・【七浜ベイスターズ】の【ファン】になった
・【メガネ】を落とした。メガネ残数【1】
・【大和田伊予】と【連絡先】を交換した。すごく仲が深まった
⇒【大和田伊予】と【友達】になった ▽
・現在の友達数:1人 NEW!
+ 風間ファミリー(9人+1体)
今日一日を過ごして、ちょっと気になる事があった。
まゆっちの俺に対する態度が少々おかしいのだ。
その変化に気付いたのは朝の教室での事だった。
普段は別々に入る理由もないので一緒に教室に入るのだが、今日はまゆっちがお花を摘みにいったので、先に一人で教室に入った。
そこで、いつもの俺なら特に挨拶をすることもなく、話をする事もなく席に着くのだが、昨日までとは違う点が一つあった。それは……
「あ、川神君おはよ~」
「あ、おはよう大和田さん」
大和田さんと普通に挨拶をするようになっているという事である。
というのも、昨日の夜、引き篭もりであるにも拘らず野球を見に行った際に、偶然大和田さんと会って一緒に観戦・応援した結果、仲良くなって友達になったのだ。
大和田さんとしても友達に朝の挨拶をするのは当然だろうし、俺としても昨日の夜で結構大和田さんと接することになれたので結構自然体で話せるようになっていた。
まあそんなわけで挨拶からの流れで昨日の話とか、野球の話とか、ベイの話とか、まあ世間話を楽しくしていた時に、手洗いから戻ってきたまゆっちが教室に入ってきた。
しかしおかしなことにまゆっちは、席に着く事なく何故かこちらを見ながら固まってしまっていた。なので俺から話しかけみたのだが……その時のまゆっちの返答が、これだ。
「――この泥棒猫……!」
今度はこっちが固まる番だった。というよりも教室全体が固まっていた。
そして一番最初にその硬直から抜け出したのも、まゆっちだった。
「し、失礼しましたーーッ!」
そう言い残すと、脱兎の如く逃げ出してしまった。
俺は最初、何が何だかわからないが、どういう事だったのかを考えた結果、今のはネタフリで、俺が何の反応もしなかったせいでスベって、そのせいで逃げ出したのだという結論を出した。いや俺が乗ってもスベってたと思うけどさ。
なので朝のHRが始める前に戻ってきたまゆっちを見て、後で謝ろうと思っていたのだが……
休み時間には……
「お、お手洗いに行かないと……!」
と、逃げられ、昼休みには……
「しょ、食堂に行かないと……!」
と、逃げられ、放課後には……
「お、お友達を探さないと……!」
と、逃げられ……
と、まあこのように、有り体に言えば避けられていた。
このままだとまゆっちとの友情に皹が入る可能性もある。速やかに対処しなくてはならない。
「――ってわけなんだけど、どうすればいい?」
「とりあえずお前の思考回路にツッコミを入れたい」
「何故に!?」
という事で、大和に相談をするために島津寮に来ていた
バイトもなく特に予定のなかった今日は、本来であれば家に帰って久しぶりにネトゲに浸っていてもおかしくはないのだが、まあリアルの問題は早めに解決すべきだと思い、相談に来たわけである。
それに大和だけでなく大和の部屋を掃除にきていたクッキーも相談に乗ってくれるようだ。三人寄れば文殊の知恵とも言うし、何かいい案が出るだろ。文殊って何かわからんけど。
「なのになんで思考回路に関してツッコまれなきゃならんのだ」
「いやいや、どう考えてもネタフリなわけないだろ。どうしてその答えに至ったのかの方が不思議だよ」
俺としては不思議に思われる方が不思議なんだが、それを言うと話が進まないから黙っておく事にした。
「とりあえずこれでも食べて落ち着きなよ」
「おお、サンキュークッキー」
クッキーから渡されたポップコーンを頬張る。うん、美味いな。
「だけど助言するにしても何のヒントもなしじゃ、流石にキツイぞ」
「十夜には何か心当たりはないのかい? まゆっちに避けられるような事をしたとか?」
「あったら相談に来てないっての」
「まあそうだよな……少なくとも朝の登校時ではおかしな所はなかったし……」
ポップコーンを食べながら大和は、頭を捻り、考えて、そして結論を出した。
「よし、諦めろ」
ちょ!? おま!? 考えた結論それかよ!?
