企業戦士アクシズZZ   作:放置アフロ

5 / 29
5 地球降下作戦(後編)

 眼前に広がる砂漠とぽつりぽつりと点在する低木。

 退屈な野戦司令部周囲の内線警備から解放された機動偵察隊第1小隊の隊長、新任少尉は血が沸き踊っていた。

 先頭を駆るホバー・バイク《ワッパ》に乗る彼は、砂上高度5メートルを高速で飛ばした。ヘルメットバイザーを開放する。風切り音を上げてぶつかる前方の空気がいやがおうにも、彼の気持ちを高揚させる。

 

(そうだ!これこそ、戦場!これぞ、機動偵察!)

 

 新任少尉は後ろを振り返り、一列縦隊で続く部下を見やった。抑えがたい衝動が彼の腕を突き上げさせ、雄叫びが迸る。

 

「我に続けぇ!ジーク・・・・」

ドギャギャギャギャギャギャ!!!!

 

 続くすさまじい衝撃と同時に、世界が恐ろしい速さで回転した。いや、それは世界が回転しているのではなく、彼自身の肉体が回転しているのだが、そんなことを考える間もなく、彼の意識は彼方へと飛び立った。

 

 

 

 小隊の殿軍(しんがり)

 宇宙用ノーマルスーツにも似た、CWU-2/Gフライトスーツに身を包むスベロア・ジンネマン曹長は呆れていた。

 

(ああいう、先走る新米に限って、あっさり・・・)

『我に続けぇ!ジーク・・・・』

 

 咽喉マイクと骨伝導スピーカーを通したその声に(また、あいつお得意の例のアレか)と、ジンネマンが思った瞬間、真正面12時方向から急接近した《キュベレイ》が、スラスター噴射の余波で少尉のホバー・バイク《ワッパ》を弾き飛ばし、あっという間に墜落。

 《ワッパ》は縦回転しながら、乗り手を何処かに振り落とし、前後のファンや左右に張り出した昆虫の肢を思わせるサイドスタンドを撒き散らしながら、砂丘の土手に突き刺さった。

 次々と吹き飛ばされる《ワッパ》。間断なく追随していたため、他の小隊の面々も小隊長の少尉と同じ運命をたどる。

 なんとか、回避できたのはジンネマンだけだった。咄嗟の判断で、高速飛行中の《ワッパ》から飛び降りるや、体を球形に丸め、砂地へごろごろと転がった。

 軽い脳震盪から来る吐き気に、ヘルメットを振って立ったジンネマンは頭上を見上げる。

 その光景はスローモーションのようだった。

 巻き上げた砂塵の中から、ぬっ、と現れた尖る《ハンマ・ハンマ》の頭部。その中で不気味に光るモノアイ・センサー。

 ジンネマンは()()と眼が合った。

 しかし、実際には一瞬の出来事で、ジンネマンは《ハンマ・ハンマ》が引き起こした噴射に再度飛ばされ、尻餅をついた。

 緑の巨人は先行する主の白い貴婦人を猛追して去った。

 しばらく呆けたようなジンネマンは、煙幕のような砂塵が収まる頃に2機のMSが飛び去った方角を思い起こし、

 

(本隊がっ!)

 

 慌てて、腰の信号拳銃を抜くや、敵性を示す赤の信号弾を込め、上空に打ち上げた。

 

 

マシュマロ(真島)。カトンボか、何か引っ掛けたかにゃ()?』

「い、いや、大丈夫だと、・・・思います」

 

 吐いたことで、急激に酔いが醒めてきた真島は慌てて応える。

 彼は《キュベレイ》が《ワッパ》をざっと16機、交通事故的に弾き飛ばすところは見ていなかった。

 しかし、砂塵が切れる隙間から、地上に立つ宇宙服のようなものを着た姿を《ハンマ・ハンマ》のモノアイは捉えた。即座にセンサーがズーミングし、ヘルメットバイザー越しに見た髭面。一瞬だったがあれは、

 

(嫌なもの見たなぁ・・・。どう見たって)

 

