ぃぃぃ!」

 

 狂ったように家族の名を連呼する男はとうとう、娘のぬいぐるみを見つける。

 ほとんど瓦礫に埋まっていたが、うさぎの耳を握る小さな手が見えた。

 慌てて、掻きだし抱きしめる。

 

 

 

 それは腕だけだった。

 

「あ、あぁ、・・・あの子をどこにやったぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 深夜に神根(ジンネマン)は目覚めた。

 布団を蹴飛ばしていた彼は、びっしょりと汗をかいていた。夏の暑さのせいだけでない。

 夢の中の怒りが醒めやらぬ神根は、やがて現実の空しさに襲われた。

 無意識に大声を出したかと思ったが、そうでもなかったらしい。隣の部屋では、養女の来栖三姉妹(トリプルズ)が健やかな寝息を立てている。

 あれから15年の月日が経った。

 今月は神根にとって、家族の命月(めいげつ)だった。

 

 

 

 西暦1989年8月25日金曜日。

 真島 世路(マシュマー・セロ)は先輩の後藤 豪(ゴットン・ゴー)と共に丸の内、高層建築現場の視察に来ていた。中間報告書作成のためである。

 もっとも、彼らアクシズ建設はこの大きな案件(ビッグプロジェクト)に関しては、二次下請けに過ぎない。

 二人は手にした図面をにらみながら、自社の担当箇所を確認してゆき、

 

「あとは、最上階の航空障害灯っすね。さっさと終わらせて、今日は直帰しましょう」

「だな」

 

 真島の言葉に後藤が短く応える。

 しかし、エレベーターで地上100メートルの屋上へ上ると、後藤の様子がおかしい。動きがぎこちない。

 

「あの、・・・ひょっとして、先輩・・・高所恐怖、」

「ここここ、高所現場なんて怖くなぁーい! 怖いのは格下げだけだーーぁぁ!!」

(無理すんなって!)

 

 後藤の裏返った声が彼のセリフを否定していた。

 

 

 

 一通りの視察が終わり、屋上に残った真島はつかの間、ショートホープへ火を付ける。後藤は速攻で地上に下りていた。

 変わりゆく東京の街並みをぼんやりと見回す真島。

 

(目の前の風景が、あと30年もしたら、全部変わっちまうなんて、夢みたいな話だよな)

 

 吐き出した紫煙は風に吹かれて、あっという間に雲散霧消となった。

 丸の内マンハッタン計画。

 高さ200メートル、超高層ビル群を建設し、丸の内地区を世界屈指の国際金融街に生まれ変えさせる一大プロジェクトである。

 真島のいるこのビルも小さなパズルピースのひとつに過ぎない。

 

(日本はどこに行こうとしているのかな)

 

 ぼんやりと取り留めもないことを考えつつ、真島は灰皿代わりにしている空きペール缶に、タバコを投げ捨てた。

 

(でも俺自身、どこに行こうとして、何がしたいのかな)

 

 地上に下りるエレベーターの中で真島は言い知れぬ、不安とも焦燥ともつかない若者の苦悩を抱いた。

 

 

 

「じゃ、お疲れしたっ」

 

 夕暮れに染まる現場の前で地下鉄に向かう後藤と別れて、真島は東京駅へ足を向けた。

 だが、3歩も行かぬうちに立ち止まる。

 視線の先、四菱(よつびし)重工業本社ビルの一角でよく知る人物が、その巨体を折り曲げるようにしてうずくまり、一心に祈るように、手を合わせているのが見えたからだ。足元には花が供えられている。

 真島は少し迷ったが、思い切って声をかけた。

 

「神根さん、ご無沙汰してます」

「・・・!?おう、真島か」

 

 アパートの大家に対して、ご無沙汰と言うのも変だが、例の事件以来二人はほとんど口をきいていない。

 色々な思いが真島の脳裏をかすめたが、言葉にはならなかった。

 

「あの、・・・それじゃ」

 

 神根を残して、駅へ歩みかけた。

 

「待て。ちょっとツラ貸せ」 

 

 二人は有楽町ガード下の赤ちょうちんまで連れ立った。

 

 

 

 居酒屋はざまにて。

 その後、神根と別れた真島はひとり、その暖簾(のれん)をくぐった。

 イチョウの葉のような髪型の浜子(ハマーン)が、すでにカウンターで冷酒のグラスを傾けていることは納得だが、

 

