企業戦士アクシズZZ   作:放置アフロ

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(前回のあらすじ)
(※ナレーション:天田 司郎(あまだ・しろう)

(プル)・・・・・・風美(プルツー)・・・・・・麻里(マリーダ)・・・・・・()・・・・・・
 生きてまた会える、よな?」 




第四章 本当は怖い第08C.D.A.小隊
28 崩壊


 

 

 闇に(うごめ)く男女がいる。彼らの会話に耳を傾けてみよう。

 

「ほぅ、アクシズ建設が消滅・・・・・・いや、倒産したのか? うふふ、菅浜子め。自滅したか」

「はい。あの女にはいい薬になりましょう」

「ふふ、言うな。元の鞘であろうに」

「元は元です。それに・・・・・・」

「言うなと言った。お前の事情も分かっている。しかし、マ・クベが正史より大分早く消えるとは、こちらにも意外であった。せっかく、集めた(きん)も水の泡。忌々しいことよ」

 

 女は吐き捨てるように言う。

 

「どうでしょう、密かに回収させては? 最近、美須戸(ビスト)財団の実権を握った蒲井 政子(かばい・まさこ)、あれを動かしてみては。こちらには十分貸しがあるはずです」

美須戸 門明(カーディアス・ビスト)の件か? まぁ、な。だが、あの女は力を持っていようと、いまだ転生者ではない。こちらの事情など知りえぬ。やはり、お前に今一度、宇宙世紀に行ってもらうほかないようだ」

「よいのですか、私怨ゆえに血の雨を降らすやもしれません」

「勘違いをするな。お前はある女を動かせばよい」

「また女ですか」

「そうさ、私だって女だろう?」

「あなたは、・・・・・・怖い方です」

「わかってるじゃないか。だが、怖いのは私やハマーンだけじゃない。お前は知らないかもしれないが、昔は強くて、怖くて・・・・・・」

 

 女はわずかに言いよどみ、男に流し目を送る。

 神経質そうな細い眉と、切れ長の暗い目を持つ男。女は思った。この男の面影もどこかマ・クベに似ている、と。

 

「愚かな女がいたのさ」

 

 

 

 

「なんじゃこりゃあぁぁぁ!!」

 

 真島 世路(マシュマー・セロ)は叫んだ。朝の忙しい東京にそれはうるさい。

 

 ガラッ!

「真島ッ!」

 

 大通りをはさんだ向こうから、喧騒を突き破って大喝が響く。クリーニング店のシャッターを開けた店主・木矢良 すみれ(キャラ・スーン)だった。

 クラクションと急ブレーキでタイヤが鳴く音、「このオッパイオバケ!」だの、「死にてぇのかシンディ・老婆(ローヴァー)ァ!」と言った罵声をものともせず、木矢良(キャラ)が突っ切って真島の元へ駆け寄る。

 

「どうなってんだい、アクシズ建設がなくなってるじゃないか!」

「なんだ、木矢良さんも酔っ払ってるだけか。いや、これは夢が続いているのか」

 

 バチン! バチン!

 

 威勢のいい往復ビンタが炸裂した。真島はシャツの襟をつかまれ、ガクガクと揺すられる。

 

「寝ぼけてんじゃないよ! 説明しなッ」

「お、俺にも何がなんだかさっぱり! もうすぐ他の連中が来るんじゃないすか?」

 

 だが、真島と木矢良の期待に反して、始業開始時刻になっても社長・菅 浜子(ハマーン・カーン)はおろか、社員の一人も現れない。

 

「なぁ、その大家の神根さんちに麻里ちゃんもいるんだろう?」

「そのはずだけど。そういや、見てないな。まぁ、そもそも会社が消えちゃったからなぁ・・・・・・」

 

 真島の言葉は木矢良をますます不安にさせた。

 

「アタシも大した仕事はないんだ。店は臨時休業にするから、ちょいとその大家さんとこへ連れてっておくれよ」

 

 

 

 

