企業戦士アクシズZZ   作:放置アフロ

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(前回のあらすじ)
(※ナレーション:明日 修道(あした・しゅどう)

「ついにオデッサ作戦が始まった。正面で激突する連邦軍とジオンの主力。後方かく乱にレビル将軍はモビルスーツ(M S)を投入したけど、なんだかうまくいかなかった。
 さらに、混ぜっ返そうとする酔っ払い軍団までやってくる。戦況はどうなっちゃうの?」 




20 オデッサ(3)

 UC.0079年11月。旧ウクライナ、オデッサ東方、クリミア半島の付け根にて。

 

 《ジム》が手にする100ミリ・マシンガンが火を吹く。闇を照らすマズルフラッシュと曳光弾の火線をかわし、《ドム》が肉迫する。

 《ジム》のパイロットは右側を高速擦過する敵機を追尾しようと、機体を回頭。直後、一列縦隊で突撃してきた後続の《ドム》に襲われる。

 2機目が振るうヒートサーベルが首をはね、3機目がサーベルをコクピットに突き立てる。

 

「これで3機撃破だ。連邦のMSなんて恐れるほどじゃないな。なぁ、マッシュ、オルテガ」

 

 先頭の《ドム》を駆るガイアは、共同とは言え5機撃墜(エーススコア)も狙えそうだ、と嗤う。

 

 その時、夜空を閃光が切り裂いた。爆発ともサーチライトとも異なる、直線状の輝き。

 

「この辺りにマ・クベのメガ砲なんてあったか!?」

 

 近距離レーザー通信を僚機に送ると、マッシュ、オルテガが乗る《ドム》からは何も反応がない。彼らも戸惑っているらしい。

 穀倉地帯で周囲の見通しは悪くないが、このミノフスキー濃度では敵味方識別装置(I F F)は返ってこない。

 

「目視で確認する。ついて来い」

 

 ガイアの通信に、2機の《ドム》はモノアイを点滅させて『了解』を返す。すぐにマッシュ、オルテガは斜め後方につき、楔隊形をとる。

 

(なんだありゃあ・・・・・・煙突か?)

 

 浅い林、広い樹間の中で膝をつく人型、―おそらくモビルスーツ―のシルエットを目にし、ガイアは真っ先にそう思う。バックパックから伸びる巨大な二つの円筒形が、大容量のプロペラント(推 進 剤)タンクだとは想像もつかない。

 三連星は距離を取って旋回しつつ、映像をコンピュータが解析。データベースと機体照合させると、

 

(高機動型《ザク》、だと? なんでこんなとこに)

 

 ただし、機体の照合数値は低く、コンピュータは『似ている』としか判断できない。

 すると、その『高機動型不明機』が手にする、マゼラトップ砲ほども長い獲物が再度光軸を放つ。

 

(携行ビーム兵器、だと!)

 

 パイロットは何を考えているのか、その一撃も夜空を貫き、辺りを昼間のように照らした後、メガ粒子が拡散して消えた。

 

(連邦は鹵獲した《ザク》にビーム兵器を持たしているのか!?)

 

 ジオンのMS携行型ビームライフルは先月ようやく実用化したばかりで量産体制には入っていない。ビームライフルを装備した《ザク》などジオンには存在しない。

 

 

 

 

「ぐはぁ、酔っ払ったお」

 

 《ザクⅢ改》のコクピット内で真島(マシュマー)の呂律は怪しい。

 カラオケ喫茶オデッサから居酒屋はざまへハシゴしたアクシズ軍団。真島ははざまで最後に飲んだメロンクリームサワーが効いた。バニラアイスとメロンソーダと焼酎という謎の組み合わせ。注文した覚えはなかったが、例によって、「プ(ry」と奇声を上げる店員が持ってきたのである。

 ふと、全天周モニターの右側を見ると、

 

「なんだか長い鉄砲持ってるな。今日はシューティングゲームなんか?」

 