「そんな事言わずに、何か俺に知恵を与えてくれよ! 大和えもん!」
「無理矢理感が半端ないぞ、その呼び方」
「それにロボット枠は僕だよ」
大和へのネコ型便利ロボット扱いにクッキーが文句を言ってきた。そこは気分だから別にいいだろうに……。
「クッキーは何と言うか、青い猫型ロボットというより……アイボとかに近い感覚だから」
「ちょっと待ってよ! 僕はお仕えロボットだぞ! 愛玩用ロボットと一緒にしないでよ! せめてルンバって言えよ!」
「え? アイボ不満? なら……全自動卵割り機?」
「斬り刻まれたいか小僧ォォォッ!!」
「うわ!? おまっ、いきなり変形すんなって! ってサーベル振り回すな危ねぇだろ!」
「フハハハハ! 爆ぜろリアル! 弾けろシナプス! バニッシュメント・ディ――」
「言わせねぇよ!? 大和の古傷的に考えて!」
「ちゅ、ちゅちゅちゅ厨二病ちゃうわ! と、というかお前ら人の部屋で暴れるなよ!」
俺の不用意な発言によって突如として戦場と化した室内。第二形態に変形したクッキーはサーベルを振り回し、俺はそれを何とか回避し、大和はヤドカリの水槽を守る。
このカオスはもう誰にも止められない。
そう思った時、突如として部屋の扉が開いた。
「――ちったぁ静かにできねぇのかテメェら!!」
そのゲン先輩の一言で場は沈静化したのだった。
◆◆◆◆◆◆
ゲンさんの登場によって何とか納まった騒ぎの後、十夜とクッキーを部屋に残して俺は一人で行動を起こす。
とりあえず現時点で集まった情報だけじゃ判断ができない。ある程度予想はつくが、信憑性があるかと訊かれれば首を傾げざるを得ないレベルの説だし……。
ちなみにその当の本人はというと……
「ば、馬鹿な!? この私がッ!?」
「これで、終わりだッ!」
「わ、私が敗れても……第二第三の私が現れて、お前を倒すであろう……!」
「第二ってお前だろ、形態的に考えて」
「というわけで第三の僕登場! 頭脳特化型の僕に勝てるかな?」
「まさかの第三形態!? だが負けん!」
「なら次は野球ゲームで勝負しようよ」
先程の決着をつけるとかで俺の部屋にてクッキーと仲良くゲームで対戦している。まあ先程の乱戦よりは平和的なのでよしとしよう。……第三のクッキーとやらが気になるが、今は置いておく。
とりあえず今はまゆっちに話を聞くのが先決だ。十夜に聞いてわからないなら本人に聞けばいい。
しかしそれだと十夜がいては逃げられてしまう可能性もある。なので俺一人でまゆっちに話を聞こうという魂胆である。
なので第三者である俺が動いて当事者の十夜がただ遊んでいるこの状況は、納得できない部分はあるが、仕方ないことなのだ。というかそうだと割り切るしかない。
「流石大和、私の旦那様なだけあるね」
「勝手に籍入れないでもらえます、京さん?」
「なら同意の上で籍を入れよう、今すぐに!」
「お友達で」
「もう、いけず……」
いつから京がいたのか、疑問に思ってる人もいるかもしれないが、簡単に説明すると、俺はまゆっちに会うべく部屋に向かっていたのだが、階段の前に京が立っていたのだ。
「というか京が何で階段前にいるんだ?」
「ヒント1、今まゆっちは自室にいる。ヒント2、島津寮の二階に男子は女子の許可なく上がれない。ヒント3、私は島津寮の女子」
「京、それもう答え言ってるよな? だけど助かる」
元々京から二階に上がる許可をもらおうと思ってた身としては、こちらの考えを先読みして手間を省いてくれたという点はありがたい。
「これぞ内助の功。妻の努めです」
「お友達だからな、お友達だからな!」
「それは……フリ?」
「大事な事だから二回言ったんだよ!」
何故その思考に行き着くのやら……
まあ京の思考回路については置いといて、俺は京の許可をもらい階段を上っていく。それについてくる京。
「……ってあれ? もしかして京も着いてくるの?」
「大和いる所に私あり」
まあ女子にしかわからないような悩みの可能性もあるし、いいか…………しかし京は何故俺がまゆっちに話を訊きにきたことを知っているのだろうか? 京の口ぶりからすると事情は知ってるようだけどあの部屋には京はいなかったし、途中で部屋に文句を言いに来たゲンさんも京が俺の部屋の前にいたとか言ってなかったし……ま、まあこれも置いとこう。
そんな事を考えている間にまゆっちの部屋の前までついたので、ノックをしてから声を掛ける。
「まゆっち、俺だけどちょっといいかな?」
「え、大和さん!? ちょっと待ってください!」
ちょっと待ってと言われて、部屋でも片付けるのかと思っていたら、すぐに扉が開いた。待つ時間なんてなかったが、まあいいか。
「ちょっと訊きたいことがあるんだけど、部屋に上がってもいいかな?」
「私も同伴するから心配はいらない」
「え? あ、はい。どうぞ」
「まゆっちの部屋に上がれるんだぜ……ありがたく思えよ、大和坊」
何故に大和坊? “坊”はどこから来た?
