(※ナレーション:
「ユウキ・ナカサトさんは戦死しちゃうし、ジェイクさんのザクはバラバラに。なんだか外人部隊の皆さん、災難続きですね。
浜子さんは、照明弾を使った有紀さんの機転で合流できたみたい。でも、・・・・・・これからなにをするつもりなのかしら? ちょっと不安です」
「しゃ、社長! 一旦あそこの橋に!」
大きく滑らかな弧を描きターンすると、《キュベレイ》はアーチ橋のトラスに張り付く。
コクピットハッチを開放した
「聞こう」
早速、マ・クベの所在を聞き出した。
「社長とはここで別れましょう」
「こんなところでか、危険すぎる。共に来なさい」
「私、コッチでやらなきゃならないことがあるんです!」
普段のおとなしい有紀からは思いもよらぬ、強い主張は意外という他ない。
「しかし、・・・・・・お前を手伝ってやることはできない。私は私でなさねばならないことがある。すまない」
「いいんです」
「首尾よくことを果せた後は、約束通りボーナスという形で、・・・・・・」
「ありがとうございます。ただ、・・・・・・私のことより、社長」
「なにか?」
わずかに押し黙った後、コクピットを見上げる有紀の視線はいたずらっ
「真島さんのこと好きだったら、もっとガツガツいかなきゃダメですよ」
「たたたたわけがっ! いきなりなななな何を言っているのか、さっぱりわわわわ訳が分からぬ!」
いきなり挙動不審に陥った浜子を無視して続ける。
「じゃないと、麻里ちゃんとかやよいとか、他の娘に取られちゃいますよ。じゃ、がんばってください。遠くから応援してますから!」
なにやら意味深なセリフだった。有紀は橋上に出るや一度振り返り手を振ると、闇に飲み込まれて消えた。
コクピットに戻る浜子は考え込む。
(う、うむ。
老後まで先取りしすぎであろう。
(が、今は・・・・・・)
冗談はさておき、浜子の目は本物の殺気が宿る。両手は操縦桿を、足はフットペダルを捉える。
橋上の《キュベレイ》はスラスターを焚き少しづつ上昇、橋から離れる。一定距離を取るや、腕を肩部バインダーに格納し前傾姿勢を取った。直後、青白い炎の花弁が満開に咲く。
浜子と《キュベレイ》は一気に距離をつめるべく飛行する。右モニターに映る東の低空が、紫に変りつつあった。
*
有紀は走る。大河沿いの開けた一本道だ。夏になればこの辺りも、日光浴を楽しむ若い男女であふれるであろう。但し戦時下でなければ、だ。
突如、胃をつかまれるかと錯覚するような爆音が、有紀の右手側から沸き起こる。河側の崖下からだった。メインスラスターを吹かし、一機の《ザク》が跳躍し有紀の直前に着地する。その姿を見た有紀は体力の限界だったのだろう、崩れるように倒れた。
「ハァハァ・・・・・・やっぱり、ここに」
巨人を見上げた彼女の表情は苦しさの中にも、晴れ晴れとしたものがあった。トレーラーで入手した外人部隊の配置は間違っていなかったのだ。
《ザク》のモノアイが彼女を認めるや、
「ユウキ!? いや、ナカサト伍長なぜここに?」
コクピットハッチが開放され、《ザク》が片膝をついた。
「ハァハァ、隊長・・・・・・乗せてください」
外人部隊MS小隊隊長であり、パイロットのケン・ビーダーシュタット少尉はすぐに有紀をコクピットへ招きいれた。
ケンがヘルメット・バイザーを上げると、
「! な、何を・・・・・・ウッ!」
飛びついた有紀、両腕を彼の後頭部に回し、そのままシートに押し付けた。ケンの口は有紀の唇によってふさがれていた。
*
レビル将軍指揮の第3軍主力と対峙する、ジオン公国軍《ダブデ》級大型陸戦艇。
その艦橋では、
「連邦軍は前進をやめないというのか?」
水爆で恫喝をしたマ・クベは信じられぬ、といった面持ちで副官のウラガンを振り返った。
「は、はっ! 最終防衛線を突破されつつあります」
「こしゃくな・・・・・・。ならば望みどおり、報いを受けるがいい。ミサイル発・・・・・・」
