企業戦士アクシズZZ   作:放置アフロ

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(前回のあらすじ)
(※ナレーション:明日 修道(あした・しゅどう)

「陰口、悪口ってのはよくない。それが宇宙世紀最恐のあの人、菅 浜子(ハマーン・カーン)さんだったら、もう終わりだね。
 ボインの姐さんも怒り狂ってるし。あーあ、すぐに内ゲバが始まるモンだから、ジオンって嫌になっちゃう」 




22 オデッサ(5)

 全機モビルスーツ(M S)のモノアイが交錯する。互いに牽制しあった視線が交わることはなく、最終的に《ザクⅢ改》の背後、崩れかけの廃屋に注がれた。

 真島(マシュマー)が振り返ると、廃屋の内部で不気味にピンク色の輝きが発している。それはMSのデュアルアイ・センサーの光。打ち付けられた板壁は隙間だらけで、不明瞭なシルエットからはもやのような揺らめきが見える。

 

(うわぁ、これは『死刑!』なの!? 首ちょんぱなの!?)

 

 その揺らめきはハイメガ砲すら跳ね返す浜子(ハマーン)の気迫である。

 

 バキバキッ!

 

 板を粉砕しながら、予想通りの悪鬼《キュベレイ》が出現した。社員の様子を今までひそかに見聞きしていた。

 

『弁解の余地がなければ、ここがお前たちの送別会場だ』

 

 先手必勝。ここは謝るに限る。真島は決意した。

 

「ア、アイムソーリー、ひげソーリー」

(お前、勇者だよっ!)

 

 周囲の予想通り、速攻で《キュベレイ》のビームガンの砲口が《ザクⅢ改》を照準した。コクピットを騒がすロックオン警告音。真島は焦る。

 

「う、う、う、・・・・・・うっそぴょーん♪」

 

 刹那、《キュベレイ》の背後から黒い何かが盛り上がった! 光速で感じ取った真島は反射的に回避機動を入力する。

 ほとばしったイエローのビームが《ザクⅢ改》の右肩シールドを焦がす。すんでのところでかわした光軸は、後藤(ゴットン)の《ガ・ゾウム》側方をすり抜け、向こうのサイロをぶち抜いた。

 

「はっ、ははっ! じょ、冗談は浜子さん♪」

『つまらん。もう少し()()()()言葉を吐け』

 

 一刀両断である。

 フォローが重要。ここはおだてるに限る。後藤は決意した。

 

『あはは! ですよねー、まったく真島ときたら。と、ところで社長の茶色いロボット、()()してますねぇ!』

『面白いことを言う。これは爆発のススとMSの伝導液だ。返り血と思えばよい。ここに来るまでに連邦と出会った。3機ほど逝か(イカ)してやった。私のプレッシャーに耐えかねたようだ。

 おっと、訂正しよう。後藤に言わせれば、「365日年中無休24時間営業」のプレッシャーだったな。お前も逝か(イカ)してやろうかぁ―っ!』

 

 墓穴を掘った。

 しかし、

 

『大変なことを忘れていた。今日、今このとき思い出したよ・・・・・・』

 

 突然、まるで何かに憑かれた様にしゃべりだす暮巳(グレミー)。周りのバカ社員たちは戸惑った。《バウ》は直立したまま微動だにしない。その手のビームライフルも地に向け垂れたままである。

 

 

 

 

 しかし、浜子(ハマーン)だけは身構えた。照準を《バウ》へと移す。

 

(やはり暮己、貴様も記憶を取り戻したか。大した役者だ! ならば、ここで始末するまで!)

 

 操縦桿を握る手は力がこもり、指はトリガーにかかる。

 

『ジャングル大帝、録画予約し忘れた!』轟く暮巳の絶叫。

『興味ねえんだお、そんなの! またアニメかお! ふざけんな、テメーいい加減空気読めっ!』

『そ、そんな先輩! 手塚先生の不朽の名作、レジェンドですよ!』

『お前の行動の方がよっぽど伝説的だわっ!』

『うああぁ―――――!!! 伝説といえば、しまったぁぁぁ・・・・・・。アイドル伝説えり子も録り忘れた。ああ、僕はこの先、いったいどうやって生きていったら・・・・・・。助けて、ママン』

『氏ね! バカも休み休み氏ね! 思い立ったが命日で氏ね!』

 

 暮巳と真島の漫才に浜子の鬼気は小さくなった。

 

(こいつらは昔から空気を読めないところがあったからな。妄想がひどかったり、敵にも関わらず女の尻を追ったり、な)

 