 大家の神根(ジンネマン)だった。

 この前の一件以来、誤解はある程度晴れたはずなのに、二人はお互い顔を合わせても、口も利いていなかった。真島は家賃の支払いを、手間賃のパフェ代も含めて、長女の(プル)に手渡していた。

 

『ふふふ、ようにゃく(ようやく)、お客さんのお出ましのようにゃ(ようだ)

 

 浜子からの近傍通信が真島を宇宙世紀に引き戻す。

 高速飛行の《キュベレイ》は突如、逆噴射し急制動。わずかにホバリングした後、着陸した。

 モニター正面、距離はまだ大分あるが、陽炎(かげろう)の揺らめきをCGが補正したそのシルエットは浜子が忘れようもない、特徴的なものだった。

 MS-06《ザクⅡ》。ジオン独立戦争(後の一年戦争、単純に大戦とも呼ぶ)を戦った、ジオン公国の主力MSにして、その国家の象徴といっても良い存在である。

 2機の緑の巨人(グリーンジャイアント)が大地を揺らしながら、時速60キロで突進してきた。

 やがて距離2キロ、砂漠を隔てて両者は対峙する。

 

『ふ・・・不明機に告ぐっ!!こちらはジオン公国地球攻撃軍、ザーーーー、である!!そちらのかん、官姓名を名、ザザッ、所属を明らかにせよっ!!』

 

 オープン回線に飛び込んできた《ザク》のパイロットの呼びかけは、ミノフスキー高濃度下においても、上ずり、驚愕の様子が看て取れた。

 

(なるほど、そういうことか。さぞかし、連中も《キュベレイ》と《ハンマ・ハンマ》の姿に目を回しているだろう)

 

 ここに至って、浜子は今の時代が大戦時であることを理解した。

 

『社長、どうするんです?』

「そうだ、にゃ()・・・」

 

 真島の問いかけに、生返事しつつ浜子はモニターに最大望遠をかける。

 砂まじりの大気にかすむ《ザク》が右マニュピュレータに装備するマシンガン、その暗い砲口が映し出される。

 

(あんなものは、脅威にならん。やはり、この時代の人間と接触するのは色々と危険だな。退散するか・・・)

 

 思いを巡らす浜子の気持ちそのままに、ズーミング画像は《ザク》のあちこちを迷うように映す。

 

マシュマロ(真島)。この状況では同胞を撃ちかにぇん(撃ちかねん)。一旦、退いて・・・」

 

 言いかけた浜子の口が止まる。

 

『あの・・・社長?どうしました?』

 

 不審に思った真島の声も耳に入らない。

 彼女の目はモニターにうっすら映る文字列に釘付けとなった。

 

【SIEG ZEON】

 

 《ザク》頭部にペイントされたアルファベット。

 ジオン独立悲願の叫び。

 そして、菅 浜子(ハマーン・カーン)にとっては背負わされた呪いでもある。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 浜子は西暦の世の佐備グループ(ザ ビ 家)懇親会を思い出した。

 親会社である佐備建設専務、九部 真(くべ・まこと)の粘りつくような声が脳裏に蘇る。

 

『下請けをまともにやろうとするからこういう目に遭うのですよ、菅社長。

 いい加減、石ころ建設など潰して、わが社の重役ポストに収まりませんか?

 私が手取り足取り教えて差し上げますよ』

 

 黄土色の暗い顔色。首筋まで波打つ黒髪。そして、落ち窪んだ切れ長の三白眼が不気味に光っていた。

 その表情、目付き、口元。卑屈でいやらしい笑いに満ちたそれが、重役ポストは『愛人ポスト』であることを如実に語っていた。

 

(けがわらしい俗物がっ!社長の(きし)に一々お伺い立てなければ、仕事もできないくせに・・・。

 佐備グループ(ザ ビ 家)の犬めっ!この私を囲おうなどと・・・)

 

 パーティの最中、愛想笑いを振りまき脂ぎった男どもに酒を注ぎながら、浜子は内心怒り心頭だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《ザク》。ジオンの象徴。

 ジーク・ジオン。それは時にザビ家一党独裁を賛美する言葉になりかねない。

 

「お前たちが、・・・いけないのだぞ」

 