「真島さん、ウチには養子は華路くんしかいないけれど・・・・・・。その、来栖さんって、どなたかしら?」

 

 大家・神根 統露(スベロア・ジンネマン)はすでに現場に出勤していたため、家の表を掃いていた彼の妻・風衣(フィー)に出会った。

 真島と木矢良は呆然とするしかない。

 

「あの、真島さん? 大丈夫?」

「え、・・・・・・ええ。核兵器ばりに、平気、です」

 

 ふたりはまたアクシズ建設があった敷地に戻った。しかし、昼を過ぎ、夕方になっても真島たちが知りうる人物は現れなかった。

 

「はぁ~」

 

 正体不明の太いため息を吐いた真島の背中が、威勢よく叩かれた。

 

「木矢良さん」

「落ち込んだってしょうがない。とにかく、作戦会議だ。行くよッ!」

「行くよって、どこ・・・・・・」

 ぐぅ~~~。

 

 真島の腹がなった。

 

 

 ふたりは近所の中華屋で腹ごなしをしながら、取るべき行動を話し合った。が、まったく何がなんだか分からぬ状況である。せいぜい、アクシズ建設の関係者を見かけたら、連絡を取り合うという程度のことしかできない。

 

 ふと、真島が目線を上げると、店に置かれたテレビがヨーロッパのニュースを伝えていた。大勢が壁によじ登り、ひとりの男が手にしたツルハシを振り上げていた。

 勢いよく壁に振り下ろす。何度も何度も。

 それは西暦が大きく動き出した出来事であるが、今の真島には不安をあおるものでしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 UC.0079年11月。連邦軍は多大な犠牲を払いつつも、オデッサで勝利を収めた。

 オデッサ作戦後、クリミア半島の付け根、旧アルムヤンスク市街。

 

 夕暮れに染まる廃墟をジオンは行軍した。徒歩の兵も、《マゼラアタック》自走砲の車体に乗せられた負傷兵も一様に表情は暗い。まさに葬送行進と言ってよい。

 損傷した真紅の《グフ・カスタム》が行軍の列から離れ、路肩に駐機する。コクピットハッチが開放され、仮面の内で男がうめく。

 

「ひどいものだな。統率者がいないばかりに、こうも好き勝手にやられるとは・・・・・・」

 

 シャアは眼下の敗軍を見やって呟いた。と、

 

「アズナブル中佐!」

「おお、貴様も生きていたか」

 

 地面から見上げるのは、副官のマリガンだった。ミノフスキー粒子が舞う戦場の混乱で、シャアとマリガンは分断されていた。

 

「ガラハウ中佐に会われましたか?」

「すまんが、・・・・・・誰かな?」

 

 シャアはキシリア・ザビを司令官とするジオン公国突撃機動軍の所属であるが、先月までドズル・ザビを長とする宇宙攻撃軍の飯を食っていた。つまり、突撃機動軍の人事に疎い。

 

「海兵艦隊司令の! すれ違いですか?」

「まいったな・・・・・・。地上に降りられていたのか?」

 

 昇降用ワイヤーに足をかけながら、シャアは脳のひだから固有名詞を引き出す。

 MS実用化に伴って、その戦術・運用が求められた。そのためUC.0075年、公国軍に教導機動大隊が設立される。シャアもパイロット候補生として所属していた。そして、当時の教官の一人が、

 

「シーマ教官を忘れるとは、殺されかねん」である。

 

 シーマ・ガラハウは開戦の前年に設立された海兵艦隊司令代行に転任された。その後、国軍が分割した際には突撃機動軍に組み込まれている。貧しい家の出である彼女が佐官の上、巡洋艦5隻の長というのは異例の大抜擢であり出世街道をひた走っていた、というべきであろう。

 過去形、である。

 最近の海兵艦隊には黒い疑惑が付いてまわり、将兵の間で悪い噂がされていた。

 

「それで、・・・・・・ガラハウ中佐はなんと?」

 

 地上に降りたシャアの声音(トーン)も上がりかけ、「噂」を思い出し低く抑えられた。

 

