ルドガーinD×D (改)   作:トマトルテ

14 / 66
何か、テンションが変な方向に行って書いた話ですこれは。
それでは本文どうぞ。




十四話:ちょろ甘だな

 

 

――赤い――

 

 

 

今、僕達の目の前に広がって行っている光景を一言で言い表せばそうとしか言えない。

まるで、燃えたぎる炎のように――流れる血のように――それは赤い。

何度、目をこすってそれは嘘だと否定しようとしても僕の目から赤色が消えることない。

 

他のみんなもそんな光景に辛そうな表情を浮かべている。

いや、ただ一人、小猫ちゃんだけはそんな光景を前にしてもいつも通りの行動を

しているだけだった。その行動は―――

 

 

「……ルドガー先輩、おかわりお願いします」

 

 

「分かった。トマトをふんだんに使ったミネストローネのおかわりだな」

 

 

目の前に広がる、赤の魔境―――トマト料理の数々を食していくだけだ。

山籠もりに来て、今日でちょうど5日目、トマト料理が食卓に上がらなかった日はない。

いや、どちらかと言うとトマト料理以外が食卓に上がらなかった。

 

……簡単に言うと、今、僕達はトマト料理が余りに続き過ぎるこの現状に飽きている

ううん……もはや拒絶反応を起こしかけていると言った方が正しいかもしれない。

 

「あはは…トマト、トマトが一杯です。ほら、あんな所にも浮いていますよ? イッセーさん」

「アーシア、目を覚ませ! それはきっと幻覚だ!!」

 

若干壊れ気味に笑いながら何もない空間を指さしてトマトがあると言うアーシアさんを

イッセー君が慌てて揺すって正気に戻そうとする。

食事は体作りの基本だけどまさか精神にまでここまでの

影響を及ぼすとは思ってなかったよ……ルドガー君、君はなんて恐ろしい人間なんだ…!

 

鼻歌を歌いながらお皿におかわりをよそっていくルドガー君を見て、

思わず畏怖の念を覚えてしまう。どうすればあそこまでトマトを愛せるのだろうか?

それとも彼の体はトマトで出来ているとでもいうのだろうか?

 

ああ、そう言えばさっきから僕の思考も殆どトマト、トマト、トマト…

と言い続けているような……ダメだ。こんなところで心が挫けるようじゃ何も出来ない。

これはきっと彼からの試練なんだ、この程度のことも耐えられない様じゃ今度の

『レーティングゲーム』には勝てないと彼は言っているんだ、きっと。

 

「ふふふふふ……紅髪の滅殺姫(べにがみのルイン・プリンセス)と呼ばれる私がトマト如きの赤色でまいったなんて……冗談じゃないわ。食べるわ、どんなことがあっても私は逃げ出さない!」

 

こちらも若干壊れ気味に笑ってはいるが料理を食べれているのは

流石は僕達の部長と言ったところだろう。素直に尊敬します、部長。

 

「美味しい…本当に美味しいわ……だからよ…だからこそ余計に苦しくなるのよ!」

 

ただし、その目から涙が零れ落ちているのは見ないふりをしないといけないね。

朱乃さんも部長の手前、食べないと言うわけにはいかなくなりいつもの微笑みを捨てて

まるで、親の仇を見るかのような目をして目の前のトマト料理と格闘している。

 

「ふふふふふ……ふふふふふふ!」

 

正し、朱乃さんが正気を保てているかどうかは僕には分からない。

 

「お、俺だって赤龍帝なんだ…! トマト位で…挫けてたまるかよ!!」

「イッセーさん、ダメです! それ以上はイッセーさんが!!」

「大丈夫だ、アーシア……ただのトマトなんだぜ? そんな物に負けるかよ!」

「イッセーさん!!!」

「う…美味い……だから余計に辛い!!」

 

そして、こちらもまるで今から死地に向かおうかとしているのかと疑いたくなる程

真剣な表情で料理を口に運び続けるイッセー君。

そしてその様子を悲痛の面持ちで見つめるアーシアさん。

もう、僕には何が起きているのかなんて分からない。

 

「どうした、祐斗? 食欲がないのか?」

 

まるで、ただ一人食べていない僕を責めるかのようにそう尋ねてくるルドガー君……

どうしてだろうか? 彼はいつもの様に笑顔を浮かべているだけなのにその後ろに

眼鏡をかけた鬼がいるような気がする……きっと、見間違いだね、うん。

 

「大丈夫、今から食べるよ……食べるよ」

 

僕は彼にそう返して目の前の料理を口に運ぶのだった。

 

 

 

 

 

「みんな、今回集まってもらった理由は他でもない

 ルドガーの『トマト料理地獄』を止めるためよ!」

 

草木も眠る深夜、ろうそくの明かりを囲んで僕達は作戦会議を行っていた。

勿論、議題は先ほど部長がいったようにルドガー君の『トマト料理地獄』をいかにして

止めるかだ。ふざけた議題に聞こえるかもしれないが僕達は大真面目だ。

 

「あれ? そう言えば小猫ちゃんがいない」

 