 ビームライフルを『鉄砲』と表現する辺り、いかにも西暦の真島らしい。だが、それはハマーン時代のアクシズ工廠が開発した最後期の長射程・高出力のビーム射撃兵器であった。

 先ほど、真島は不用意に二度、トリガーを引いていた。

 唐突にやかましい警告音がコクピットに響く。

 《ザクⅢ改》を立たせようとしていた真島は、思わずフットペダルを踏み違える。機体はつんのめるように地に倒れた。

 その頭上をジャイアントバズの砲弾が飛翔する。2発は彼方へ外れていったが、1発は近くの木に当たりメキメキと音を立て幹が折れた。

 

「うわっ! なんだお、弾避(たまよ)けゲーかおっ」

 

 

 

 

「避けた、だと! 俺の狙いを」

 

 絶好のタイミングで放ったガイアたちの射撃を、敵機は伏せるようにしてやり過ごした。ホバーで旋回しつつ、敵の潜んでいる林を包み込むように砲撃を続ける。

 が、《ザク》似のMSは即座に飛び起きると、中国武術・酔拳使いのようにフラフラとかわしていく。

 

「ただモンじゃないぞ! オルテガ、マッシュ、あの《ザク》にジェット・・・・・・」

 

 三連星の《ドム》は増速直進して戦線離脱する、と見せかけ、大きな旋回半径で再度アプローチをかけた。

 

 

 

 

「なめるなっ! 俺は地元でただ一人のゼビウス1000万点プレイヤーだお!」

 

 真島は目前の成形炸薬弾で焼け焦げた木をへし折り、《ザクⅢ改》は林から抜け出る。

 収穫された小麦畑に囲まれた一本道。そこを逃げたと思われた1()()の《ドム》が真っ直ぐに向かってきた。ナイトビジョン・モードのモニター正面に、豆粒ほどの小さい姿を認める。

 

「お前らのやろうとしていることは、すべてお見通しだ!」

 

 しかし、()()()()真島の目には2()()にも3()()にも映っていた。酔っ払って、焦点が合っていないだけだが。

 照準のレティクルも複数現れ、それぞれの《ドム》に収束していく。断続的な電子音が長く尾を引く連続的なものに変わり、ロックオンが完了したことを知らせる。

 

「喰らえェェェェェ――――――!!!」カチカチカチ!!

 

 雄叫びとともに、真島の指が秒間14連射でトリガーを叩く。某名人に匹敵する連打だが、実際には最初の一打で勝負は決していた。

 ビームは一瞬にして5キロの距離を飛び、《ドム》コクピット前面装甲を融解、ガイアの肉体を消滅させた。そのまま直後を疾駆していたマッシュ、オルテガの《ドム》を貫通する。三連星はあわれ、光の串に刺さった『黒い団子三兄弟』と化す。3機はほぼ同時に爆発、四散した。

 派手な散華をモニターに見た真島は、しかし、釈然としない様子だった。ややあって納得する。

 

「そうか、分かったお! この鉄砲、グラディウスのレーザーか。だから、連打じゃなくて、ボタン押しっぱの方がいいんだ!」

 

 メロンクリームサワーの悪酔いはいまだ醒めない。

 その《ザクⅢ改》の頭上を爆音が低空で通過していった。

 

「ぬおっ! 今度は戦闘機かっ!?」

 

 真島はビームライフルの砲口を空へ向けるが、同時に

 

『その声、真島か?』

 

 スピーカーから雑音混じりの声が発せられる。無線のスイッチを入れっぱなしにしてしまっていたらしい。

 

「って、そっちは馬場かお」

 

 『営業の嵐』の一人、馬場 利太(ばんば・とした)であった。

 

『おう! 日安(ひあん)和井武(わいたけ)も一緒だ』

 

 飛行する機体はタガメやゲンゴロウなどの水生昆虫に似たシルエットをしていた。それが可変MSのMA形態で《ガザD》という名を、真島も馬場たちも覚えていない。MSの操縦はなぜか体が記憶していた。