 怒りを抑えたというより、毒気を抜かれたようだ。

 

(それよりも)

 

 浜子は、宇宙世紀に跳躍する直前に感じた不安が的中していたことに、若干の焦りを覚えた。

 

入谷(イリア)がいない。やはり来れなかったのか。《ケンプファー》にしろ《リゲルグ》にしろ、戦力としてかなめに考えていたが)

 

 はざまに入店する直前、秘書の入谷 はこべ(イリア・パゾム)、そして厚生課の本郷 すみれ(スミレ・ホンゴウ)が『置いていかれた』ような感じがした。

 

(あれは、結界、のようなものを越えられなかったのか? では有紀は? 確かはざまにいたが)

 

 中里 有紀(ユウキ・ナカサト)は九州人らしく芋焼酎を飲んでいたのを覚えている。浜子は時空跳躍の法則性を理解しつつあった。

 

(もしや、こちらの世界で一度死んで、転生した人間しか来れない? では、来栖 麻里(マリーダ・クルス)はどうなる? 宇宙世紀から連れてきた人間も行き来できる、ということか?)

 

 謎は残るが、今はそのことを突き詰めているときではない。

 

「お前たちの悪口は聞かなかったことにしよう。その上で答えを聞く。私に同調してくれなければ……」

 

 間を置き、全員を見回す。彼らの息を飲む仕草まで装甲越しに感じ取った。

 

「厚生課送りでお茶汲みとゴミ捨てだ。出世はない」

(うわぁ、やよいと一緒かよ)

 

 その人事は宇宙世紀的に言えば、『密航船で木星送り』と同義だ。

 

「だが、私と来てくれれば、アクシズ建設の発展も間違いない。それが分かりやすく、給料をあげることになる」

 

 社員たちは戸惑い、互いを見やった。MSの頭部からは表情は読み取れない。当たり前だが。

 煮え切らない彼らの態度に浜子はジリジリとし、迫った。

 

「真島! お前はどうなのだ?」

『どうもこうも、社長……一体全体、なんの話です?』

「え」

 

 浜子が単に一人芝居をしていたことに気づき、呆然とする。

 

「私がはざまで話した計画を聞いてなかったのか!」

 

 再び《キュベレイ》から怒気が発せられ、バカ社員たちが不穏な空気に騒ぎ出す。

 

『あっ! いや途中まで聞いてたんですけど』

暮巳(グレミー)(プル)に、スケバンよろしく「おまんら許さんぜよ!」状態だったじゃないですか。全部持ってかれちゃって……』

『お前が悪いんだぞ、暮巳! 悪ふざけに乗っかって、麻里ちゃんに首輪なんてつけようとするから!』

『えええぇぇ、何すか!? 違いますよ、そんなことしてませんよ! 僕はただ、ロープで亀甲(しば)・・・・・・』

『やっぱりかこのロリオタ弩変態がぁぁぁ! 氏ね―――!』ビームライフルを構える《ザクⅢ改》。

『先輩だって、ぶっかけ大好きっ子でしょうがぁぁぁ!』同じく《バウ》。

 

 ライフルの砲口を突き合わせる新旧マスター。

 そして、爆発!

 対決の結末を見る前に、アクシズ軍団は激しい砲火に見舞われた。砲弾が《ザクⅢ改》のショルダーアーマーと、《バウ》のメガ粒子砲付きシールドにそれぞれ直撃する。

 

(敵に見つかるわけだ。このバカども、スピーカーで大声でしゃべっているからに!)

 

 自分も会話に入っているのに、浜子は棚上げして歯がみする。

 

(めくら撃ちではない。()()の良い奴がいるな。猶予ならん!)

 

 ソナーや光学センサー系の戦闘支援が優れているように思われる。

 

「遊びは終わりだ! 『営業の3バカ』と設計課は不明者の捜索。真島が全員を指揮れ!」

『お、俺ぇ!? クイズダービーすか! そんな「ハライタイさんに全部!」みたいな……』

「黙れ!!」

 

 反論を許さぬ勢いで、矢継ぎ早に指示する。

 

「『営業の嵐』隊は私と共に来い。敵をせん滅する!」

 

 

 

 

『敵MS、二手に散開します。機種識別不明!』

 

 支援ホバー・トラックからのオペレータの無線。口調は普段よりテンポが速い。優れた状況分析能力を持つ彼女が、想像もつかぬ敵との遭遇である。

 

(ノエル、焦ってるな。無理もない)

 