「いらっしゃいませー♪」

 

 甲高い声を出す栗毛の少女が、ねじり鉢巻をしているのは意外だった。

 真島が浜子の隣の席に着くや、

 

「はーい、ではご注文おうかがいしまーす」

生中(ビール)と枝豆でいいや・・・。それより、お前、(プル)じゃない・・・」

「はーい、承りましたー。ご一緒にチョコレートパフェはいかがですかー?」

「いらねーよ。ってゆーか、居酒屋でチョコレートパフェって何だよ?どう考えてもおかしいだろ」

「あっ、・・・そっか」

 

 栗毛の少女は、しゅん、とうなだれたが、次にはぱっと顔を輝かせ、

 

「じゃあ、いちごパフェはいかがですか?」

「いや、だから!ちげーだろ!なんで、パフェなんだよ!?」

「えっ?えっと、・・・分かった!」

 

 少女は両手を叩いて握り締めた。

 

「お兄ちゃん、ソフトクリームが食べたかったんだね!?」

「そうじゃなくて、・・・」

「すぐに持ってくるから、いっぺんに食べてね♪プルプルプルプルー♪」

 

 小さな店員さんは奇声を上げながら、厨房に駆け戻っていった。

 

「諦めろ、真島。ああいう馬鹿な子供もいる。世の中、捨てたものではないぞ」

(また社長は詩人モード入ってるし)

 

 やがて、泡立つ中ジョッキと枝豆、そしてなぜかバニラソフトが運ばれると、重々しい口調で真島が語り始めた。

 先ほど神根から聞いた、彼の家族のことだった。娘の真里(まり)と妻・風衣(ふい)は極左ゲリラの爆弾テロに巻き込まれ殺された。

 

 

 

 聞き終えた浜子は静かに問う。

 

「真島世路。お前は(ごう)について、考えることはあるか?」

 

 宇宙世紀で無実な人々を数千万単位で殺し、コロニーをダブリンへ落としたお前自身は。そして、それを命じた私のことを。

 

後藤(ゴットン)、・・・(ゴー)先輩ですか?なんかノリでやってるなーって感じしますけど、基本的にいい人だなって思います。

 どうしました、社長?」

「・・・いや、なんでもない」

(しんみりな話してたのに、社長も変なこと聞くなぁ)

(やはり強化しすぎたか・・・。お前に聞いた私がバカだった)

 

 二人はお互いに相手のことを残念に思った。

 真島はジョッキに3分の1ほど残っていた黄金色の液体を一気に流し込むと、早々に席を立つ。

 

「行くのか?」

「すいません、社長。今日はちょっと、楽しく飲めるような気分になれないんで」

「気に病むな。そういうときもある」

 

 一人、真島ははざまを後にし、一人残された浜子は黙々とグラスをあおった。

 

 

 

 ガラッ!

 

 出入り口がスライドする音に浜子がトロンとした目を向け、

 

「いらっしゃ・・・あっれーぇ!」

 

 (プル)が意外だが、うれしそうな声を上げる。

 それは浜子にとっても意外な人物だった。

 

「ほう、・・・あいつならいないぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 UC.0080。ジオン共和国のとあるコロニー。

 夕暮れ。市街地の外れにある森林公園に集まった数百人の連邦軍兵士達は、異様な熱気に包まれていた。

 「総員乗車!」の合図と共に、我先に6輪トラックの荷台へと駆け上がる。

 訓練された精鋭とは異なる。しかし、それは動物の本能、たとえば性欲や食欲に突き動かされているような敏捷さであった。

 無蓋荷台の上で向かい合わせに座る、とある分隊の面々は、野獣のようにギラつく目線を交わしあう。

 

「ジオン女ってのは《ザク》みたいに一つ目なんてことはねえだろうな?」

 

 分隊長のつまらない冗談に儀礼的に隊員達が嗤った。

 

「一つ目だったとしても、口と下の二つの穴がしっかりしてりゃあ十分ですよ」

 

 副長の応答に、微妙な嗤いが爆笑へと変わった。

 

「違いねぇ!お前ら、全部の穴をきちっと使ってやれよ!ジオンの未亡人どもは男に飢えてるだろうからな。

 おい、アーロン!カメラの準備はいいか?」

「ばっちりですよ。散々いたぶり尽くしてくださいよ!」

 

 早くも兵たちの中には、ズボンにテントを張っている者が大勢いた。

 荷台から哄笑があふれる。

 

 ヒュウゥゥ・・・

 

 だから、彼らは僅かな風切り音を聞き逃した。もっとも、聞こえていたとしても回避できたものでもない。

 

 グチャ!