 3機の《ガザD》は急降下し地上すれすれで逆噴射をかけ、下肢部を地に着けた。

 

「なぁ、毎度だけど、ここはどうなってんだお?」

『こっちが聞きてーよ。真島、お前は何度もこんな怪現象に遭ってるんか?』

「最近、しょっちゅうだお。他の連中はどうしたんだ?」

『少し先の牧場に集まってる。行こう』

 

 和井武の言葉に同調し、《ガザD》が離陸する。真島が操る《ザクⅢ改》も流水枯葉のようにふらついたホバー走行で、後を追った。

 

 

 

 

 時空は少しさかのぼる。西暦、居酒屋はざまにて。

 

「ハッ! ここはどこ? 私は、・・・・・・トゥエルブだっけ、麻里(マリーダ)だっけ?」

 

 カウンターに突っ伏していた少女は目覚める。

 

「気が付いたか?」

 

 周りを見渡せば、隣の浜子(ハマーン)ほか、アクシズの面々がぐだぐだと飲み続けているようだった。麻里は『コ』の字型のカウンターの片隅にいるが、反対の端には、真島(マシュマー)木矢良(キャラ)の姿が見える。

 

「雰囲気に酔ったのだろう。もうすぐ店を出るから、夜風に当たれば少しは気分も晴れよう。すまなかった」

「い、いえ・・・・・・」

 

 浜子は素直に詫びを入れ、席を立った。

 

「麻里、大丈夫?」

「うん、もう平気。すこし気分悪いけど」

 

 ねじり鉢巻をした店員は心配顔の姉、(プル)だ。気遣いの言葉と共に、白茶色のグラスを持ってきた。

 

「これ、冷たくて甘いから気持ちも落ち着くよ」

「あ、ありがと」

 

 麻里は両手で受け取ったままの姿勢で、考える。

 

「・・・・・・お酒じゃないよね?」

「もっちろん!」

 

 恐る恐る、口をつけると、

 

「な、なんだホントにコーヒー牛乳か! 姉さんのことだからちょっと身構えちゃった。コクコク。うん、おいしい♪」

 

 妹が無防備にのどを鳴らす様子を見て、厨房に戻る姉の顔は邪悪な笑みに染まる。その懐にコーヒー・リキュールの小ビンが忍ばせてあったことは誰も知らない。

 ふわっ、とした感覚に麻里は天井を見上げ、

 

(あれ? なに・・・・・・、回ってる?)

 

 と思ったが最後、再び轟沈した。

 遠くから真島と風の声が聞こえる。

 

「・・・・・・まずいだろ。・・・・・・仮にもこいつの姉・・・・・・」

「・・・・・・るさいなぁ。いいのっ、・・・・・・♪さぁさぁ、お兄さんたち・・・・・・」

「・・・・・・先輩が辞退するなら」

 

 その声を聞いて、懐かしい匂いがした。

 

(もしかして、……マスタ?)

 

 思い出す。真島ではない、彼女を最初に目覚めさせた優しい青年士官のことを。

 

(生きてたんだ、マスタ……。起き、なきゃ……)

 

 自分を現実に引きとめようと麻里は思いを強くするが、それに反して混濁した意識に取り込まれてゆく。

 また姉の声がする。

 

「ロープやガムテープにろうそく・・・・・・おもちゃもあるよ♪

 かわいい栗毛少女をヤ・・・・・・放題で3万! いや、特売2万! ・・・・・・二階でお召し上がりでもお持ち帰りでも・・・・・・」

るう(ルー)さん、すまない・・・・・・この胸の高鳴りと下半身から湧き上がる衝動は止められ・・・・・・麻里……おしおきですからね~♪」

「恥を知れ、俗・・・・・・いや、変態!! ・・・・・・大事な・・・・・・ずけずけと・・・・・・子供がっ! 浴槽に沈めてくれる!」

「ひ、ひゃっ! お、怒るの嫌―・・・・・・」

 

 誰かの怒号や悲鳴が入り混じり、麻里の意識は完全に途切れた。

 

 

 

 

 UC.0079年11月。クリミア半島上空。

 

「ハッ! えっ、なに、・・・・・・落ちてる!?」

 

 栗毛が乱れながら舞っている。コクピットの麻里は訳も分からず、時空を跳躍したことに焦る。

 突如、空に現れた量産型《キュベレイ》はすぐに地球の重力につかまった。

 

(早く減速しないと!)