その時、マ・クベを遮ってオペレータが警告を発する。
「7時方向に熱源反応! 距離3000!」
「なぜこうも簡単に敵の接近を許す? シャアや三連星は何をやっていたのだ!」
*
「ようやく見つけたぞ、俗物」
《キュベレイ》を使い潰しても構わぬ、と全開飛行を続けたスラスター・ノズルは高温に白く焦げ、推進剤は使い尽くしていた。
「こんなところで終わるものか!」
それでもなお《キュベレイ》から発する闘気はフレアのように揺らめいていた。
「ファンネルっ!」
浜子の呼びかけに応じて、巣を守るスズメバチのように《キュベレイ》の周囲を4基のビーム砲台が飛び回った。
陸の戦艦ともいうべき《ダブデ》はようやく主砲塔が回頭を始める。仰角を取っていた砲身が水平射に転じるため、下りてきた。
護衛の《グフ》3機は大地を踏みならして《キュベレイ》に迫るが、距離はまだ遠い。
「私利私欲のためにアクシズを手に入れようなどと! 地獄の業火に焼かれるがいい!」
浜子の殺意を拡大したサイコミュがファンネルに指示する。スズメバチはミサイルに転じて、《ダブデ》を目指した。
1基のファンネルが《グフ》小隊を抜き飛び去ったとき、中央の隊長機はわずかに立ちすくんだ。パイロットが後方モニターを確認する最中、後続ファンネルのビームがコクピットを貫く。彼は何が起こったのか、理解する間もなく死んだ。
両翼の《グフ》、二人の部下も隊長と同じ運命をたどる。
目を閉じ、集中する浜子の意識は先行するファンネルと同化していた。脳裏に、
殺意を読み取ったファンネルがビームを発し、艦橋の窓を直撃する。さらに、そこにファンネル本体が突っ込んだ。
サイコミュのリンクが切断され爆発音に目を開ければ、正面モニターには特攻を受けた《ダブデ》の艦橋が燃えていた。今また、追い打ちをかけるように小爆発を起こす。ファンネルの残っていた推進剤にでも引火したのだろう。
「ふふふ・・・・・・」
小さな笑い声は段々と大きくなり、しまいには球形コクピットに反響する哄笑となった。
「ははッハッハ! 勝った。これで
ファンネルがビームを発する直前、恐怖に染まったマ・クベの表情を浜子は思い出す。さも愉快と笑い続けた。
いつしかその狂喜は時空の狭間に飲み込まれていった。
その狂気が西暦をも狂わせてしまったことを、浜子はまだ知らない。
夜が明けた。この日、地平線上の空は普段よりも赤みがなかった。それはミノフスキー粒子の干渉のせいである。にもかかわらず、大地は濃く赤黒く染まっていた。
*
夜明けの直前のこと。
「
「・・・・・・」
《R・ジャジャ》の足元では
例の「ドキッ☆兵隊さんとジェスチャーゲームでむふふ♪な罰ゲーム」の話を聞いてから、へそを曲げた
「悪気はなかったんですよぉ。帰ったら木矢良さんにアイスおごりますから」
「いらないね」
「機嫌直してくださいよぉ。・・・・・・き、木矢良お姐さんったらっ♪」
麻里は猫なで声を出してみる。
が、
「あざといね」
木矢良はあくまでそっけない。
しかし、自分でも(
(十五、六の小娘相手に何、ムキになっているんだろうね)
今の木矢良には麻里に対する憎悪はない。むしろ、あるのは贖罪の気持ちだ。
正しい記憶ではない。前世の曖昧な記憶と、今の木矢良が混然一体となった「精神のシチュー」とも言うべき状態だ。
(辛いことしたね)
と謝ってやりたいところ、訳のわからぬ怪しいゴッコ遊びをやっていた事態を知り頭に来た。
「はぁ、でも、・・・・・・もう~!」
木矢良はライオンのたてがみよろしく、ど派手な髪をかきむしった。
「こういうのはアタシの
苦笑を浮かべ、コクピットから顔をのぞかせたとき、外が赤く染まり始めた。
「き、木矢良お姐さん!!」
先ほどの猫なで声とは違う、悲鳴だった。木矢良は見た。
「私の体が・・・・・・」