「なんでも、キシリア少将直々の命令を伝えにいらっしゃった、と。内容は極秘ゆえ直接でなければ伝えられない、と」

「ますます、まいった。それで教官・・・・・・いや、中佐はどちらへ?」

「フェンリル隊と共に北へ行かれましたが」

「ええぇ!? 置いてきぼりかぁ・・・・・・トホホ」

 

 突如、沸き起こった声にマリガンは慌てて振り返る。がっくりと肩を落としたフェンリル隊隊員ニッキ・ロベルト少尉の姿があった。

 

「くさるな。命があるだけでも儲けモノだと思うのだな」

 

 シャアはニッキを見て屈託なく笑う。彼の《ザク》はその後の戦闘で破壊され、放棄されていた。

 歩兵に混じって意気消沈したニッキの背中がとぼとぼと遠ざかっていった。

 

「しかし、北ということはドニエプル川辺りで連邦の追撃部隊と鉢合わせるな」

 

 シャアは逡巡し、片手をあごに当てた。

 シャアたちの残存戦力はクリミア半島を南下していた。目指す先に現状の最高指揮官ユーリ・ケラーネ少将が指定する集結ポイントがあった。

 

「北上というのは妙な。脱出する友軍を支援するにしても、本隊と離れすぎては合流を果たせなくなる。玉砕? まさかな・・・・・・」

「兵から聞き及んだのですが、脱出のために潜水艦が来ている、と。川を遡上してくる、とか」

「ほぅ、それは豪気だな。確かな情報か?」

「いえ、あくまで噂です。ケラーネ少将からも撤退命令がありましたので」

「そうか」

 

 情報は錯綜(さくそう)していた。だが、たとえ潜水艦の到来が事実であっても、

 

(あの女が友軍の脱出支援のためだけに行動している?)

 

 とは、シャアは思えない。

 

(どうする? 北か、南か。シーマか、ユーリか・・・・・・)

 

 その迷いの中で、

 

「アズナブル中佐!」

 

 また声がかかる。

 

「これは義勇兵部隊のローデン大佐! 怪我を?」

「いや、大したことはない」

 

 敬礼するシャアに外人部隊司令ダグラス・ローデンの答礼は弱々しい。右顔面に巻かれた包帯は痛々しく赤黒く染みが沸き、顔色もすぐれない。

 

「この場の最高指揮官は誰か?」

「はっ! 混乱から小官が臨時に指揮を取っていましたが、・・・・・・今はローデン大佐かと」

「では、・・・・・・君に私の部隊を任せたい」

「は、はっ?」

 

 あまりに自然な言いようだったのでシャアは一瞬呆気に取られた。

 

「大したことはない、と言っておきながら情けない話だが、前線に立つどころか、指揮に立つこともおぼつかん具合で、な。

 それに、君は我々の部隊を『外人部隊』といわず、『義勇兵』と呼んでくれたろう?」

「それは・・・・・・」

 

 外人部隊は俗称に過ぎない。が、時に侮蔑を込めて吐き捨られることもあった。

 

「MS隊の小隊長も未帰還でな。君の階級には不釣合いだとは思うのだが」

「いえ、そんな、しかし・・・・・・了解しました」

 

 ダグラスは苦痛の中にも満足そうな表情を浮かべ、軍用エレカへ運ばれていった。

 

 

「どこも大変そうですね」

 

 セリフとは裏腹にマリガンの視線はダグラスに寄り添う女性秘書官の後姿を追っているのだが。

 そんなマリガンを無視して、シャアは路傍で祈りを捧げる集団に向かう。

 

「灰は灰に、塵は塵に。主は彼を祝福し、・・・・・・あの中佐殿、葬儀の途中です」

「手間は取らせない」

 

 シャアは神父役の准尉をやんわりと押しのけ、その大尉の骸にかがみこむ。そして、面を隠すようにかけられていた彼の軍帽を取り、また自身の仮面も脱いだ。

 