 酔いが醒めたのだろうか?それとも、何かに取り憑かれたのだろうか?宇宙世紀の浜子の口調は突然、以前のものに戻っていた。

 暗い《キュベレイ》のコクピットの内で、うつむき呪いのようにつぶやく。

 

「お前たちがザビ家の、・・・あのM字禿げにそそのかされて、独立戦争なんて始めたから・・・。できもしないことを私に押し付けて、勝手に期待して・・・」

 

 《ザク》の1機が《キュベレイ》が抵抗する意思無しと見て、前進を再開する。

 

「ジオン・ダイクンがニュータイプなんて言葉を作り出さなければ、・・・私はちょっと勘が強い程度の、猫好きな、ツインテールの可愛い女の子でいられたはずなのに・・・。

 それなのに、・・・」

 

 今の浜子は『可愛い女の子』からは程遠い。顔を上げ、モニターに映る《ザク》をにらみつけたその表情は醜く歪み、鬼女そのものである。

 

「そんなに、・・・。

 そんなに、私と《キュベレイ》の力を試したいのかっ!!」

 

 浜子はフットペダルを大きく踏み込んだ。『社長っ!?』と真島が制止の声を上げるのも構わず、《キュベレイ》のスラスター・バインダーが巨大な蒼い炎を咲かせ、ロケットさながらに、天空へ飛び上がる。

 

『ああっ、モ、モビルスーツが、と、飛んだ』

 

 驚き、狼狽する《ザク》パイロットの無線がスピーカーから漏れる。

 瞬くうちに《キュベレイ》は《ザク》の直上300メートルまで上昇。そこから真っ逆さまに落下した。

 衝撃から立ち直った《ザク》は後退機動しながら、腰部に最大俯角を取り、手にしたマシンガンを対空砲として発射する。

 《キュベレイ》は肩のバインダーを左右に振って、ジグザグ機動で射線を逃れる。まるで、敏捷な小型の猛禽類であった。

 やがて、全弾撃ち尽くしたマシンガン上部のドラムマガジンが、ボンッ、という音を立て自動排出され、砂漠に埋まる。

 その隙を見逃す浜子と《キュベレイ》ではない。

 一気に急降下すると、地上に激突するかと思われた直前で、バインダーが逆噴射全開。ホバリングする《キュベレイ》は《ザク》の目前、10数メートルに瞬間移動したかのように現れた。

 コクピットの浜子は全身の血を押し下げんばかりの強烈なGを感じた。貧血に暗くなる視界を、大映しになった《ザク》の姿をにらみつけ耐える。

 《ザク》は予備マガジンを取ろうと、左マニピュレータを後ろ腰部ハードポイントへ回したところだった。

 瞬間、《キュベレイ》の両袖口に格納された2本のビームサーベル・グリップが飛び出すと、コンマ数秒で超高温の光刃を形成する。

 

「アステロイドベルトに追われた恨み、喰らえっ!!」

 

 一挙動で二刀の刃渡り10メートルにも及ぶビームサーベルが上下左右に振るわれる。

 八つ当たり斬撃を喰らった《ザク》の四肢は切断され、機体は起き上がれぬダルマとなって、砂漠に倒れ伏した。マガジンを掴んだままの切れたマニピュレータが空しい。

 100メートル離れたもう1機の《ザク》もマシンガンを放つが、《キュベレイ》は右脚部を軸にし、バインダーを使ってスピンターン。直後に這うように低空飛行で迫る。

 120ミリ砲弾の火線を下にくぐりながら、サーベルをすくい上げる《キュベレイ》。宙に舞うマシンガンの砲身。

 続く突きに頭部モノアイを貫通された上、なぎ払われた一撃で脚部溶断。その《ザク》も僚機と同じ結果となる。

 仰向けに倒れた《ザク》のコクピットから脱出したパイロットが、丸みを帯びた胸部に足を滑らせ、熱砂の大地に落ちる。

 絶望に叫びながら、なんとか逃れようとするが、一歩進むごとに足首まで埋まるその砂地獄に足をとられまた転倒する。

 観念した彼は尻餅をついた状態で《キュベレイ》を見上げ、両手を挙げた。

 強い逆光を浴びた《キュベレイ》がそのシルエットを際立たせる。

 