キョロキョロとあたりを見まわして小猫ちゃんを探すイッセー君の言う通りに

この場には小猫ちゃんはいない。

まさかとは思っていたけど小猫ちゃんはやっぱり―――

 

「イッセー……小猫はあちら側に落ちたのよ」

「そんな!? ど、どうしてすか、部長!?」

「イッセー、静かにしなさい。敵に気づかれるわ」

 

部長が口に指をあて静かにするように促すと、イッセー君はハッとしたように

すぐに口を閉じて扉の方を見つめる。

同じ家にいる以上は大きな声を出したら気づかれる可能性があるからね。

 

「落ち着いて聞いて頂戴……今回、小猫は間違いなくルドガー側につくと思って呼ばなかったの」

「どうして、そう思ったんですか?」

「あなた、小猫が食事中に辛そうにしているのを見たことがある?」

「そ、そう言えば、あのトマト地獄でもいつも通り食べてたような……」

 

そう、イッセー君の言う通り小猫ちゃんはあのトマト地獄を全く気にしている素振りなど

見せていなかった。むしろ、美味しい料理を食べられることに喜んでいるような

印象を受けた……。

 

「小猫は好き嫌いが無い子だから、何でもよく食べるわ」

「で、でも、流石に毎日毎食トマトだと飽きるんじゃないんすか?」

「普通はね……でも、小猫はその域を超えてしまったのよ。美味しければそれでいい、それもお腹いっぱい食べれればもっといい……きっとそう思ってしまったのよ」

「そ、そんな……」

 

悲しそうに顔を俯けるイッセー君、そしてそれに比例するように部屋の空気が重くなる。

確かに、小猫ちゃんの考えも分からないことじゃない。

僕達が毎日食べて飽きてしまったのは味の方じゃない、あの赤色だ。

 

ルドガー君の料理ははっきり言って絶品だ。プロと言っても通用するだろう。

さらには同じ料理でも飽きが来ないようにアレンジを加えたりしているので

あの忌々しい赤色さえ何とかなれば毎日でも食べていけるだろう……

あの赤色を克服できればだけどね。

 

その点では小猫ちゃんはそれを克服した身なのだろう。

僕達と違い以前から度々ルドガー君に料理を作ってもらっていた小猫ちゃんは

恐らくは知らず知らずの内に耐性が出来上がっていたのだろう。

そして、彼女は―――

 

 

「はっきり言うわ……小猫は―――胃袋を掴まれたのよ」

 

 

「そんな!」

 

 

アーシアさんの悲しげな悲鳴が静まり返った室内に静かに響いて空しく消えていく……

みんな、顔を上げることが出来ずにただ辛そうに何もない空間を睨みつけるだけだった。

 

「………望めばいつでも美味しい料理が食べられて、おやつやデザートもあっという間に作ってくれる。おまけにルドガーは文句を言いながらでも好きなだけ食べさせてくれる。……傍から見ればルドガーがパシリに見えるかもしれないけど、

実際は違うわ………餌付けされたのは小猫の方よ」

 

だからこそ、小猫ちゃんはこちらにつかない。

それどころか僕達の敵となって立ちはだかるかもしれない。

まったく……あの小猫ちゃんを餌付けするなんて恐ろしいよ、ルドガー君。

 

「だからと言って、諦めるわけにはいかないですよ……例え、小猫ちゃんが俺達の前に立ちはだかるとして俺達は献立を変えないといけない。……そうですよね、部長?」

「そうね……イッセーの言う通りだわ。私達は何としてでもルドガーから台所を取り返して献立を変えないといけない。それが私達の未来を守る唯一の方法だもの」

 

そう言って、部長がスッと立ち上がり僕達を順番に見下ろしていく。

そして大きく息を吸い込み口を開いた。

 

「みんな……『台所奪還作戦』を明日から実行するわよ!」

 

「「「「はい!」」」」

 

僕達の心は一つになり、絶対にこの作戦は成功すると思わせた。

でも……その時、僕達はまだ、敵の本当の恐ろしさを少しも理解していなかった。

 

 

 

 

 

【作戦その一:他の仕事を頼んでその隙に料理を作ろう作戦】

 

 

この作戦はその名の通りにルドガー君に他の仕事をしていてもらっている間に

台所を占拠して料理を作られる前に作ってしまおうと言う作戦だ。

方法は至ってシンプルだ。部長が彼に他の仕事を頼み、その間に僕達が占拠する

それだけの事だ。必ず成功する……そう思っていた時期が僕にもあったんだ。

 

「ルドガー、あなたに頼みたいことがあるんだけど」

「なんですか? 部長」

 

部長がルドガー君に近づき、作戦通りに仕事を言い渡す。

 

「あなたにはこの別荘の掃除をして欲しいんだけど」

「終わりましたよ?」

「広くて大変だと思うけど頑張って―――え?」

 

予想外過ぎる返事に目を丸くして固まる部長。

因みに影から見守っている僕達も予想外の出来事に固まっている。

そしてよくよく見てみるとルドガー君の頭には三角巾が着けてあった

ま、まさか彼はいつもあれを着けて掃除をしているというのかい!?