「すまんな、君にはもう必要ないだろう? これは私には重すぎる。代わりに君がガルマの元に届けてくれると助かる。

 そして、大尉の遺志は私が受け継ごう」

 

 仮面を骸の合わされた両手の元に置き、軍帽を深く被った。

 その瞬間シャアは、何か長い夢から醒めたような感覚を味わった。仮面を捨て、軍帽を得るという単純な行為であるのに。

 

「マリガンっ!」

 

 一転したシャアの大喝に彼は直立不動となる。

 

「敵を食い止める。手練れの兵士をとにかく集めろ。周辺に抵抗線を構築し本隊の脱出を支援する。 走れッ!」

 

 

 追撃する連邦軍は大損害をこうむった。

 アルムヤンスク市街に待ち伏せあり、と見た連邦指揮官は迂回を命じる。平坦部を進むMS部隊が集中砲撃を受けたのはこのときだった。まさか、《マゼラアタック》自走砲が数をそろえているとは、予想外だった。

 水平射撃から守るためアルムヤンスクに逃げ込めば、そこにはシャアがいた。生き残った連邦兵は、つぎはぎだらけの《グフ・カスタム》が次々と《ジム》の頭をはねていく姿を見て、「首刈りのデュラハン(首なし)」と恐れた。

 追撃隊隊長の大佐が戦死し、連邦軍は壊走する。上層部は作戦を改め、航空戦力によりアルムヤンスクを灰じんに帰す猛爆撃で応じる。

 しかし、すでにユーリ・ケラーネ少将率いる本隊をはじめ、シャアらジオン残存戦力はクリミア半島を脱出した後のことであった。

 

 

 

 

 アルムヤンスクから北西約120キロ、ドニエプル川北岸近く。

 あたり一面はひまわり畑だった。ただ残念なことに、美しい黄色の絨毯(じゅうたん)は夜の濃紺に包まれ見えない。

 

 今、ひまわりを80トン近い重量で踏み潰しながら、巨人が疾駆していた。ジオン公国軍MS《グフ》である。7機は一列縦隊でドニエプル川を目指す。

 《グフ》は昼夜を問わずの強行軍により、脚部関節は限界に近い。怪しげな駆動音を響かせていた。

 コクピットのモニターには警告のステータス表示がされているはずだが、パイロットたちは一向に気にかけない。

 

 1機の《グフ》が脚でも()()()かのように倒れた。膝関節部が過度の駆動により限界を超えたのだ。

 だが、仲間の機体はパイロットを回収することもなく、それどころか、後続機は次々と擱座(かくざ)した《グフ》のバックパックを踏み潰しながら先へ進む。

 MSを持たぬパイロットなど、仲間とも思わない。そういう連中なのだ。キシリア・ザビ直属の正規軍であるが、事実上は私兵である。部隊名称はない。

 が、彼らは「死肉を喰らう者」、屍食鬼(グール)隊と自称していた。

 

 

 先頭の《グフ》が地上を移動する不明機をセンサーに捉える。

 

「クロード兄ちゃん、何か来るよ!」

 

 パイロットはまだ幼さの残る美少女である。

 

「クローディア少尉、何かじゃ分からない。いつも言っているだろ。論理立てて説明しろ、と」

 

 レーザー通信に応える後続の《グフ》パイロット、こちらの少年も整った顔立ちをしている。だが、ふたりとも目の奥に粗野で凶暴な光を宿していた。

 

「は、はい、クロード中尉。12時の方角、距離(ヒト)(ハチ)(マル)(マル)、数は3。高速接近中!」

 

 言うが、敵味方識別装置(I F F)が反応する。表示は《MS-09 DOM》x2と《UNKNOWN》x1。両翼の《ドム》が先行し、中央の不明機(アンノン)が追う凹型隊形だ。ホバーによる高速移動と思われる。

 

「1機よく分からないのが混じってるけど、一緒になってるから、多分ジオン軍じゃないかな」

 

 決して友軍などとは呼ばない、クローディアである。彼女の口調はコロコロと変り、多重人格のようだ。

 

