▽【源忠勝】と【連絡先】を交換した。少し仲が深まった。
▽【クラスメイト】に【変な幻想】を抱かれた。
▽【釈迦堂刑部】と【連絡先】を交換した。
▽【武蔵小杉】と【因縁】が一方的に出来た。
▽現在の友達数:0人
+ 風間ファミリー(9人+1体)
今日は七浜ベイスターズの試合を見るために七浜スタジアムに向かっていた。
一人で
…………そこ、寂しいヤツとか思わない!
だって知り合いでわざわざ野球見にいくようなヤツがファミリーの男衆とゲン先輩ぐらいしかいなくて、チケットくれたゲン先輩は忙しくていけないから俺にくれたわけで、大和もモロもガクトもみんな別の用事があるとかで行けないらしいし、かといって女衆はそんな野球好きそうなのがいなかったんだから仕方ないだろ?
つか本当はキャップと一緒に行く予定だったんだけど、当日の、しかも集合時間の直前になって、行くのが無理だという旨が書かれたメールが届いたのだ。
これがそのメールの文面である
『わりぃ、警察の事情聴取で今日の野球間に合わなくなった。一人で行ってくれ』
…………え? ちょっ、おまっ……!? …………いやいや待て待て。事情聴取ってどういうことだよ? 今度は何したんだよキャップ? …………ってか冷静に考えるとキャップにとってはそんなおかしなことでもない、のか……?
と、まあこういう事があり、急いで知り合い男子(といっても仲間内しかいないが)に連絡を取るが全員ダメだったので一人になってしまった。……まあ別に野球が好きって訳でもない俺が行くのもどうかと思うが、見に行かないっていうのは勿体ないし、もらった物を売るのもアレだし、つか今の時点でもう売れるほどの時間もないし、その人脈もない。それなら一人でもいいから地元球団のベイを応援しようと思ったのだ。
その結果……
「気持ち悪い……うっぷ」
人ゴミに酔った。慣れるまで時間が掛かりそうだ。引き篭もりで人見知りの俺にとってこの人ゴミは辛いものがある。ちなみに球場付近の段階でこの有り様である。オタクの祭典とか行ったら俺は中に入る前に死ぬ気がするぜ……。
「……やっぱ帰ろうかな……」
引き篭もりにはハードルが高すぎたんだ。身の程をわきまえて部屋の隅でクリハンでもしてるのが俺にはお似合いなのさ。とか思っているとケータイにメールが。相手は大和からで内容を見てみると……
『試合前に帰るとかするなよ』
見透かされてる、だと……!? さらにメールが届く。相手は姉貴。
『大和から聞いた。お前試合観戦せずに帰ってきたらツーパンな』
脅しだった。というかワンパンじゃなくてツーパン!? 何故二発なんだ!? まさか観戦してきてもワンパンされるとかないよな……なぁ?
「…………行くか」
俺は腹を括って一歩踏み出した。
そしてすぐに何故こんな血迷った真似をしてしまったのだろうと自己嫌悪。
……だが、引き篭もりが頑張ってここまで冒険したのだから楽しまなくては損だ。とか鼓舞して自分を誤魔化しながら席を探す。
「えーっと、席は……」
とりあえず席を見つけて座る。と、その隣に座っていた人が話しかけてきた。
「今日は一緒に応援頑張りましょうね……って、え?」
「え、あ、ああ、はい。よ、よろしくお願い……?」
話しかけられたので何とか言葉を返したのだが、聞き覚えのある声に釣られて相手の顔をよく見てみるとそこには……
「か、川神君……?」
「……お、大和田さん?」
孤立している俺にも挨拶をしてくれる大和田さんがいた。
◆◆◆◆◆◆
七浜ベイスターズの試合観戦が終わった帰り……
「どうしてあそこで交代するかなぁ……あの監督何もわかってないよ!」
「確かに……俺でもあの場面で交代はないと思ったし」
大和田さん相手にそこまでどもらずに話せるようになった。初対面や普段あまり話さない人が相手でも趣味の話になると勝手に話が弾むようになる、という都市伝説を大和から聞いていたが、まさか本当にあったとは…………恐るべし趣味効果ッ!
今も、大和田さんのマシンガントークに対して、多分不自然なく返せてる……と思う。とりあえずドモリ具合も少しはマシになってる……と思う。
ちなみにどうして一緒に帰っているのかというと、七浜ベイスターズの応援団長であるベニさんから「伊予ちゃんと知り合いなら送っていってやんなよ。男でしょ?」というお言葉を貰ったからである。まあ帰り道は多分途中まで……少なくとも川神駅までは同じなわけだし、大和田さんが嫌でなければ別に構わなかったので了承したのだった。
と、今まで楽しそうに話していた大和田さんが急に口を閉ざした。……もしかして俺何かしたか?
