企業戦士アクシズZZ   作:放置アフロ

27 / 29
(前回のあらすじ)
(※ナレーション:明日 理奈(あした・りな)

「ユウキ・ナカサトさんは戦死しちゃうし、ジェイクさんのザクはバラバラに。なんだか外人部隊の皆さん、災難続きですね。
 浜子さんは、照明弾を使った有紀さんの機転で合流できたみたい。でも、・・・・・・これからなにをするつもりなのかしら? ちょっと不安です」



27 オデッサ(10)

 菅 浜子(ハマーン・カーン)は《キュベレイ》の手の平に中里 有紀(ユウキ・ナカサト)を乗せるや、その場を去った。

 

「しゃ、社長! 一旦あそこの橋に!」

 

 有紀(ユウキ)はあっと言う間に行過ぎた橋を示した。

 大きく滑らかな弧を描きターンすると、《キュベレイ》はアーチ橋のトラスに張り付く。

 コクピットハッチを開放した浜子(ハマーン)は、「体は大丈夫か?」と決まり文句を短く発すると、

 

「聞こう」

 

 早速、マ・クベの所在を聞き出した。

 

 

「社長とはここで別れましょう」

「こんなところでか、危険すぎる。共に来なさい」

「私、コッチでやらなきゃならないことがあるんです!」

 

 普段のおとなしい有紀からは思いもよらぬ、強い主張は意外という他ない。

 

「しかし、・・・・・・お前を手伝ってやることはできない。私は私でなさねばならないことがある。すまない」

「いいんです」

「首尾よくことを果せた後は、約束通りボーナスという形で、・・・・・・」

「ありがとうございます。ただ、・・・・・・私のことより、社長」

「なにか?」

 

 わずかに押し黙った後、コクピットを見上げる有紀の視線はいたずらっ()ぽい含みがあった。

 

「真島さんのこと好きだったら、もっとガツガツいかなきゃダメですよ」

「たたたたわけがっ! いきなりなななな何を言っているのか、さっぱりわわわわ訳が分からぬ!」

 

 いきなり挙動不審に陥った浜子を無視して続ける。

 

「じゃないと、麻里ちゃんとかやよいとか、他の娘に取られちゃいますよ。じゃ、がんばってください。遠くから応援してますから!」

 

 なにやら意味深なセリフだった。有紀は橋上に出るや一度振り返り手を振ると、闇に飲み込まれて消えた。

 コクピットに戻る浜子は考え込む。

 

(う、うむ。アッチ(西暦)に帰ったら、その、うん、なんだ・・・・・・思い切って、告、告、・・・・・・告別式でもするか!)

 

 老後まで先取りしすぎであろう。

 

(が、今は・・・・・・)

 

 冗談はさておき、浜子の目は本物の殺気が宿る。両手は操縦桿を、足はフットペダルを捉える。

 橋上の《キュベレイ》はスラスターを焚き少しづつ上昇、橋から離れる。一定距離を取るや、腕を肩部バインダーに格納し前傾姿勢を取った。直後、青白い炎の花弁が満開に咲く。

 浜子と《キュベレイ》は一気に距離をつめるべく飛行する。右モニターに映る東の低空が、紫に変りつつあった。

 

 

 

 

 有紀は走る。大河沿いの開けた一本道だ。夏になればこの辺りも、日光浴を楽しむ若い男女であふれるであろう。但し戦時下でなければ、だ。

 突如、胃をつかまれるかと錯覚するような爆音が、有紀の右手側から沸き起こる。河側の崖下からだった。メインスラスターを吹かし、一機の《ザク》が跳躍し有紀の直前に着地する。その姿を見た有紀は体力の限界だったのだろう、崩れるように倒れた。

 

「ハァハァ・・・・・・やっぱり、ここに」

 

 巨人を見上げた彼女の表情は苦しさの中にも、晴れ晴れとしたものがあった。トレーラーで入手した外人部隊の配置は間違っていなかったのだ。

 《ザク》のモノアイが彼女を認めるや、

 