「それは都合がいい。連中の《ドム》を奪って、さっさと潜水艦のところまで・・・・・・」

 

 突然のことだった。

 クロード中尉のセリフを激しい爆発音が遮った。

 彼が見たのは、左右から回り込むように迫るバズーカ砲弾の噴射光、そして、被弾し焼けた装甲をぶち撒けたクローディア機だった。

 

「ちくしょおぉぉぉ! 妹をやりやがったなあぁぁぁ!!」

 

 すでにクロードに美少年の面影はなく、醜く牙をむく野良犬のそれであった。

 

 

 先行する《ドム》を追い抜いた不明機(アンノン)は一旦迂回し、最後尾の屍食鬼(グール)隊、エイダ曹長の《グフ》に迫る。

 ナイトビジョンに映る不明機の姿は《ドム》に似ているが、右手に10メートルはあろうかという棒状のものを装備しており、通常携行するはずのジャイアントバズは持っていない。その他の射撃兵装も見る限りない。

 

「《ドム》で格闘戦? じゃ、フクロにしてやるよ」

 

 エイダ機の左マニピュレータが上がり、内蔵式フィンガーバルカンが火線を伸ばす。

 ヒラリ、ヒラリとかわしつつ《ドム》()()()は近づくが、その間にも2機の《グフ》が取り囲むように散開していた。

 ろくな通信もしていないのに、この連携は見事である。が、それは屍食鬼(グール)隊が昔から常にしている「一人を多数で囲んで袋叩きにする」という習性に過ぎなかった。

 いよいよ、その包囲が閉じられようとした、

 

 刹那!

 ふたつの《グフ》の首が宙を舞う。

 死角から飛翔した回転物体が、その頭部を刈り取ったのだ。正体は円盤から3本の(ブレード)を生やした巨大ブーメランであった。

 

「くっそがぁ!」

 

 なにがなんだか分からぬまま味方がやられ、恐慌状態に陥ったエイダは《グフ》を突撃させる。

 無造作に《ドム》もどきが左腕を伸ばし、エイダ機へ向けた。そのマニピュレータは何も持っていない。

 

「?」

 

 不審に思いつつもエイダは、自機にヒートサーベルを振り上げさせた。

 直後、《ドム》もどきの左袖が大きく分割した。

 

「な、隠し武器!?」

 

 中からのぞく三連装砲身。

 

「ガトリング!!」

 

 違う。それは回転砲身ではなく、ビームガンであった。ぶつ切りのメガ粒子光弾が次々と、撃ちこまれる。エイダ機はボロくずのように地面を転がった。

 ようやく、首を取られた《グフ》も動き出したが、サブカメラの狭い視界のためかぎこちない。

 それでも一機は果敢にフィンガーバルカンを放つ。が、《ドム》もどきのガンダリウム装甲にはさほど効果なく、跳ね返された。

 右腕を小脇に構えた《ドム》もどきはホバー走行で一気に間合いをつめる。長い獲物の先端から斧状のビームが形成された。

 すれ違いざま、胴を払った一撃は《グフ》のコクピット周辺だけを焼き切った。

 《ドム》もどきの女パイロットはほくそ笑む。

 

「わき腹ってのは人間もMSも柔らかいものなのさ」

 

 続いて、背を見せ逃げるもう一機を追う。

 不運なことに、その《グフ》はつんのめるように転倒した。この機体も膝関節が限界だったのだ。

 うつ伏せにもがくような《グフ》に向け、再度光弾を吐く三連装ビームガン。至近距離からバックパックへの点射は、まさに処刑と言ってよい。

 

「終わったかい? お前たち」

 

 女パイロットが呼びかけたとき、ちょうど僚機の《ドム》もそれぞれの獲物を仕留めていた。

 

 

「ただで済むと思うなよ! 俺たちはキシリア様の屍食鬼(グール)隊だぞ! 分かっているんだろうなっ!?」

 

