真剣で川神弟に恋しなさい!   作:ナマクラ

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第四話 「前みたいにアタシといっしょじゃダメなの?」

 クリスとまゆっちが風間ファミリーに入ってから数日。

 徐々にではあるが、二人とも既に風間ファミリーという集団に馴染み始めていた。

 そして俺も徐々にではあるが、クリスとまゆっちの二人との距離が縮まってきている、と思う。

 例えばまゆっちの場合、こんな事があった。

 

 あれはまゆっちが風間ファミリー入りした後の昼休み、俺が一人寂しく昼を食べようと鞄から弁当を取り出そうとしていた時だった。

 

「あ、あの!」

「うぉお!?」

 

 いきなり背後から大声で呼び掛けられてビビった俺が落ち着く間もなく、まゆっちはテンパリながら怒涛の口撃を仕掛けてくる。

 

「あのあの、もしよろしければその、お昼を一緒に食べませんか!? いえ、迷惑でしたら別に構わないのですが、その、わ、私達は、と、ととと友達同士ですし、お昼に一緒に食べるというのは極普通の行為だと思うのですが、どうでしょう!? はっ!? そういえば十夜さんはお弁当って持ってきてるのでしょうか!? もし持ってきてないなら、えーっと、えと、その?どどどどうしましょう松風! 私十夜さんがお弁当を持ってきてない時の事を考えてませんでした!」

「べ――」

「大丈夫だまゆっち! そんな時のために食堂があるんだ!」

「そ、そうですね! さすが松風です! で、では十夜さんがお弁当を持っていないなら食堂に……って、食堂でお弁当を食べてもいいのでしょうか!? もし駄目ならとしたら私は食堂で何か頼んで食べるべき!? いやしかしそれだと作ってきたお弁当が勿体ないですし……!」

「しょ――」

「とりあえず食堂へゴーしてみればいいんじゃね? そこで確かめてから決めようぜ!」

「そうですね! では早速食堂へ……って十夜さんの返事を聞いていませんでした! すいませんすいません! 十夜さんの話なのに私一人で勝手に話を進めてしまって! それでどうでしょう!? 私と食堂に……じゃなくてお昼を食べませんか!? あ、別に嫌なら断ってくださっても構いませんので! えと、その……!」

「い――」

「頑張れまゆっちー! もう一押しだ! いけるいける!」

 

「……いや、できれば一回押さずに引いて欲しいんだけど」

 

 一向に返事ができない。返事をする暇がない。自身と松風とのセリフを分ける事によってこちらの返答する間を封じるという高等テクによってここまで俺は一言しか喋れていなかったのだ。恐ろしい……。

 

「はぅあ!? ま、拙いですよ松風、これ引かれているのでは……」

 

 引いてはない。引いてはないが、むしろまゆっちに一度引いてほしい。そして一旦落ち着いて欲しい。返答が出来ない。

 

「大丈夫だまゆっち! オラ達のターンはまだ終わってねぇ!」

「いや終われよ! いい加減俺に返事させろよ!」

 

 思わず怒鳴ってしまった俺は悪くない、はずだ。

 

「す、すいません! 私なんかがお昼に誘うなんておこがましかったですね! すいません!出直し……」

「はぁ……じゃあまゆっち。どこで食べる?」

「……え?」

 

 なにやら予想外というような感じでまゆっちは呆けている。一体どうしてこんな表情をしているのやら。

 

「いや、今ので目立っちゃったし、こうも注目されると食べにくいから食堂か中庭か屋上か、まあどこかに移動しないか?」

「え? あの、いいんですか?一緒に食べても……?」

「当たり前じゃん。まあ友達だしさ」

「は、はい! で、ではその、屋上で!」

「わかった。じゃ、行こうか」

 

 と、まあこんな風にまゆっち相手にどもることなく会話が出来るようになった。まだ向こうは固い部分があるが、その内何とかなるだろ。

 

 ……余談ではあるが、これが俺にとって、久しぶりに学校で友達と食べた弁当になった。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 そしてまゆっちと仲良くなったことで予想外な事態が一つ起きた。

 

「……ねえ、川神君」

「へ? な、なに?」

 

 前の席の大和田さんが話しかけてきたのだ。普段は挨拶とかだけなのに。それだけでもありがたいのに。

 

「黛さんと仲いいみたいだけど、どういう関係?」

「ど、どういうって……?」

「もしかして、付き合ってたりするの?」

 

 付き合ってる? 俺とまゆっちが? まだ友達になってから一週間も経ってないのに?