 

 直後に、頭上から落ちてきた全備重量70トンのMSに潰され、彼らは苦痛も感じることなく、トラックごと肉塊になった。

 

 

 

 背面からコロニー内壁に、つまりは森林公園にそのMSは墜落した。

 濃緑の機体色、スパイクを生やした左肩ショルダーアーマー、鉄兜とガスマスクを掛け合わせた一つ目の頭部。そのどれもが往年のジオン公国主力MS《ザクⅡ》を彷彿とさせる。

 しかし、膝下の脚部は大推力スラスター搭載により肥大、後ろ腰より下方に伸びるリア・アーマーも長く、下半身だけを見れば《ザク》よりもむしろ、連邦軍に『スカート付き』と呼ばれたMS-09《ドム》系を連想させる。

 バックパック上部にそびえ立つ円筒形プロペラントタンクによって、全高は25メートル超で80年代MSにしては、異常な巨大さであった。

 そのMS《ザクⅢ改》のコクピットでは、リニアシートのヘッドレストに盛大に後頭部を打ち付けた真島 世路(マシュマー・セロ)が呻き声を上げる。

 「ここは?」と上体を起こし、全天周モニターを見回すと、空があるはずの頭上には、夕方のオレンジ色にポツポツと明かりを灯す街並みが円周上に広がっていた。前方の彼方には黒い壁面、コロニーの端がうっすらと映る。

 

「まーた、『不思議の国の真島』かよ」

 

 なんとか、機体を起こしたときに、コンコン、カンカンと小さな金属音が伝わってきた。

 視線を下にやれば、《ザクⅢ改》の足元に集まった連邦兵たちは、あるものは指差し、あるものは怒声を上げ、そして、あるものは手にした自動小銃を撃っている。金属音は装甲への着弾音であった。

 

「や、やべぇ。怒ってるじゃん。何とか言い訳しなきゃ。拡声器はどれだ?」

 

 慌ててタッチパネルを操作する真島。

 

(FCS?CRACKER?わっかんねーよ・・・)

 

 テキトーに押す。

 

【リモートON、遅延信管、標準5秒セット、ARMED、OK】

(んー、これか?)

 

 右操縦桿の人差し指に当たるスイッチをカチカチと引いた。トリガーだった。

 武装はクラッカー、投擲榴弾が設定されていた。

 標的も定められぬまま、ドラム缶サイズのそれは、右肩オプションラックシールドの内側からリリースされる。コロニーの遠心力に従って、立て続けに轟音を上げながら地面に落ちた。

 足元にいた連邦兵が阿鼻叫喚となって逃げ惑った。

 

(違うなー。これか?)

 

 次にフットペダルを踏み込むと、巨体が推力21万キロのスラスターに持ち上げられる。

 あっ、と言う間に上空100メートルに到達した時だった。

 3発のクラッカーの遅延信管が作動した。

 爆発と共に、半径50メートル内にいた1個歩兵中隊が榴弾の破片によって、肉体をずたずたに切り裂かれる。

 しかし、やった当人の真島は

 

(なんか、下でドーンって音したな?)

 

 ぐらいに思い、早々に森を後にした。

 

「あそこにいると、人様(ひとさま)に迷惑かけそうだからな」

 

 離れた街路に着陸する。町の入り口の通りにかけられたアーチ状の看板。そこには、

 

『グローブへようこそ!』

 

 と、書かれていた。

 

 

 

 《ザクⅢ改》の足の下、コロニーの外壁のさらに向こうの宇宙空間。

 地球連邦宇宙軍第6艦隊所属、《ペガサス》級強襲揚陸艦《グレイファントム》。キャプテン・シートに収まったスチュアート少佐は思う。

 

(しかし、胸糞悪くなる作戦だ)

 

 彼は苛立たしげに右手が持つ指示棒代わりの鞭で、左の手の平をペチペチと叩く。

 コロニー内に暴動を警戒した戒厳令、外出禁止令をしいた上、市街区画グローブを完全封鎖。『懲罰部隊』と称した、性犯罪の前科持ちの兵どもで編成した部隊で暴力の限りを尽くすという。