 コクピットを脱出したクロードは頭から流れ落ちるものも構わず怒鳴り散らした。出血と同じく、視界は怒りの赤に染まっていた。

 

「知ってるさ。同業者じゃないか。あたしらだって突機に所属してるんだからさぁ」

 

 頭上の《ドム》もどきから響く女の声。なめ切った口調にクロードは発狂寸前だった。

 

「連邦から取り返したM資金、屍食鬼(グール)隊に任せておくんじゃ心配だ、って少将がおっしゃってねぇ」

「嘘つけッ! お前ら、キシリア様の命を受けていないな! 知ってるぞ! 毒ガスを使った弩腐れ海兵! 悪魔のシー・・・・・・」

 

 ズシン。

 《ドム》もどきがクロードを踏み潰し、肉塊へ変えた。

 

「ご名答。だけど、あたしゃ気が短い上に、おしゃべりな奴が大嫌いさ。特に、お前みたいなクソガキはね」

『中佐、ありましたぜ』

「今行く」

 

 生身の殺人の忌避感を少しも見せず、副官に応じる。

 目当てのコンテナ、ふたつの内一方は核爆発にも耐えられるほど厳重にシールドされていた。

 しかし、それを見た女は、

 

「こんな換金不能の特殊(レア)アイテムなんて、いらないねぇ。連邦にでもくれてやりな。あたしらはおまけの方が目当てさ」

 

 吐き捨てると、もう一方へ光学センサーのズーミングをかける。

 彼女の部下、クルト軍曹がちょうどコンテナの開錠に成功したところだった。

 

『こりゃぁ、すげぇ! たまんねぇ、天にも昇る輝きでさぁ!』

 

 狂喜に満ちたクルトの通信が女の耳にも入る。

 

『しかし、中佐。よくこんな極秘情報知り得ましたね? マ・クベ隊に()を潜ましていたんで?』

 

 傍らに立つ《ドム》からのレーザー通信。長らく女の右腕として副官を務める男の探るような声である。

 

「そんなんじゃないよ。ま、言っても信じないだろうね」

『中佐らしくないですね。あっしらの間で隠し事はやめにしましょうや!』

「よく言うよ。実を言うとね。この話はね……」

 

 女はもったいぶるかのように間を取った。《ドム》のコクピットで副官は身を乗り出した。

 

「未来からタイムスリップしてきた奴から聞いたのさ」

『プッ! ぶっわはっはっは! 嘘つくなら、もちっとましな作り話にしましょうや!』

「・・・・・・ジョークのセンスがなくて悪かったね。さぁさぁ、おしゃべりは終わりさ! ナパームを撒いて盛大に火葬しちまいな。バスクにゃいい目印になるだろうよ」

『え、・・・・・・誰ですって?』

「コッセル、あんた耳が遠いほうが長生きするよ。お節介はやめておきな。このMSも処分するよ」

『え、・・・・・・それは、しかし、軍の新型で・・・・・・』

 

 そこまで言って、副官コッセルは気づいた。上官の乗るMSの異常な性能に。

 

(本当にただの《ドム》の新型なのか? いや、まさか・・・・・・)

 

 彼女の激昂を受けても、動じない彼の額に嫌な汗が浮く。

 

 

 この時代、オーバーテクノロジーであるAMX-009《ドライセン》を破壊するのは、いささか骨が折れた。

 冷却材を抜いた上で核融合炉をオーバーロード、さらに背面から2機の《ドム》でジャイアントバズの集中砲撃を加えようやく成し遂げた。

 その甲斐あって、屍食鬼(グール)隊の死体やジャンク化した《グフ》も巻き込んだ火葬は盛大だった。

 しかし、天を焼く火柱に照らされた女、シーマ・ガラハウの瞳は火炎すら凍えさせる蛇のそれであった。

 

 

 





(あとがき)
 次回予告がありませんね。はい、そういうことになります。前に「ROMる」宣言をしても1ヶ月ほどしか休めてなかったので、

「半年ROMれ!」

 はい、積読もだいぶ溜まっているのです(汗。



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