 

 モニターの表示を読み取ろうとするが、焦点が合わない。フットペダルに足を伸ばそうにも、田んぼに突っ込んだような感触で、どこがなんなのかさっぱり把握できない。

 

(ええぇ~!? なにこれ、どうなってるの!)

 

 目が回る。本来、高機動空間戦闘に遺伝子設計されたプルシリーズは、加減速Gや回転に対して、非常に高い抵抗力を持っているはずなのに。

 それが酒に酔っ払っている状態だとは分からない。高機動泥酔戦闘に慣れた浜子、真島ならいざしらず、未成年の麻里だから当然である。

 高度表示が読めないが、数字がどんどんと減っていることは明らかだ。

 

(このままじゃ・・・・・・)

 

 その時、一条のビームが《キュベレイ》のバインダー・バーニアを焦がしていった。地上からの攻撃だ。小破だが機内の振動は増した。

 

(地面に激突するか、撃ち落される!)

 

 自由落下のままでは、次射で撃墜される。

 

(間に合って!)

 

 麻里はリニアシートの下に手を伸ばし、赤色のレバーを引く。分離ボルトが点火し、《キュベレイ》の上・下半身が分かれる。

 直後、再びきらめいた光軸が上半身を貫いた。脱出ポッドと化したコクピットも巻き込まれる。爆発音に麻里は自分の悲鳴も聞こえなかった。

 だが、わずかなタイミングのずれで助かった。ポッドは吹き飛ばされたが、開いたパラシュートには大きな損傷もない。夜風も手伝って真島たちからはかなり流されてしまった。

 

「う、ぅ~ん。気持ち悪いよ~」

 

 幸運に恵まれた麻里は、着陸したポッドから這い出る。しばらく草原に寝転がっていると、気分も落ち着いてくる。波の音が規則正しく聞こえてきた。黒海北岸のどこかに降りたらしい。

 

「あぁ、でも戦争やっているんだ。早くお兄ちゃんたちのところへ・・・・・・」

 

 ガサガサッ!

 立ち上がった麻里の周囲で激しく草原が鳴った。そして、

 

「動くなッ! 武器を捨てて腹ばいになれッ!」

 

 茂みに潜んでいたのだろう。機関銃などで完全武装した兵士に包囲された。

 プルトゥエルブの時と同様、彼女の運はもう少しのところで足りない。再び男たちの虜にされてしまった。

 

 




(次回予告)
(※BGM「アニ×じゃな~い?」、ナレーション:明日 修道(あした・しゅどう)

♪デ、デ、デ、デ~ン♪

「突然、空からばらまかれちゃったせいで、フェンリル隊の狂犬に出くわしちゃった連邦の皆さん。ご愁傷様。
 でも、レンチェフさんもとんでもない人と遭遇しちゃった。
 『体が魂っ! 宇宙は私っ!』だって? ちょっと何言ってるか分からないよ!
 次回、アクシズZZ『オデッサ(4)』
 ( ゚∀゚)o彡゚ おっぱ○! おっ○い!」



【麻里に『グフフ♪』フラグが立ちました】



(登場人物紹介)

パンパ・リダ → 馬場 利太(ばんば・とした)

ビアン → 日安(ひあん)

ワイム → 和井武(わいたけ)



(あとがき)
 大問題だよ、(プル)! お前・・・・・・二万は安すぎでしょ。俺だって買・・・・・・。

「社会の倫理というものを理解できない一物は排除、すなわち切り落とすべきだ!」

 子供の春は買うのも売るのもダメ、絶対。浜子さんとの約束だ。




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