内心焦っていると、大和田さんが少し気弱な感じで口を開いた。
「……あの、やっぱり驚いた?」
「え? な、何が……?」
「その……ベイを応援してる時の……」
その問いに俺は先程までの試合中の大和田さんの様子を思い浮かべて……正直に答える。
「……まあ、驚いた」
「あ、あはは~……だよね~」
俺が正直に答えると、大和田さんが苦笑いを浮かべながらそう応えた。
驚いた、というのは大和田さんの豹変っぷりのことだ。
普段の大和田さんはおっとりしてるというか、そこまで声を張り上げるようなタイプではない、と思う。
しかしベイを応援する大和田さんの変わりっぷりは凄まじかった。
俺にとっての癒しボイスが、ベイの応援になると熱意の篭もった、癒しとは少し遠い声へと変貌する。というか眼つきも変わっていて驚かされた。
というかあまり声を出してなかった俺に対して、大和田さんが応援団長のベニさんと一緒になってもっと声出せと怒鳴ってきたのが印象的だった。
「元々家族がベイのファンで、その影響で私もファンになったんだ」
「つまり家族全員でベイの応援したりとかも?」
「いつもの光景だね。まあ今じゃ私が家で一番の熱狂的なファンになってるんだけどね」
そう言ってアハハと笑う大和田さんの顔はどこか苦しそうに見えた。
そんな大和田さんに俺は何と言えばいいのかわからなかった。
少し沈黙が流れた後、大和田さんは少し不安そうに訊いてきた。
「……やっぱり、女の子がこういうのって変、かな?」
その問いを簡単な答えで済ませるのはダメだと感じ、よく考える。
俺個人としては女の子が熱狂的な野球ファンである事を別に変だとは思わない。俺の周りには姉貴やワン子みたいに本格的に武道を学んでる女の子もいるし、野球好きと比べればそちらの方がまだ“変”な部類には入るだろう。
けれども変わっているとは思う。
あくまで個人的なイメージではあるのだが、女の子は野球とかサッカーとかの競技よりも選手のルックスとかの方に興味がある気がする。もっと言えば、スポーツ観戦するよりも、アイドルとか俳優とか、そういう顔のいい芸能人のコンサートとかに行っているイメージがある。身近な例で言えば姉貴の取り巻きとか。
そういう俺個人のイメージと比べれば、やはり変わってる部類には入るのだろう。
この場合、人付き合い的に考えれば「別に変じゃないと思う」と言えばいいのだと思うけど、ここで言葉を濁しても俺のためにも大和田さんのためにもならないと思った。
だから俺は本心を言う事にした。
「……変、というか、変わってるとは思う」
俺が隠さずにそれを言うと、大和田さんは少し傷ついたような、ショックを受けたような、そんな悲痛な表情を、一瞬だけだが確かにした。大和田さんはそれを俺に気付かせないようにすぐさま苦笑いを浮かべて掻き消した。
だけど……
「……だ、だよね――」
「――けどさ」
俺の言葉はまだ終わっていない。
「凄いと思うよ、俺は」
「え……?」
俺の言葉が予想外だったのか、大和田さんは驚いたように俺の顔を見る。こうやって顔を見られてるのは少々恥ずかしいが、俺はそのまま続ける。
「そこまで真剣に打ち込めるものがある奴ってあんまりいないと思うんだ。それって凄いと思うし、羨ましいと思うし、何というか…………カッコイイと思う。正直憧れるよ」
それは俺の本心からの言葉だった。
というか本心とは言え今俺結構恥ずかしい事言わなかったか?
先ほどまでの俺の言葉を思い出し、顔がちょっと赤くなった気がする。
少しの間、再び俺達の間に沈黙が流れた。
ちょ、ちょっと気まずい……何か別の話題を振った方がいいのか?