「ユウキ!? いや、ナカサト伍長なぜここに?」

 

 コクピットハッチが開放され、《ザク》が片膝をついた。

 

「ハァハァ、隊長・・・・・・乗せてください」

 

 外人部隊MS小隊隊長であり、パイロットのケン・ビーダーシュタット少尉はすぐに有紀をコクピットへ招きいれた。

 ケンがヘルメット・バイザーを上げると、

 

「! な、何を・・・・・・ウッ!」

 

 飛びついた有紀、両腕を彼の後頭部に回し、そのままシートに押し付けた。ケンの口は有紀の唇によってふさがれていた。

 

 

 

 

 レビル将軍指揮の第3軍主力と対峙する、ジオン公国軍《ダブデ》級大型陸戦艇。

 

 その艦橋では、

 

「連邦軍は前進をやめないというのか?」

 

 水爆で恫喝をしたマ・クベは信じられぬ、といった面持ちで副官のウラガンを振り返った。

 

「は、はっ! 最終防衛線を突破されつつあります」

「こしゃくな・・・・・・。ならば望みどおり、報いを受けるがいい。ミサイル発・・・・・・」

 

 その時、マ・クベを遮ってオペレータが警告を発する。

 

「7時方向に熱源反応! 距離3000!」

「なぜこうも簡単に敵の接近を許す? シャアや三連星は何をやっていたのだ!」

 

 

* 

 

 

「ようやく見つけたぞ、俗物」

 

 《キュベレイ》を使い潰しても構わぬ、と全開飛行を続けたスラスター・ノズルは高温に白く焦げ、推進剤は使い尽くしていた。

 

「こんなところで終わるものか!」

 

 それでもなお《キュベレイ》から発する闘気はフレアのように揺らめいていた。

 

「ファンネルっ!」

 

 浜子の呼びかけに応じて、巣を守るスズメバチのように《キュベレイ》の周囲を4基のビーム砲台が飛び回った。

 陸の戦艦ともいうべき《ダブデ》はようやく主砲塔が回頭を始める。仰角を取っていた砲身が水平射に転じるため、下りてきた。

 護衛の《グフ》3機は大地を踏みならして《キュベレイ》に迫るが、距離はまだ遠い。

 

「私利私欲のためにアクシズを手に入れようなどと! 地獄の業火に焼かれるがいい!」

 

 浜子の殺意を拡大したサイコミュがファンネルに指示する。スズメバチはミサイルに転じて、《ダブデ》を目指した。

 1基のファンネルが《グフ》小隊を抜き飛び去ったとき、中央の隊長機はわずかに立ちすくんだ。パイロットが後方モニターを確認する最中、後続ファンネルのビームがコクピットを貫く。彼は何が起こったのか、理解する間もなく死んだ。

 両翼の《グフ》、二人の部下も隊長と同じ運命をたどる。

 

 目を閉じ、集中する浜子の意識は先行するファンネルと同化していた。脳裏に、お椀(ボール)を二つ合わせたような特徴的な艦橋が迫る。浜子は「誰かの恐怖」を感じ取って、その口角を小さく上げた。

 殺意を読み取ったファンネルがビームを発し、艦橋の窓を直撃する。さらに、そこにファンネル本体が突っ込んだ。

 サイコミュのリンクが切断され爆発音に目を開ければ、正面モニターには特攻を受けた《ダブデ》の艦橋が燃えていた。今また、追い打ちをかけるように小爆発を起こす。ファンネルの残っていた推進剤にでも引火したのだろう。

 

「ふふふ・・・・・・」

 

 小さな笑い声は段々と大きくなり、しまいには球形コクピットに反響する哄笑となった。

 

「ははッハッハ! 勝った。これで佐備(ザビ)建設の力も()がれよう!」

 

 ファンネルがビームを発する直前、恐怖に染まったマ・クベの表情を浜子は思い出す。さも愉快と笑い続けた。

 いつしかその狂喜は時空の狭間に飲み込まれていった。

 その狂気が西暦をも狂わせてしまったことを、浜子はまだ知らない。

 