 だが、口にはしないもの、小隊長の彼、マット・ヒーリィ中尉自身、敵の異常ぶりにじりじりした思いを抱いた。

 平坦な小麦畑に立つ巨人。200メートルの間隔で一列横隊3機のMSは、手にする180ミリ・キャノンを撃ちつくし放棄する。代わりに地に置くウェポンラックから100ミリ・マシンガンを装備。

 

「援護する。デルタツー、スリー先に行け」

 

 敵に断続的な攻撃を加えつつ後退し、後方の《ジム》3個小隊が潜む川岸へ誘い込む算段だ。

 横陣の中央、マットが乗る陸戦型《ガンダム》が膝撃ち姿勢を取り、左右に展開した陸戦型《ジム》が後退機動に移る。スラスター噴射による後ろ飛びだが、ベテランの部下たちは難なくそれをこなした。

 と、

 

『VTOL機らしき熱源反応! 1時の方角、距離5000。数は・・・・・・3!』

「航空支援か。面倒だな。やり過ごせるか・・・・・・。各機その場で停止。撃つなよ」

 

 マットの思いとは裏腹に、上空の3機は前方で大きく旋回し一列縦隊を取った後、こちらへ進路を向けた。直線的機動は明らかに、

 

「チッ、見つかったか。射撃用意」

 

 砲撃音から位置特定されたものか。先制攻撃で指揮中枢にダメージを与えられなかったのか。

 不明機は亜音速で突っ込んでくる。猶予はない。

 

「全機フルオート、2機分手前を狙え」

 

 射撃モードと狙点の見越し量を伝えると、マットもレティクルを合わせた。

 

(ビームライフルであったら・・・・・・)

 

 初速が亜光速のビーム兵器ならば、砲弾飛翔によるタイムラグはないに等しい。

 そんな逡巡をしている間に、敵はこちらの射程に入り込んだ。右翼展開、ラリー少尉の《ジム》の正面だ。

 撃て! と叫ぶこともなく、阿吽(あうん)の呼吸で合わせられた斉射。3門のマシンガンから伸びる曵光弾の火線。

 だが、次の瞬間、それを圧倒する幾筋もの光軸が辺りを照らす。まともにその光が飛び込んだ《ガンダム》のモニターが瞬間的に明度調整する。

 断続的な3回の閃光が去ったとき、《ジム》は爆発し小麦畑には多数のクレーターができていた。

 

『ラ、ラリー!』

「おちつけ、アニッシュ。俺が引きつける。全力で川へ走れ!」

 

 火力も機動力も違いすぎる。相互援護や後退機動などしている場合ではない。マットは自身が捨石になり、左翼アニッシュ曹長の《ジム》を逃がすことを決意した。

 横移動しながら、マシンガンを空に乱射し弾倉の残りをばら撒く。弾切れ。空の弾倉が自動排出され、マットは次に対地/対空兼用榴弾を選択して再装填する。

 旋回する敵機は90度侵入角度を替え、最初の方角の3時方向、マットの右手から迫ってきた。

 

(逃げおおせてくれよ)

 

 マットが祈った直後、正面のモニターを何かがかすめた。暗く、しかも遠くの敵機を追っていた光学センサーは追いきれない。だが、そのシルエットは

 

(なんだ、この尖った漏斗みたいのは・・・・・・?)

 

 人間大ほどのサイズ。わずかな姿勢制御のスラスターの光を撒きながら、《ガンダム》の周囲を飛ぶ。まるで、羽虫が人にまとわり付くように。

 そして、光が走る。

 

(あっ・・・・・・)

 

 と、思うまもなく、ファンネルのビームは《ガンダム》頭部を貫く。続いて《ガザD》編隊のメガ砲とビームが機体を、マットの肉体を蒸発させた。

 

 

 

 

『俺は、もう無理だ。後は、頼む……ウッ』

「おい、しっかりしろ! 気を保て!」

 

 後続機から雑音まじりの無線を聞いた馬場(パンパ)は叫ぶ。

 しかし、それも虚しく、縦列真ん中の《ガザD》が螺旋を描いて高度を下げていった。被弾しているのか、まるで酔っ払っているようなフラフラした機動。逆噴射後、機首を小麦畑に突っ込むような姿勢で着陸した。

 すぐさま、日安(ビアン)が脱出する。

 

「ぐ、……うぇ~~~ゲロゲロ」

 

 激しく嘔吐した後、畑に倒れこみ、それきり動かなくなった。

 

「むむむ、日安よ。安らかに眠れ。お前の(かたき)は俺が取る!」

 