「お茶を入れますね」
「寛いで待っててくれよなー」
という事で、まゆっちがお茶を入れている間に、部屋を見渡す。
畳なのは島津寮の部屋の共通点なのだが、まゆっちの部屋からは他の部屋以上に“和”を感じる。
それに女子の部屋っていうのは何か新鮮だ。ファミリーの女性陣相手でも部屋まで上がるって事はないわけだし。
京が何やらこっちを見ながら唸っているが……気付かないフリをしておこう。
「お待たせしました」
ここでまゆっちがお茶を持って戻ってきたので、お茶を一口含む。……このお茶美味いな。
「それで、あの、本日はどういったご用件で?」
「友達に部屋を訪ねられたのも何気に初体験で内心小躍りしたい気分なんだぜー!」
「ああ、実は十夜のことなんだが……」
と、松風の発言をスルーしながら俺がそう切り出した途端、
「と、十夜さん、ですか?」
まゆっちが何やら急にキョドり始めた。……何か後ろ暗い事があるんだな。
「何やらまゆっちから避けられてるとかで理由もわからないからどうにかして欲しいって十夜に頼まれてな」
「ちなみに当の本人は大和の部屋でクッキーとゲーム中」
……仕方ないとはいえ、俺がここまでしてるのに何でアイツはゲームしてるんだろうか……? やっぱり納得いかない。
「まあ、まゆっちも本人がいる前で話しづらいこともあると思ったからまずは俺達だけで話を訊きに来たんだが……」
俺の予想では、おそらくまゆっちは十夜に恋愛感情を少なからず持っているのだろう。それで他の女子と話している姿を見て嫉妬してしまった。で、そんな自分を恥じてしまったり、そんな気持ちを抱いた事に対する戸惑いから十夜を避けていた……って所だと思うんだが、果たして……。
「じ、実はですね……」
まゆっちは少し戸惑いながらも、口を開き始めた。
「大和田さんと十夜さんが話しているのを見て、何やらおかしな気持ちになりまして……」
ふむふむ……やはり予想通り、まゆっちは……
「あ、大和田さんというのはですね、私のクラスメイトの方でして、個人的に大和田さんはお友達候補筆頭なんですよ」
…………ん?
「それで、今日こそは大和田さんに話しかけようと思っていたんですけど、先程お話したように二人が仲良く話をしているのを見て、十夜さんが羨ましいとかそういう変な感情に溢れまして……」
…………あれ?
「そのまま変な言葉を発してしまいまして、その後は何と言いますか、話しかけづらくなってしまって、つい……」
「逃げちゃったんだよねー。まぁ仕方ないっちゃ仕方ないって、オラ思うの」
「あー……なるほど、ねぇ?」
「これは……私も予想外」
「え?」
どうやら俺の予想は大ハズレだったようだ。よかった……物知り顔で俺の予想を説明しなくて……! 危うく大恥を掻く所だった……!
しかし十夜と話していたその大和田さんにではなく、その大和田さんと話していた十夜に対して嫉妬を抱いていたなど、誰が予想できようか……!