「私は、・・・」

 

 外部スピーカーを使って名乗りを上げようとした浜子は一瞬、口ごもり、次にはいたずらっぽい笑みを口元に浮かべた。

 

「私は地球連邦軍特務部隊サダラーン所属のハマコ・カン大佐である!無線が無事なら、上官にも伝えるが良い。貴官らに降伏を勧告する、と。

 歯向かうものは斬る!!」

 

 二刀のビームサーベルを構える《キュベレイ》はさながら、時代劇の主役のようだった。

 

 

 

 第3MS大隊司令部は阿鼻叫喚の騒ぎに陥った。

「第13MS小隊壊滅!」

「敵MSは戦艦並みのビーム砲を装備しております!」

「ダメです!《ザク》のマシンガンでは敵の装甲に跳ね返されます」

 

 その報告を受け、ロンメルが怒鳴る。

 

「至急バズーカに弾込めぇ!弾種CKEM!ありったけのシュツルムファウストをかき集めろ!」

 

 不明機は真っ直ぐ南下していた。その進路から敵が電撃的に野戦司令部を襲撃しようという意図は明らかだった。

 

「第21と第22小隊を東西に展開。十字砲火で・・・」

「馬鹿モン!無駄だ!」

 

 参謀の命令をロンメルは一喝した。

 連邦のMSの進攻速度は《ザク》のそれをはるかに上回っていた。

 

(連邦軍め!とんでもない化け物を作りおった!)

 

 恐れの入り混じった怒りで顔を歪めつつ、ロンメルが命令を飛ばす。

 

「手近な《ザク》を全て周囲の砂丘の稜線に潜ませろ!全員退避。司令部を空にしろ。

 私は《ザク》で敵を誘い込む!」

 

 

 

 地上を這うような低空飛行。《キュベレイ》と《ハンマ・ハンマ》は無線通信量が多いジオン軍拠点と思われる地点へ猛進した。

 

「いまさらだがな、真島。なるべく、胸部、背部以外を破壊しろ」

『うーん。ま、やってみますよ、社長』

 

 先程、遭遇した別の1個小隊の《ザク》を《キュベレイ》と《ハンマ・ハンマ》は難なく撃破した。

 2機を《キュベレイ》のサーベルで無力化し、残る1機は背を見せて逃げようとしたところ、追随する《ハンマ・ハンマ》の腕部から光軸がきらめいた。

 後に連邦の『白い悪魔』と恐れられるRX-78-2《ガンダム》のビームライフル。その威力をはるかに上回る3連ビーム砲がまともにヴァイタル部位に命中した《ザク》は、文字通り蒸発した。

 

『うおぉ!すげぇ!スペースウォーズみたいですよ!』

 

 真島は悪気も殺意もなかったが、彼はいまだにここがリアルな戦争をやっていると認識していないようだった。

 だが、浜子のNT能力は断末の間際にパイロットが叫んだ、家族への想いを感じ取った。

 

(何をおセンチになっているのだ、私は。寝小便臭い小娘でもなかろうに)

 

 八つ当たりで戦端を開いてしまったことが、彼女を感傷的にさせていた。だからこそ、真島にもあのように言ったのだった。

 その浜子のわずかな迷いをセンサーが発した電子音が払いのけた。

 正面、浅い窪地の底に新たな《ザク》。頭部に屹立する隊長機を示す角があった。そして、その《ザク》が守るように足元には、屋根にパラボラアンテナを立てた《サムソン》トレーラー。

 

「移動司令部か!それぐらいはやらせてもらう!」

「やらせんぞぉ!」

 

 浜子とロンメルはコクピットの内で真っ向対立する叫びを上げていた。

 前傾姿勢、高速で迫る《キュベレイ》に、ロンメル機は右肩に担がせたバズーカの照準を合わせる。

 コクピット内に響く、pipipi、という連続的な電子音。段々間隔が詰まりほとんど、ピー、という尾を引くものに変わる。

 すでにロックオンしている。だが、ロンメルは引き付けた。

 《キュベレイ》が800メートルまで近付いたところで、ロンメルは右操縦桿のトリガーを引く。

 HEAT弾と異なる、運動エネルギーミサイル、CKEMが砲口を飛び出すやマッハ6まで一気に加速する。

 だが、ほぼ同時に撃ち出された《キュベレイ》のビームガンによって、針の一点とも言ってよいCKEM本体が貫通、蒸発した。

 