朝日を受けた麻里の体は、足元から溶けるように透けていった。
「ま、麻里!? そこにいるんだよ!」
ほとんど落下するように木矢良は《R・ジャジャ》から飛び降りた。麻里が驚きの表情を張り付かせたまま、腕を伸ばし、木矢良がそれを取ってやろうとした。
瞬間、
「どこ行ったんだい? 冗談はよしなよ。本気で怒るよ? おい、・・・・・・麻里ちゃぁぁぁん!!」
すべてがなかったかのように消えうせた。
木矢良は半狂乱となって探したが、やがて西暦の帰路へと引きずり込まれた。
*
西暦1989年11月、東京。
「ありがとうございましたー」
定型句を受け、
「はぁ~」
まるで、残業後のサラリーマンのようなため息をつく。手にした特大のビニール袋には、アイスが満載されている。これは、
「あのキチガ○と小悪魔めェ!」
「くっそー、あの栗毛が2315円で、あっちの栗毛が5230円だ。今に見てろー」
当然、代金など支払われたことはない。
散々のフラストレーションを溜め込んだ
(
(欲求不満のときにな)
そこで当人のふたりでなく、
「お
工務店経営の
モンモンとした華路は学校のトイレが、もっぱらの処理場だ。
「ただいまー」
言いつつ、
「おう、悪いな。って、お前そのアイスはなんだぁぁぁ!?」
居間で横臥していた統露は、ちらっ、と見えた袋の中身に驚愕する。
「あらあら、ホント。どうしたの、そんなにたくさん?」
ちょうど洗い物を終えた統露の妻・
「え、・・・・・・えーと。あれ、何だっけ?」
華路は突如、健忘症にかかったかのように考え込んだ。
「なになに、どうしたのよ? あ、アイスじゃん♪ やりー、もーらい」
風呂上りの統露の実娘・
「あ、あぁ! それは・・・・・・」
「なに? ひとつくらいイイじゃん」
「え、ええ。かまわないッスけど・・・・・・」
「けど、なに?」
「これ、『アイス買って来い』って
「アハハ、アイス嫌いじゃないけどさ。そんなに食べたらお腹壊すでしょ、フツー」
「そ、そうですよね・・・・・・」
「おい、華路よ、大丈夫か? 変なモンでも食ったか?」
統露が心配しているんだか、いないんだか、微妙な声をかける。風衣の眉間に小さくしわが寄る。
「またそんなこと言って! 私は華路くんやお父さんや真里、家族
統露は「はいはい、よいしょ」と立ち上がると、外で一服済ませ雨戸を閉め始めた。華路は何度も首を傾げつつ、大量のアイスをなんとか冷凍庫に納めることに成功した。
*
翌日、東京郊外のアパート・ジンネハイツ。
何度やっても、痛飲後の覚醒には慣れない。
「くそぅ、頭いてぇ」
当然、胸焼けと胃痛も、である。
手早くシャワーを浴び、
到着し、
それとも降りる駅を間違えたのか? 背後を振り返る。そこには通りを挟んで、いつもの【木矢良クリーニングセンター】の看板がある。場所はあっているらしい。
しかし、何もない。
アクシズ建設があった敷地は、工事中の看板とフェンスに囲まれる
看板にはこう書かれている。
【佐備建設・西東京支社社屋 完成:平成2年5月(予定)】
真島はもう一度確認した。業界でいうところの「二度見」というやつだ。
・
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・
「なんじゃこりゃあぁぁぁ!!」
第三章 仁義なき戦い オデッサ激闘篇 ~完~
(次回予告)
(※BGM「Corporate Soldier」、ナレーション:
♪(ファンファーレっぽい何か)♪
「いよいよ新章『本当は怖い第08C.D.A.小隊』の始まりだ!
俺は、第8
初めての部下の名を覚える間もなく、ビルの解体命令が下った!
多少不安がないではないが、監督としての無茶ぶりを示さねばと、発破を二倍に増量と張り切る俺ではあったが・・・・・・。
次回、アクシズZZ『崩壊』」
【
【アクシズ建設が倒産しました】