 

「い、いや、そんな関係じゃなくて友達だけど……え? そう見えるの?」

「だって黛さんが誰かと話してる所ってあんまり見たことないしね」

 

 いやそれ友達いないだけです。

 

 でも俺とまゆっちが恋人に見えるのか?

 

 朝、いつも一緒に教室に入る。(朝は風間ファミリーの面子で登校し、一年組である俺とまゆっちは他のメンバーと別なので必然的に二人になる)

 昼、結構な頻度で一緒に弁当を食べる。(一緒にご飯食べるような友達がいないから。あと大和達のいる二年の教室まで行くのはちょっと勇気が足りない……)

 放課後、そこそこな頻度で一緒に帰る。(放課後一緒に帰る友達が以下略。校門辺りでファミリーの面子と合流することが多い)

 

 …………見えなくはない、な、うん。

 

「ねえ、黛さんとはどうやって仲良くなったの?」

 

 と、考えに没頭していると、大和田さんが興味津々といった感じでまゆっちとの話を訊いてきた。

 

「え、えっと……学園に一つ上の幼馴染がいるんだけど、その幼馴染がいる学生寮にまゆっち、あ、黛さんも住んでて、その関係で知り合いになったんだ。そこから……まあ、色々とあって、友達に、うん」

「へー、そうなんだ。で、黛さんってどんな子? やっぱり怖いの?」

「あ、いや、そんなに怖くないよ。まあ笑顔は怖いし松風と喋るし刀持ってるけど……」

「あ、やっぱりあれ本物なんだ。というか松風ってあのストラップの名前?」

「そうそう。最初の方は松風の茶々にどう反応すればいいかわからないけど、慣れると気にならなくなるよ」

「慣れたらって、ちょっと想像できないなぁ」

 

 

 それから少しの間、まゆっちの事で大和田さんと話が盛り上がった。

 

 ……大和田さんとの距離が縮まった気がする。まだ友達には遠い、かな?

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 ちなみにクリスともちゃんと話せるようになった。まだ少しビクビクしながらではあるけど。

 やはり一年上で中々接触する機会が少ないのがまゆっちとの違いだと思う。クリスの話してくる内容結構な頻度で大和に対する愚痴だけど。

 俺が「あれはある意味大和の持ち味なんだ」って言ったら猛反発されたけど。「他人を全否定したらダメだと思うぜ」って言ったら「これは否定ではなく、善悪の問題だ。十夜からも大和に言ってやれ」とか言われたけど。

 

 …………おかしい。クリスとの会話、全部大和に対する意見討論的なモノになってる。

 

 俺とクリスも相性はそこまでよくないのかもしれない。

 

 

 

 そんなこんなで一週間弱ほど過ぎた頃、新メンバー加入後から初めての金曜集会にて、真面目なクリスがこんな事を言った。

 

 

 

 

 

「こんな廃ビルなどさっさと取り潰すべきだ」

 

 

 

 

 

 さすがにその発言にはピキッ、と来たので文句を言おうとしたら、先に京とモロがブチギレして、俺が怒る暇がなかった。というか逆に冷静になった。自分が怒る前に他の誰かがそれ以上に怒ると逆に落ち着く事あるって聞いたことあったけど、本当にあるんだな……と実感してしまった。

 

 ということで、色々と真面目に考えてみた。

 

 この廃ビルの持ち主、確かガクトの福岡の方にいる親戚の人としては「取り壊しにも金がかかるから今のところは維持で」という意向らしい、というのを前に聞いた気がする。

 が、今はそういう大人の事情は置いても、客観的に見ればクリスの意見も最もだ。秘密基地に使わせてもらってるとはいえ、この廃ビルは特に社会的に役に立ってるわけでもないのだから取り壊すべきなんだろう。

 

 でもそれとこれとは話が別だ。

 

 必要不必要で全てを取捨選択してしまったら、人間の進歩というものはなかったんじゃないだろうか?娯楽があったからこそ人間の文明はここまで急激に発達できたのだから、クリスのように一方的に悪と決め付けるのは間違っていると思う。

 ……今日の人間学での『人の文明の進化について』のディスカッションの影響が思考に出てるなぁ……。あの先生の「この話題、昔は女にしたら結構知的に見えてそこそこ受けがよかったんだけど、小島先生には受けなかったんだよなぁ」という最後のぼやきで色々と台無しだったのが印象に残ってる。……そんな話でモテた時期とは一体いつ頃の話なのか、もの凄く疑問である。

 まあヒゲ先生の残念さはともかく、人にはそれぞれ大事なモノがあるんだからそれを否定されたら誰だって怒るよなぁという結論。

 さらにその結論をみて、俺のこの思考が一番無駄なんじゃね? というのが真の結論となった。

 

 そんなバカな事を考えてたら、もう解決ムードになっていて、クリスが頭を下げて謝ってて、まゆっちも何かを主張していた。……あれ? いつの間にまゆっちにまで飛び火してたんだ?