 

 夜が明けた。この日、地平線上の空は普段よりも赤みがなかった。それはミノフスキー粒子の干渉のせいである。にもかかわらず、大地は濃く赤黒く染まっていた。

 

 

 

 

 夜明けの直前のこと。

 

木矢良(キャラ)さん、いい加減入れてくださいよぉ」

「・・・・・・」

 

 《R・ジャジャ》の足元では来栖 麻里(マリーダ・クルス)が見上げていた。

 例の「ドキッ☆兵隊さんとジェスチャーゲームでむふふ♪な罰ゲーム」の話を聞いてから、へそを曲げた木矢良 すみれ(キャラ・スーン)麻里(マリーダ)をコクピットから追い出し、無言を通していた。

 

「悪気はなかったんですよぉ。帰ったら木矢良さんにアイスおごりますから」

「いらないね」

「機嫌直してくださいよぉ。・・・・・・き、木矢良お姐さんったらっ♪」

 

 麻里は猫なで声を出してみる。

 が、

 

「あざといね」

 

 木矢良はあくまでそっけない。

 しかし、自分でも(大人気(おとなげ)ない)と木矢良は思う。

 

(十五、六の小娘相手に何、ムキになっているんだろうね)

 

 今の木矢良には麻里に対する憎悪はない。むしろ、あるのは贖罪の気持ちだ。

 正しい記憶ではない。前世の曖昧な記憶と、今の木矢良が混然一体となった「精神のシチュー」とも言うべき状態だ。

 

(辛いことしたね)

 

 と謝ってやりたいところ、訳のわからぬ怪しいゴッコ遊びをやっていた事態を知り頭に来た。

 

「はぁ、でも、・・・・・・もう~!」

 

 木矢良はライオンのたてがみよろしく、ど派手な髪をかきむしった。

 

「こういうのはアタシの(しょう)に合わない。すぱっ、とね」

 

 苦笑を浮かべ、コクピットから顔をのぞかせたとき、外が赤く染まり始めた。

 

「き、木矢良お姐さん!!」

 

 先ほどの猫なで声とは違う、悲鳴だった。木矢良は見た。

 

「私の体が・・・・・・」

 

 朝日を受けた麻里の体は、足元から溶けるように透けていった。

 

「ま、麻里!? そこにいるんだよ!」

 

 ほとんど落下するように木矢良は《R・ジャジャ》から飛び降りた。麻里が驚きの表情を張り付かせたまま、腕を伸ばし、木矢良がそれを取ってやろうとした。

 瞬間、

 

「どこ行ったんだい? 冗談はよしなよ。本気で怒るよ? おい、・・・・・・麻里ちゃぁぁぁん!!」

 

 すべてがなかったかのように消えうせた。

 木矢良は半狂乱となって探したが、やがて西暦の帰路へと引きずり込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 西暦1989年11月、東京。

 

「ありがとうございましたー」

 

 定型句を受け、鈴樟 華路(バナージ・リンクス)は夜のコンビニを後にする。

 

「はぁ~」

 

 まるで、残業後のサラリーマンのようなため息をつく。手にした特大のビニール袋には、アイスが満載されている。これは、

 

「あのキチガ○と小悪魔めェ!」

 

 (プル)風美(プルツー)に使いっぱしりにされているのである。

 

「くっそー、あの栗毛が2315円で、あっちの栗毛が5230円だ。今に見てろー」

 

 当然、代金など支払われたことはない。

 散々のフラストレーションを溜め込んだ華路(バナージ)は、脳内ペットとこんな会話をする。

 

麻里(マリーダ)さんも、男に乗ったりするんですか?)