 確かに轟沈はしているが、一体何の仇を取ろうと言うのか。

 《ガザD》馬場機のモニター正面には、小さな青白い輝きが映る。浜子のファンネルが発するスラスター光である。敵を発見したらしいそれは急降下する。すると、《ガザD》のディスプレイ、射撃レティクルもファンネルを追った。

 馬場は操縦桿を倒しこみ、旋回する。後続の和井武(ワイム)機も倣った。はたして、ファンネルの行き着く先に3機目のMSがいた。

 背を見せて走る《ジム》は《ガザD》の接近に気づき、即180度回頭する。手にしたマシンガンの対空射撃で応じた。

 《ガザD》の馬場は《ジム》のシルエットがレティクルと重なるのを見た。

 

「ぬおぉぉぉ! 日安の仇ィィィ!」

 

 トリガーを引く。発射されることを予見していたかのように、《ジム》目前のファンネルは回避した。直後を、ハイパー・ナックル・バスター、連装ビーム砲、そして2門のメガ砲の光軸が走る。数秒遅れて和井武機も畳み掛けた。

 

 

 

 

「デ、デルタリーダー!? デルタツー、スリー聞こえますか? 誰か・・・・・・応答してください」

 

 しまいには、ノエルは震える声になってしまった。各種センサーからも味方機からの信号がロストしたことを示していた。

 ノエルはホバー・トラックを飛び出した。車両は幅20メートルほどの川にかかる橋、その橋脚の脇に隠蔽している。そこからでもセンサーマストを伸ばせば、支援は十分できる。

 川岸の急斜面を上り、味方が展開していた方角を見てノエルは息を飲んだ。予想はしていたが、そこには夜空をオレンジに染めるMSの残骸しかなかった。

 ノエルは呆然とし、草むらにぺたん、と座り込んだ。

 突如、爆音と衝撃波、スラスター噴射が沸き起こる。

 地面に転がり頭を抱えていたノエルだが、恐る恐る顔を上げると、

 

『邪魔だ! お前も焼かれたいかっ!』

 

 外部スピーカーから響く高慢な声と、モグラにもヤギにも似た巨顔。地上50メートルを超低空飛行で接近した《キュベレイ》が水上でホバリングしていた。

 ノエルが這うようにして逃げるのを、全天周モニターの下方に認めた浜子はビームガンのトリガーを引く。一撃でホバー・トラックはジャンクと化す。

 

『死にたくなければ、橋の下にでも隠れてろ』

 

 言い残して、《キュベレイ》のスラスター・ノズルが大きく開き、水しぶきを撒き散らして彼方へ飛び去る。

 ずぶ濡れになりながら、ノエルはその行方を目で追う。

 

「隊長を、・・・・・・仲間を殺しておいて、・・・・・・」

 

 目は恐怖の色に染まりながら、その歯は憎しみに食いしばられていた。

 

 

 

 

 圧勝にも浜子(ハマーン)に勝利の余韻はなく、心中に漂うのは焦り、そして一抹のいらだちだ。

 

(連邦軍に情けをかけるつもりは、ない。まして軍人ならば、戦死は(さが)と知れ)浜子は思う。

 

 それでも、圧倒的性能差、火力差による一方的殺戮は、彼女をセンチメンタルとまで言わずとも、いい気分にはさせない。だからこそ、連邦女性兵士にも、ああ言った。

 先ほどの戦闘、

 

「敵を探し出せ、ファンネル!」

 

 浜子に命じられたファンネルはすぐに、1機の《ジム》を発見。これを上空の《ガザD》編隊、先頭を飛ぶ馬場も知ることとなった。

 極小のファンネルは、正対する敵には探知されにくい。一方で、後方からはファンネル尾部のスラスター噴射の発光を容易に追跡できる。ファンネルはいわば、攻撃目標指示のマーカーを担っていた。

 目標察知した《ガザD》は、上空擦過しつつ装備するビーム/メガ砲合計5門の火力をぶつける。《ガザD》はMA形態において、前面に対し火力集中するよう設計されている。

 難点もある。いわゆる『弾倉』とも言えるエネルギーCAPに《ガザD》は対応していない。5門すべてが内臓ジェネレーターからの供給システムのため、同時発射すると、コンデンサー容量はゼロになり、瞬間的だが機動に支障をきたす恐れがある。また、再砲撃のチャージにも時間が必要だ。

 そのため、『営業の嵐』隊はジェット・ストリーム・アタックのようなトレイル隊形を取っていた。後続パイロットが未熟な腕であったとしても、比較的容易に同一地点に攻撃でき、かつ一撃離脱戦法を行いやすい。酔っ払いの不忠社員に高度な戦闘機動や夜間索敵など求めるだけ無駄であり、それを分かった上での用兵だった。