だけどこれならこの問題は結構あっさり解決しそうだ。
「えーっと、確認するけど、まゆっちは十夜に何か不満があるわけじゃなくて、大和田さんと友達になりたいだけなわけだよな?」
「は、はい」
「だったら十夜に大和田さんを紹介してもらえばいいんじゃないか?」
「……え?」
「今までは取っ掛かりがなかったから大和田さんに話しかけるだけでも大変だったのかもしれないけど、大和田さんと友達である十夜を通したらハードルは大分下がるだろ。だから十夜に大和田さんとまゆっちの橋渡しをしてもらえばいいんじゃないか?」
これならまゆっちの嫉妬の感情がなくなり、それによって十夜とまゆっちの関係も改善される。いい事尽くめである。しかし……
「…………」
「……まゆっち?」
何故かまゆっちの返答がない。何故か黙ったまま目を見開き、口も開けて、まるでそんな事考えもしなかったとでも言うかのような表情を………………まさか……ッ!
「まさか、そんな方法があったなんて……!」
「さすがのオラもその発想はなかった……」
「いやいや、結構一般的だと思うけど……」
ああ、そうか……俺達以外に友達を作った事がなかったから……
「しかし、そのような方法でお友達が増えるのでしょうか?」
「増えるも何も、そうやって友達の輪は広げていくものだろ」
「大和のケータイにメールが引っ切り無しに来るのはまゆっちも知ってるでしょ?」
「そ、そういえば……!」
まあ俺のメール相手は厳密に言えば“友達”ではなく“知り合い”なんだが、まゆっちにとってはそこの違いは重要じゃないだろうから置いとこう。
「で、ではどうすれば十夜さんに大和田さんを紹介してもらえるでしょうか?」
「いや、普通に言えばいいんじゃ?」
「でもいきなり“大和田さんを紹介してください”なんて言って、大丈夫でしょうか?」
「大丈夫だって。というかちょっと卑屈になりすぎてないか?」
「そ、そうでしょうか……?」
「もっとポジティブに行こうよ」
何でまゆっちが普段以上にマイナス思考になってるのかはわからないが、このままだと行動に起こせないかもしれない。そんな風に感じたので俺はまゆっちに一つ提案する事にした。
「そこまで心配なら俺が一緒に十夜に頼みにいこうか?」
「え! い、いいんですか!?」
「まあそこまで手間ってわけじゃないし、心配だしな」
「で、でもそこまでお手数をかけるわけには……」
「まゆっち」
まゆっちの遠慮しがちな言葉を半ばで遮って、俺は諭すように言葉をかける。
「俺達にそこまで遠慮する必要はないんだぞ。俺達は友達なんだからもっと頼ってくれよな」
「あ…………は、はい!」
……何やらまゆっちの俺を見る目から好意が感じられる。この感じだとおそらくまだ友情以上愛情未満って所だろう。
俺自身まだ誰のことが好きなのかとかわからない状態だし、まゆっちの想いが恋愛感情まで至らなくてよかった。ただでさえ京のアプローチを無碍にしている状態でもう一人増えるのは流石に拙い。
とはいえ、今のまゆっちの様子だと、ちょっとした尊敬の念が大きいみたいだから、俺への感情が恋愛感情に変じる事まではないだろう。
「それじゃ早速十夜呼んでくるかな」
「わ、私が呼んできます!」
「オラに任せろー! バリバリー」
「というかわざわざここに呼ぶよりリビングで集まる方がいいんじゃない?」
「確かにそうだな。じゃあ俺達も一緒に下りるか」
というわけで、俺達もまゆっちと一緒に部屋を出て一階に下りる事に。
「それじゃリビングで待ってるからな」
「は、はい!」
俺がそう声をかけると、気合の入った声でまゆっちが返事をした。
……まあ予想外な事もあったが、とりあえずこれで問題は解決できるだろう。
そう思いながらリビングに向かっていた時、まゆっちが開けた扉の隙間から声が聞こえてきた。
「6回裏2アウト1塁のこの状況で二点差……ふふ、これはもう決まったでしょ」
「く……ッ! だがこの回が無理でも次の回で失点を取り戻せば……ッ!」
「悪いね十夜。このゲーム、6回までなんだ」
「何、だと……!?」
……俺、ちょっと怒っていいかな?