 

(いや、これは作戦とは呼べん)

 

 鞭をもてあそぶのを止めたスチュアートは、禿頭を隠すベレー帽を深く被り直す。

 この行動は事前にジオン共和国とその筋のマスコミへ通達した上でのことだった。

 つまり、表面上はコロニー落としをやった鬼畜ジオンへの鬱憤ばらしにも見えるが、実際はそれを口実、餌にして旧公国軍残党を誘い出そうとしているのである。

 作戦を阻止ないし、妨害しようと残党が現れれば、スチュアートたちの部隊が迎え撃つ。出てこなければ、グローブの住人が陵辱・虐殺されていくだけである。兵たちのガス抜きが目的なのか、それとも残党のあぶり出しが主旨なのか、正直、スチュアートには計りかねた。

 

(上層部にとってはどうでもよい事なのかも知れんな)

 

 スチュアートはコロニーをはさんで反対側に配置された巡洋艦の艦長を思う。

 

(ヘンケンは何も知らんのだな。知っていれば、)

 

 僚艦《サラミス》級《ツシマ》の艦長ヘンケン・ベッケナー少佐がこんな蛮行を許すはずがない。

 彼は人間としては尊敬できるが、軍人としては囁いてくれる友人が少ないのかもしれない。

 

「艦長!」

 

 鋭いオペレーターの口調が、スチュアートの意識を持っていく。

 

「コロニー内の懲罰部隊が攻撃を受けています!」

「な、に・・・」

 

 意外な事態に、次の言葉が出ないスチュアートはキャプテンシートに立ち上がり呆然とたたずむ。

 

「集結地点を《ザク》が奇襲!シルエットからR型の改良タイプ(高 機 動 型)と思われます。現在、当該機はグローブ住宅街を微速移動中」

(残党どもっ!事前にMSをコロニー内へ持ち込んで隠していたか!)

 

 スチュアートは鞭を固く握り締めつつ、指令を飛ばす。

 

「ミノフスキー粒子戦闘濃度!敵をコロニーの外へ押し出す。《グレイファントム》を中へ入れろ!

 接近するようなら《ジム》と《ガンキャノン》で防衛ラインを張る!」

 

 直後に、スチュアートはひどいデジャブに襲われた。

 数ヶ月前。先の命令を下した後に、たった1機のMSによって、搭載されているMS部隊『スカーレット隊』は全滅させられた。

 

(しかし、今回は《ザク》だ。あのような失態は、・・・

 しかし、・・・また・・・《ザク》、か・・・)

 

 スチュアートはさらに嫌なものを思い出した。

 スカーレット隊全滅の5日後。今度は、たった1機の《ザク》によって、最新型の《ガンダム》が撃破されるという、最悪の憂き目にあったのだった。

 

 

 

「どうなってんの?」

 

 コクピットの真島は唖然とする。

 街路を歩行させる《ザクⅢ改》の周囲には、人々が群がり歓声を上げている。

 父親に肩車された銀髪の男の子は、手にした白いシーツを精一杯振っていた。

 またある母親が抱いた三つ編みの女の子も笑顔で顔を輝かせていた。

 

「ほあぁぁ!《ザク》じゃあぁぁ。ジオン公国バンザァァァイ!ジーク・・・・ほごもごおごぉ!」

 

 若干痴呆が入ったおじいさんでさえ、総入れ歯を路上に吐き出しながら喜んでいた。

 唐突に、真島の脳裏に鋭い感覚が入り込む。

 

「なんだ?」

 

 モニターの上方へ目を移すと、CGで補正された赤い人型シルエット、バイク用フルフェイスヘルメットのような頭部を持つそれは中距離支援用MS、RX-77D、通称量産型《ガンキャノン》である。

 《ザクⅢ改》のコクピットには【敵性、TARGET】という表示が看て取れた。コロニーの中心部、遠心力が作用しない空間に浮かぶ《ガンキャノン》は、地面の《ザクⅢ改》からは、ゆっくりと縦回転しているように見える。

 

(※実際には、コロニーの自転によって《ザクⅢ改》の方が回転している)。

 

 「敵なら、」と真島がレティクルを標的に合わせ、トリガーを引く。

 

 ビー!!【CRACKER EMPTY!!】

 

「なんで?弾とかレーザーとか出ないの?」

 