(な、・・・)

 

 ロンメルが何事か、思う前に《キュベレイ》が格闘戦の距離に肉迫していた。

 《ザク》が左マニピュレータに掴んだヒートホークを振り上げ、ロンメルが雄叫びを上げる。

 

「ジーク・・・・!!」

「その名を口にするなぁぁぁ!!」

 感じ取った浜子も怒鳴る。彼女の顔。それは牙を剥き出しにした闘争本能の塊、猿の表情である。

 振り下ろされた高熱の斧の下を《キュベレイ》がかいくぐり、二つのMSのシルエットが交錯した。

 そして、腰部のオレンジ色に溶解した断面を見せながら、ゆっくりと《ザク》が地に伏す。

 その傍らにビームサーベルを逆手に握った《キュベレイ》がホバリングしていた。

 

 

 

「ぐっ・・・!少佐・・・。あなたの死は無駄にはしません」

 

 1キロ離れた砂丘の尾根に腹這いの参謀は、ロンメル機が撃破された様子を見た。すぐさま手にした双眼鏡を無線機に持ち替える。

 

「敵、モビルスーツ!37(サンナナ) 00(マルマル) 15(ヒトゴウ) 17(ヒトナナ) 17(ヒトナナ) 02(マルニイ)!」

 

 砂丘の陰に隠れて包囲した2個小隊6機の《ザク》が指定座標に向けて、脚部ミサイル・ポッドを一斉射。白煙が青空に線を引いて、合計18発のミサイルが《キュベレイ》に迫る。

 

「むっ!ファンネル!」

 

 浜子の呼びかけにすぐさま応えて、リア・アーマーから全備数10基のファンネルが飛び出し、《キュベレイ》を守るように取り囲む。

 

「なぎ払えっ!」

 

 その命令に従い、空飛ぶ対空ビーム砲台となったファンネルが次々と、イエローの光軸でミサイルを迎撃する。しかし、ミサイルの数が多い。

 

(1,2発は喰らうか・・・?)

 

 しかし、ファンネルが撃ち漏らした残りは、別方角から撃ち出された3連ビームが破壊した。真島の《ハンマ・ハンマ》である。

 

(ふっ。平和ボケしている割には、やる!)

 

 浜子が、にやり、と口元を歪めた。真島の上ずった声の無線が入る。

 

『社長!すごい数ですよ。いつまで続けるんです!?逃げましょう!!』

「愚劣なことを言う。この《キュベレイ》を舐めてもらっては困る!」

 

 

 

 ものの数分もしないうちに、6機の《ザク》も砂漠に倒れることとなった。

 浜子は『歯向かうものは斬る!!』といった手前、ファンネルを使うことを少しためらったが、2個小隊では背に腹は代えられない。未来のオールラウンド攻撃を見せ付けることとなった。

 仕上げに無人の野戦司令部《サムソン》トレーラーにサーベルを突き立てる。情報処理中枢と大隊指揮官を失って、部隊は混乱の極みのはずだ。いまだ、ミノフスキー濃度も高い。

 

(ここらが潮時だな)

 

 傍らの《ハンマ・ハンマ》も不時着時の脚部損傷が思いのほか重く、戦闘中の離着陸を繰り返すうち余計悪くなっているようだった。今は片膝を砂漠に付いている。

 

(砂も大分、関節に噛み込んでるな)

 

 《キュベレイ》の動きも宇宙と比べてキレがない。

 浜子は太いため息を吐いて、オープン回線をオンにした。

 

「ジオンの戦士たちに告ぐ。この(いくさ)、長期戦になった時点で本当に勝てるかどうかよく考えよ。

 戦争の行く末なぞ、個人にとっては天災にも等しい。どう抗ってもどうしようも出来ぬものだ。

 その閉塞の中にザビ家のイデオロギーではない、己れ自身の戦いに意味を見出せ。そして、突き破れ!!」

 