(欲求不満のときにな)

 

 そこで当人のふたりでなく、三姉妹(トリプルズ)の末妹であるのがなんとも情けない。しかし、このストレス発散も神根(ジンネマン)家ですれば、すぐに風美(プルツー)が『例のあの能力』で嗅ぎつけて来る。

 

「お義父(とう)さ~ん! また華路が麻里をオカズにしてSMゴッコやってる~!」

 

 工務店経営の統露(スベロア)は、長年工事現場の騒音で難聴気味だった。『華路が麻里にSM』しか聞こえない。ぶっ飛ばされること度々であった。

 モンモンとした華路は学校のトイレが、もっぱらの処理場だ。

 

 

「ただいまー」

 

 言いつつ、華路(バナージ)統露(スベロア)に頼まれたロングピースを袋から取り出す。

 

「おう、悪いな。って、お前そのアイスはなんだぁぁぁ!?」

 

 居間で横臥していた統露は、ちらっ、と見えた袋の中身に驚愕する。

 

「あらあら、ホント。どうしたの、そんなにたくさん?」

 

 ちょうど洗い物を終えた統露の妻・風衣(フィー)も手を拭いつつ、袋をのぞく。

 

「え、・・・・・・えーと。あれ、何だっけ?」

 

 華路は突如、健忘症にかかったかのように考え込んだ。

 

「なになに、どうしたのよ? あ、アイスじゃん♪ やりー、もーらい」

 

 風呂上りの統露の実娘・真里(マリィ)が髪を拭き拭き、早速一本抜き取る。

 

「あ、あぁ! それは・・・・・・」

「なに? ひとつくらいイイじゃん」

「え、ええ。かまわないッスけど・・・・・・」

「けど、なに?」

「これ、『アイス買って来い』って真里(マリィ)さんが言いませんでしたっけ?」

「アハハ、アイス嫌いじゃないけどさ。そんなに食べたらお腹壊すでしょ、フツー」

「そ、そうですよね・・・・・・」

「おい、華路よ、大丈夫か? 変なモンでも食ったか?」

 

 統露が心配しているんだか、いないんだか、微妙な声をかける。風衣の眉間に小さくしわが寄る。

 

「またそんなこと言って! 私は華路くんやお父さんや真里、家族3()()の健康をしっかり考えてお料理してるつもりですよ。バカなこと言ってないで、みんな帰ってきたんだから、早く戸締りをしてください」

 

 統露は「はいはい、よいしょ」と立ち上がると、外で一服済ませ雨戸を閉め始めた。華路は何度も首を傾げつつ、大量のアイスをなんとか冷凍庫に納めることに成功した。

 

 

 

 

 翌日、東京郊外のアパート・ジンネハイツ。

 

 何度やっても、痛飲後の覚醒には慣れない。

 

「くそぅ、頭いてぇ」

 

 当然、胸焼けと胃痛も、である。

 手早くシャワーを浴び、真島 世路(マシュマー・セロ)は会社へと向かう。

 到着し、真島(マシュマー)は目をこする。どうもまだアルコールが抜けてないらしい。

 それとも降りる駅を間違えたのか? 背後を振り返る。そこには通りを挟んで、いつもの【木矢良クリーニングセンター】の看板がある。場所はあっているらしい。

 しかし、何もない。

 アクシズ建設があった敷地は、工事中の看板とフェンスに囲まれる更地(さらち)になっていた。

 看板にはこう書かれている。

 

【佐備建設・西東京支社社屋 完成:平成2年5月(予定)】

 

 真島はもう一度確認した。業界でいうところの「二度見」というやつだ。

「なんじゃこりゃあぁぁぁ!!」

 

 

 

 第三章 仁義なき戦い オデッサ激闘篇 ~完~

 

 

 




(次回予告)
(※BGM「Corporate Soldier」、ナレーション:天田 司郎(あまだ・しろう)

♪(ファンファーレっぽい何か)♪

「いよいよ新章『本当は怖い第08C.D.A.小隊』の始まりだ!
 俺は、第8(しげる)ビルの現場監督として着任した!
 初めての部下の名を覚える間もなく、ビルの解体命令が下った!
 多少不安がないではないが、監督としての無茶ぶりを示さねばと、発破を二倍に増量と張り切る俺ではあったが・・・・・・。
 次回、アクシズZZ『崩壊』」



来栖三姉妹(トリプルズ)が消滅しました】
【アクシズ建設が倒産しました】



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。