◆◆◆◆◆◆
あの後、大和がまゆっちに話を訊きにいってからしばらくして、部屋にまゆっちが来たのでクッキーとの勝負が着くまで待ってもらったら、何故か大和と京に怒られた。……いやまあ何故かっていうか怒られた理由は明白だけどさ、うん。
二人に怒られた後、まゆっちが避けていた理由とか大和田さんの紹介の件とかを聞いて、とりあえず承諾して、その打ち合わせ的なモノをして解散となった。それが昨日の話だ。
え? クッキーとの勝負? あの後満塁ホームランで逆転勝ちしましたが何か?
「そ、そんな……こ、この僕が、ま、負けるなんて……」
敗者たるクッキーは真っ白に燃え尽きていた。その後、きちんと謝罪したからクッキーとの間に確執はない。
まあその後クッキー1に音ゲーでボコボコにされたんだけどな!
『太鼓の鉄人』で難易度・鬼の有り得ないほどアレな曲で、ノーミス・パーフェクトを叩きだすとか……あんなの絶対おかしいよ! 途中から専用コントローラー叩く代わりにクッキーの目(の辺り)がチカチカ点滅するだけだったし、3秒足らずの連打部分だけで50コンボは出してたし。
そんなわけでクッキーの形態の中で、ゲームが最も上手いのがクッキー1で次にクッキー3、クッキー2の順番だという事が判明した。というより第一形態は明らかに反則だろ。
で、俺は今何をしているかと言うと……
「ま、黛由紀江と申します」
「あ、これはご丁寧にどうも……私は大和田伊予って言います。よろしくね」
「オッス、オラ松風! よろしくな!」
近所のファミレスにてまゆっちと大和田さんを引き合わせていた。
本当は授業のある平日とかに学校の教室とかで紹介した方がよかったんだろうけど、生憎と次の日は休日であった。俺としては別に月曜まで待っても良かったのだが、『思い立ったが吉日』とか『善は急げ』とか言うし、大和田さんにわざわざ電話で約束を取り付けて今日会う事になったというわけだ。決してまゆっちの気迫が凄まじくて、それに屈したわけではない。
それにしても、しかし……
「あ、あの、お、大和田さんは……ご、ご趣味は何かお持ちなんでしょうか?」
「え、趣味? 趣味は、えと、野球観戦です。黛さんの趣味は?」
「わ、私の趣味ですか!? え、えっと……」
……何と言うか、お見合いみたいだな、うん。
「け、剣術を少々嗜んでおりまして……」
「け、剣術?」
まゆっち、それはお見合いの席で言う事じゃないと思うぞ。あ、お見合いじゃなかった。あとお前のそれは嗜むってレベルじゃないぞ。
「ちなみにオラの趣味は~、自分探し?」
「は、はぁ……」
松風スベってる。凄くスベってる。というか大和田さんが松風の存在に慣れるまで少しの間、受け狙いのネタ発言は自重しようぜ。
しかしこのままの空気じゃ拙いよな……これじゃ仲良くなるモノも仲良くなれない。ここは一つ、空気を変えるというか場を和ませてみようか。
「……ま、後は若い二人に任せて、年寄りは席を外すとしようか」
そう言いながら、俺は席を立ち上がる。
「え、ええっ!?」
「ちょ、おま、トーやん!?」
立ち去ろうとする俺の姿を見て焦ったまゆっちから「行かないで!」みたいな視線を送られる。いや、そんな目で見られても…………まあ本気で立ち去る気はなかったんだけど、こんな目で見られるとは思わなかった。
「川神君、それだと何かお見合いみたいだよ」
「いや、何か今の雰囲気がちょっとお見合いっぽかったからつい言ってしまった」
笑いながら俺は椅子に座りなおす。
「まあ改めて紹介すると、黛由紀江ことまゆっち。怖いとか恐いとか怖いとか、色々と誤解されてるけど、普通にいい娘なんで仲良くしてもらえるとありがたい」
「もちろん! というか実は私、黛さんと友達になりたいと思ってたんだ」
「え!? ほ、本当ですか!? わ、私も大和田さんと友達になりたいって思ってました!」
「オラもオラもー!」
大和田さんの言葉に嬉しそうに顔を綻ばすまゆっち。しかし不思議に覆ったのかその表情は疑問に染まる。