 《キュベレイ》が砂塵を巻き上げ、飛び立った。《ハンマ・ハンマ》もそれに続く。

 目線をモニターの下にやれば、遠ざかる砂地の中に埋もれる無数の《ザク》の四散する装甲片や部品が見える。

 ふと、浜子はロンメルが見せた気迫を思い出した。

 

(奴の最後の言葉・・・)

 

 ジーク・ジオン。

 かつてはあの言葉にすがった。アクシズの指導者として、摂政として人々を動かすために。だが、それこそが、

 

(憎しみを生み出すもの。だったのか、・・・な)

 

 浜子はほろ苦く笑った。

 実は彼女はロンメル機のコクピットを焼き切る直前に、トリガーから指を離し、ビームサーベルの軌道もわずかに逸らしていた。

 

(ふっ、私も随分甘くなったことだ。ジュドー・アーシタに毒気を抜かれたか)

 

 その時、浜子の脳裏に『何かが開く』ような感覚が入り込んだ。

 

(時空を隔てる扉?それを感じ取ったか・・・)

 

 やがて、菅 浜子(ハマーン・カーン)真島 世路(マシュマー・セロ)はバブルに熱狂する日本に帰るのだろう。だが、

 

「真島、もう少しこっちの世界にいられるようだ。ハイビスカスティーでも飲んでいかないか?」

『デートっすか、社長?公私混同ですよ』

「ふふふ、変わったな。昔のお前なら小躍りして喜んだろうに」

『それより早くクリーニング屋に行きたいっす。ゲ○でスーツが最悪なことに。

 木矢良(キャラ)さんとこで、安くしてくれないかなぁ・・・』

 

 2機は南へ進路を取った。

 

 

 

 1時間後、《ルッグン》偵察機がオムドゥルマン市街地でMSの足跡を発見した。近くの喫茶屋台の話によると、東洋人の男女が降りてきて茶を飲んだという。

 

「グラスを取りに戻ったときには、何もかも消えてました」

 

 身震いしながら、屋台のオヤジは語った。

 

 

 

 宇宙世紀の正史ではありえなかったこの戦闘は、後に『オムドゥルマンの白昼悪夢』と呼ばれることとなった。

 そして、歴史のフレームシフトも引き起こしていた。

 奇跡的に救助されたロンメルだが、その負傷から戦線復帰は困難で、戦傷士官として退役。敗戦はサイド3本国で迎えることとなる。最終階級こそ中佐であったが、彼が『砂漠のロンメル』と呼ばれることはなかった。

 そして、彼が演じるはずだったジオン残党の役割は別の者が務めることとなる。

 大戦初期より地球各地を転戦した特殊実験部隊、通称『闇夜のフェンリル隊』。彼らは終戦後も解散することなく、アフリカに潜伏しゲリラ化した。

 




(次回予告)
(※BGM「アニメじゃな~い?」、ナレーション:明日 修道(あした・しゅどう)

♪デ、デ、デ、デ~ン♪

「しょうもない変態ってのはいつでもいるもんだ。
 真島さんは大家の娘と寝てたんだぜ。
 なのにまだジンネハイツに居座ってる。
 居直りロリコン、気持ち悪いよ~。
 妹を持つ身としては、許せないね。
 次回、アクシズZZ『ジンネマン(前編)』
 かわいそうな神根(ジンネマン)さん」



【『闇夜のフェンリル隊』に全滅フラグが立ちました】



(登場人物紹介)

マ・クベ → 九部 真(くべ・まこと)



 今回の戦闘シーンは『MS IGLOO -1年戦争秘録-』の『遠吠えは落日に染まった』を参考にしました。 
 一年戦争の話ってめんどくさい。資料多すぎるし、時々矛盾するデータもあるし。OVAもゲームも人気がある時代だから、後付設定がボコボコ出てくるし。
 当方にはゆる~いZZ辺りがお似合いです。

 「CKEMってザクバズーカから撃てるの?」知らん。

 『なぎ払えっ!』て、あなたクシャナ殿下ですか?



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。