 カチカチと繰り返しても、コクピットに響くのは警告音だけである。

 そうこうしているうちに、眼下の群集も、頭上のMS《ガンキャノン》も互いの存在に気が付いたようである。

 《ザクⅢ改》の足元では混乱と悲鳴・怒号が入り混じり、《ガンキャノン》はバックパックに収納された両肩の240mmキャノン砲を伸縮した。

 砲口を《ザクⅢ改》へ向けるや、巨大な火球の花を咲かせる。着弾音と噴煙を上げる長方形の建物。

 

『がががが、学校が・・・!』

 

 通行人の悲鳴を《ザクⅢ改》のマイクがとらえる。 

 コロニーの自転を考慮しなかったその砲撃は狙いをそれ、無人の小学校の校舎を破壊した。

 真島が西暦で灰皿代わりに使ったペール缶。それと同等の直径の巨大な薬莢を吐き出し、次弾を装填した《ガンキャノン》が狙いを修正する。

 姿勢制御バーニアを小刻みに噴き、コロニーと自機の回転速度を同調させる。

 パイロットが再度、指をトリガーにかけた瞬間。

 周囲を球形に取り囲んだ極小の『何か』から発せられた無数の光軸に貫かれ、中心にいた《ガンキャノン》は爆散した。

 慌てて周囲を索敵する後続の同型機は、間髪を入れず背後から撃ち込まれたアクティブカノンが命中。僚機と運命を共にする。

 《ザクⅢ改》のモノアイがガイドレール上を左右に走る。

 『ゴアァァ!』と空気を震わすスラスターの轟音と青白い炎がコロニー内を大きく旋回して、こちらに接近してくるのが見えた。

 四肢が尖り、モグラのお化けのようなマスクのMSは、

 

(あれは社長が乗ってたロボットじゃないか?でも、色が・・・)

 

 色の違いだけではない。多数のオールレンジ攻撃用兵器を収めるリア・アーマーは浜子の《キュベレイ》と比しても、スズメバチの尾を思わせるほど巨大である。

 《ザクⅢ改》の直近で逆噴射のフレアをかけ、その黒い《キュベレイ》は着陸した。

 すぐに、通信用ワイヤーを飛ばし、接触回線を開く。

 

『何やってるの、お兄ちゃん(マスター)!?お父さんが帰ってきたのに、まだだから心配して来てみたら、やっぱりこっちに来てた!

 ・・・ここにいてはいけない。早く帰りましょう、マスター(お兄ちゃん)

「麻里、なの、・・・か?」

 

 コクピットに響く声は、会社の後輩であり、アパートの大家・神根(ジンネマン)の養女でもある来栖 麻里(マリーダ・クルス)のものだった。しかし、同時に真島の中には()()の少女の意識が流れ込み混乱した。

 

『そうだよ!早く!』

 

 言うや、量産型《キュベレイ》は《ザクⅢ改》のマニピュレータを強引に掴み、上空へと持ち上げていった。

 離れた街路まで地を這うスラスターの噴射が流れ込み、地面に落ちた白いシーツを波立たせる。

 その下に隠れていた銀髪の幼児は、ぱっ、とそれを手放すと遠ざかる二つの巨人を見送った。

 

「かっこいいー」

「アンジェロ!早くこっちに来なさい!」

 

 サバイバルバッグを背負った母親の金切り声が、男の子の意識を戻した。

 




(次回予告)
(※BGM「アニメじゃな~い?」、ナレーション:明日 修道(あした・しゅどう)

♪デ、デ、デ、デ~ン♪

「サイド3のコロニーに《グレイファントム》が入ったのが運の尽きだ。
 あの()来栖 麻里(マリーダ・クルス)
 お兄ちゃん(マスター)を助けるって、コロニーの中で大暴れ。
 飛び交うビームに、吹っ飛ぶモビルスーツ。
 発情した兵隊さんたちは宇宙に飲み込まれちゃうし、どうなるの?
 次回、アクシズZZ『ジンネマン(後編)』
 酔っ払いの修羅場が見れるぞ!」



(あとがき)

 真島ぁぁぁ!!お前がやってるのは大量殺人だぞっ!分かってるのか!?
 ポケットの中の戦争を題材にするなら、『がががが、学校が・・・!』は外せないと思いました。びっくりし過ぎだろ、常識的に考えて。夜だし。


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