 と、思ったら今度はキャップが寿司持って入ってきて、良い意味で空気をぶち壊し、いつも通りの秘密基地へと戻っていった。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 キャップが貰ってきた寿司(ただしネタは玉子に限る)を机に広げているときに、キャップが思い出したように口を開いた。

 

「そういえば今度の連休で箱根旅行に行く事が決定したんだけど、行けねーヤツはいないよな?」

「ちょ!? いつの間に決定してたのさ!?」

「んな話俺様聞いてねーぞ!?」

 

 俺も初耳だった。

 

 事情を聞くと、どうやらキャップは先ほどバイトの帰りに商店街の福引でガラガラ回して見事、二等を箱根旅行団体様案内券を当てたらしい。ちなみに一等は例の如く市長の胸像である。

 

「てなわけで、風間ファミリーの親睦を深めるための二泊三日の箱根に泊りがけの旅行に行こうと思う。来れねーヤツはいるか?」

 

 まあ、そんなヤツはいないわけで、俺も含めて全員参加決定。

 

「んじゃ、明日はそれぞれ準備して、明後日出発だ」

「それじゃ、一旦旅行の話はとりあえず寿司食おうぜ」

「って言っても玉子ばっかりだけどね」

「しかもこの量絶対余るだろ……」

「ところがどっこい!」

「アタシ達が全部美味しくいただく予定よ!」

「とりあえずガリ全部よこせ」

「さすが川神一家。だが、十夜の発言は玉子関係ないよな?」

「それだけガリ食っててまだ食うのかよ」

 

 そんな感じで盛り上がりながらも、俺は今回のゴールデンウィークも楽しい連休になりそうだ、と思えた。

 

 

……とりあえず携帯ゲーム機と充電器は忘れないように準備しておこう。

 

 と、そんな事を考えていると、何か思い出したように大和が口を開いた。

 

「あ、そうだ十夜。お前金の件だけどバイト探しとかしてるのか?」

「……バイト?」

 ……そういえば探してないな。飲食店とか接客の仕事ばっかりだから進んでないんだった。

「その様子だと探してないみたいだな」

「多分、接客の仕事しか見当たらないとかそういう理由で進んでないのかと」

 

 見破られた!? ここまで的確に見抜いてくるとは、京、恐ろしい……!

 

「前みたいにアタシといっしょじゃダメなの?」

「確か十夜も新聞配達してたんだっけか?」

 

 ワン子の言う通り、俺も中学の頃は金策として仕方なく新聞配達をしてた。ワン子は今も続けてるけど俺は中学卒業の際にやめた。ワン子みたいに修行にもなるみたいな別の目的もあるのならまだしも俺にはないので続ける理由がなかった。新聞配達してたのも中学生で出来る仕事って新聞配達ぐらいだったからってだけだしなぁ。自給結構安かったし。

 

「新聞配達は朝早いしなぁ。寝起きか徹夜明けに走るのはキツイ」

「徹夜明けの可能性がある時点でおかしいだろ」

 

 ……正直、可能性としては徹夜明けの方が高いんだけどそれは言わないでおこう。

 

「なら私と一緒に働くか? 姉弟仲良く鳶服着るのもいいだろう」

「その言い方だと十夜まで姉さんみたいに借金するようになりそうで怖いんで却下で」

 

 姉貴のように顔が広くないので借金しようにも相手が限られてくるんだが……というか俺の返事を聞く前に大和に勝手に却下されたのは何故?

 

「というわけで勝手ながらバイト先を探しておいた。今度面接行って来い」

 

 …………え?

 

「ちょ!? いきなり何言ってんの大和!?」

「そろそろお前もバイトしないとヤバイだろ? 金とか金とか金とか」

「うっ……!」

 

 言われてみればその通りである。ゲームをやりくりすればまだ一ヶ月ぐらいは持つだろうけど、それ以降はどうやっても無理っぽい。

 

「……わかった。行くよ。わざわざサンキューな」

「いいって。向こうも技術なくても長く働ける人手を欲しがってたしな」

 

 

 ……ということで今度バイトの面接に行くことが決定したのだった。

 

 

「あ、面接明日な」

「いくら何でも急すぎね!?」

 


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