 同じ戦術で《ガンダム》タイプ1機、《ジム》をもう1機撃破せしめた。

 浜子はミノフスキー計を確認し、小さく嘆息する。

 出陣の前、居酒屋はざまにて、

 

「これより宇宙世紀正史に対して、攻勢を開始する。アクシズの命運、オデッサの一戦にあり! 敵はマ・クベただ一人! 奴の首を上げたものにはボーナス給与半年分を約束しよう!」

 

 高々と宣言する。

 だが、このミノフスキー高濃度下では、そもそもマ・クベがいるオデッサ司令本部の所在もつかみにくい。

 

(不要な血は流したくはない。憎しみの遺伝を残す。ジオンの部隊と遭遇できればよいが。捕虜でも取れれば、場所を聞き出せるかもしれぬ)

 

 それにしても、アクシズの社員たちが……、

 

(もとい! このバカ社員どもが私の意図も目標も、まったく理解していなかった!)

 

 浜子は歯ぎしりする。

 

(確かに、思えば作戦も何もなかった)

 

 大戦時のミノフスキー濃度も考慮せず、全員が酩酊していることも無視し、そしてMSの性能を過信した。アクシズのMSなら(今回はエゥーゴも混じっているが)、この時代の兵器に負けるはずがない、と。浜子と《キュベレイ》なら誰にも負けない、と。

 

(む……、シャアは、……まぁ、よい)

 

 屈辱的な敗北を味わった先月のことは考えないことにした。

 社員たちと浜子の間にきちんと意志疎通ができていれば、状況はマシだったろう。しかし、浜子の演説の途中、

 

「麻里ちゃぉぁぁん、寝ちゃダメですよ~♪ おしおきですからね~♪」

 

 まるで幼児に『おばけだぞー』と脅すような動作で両腕を広げ、両の指をイソギンチャクよろしく、ゆらゆらとさせながら来栖 麻里(マリーダ・クルス)に手を出そうとした暮己が、すべてを台無しにした。

 性的倒錯に及ぼうとした暮己(グレミー)とスプリングセールさせようとした(プル)に、浜子は大激怒。飛び交う罵声、怒号、そしてお銚子。

 気づけば、店を追い出されたらしい浜子も宇宙世紀に来ていた、というわけである。

 

(おそらく、夜明けがタイムリミット、か……)

 

 まだ脳裏には、時空を隔てる扉が動くような感覚はない。が、予感はあった。

 

『ザッ・・・・・・社長! 日安が撃沈しました。救助に向か・・・・・・―――プッ』

「任せる。持ち場を守ればよい」

 

 上空《ガザD》からの無線に応答する。内容は不明瞭だが、大体分かった。

 

(日安、やられたか。しかし、今は構っているわけにはいかぬ)

 

 浜子は『嵐』隊を残し、東に進路を取り別の川岸に出た。

 

「また連邦軍か! 数もそろっているな!」

 

 そこは9機の《ジム》と歩兵2個小隊が待ち伏せしていた。

 またも激しい消耗戦、潰し合いを演じることとなった。

 

「これではマ・クベを喜ばすだけではないか!」

 

 手近の《ジム》をファンネルで牽制しつつ、《キュベレイ》は超低空飛行で急接近。二刀のビームサーベルで十字に斬り捨てる。

 僚機がマシンガンで応射するが、地面に歩兵用の塹壕を作るのみ。《キュベレイ》は減速せず旋回し、一旦植林地帯へ後退する。

 

(現在地も分からずでは・・・・・・)

 

 浜子はオデッサ司令本部から遠ざかるように、《キュベレイ》を進ませてしまっていた。

 戦場を覆う殺意や怒り、憎悪の気配。彼女のNT能力は、濃厚な雰囲気に包まれたオデッサを見つけられずにいた。

 

 

 




(次回予告)
(※BGM「アニ×じゃな~い?」、ナレーション:明日 修道(あした・しゅどう)

♪デ、デ、デ、デ~ン♪

「例の栗毛っ娘が見つからないから、木矢良さんは独り言が多くなったり、暴れたりで、ヒステリー気味だ。
 どっこい! とうとう見つけちゃった!!
 真島さん、早くしないと妹がホントに首ちょんぱされちゃうぜ。
 次回、アクシズZZ『さよならマリーダ』・・・・・・じゃなくて『オデッサ(6)』
 可哀相な麻里ちゃん、やっぱ()られちゃうの?」



(あとがき)
 バブルねたや死語を散りばめましたが、さてどれだけ気づいていただけたでしょうか(汗。



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