「で、でもどうして大和田さんは私と友達になりたいと……?」
「うん。ちょっと気になってたんだ。どんな人なんだろうって」
「ああ、そういえばまゆっちと友達になった後に色々と聞かれた覚えが……」
「そ、その頃から二人は友達だったんですか!?」
「うーん、どうなのかな?」
「その頃はクラスで少し話すくらいの仲って所で、まだ友達とは言えなかったんじゃねぇかな? 本格的に仲良くなったのはこの前の野球観戦の時だし」
「確かに川神君が私に対して遠慮がなくなったのはその時だと思う」
「あれ? もしかして馴れ馴れしすぎた?」
「いやいや違うよ。むしろ嬉しい感じかな? 友達に変に遠慮されると、こっちも気を使っちゃうと思うし」
「なら良かった」
「ま、松風、私たち置いてきぼりですよ」
「あれがリア充って奴の会話なんだぜ、きっと」
「いやいや、至って普通の会話だからね」
「というかまゆっちが振ってきた話題で何故蚊帳の外になってんだよ?」
まだ微妙にぎこちない所もあるが、まゆっちも大分大和田さんとの会話に慣れてきた。あと一押しあればもう大丈夫そうだけど、まあそこら辺はわざわざ仕向ける事でもないだろうし、そもそもどういう一押しが必要なのかもわからん。まあその内勝手に慣れていくだろ。
と、ここで大和田さんが何か思い付いたようだ。
「そうだ! また今度一緒に野球見に行かない? 今度は黛さんも入れて三人で」
「え? わ、私もいいんですか?」
「もちろん! 一緒にベイを応援しようよ!」
「は、はい!」
それで洗脳するんですね、わかります。というかちゃっかり『ベイの応援』って言い切ったけど、もしもまゆっちが別の球団のファンだったらどうなってたんだろうか? …………うん、考えないでおこう。
「ま、松風! 同年代の同性の友達から遊びの誘いを貰いましたよ!」
「やったなまゆっちー! 大金星じゃねーか!」
「もう、大げさだなぁ」
目に見えて喜ぶまゆっちの様子に大和田さんは少々呆れながらも笑みを浮かべる。
まあ、まゆっちの日々の努力というか切実な思いを知っている身としては大げさとは言えないけど、今のまゆっちの喜ぶ姿は微笑ましいものだと感じる。これでまゆっちの努力は報われたわけだし、大和田さんを紹介できて本当に良かったと心の底から思えた。
――まゆっちの次の発言を聞くまでは、そう思ってました。
「いつも様子を窺って、話しかけよう話しかけようと観察していた甲斐がありました!」
…………え?
「え?」
「観、察……?」
……い、いやいやいや待て待て待て、落ち着け俺。観察っていう単語でストーカー行為と結びつけるのは早計だ。観察って言ってもアレだ。きっと時々目で追ってたとか、その程度のレベルの可能性も十分にある。
「そうだなー。昼休みにパンを小動物みたいに食べる姿が可愛いとか、結構和菓子とか食べてる事が多いなーとか、変に機嫌の悪い日があって話しかけられなかったりとか、自転車通学してるみたいだとか、部活動はしてないみたいとか、色々と観察してた成果が出たって事だなー」
「そ、そうなんだ……」
「は、ははは……」
俺、紹介しても良かったんだよな…………な?
……一時的におかしな空気にはなったものの、何とか状況を戻して、二人は友達になったようだ。
<今回での十夜の戦果>
・【クッキー】との親交を深めた
・【黛由紀江】と【大和田伊予】を引き合わせた
⇒【黛由紀江】と【大和田伊予】の好感度が上がった ▽
・現在の友達数:1人
+ 風間ファミリー(9人+1体)
というわけで『まゆっち、伊予ちゃんと友達になる』の巻でした。
共通の友達である十夜を仲介して友達になる話なのに、大体の事は大和任せで当の本人はゲームに興じていたという……主人公(笑)と化しそうで怖いです
誤字脱字や意見などがございましたら、遠慮なくお申し付けください。
ちなみに、十夜はまるでお見合いみたいに見えると言った女子二人の様子ですが、何も知らない第三者からすると、まるで三角関係の修羅場のように見えるという罠……w