 

「早く起きて時間があったので掃除はその時に終わらせました。確かに広かったですけどやりがいがあって楽しかったですよ」

 

一切の疲れも感じさせない笑顔でそう言い放つルドガー君にその場にいる全員が戦慄する

この広い別荘を短時間で全て掃除して疲れを見せないなんて

彼は一体どれだけの掃除スキルを持っていると言うんだい!?

 

「じゃ、じゃあ、お風呂をお願い――「それも終わりました」――そ、そんな……」

 

間髪も入れず返される無慈悲な言葉に部長が崩れ落ちる。

まさか、部長がやられるなんて……ここは戦略的撤退をするべきかな?

そんなことを考えていた時だった―――

 

「きゃっ!?」

「アーシア!?」

 

突如、アーシアさんが何もない所で転んで敵にその姿を晒してしまったのだ。

早くなんとかしないと…っ!

 

「大丈夫か? アーシア」

「あうう……ルドガーさん、ありがとうございます」

 

遅かった。既にアーシアさんはルドガー君の手において助け起こされていた。

これじゃあ、撤退が出来ない……どうしようか。

 

「あ! ……はうう、どうしましょう。服が破れてしまいました」

「ホントだな。こけた時にどこかに引っかけたのかもな」

 

少し、涙目になり悲しそうに少し破れた服を見つめるアーシアさん。

その姿に動揺して少しあたりを見まわすルドガー君。

ひょっとすると、これはチャンスかもしれないね。

もしかしたら、悲しんでいるアーシアさんを元気づけるために何かするために

あの場から離れてくれるかもしれない。その隙に台所を占領すれば―――

 

「ああ、あった、あった。アーシア、ちょっとじっとしててくれ」

「え? は、はい」

「よし、それじゃあ、今から破けた所を縫うからな」

 

…………何だって?

今、彼はなんて言ったんだい……?

恐る恐る見てみると彼の手には針と糸が握られていた……間違いない彼は―――

 

「ほら、直ったぞ」

「わあ、凄いです! あっという間に元通りです!」

 

裁縫スキルも持ち合わしている!!

僕達の認識が甘かった……料理、掃除とくれば裁縫が得意でも何も可笑しくない……。

ルドガー君……君はお母さんか何かかい?

 

「ルドガーさんは裁縫も得意なんですか?」

「ああ、手編みのマフラーとか手袋も作れるぞ」

 

「ま、負けました……」

 

その言葉を聞くと同時に何故か朱乃さんが崩れ落ちた。

多分、女性として男性に家庭的な所で負けたのが堪えたんだと思う。

ただ、ルドガー君が異常なほどの女子力を発揮しているだけで気にすることはないと

思うのは僕だけだろうか?

 

とにかく、一先ず、撤退して作戦を練り直さないといけないだろうね……。

 

 

 

 

 

【作戦その二:もう、素直に頼もうぜ? 作戦】

 

これはイッセー君発案の作戦で、その名の通りに諦めて素直にトマトを使わないように

頼むと言う作戦とは言えないような作戦だ。

だが、残された時間が少ない以上はこれしかない。

 

「ルドガー君、実はお願いがあるんだけど」

「祐斗か、どうしたんだ?」

「単刀直入に言うよ、トマトを使った料理以外を食べたい」

 

次の瞬間、僕はルドガー君の鋭い剣が襲い掛かってくるのではないかと

身構えていたがルドガー君はただ、何かを考える様に下を向くだけだった。

 

「難しいのは百も承知だよ、でも――「いや、別にいいぞ?」――そうかい、やっぱり無理だよね……へ?」

「だから、いいって。確かに最近は使い過ぎだったしな。飽きたんだろ?」

「そ、そうだね」

「それじゃあ、飽きないようにするから今日は楽しみにしておいてくれよな」

 

そう言って台所に消えていくルドガー君を茫然と見送る。

これで……本当に終わりなのかな?

 

 

 

 

「ああ……赤くない……本当に赤くないわ」

 

食卓が赤く染まっていないことに涙を流しながら食事を食べる部長。

他のみんなも同じような感じだ。かくいう僕も涙が止まらない。

ああ……やったんだ。僕達はやり遂げたんだね…っ!

 

そうして感動していたためだろうか、食卓からルドガー君と小猫ちゃんが

揃って離れていったのにも気づかなかったのは………

 

 

 

「……上手く行きましたね」

 

「ああ、トマトが入っていると気づかせずに食べさせる料理は昔から研究してたからな」

 

「……さすがです、ルドガー先輩」

 

「ありがとうな。それにしても……ちょろいな」

 

「……甘いですね」

 

「「ちょろ甘だな(ですね)」」

 

 




料理、掃除、裁縫が得意で三角巾を着けて掃除をするその姿は正しくお母さん。
そして、手作りマフラーをジュードと交換し合ったりする女子顔負けの行動を取る人。
それがルドガー・ウィル・クルスニクだ!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。