そんな事を考えたりしたけど、次に口を開いたのはやはりと言うか、大和田さんだった。
「……カッコイイって女の子に使う言葉じゃないと思うよ」
口を開いた大和田さんは少し笑っていた。それは、さっきのような苦笑いではなく、自然に浮かんだ笑みであった。
「あっ! そ、そうだよな。ゴメン……」
「いいよ。私は嬉しかったし」
「……カッコイイって言われたのが?」
「違うけど……ま、いいか」
「?」
女の子はよくわからない。でも大和田さんが笑顔になったのでよしとしよう。
「ところで川神君はどうして今日の試合に来たの? 見てた感じだとそんなに野球詳しそうじゃなさそうだったのに」
別に野球ファンじゃない事を見抜かれてるとは……。いや、まあ、応援の感じとかでわかるんだろうけど。実際ダメだしされたし。
「え、えーっと、実は……」
とりあえず簡単な事情を説明する。
「なるほどねぇ……警察に事情聴取ってその人何したの?」
「さあ。でも流石に悪い事したって事はないと思う。風みたいに自由な男だけど、その辺の分別はついてるはずだし」
「それで、他に誘おうにもみんな用事があったり野球に興味がなさそうな女子ばっかりだったわけだね」
「おっしゃる通り。でも女子の中にも大和田さんみたいに野球好きなのもいたかもしれないし、誘っとけばよかったな。野球詳しくなくても楽しかったし」
「じゃあ次また来ようよ。今度はそのお友達さんも誘って」
「い……ああ、うん。また来よう」
「そしてそのお友達を私がベイ好きに洗脳するの」
「何か急に黒い話に!?」
「ふふ……今のは流石に冗談だよ。こういうのは自然に好きになってもらう方がいいから」
……さっき、「また一緒に来よう」と言われて、一瞬「いいの?」と口にしそうになったけど、わざわざ聞かなくてもいいかと思って、肯定の言葉を口にしていた。その後に自分で大和田さんに対してもうあんまり遠慮してない事に気付いて少し驚いた。
「でも実際に生で試合を見てみると、何と言うか色々変わるよな」
「というと?」
「何かちょっとベイを好きになったというか」
「ホント!? ……試合負けたのに?」
「負けたのに。……どうやら俺は早くも洗脳されたみたいだ」
「もう、洗脳って言い方悪くない? せめて布教って言ってほしいな」
「それあんまり変わってないような……」
「でもよかった。川神君もベイを好きになってくれて」
「試合に勝ってたらもっと好きになったかもしれないけど」
「……ふふ」
「あれ? 俺変なこと言った?」
「そうじゃなくて、やっぱり川神君も男の子なんだなって思って」
「……あのー、その発言は一体どういう?」
まさか男として見られてなかったという事なのか? ……いきなり恋愛とかに話が飛ぶのもおかしいが、それはそれで少し辛かったりするのだが……。というかどの言葉から男の子認定が出たんだ?
「まあ確かに今日は勝てなかったけど大丈夫だよ。いずれこの負けっぷりが癖になる時がくるから」
「何ソレ怖い」
大和田さんとの会話が弾むのを楽しんでいたら、向こうからチャライ格好をした不良らしき男が三人歩いてきた。
そのまますれ違えば特に問題はなかったのだが、その不良の内の一人がこちらを見て、なにやら笑みを浮かべながらこちらに近付いてきて、俺達、具体的に言えば大和田さんに声をかけてきた。
「ねぇキミ可愛いねぇ。俺達と一緒に遊ばない?」
「そんなメガネ放っといてさー。そっちの方がゼッテー楽しいよー」
彼等はどうやら酒に酔ってるみたいで、少し、というか凄く酒臭い。明らかに呑みすぎである。
というかメガネ関係ないだろ。何故そこでメガネを出して来るんだよ。もっと別の言い方あるんじゃないのか? というかあれか? 俺はメガネしか特徴がないとでも言いたいのか?
「あ……いえ、結構です」
「えー、そんな事言わずにさー」
大和田さんがやんわり拒絶するが、それを気にせずに不良の一人がしつこく声をかけてくる。
ここは男の俺が何とかした方がいいだろうと思い、ドモリながらも不良達に言葉をかける。
「あ、あの、俺ら急いでますんで……」
「あ? テメェには聞いてねぇよメガネ」
メガネ言うな。その言い方だとメガネの方が本体みたいじゃねぇか。さすがにイラッとくるぞ。
「あれ? 何? その反抗的な目?」
「カッコイーね。もしかしてお姫様を守る騎士気取り?」
「ヤっちゃう? ヤッちゃう?」
確かに大和田さんを守ろうと思う気持ちはある。が、反抗的な目になってるのはメガネしか特徴がないと言われた気がしたからなんだけど、それ言う必要あるだろうか? いやない。というか言える空気ではない。
「おらよ!」
とりあえず一発顔を殴られた。
痛い……けどそこまで痛くない。伊達に姉貴に小突かれてるわけじゃない。つかこの不良のパンチ、ケンカ慣れしてる感じじゃないな。多分不良は不良でもケンカとか暴力とかに走るタイプじゃなくてファッションとか飲酒とかの「皆と違う俺カッケー」とかみたいなタイプなんだろう。で、普段は荒事とかしないけど酒に酔って気が大きくなってるって所か。
「へ、へへへ、無理してカッコつけなきゃ痛い目見なくて済ん―――」
「正当防衛アッパー!」
殴られて少し距離が空いたので、そのまま脚を上に振り上げることで殴ってきた男の顎目掛けて蹴りを放った。……アッパーじゃない? 攻撃箇所は一緒なんだし気にすんな。俺は気にしない。
その真下から切り上げるように放った蹴りを余裕ぶっこいていた相手に避けられるわけもなく、俺の狙った顎に見事に喰らい、ゆっくりと倒れていった。……念の為言っておくが、加減は一応したから顎が砕けるとかの重症にはなっていないはずだ。
その様子を見て、他の連中は思考が付いていかず動きを止めている。今攻めに転じれば結構簡単に勝てるとは思うが、大和田さんもいる中でストリートファイトするのはどうかと思うし、変に恨みを買って顔を覚えられる前に逃げた方がいいだろう。警察沙汰になるのは勘弁だし、キャップの事を色々言っておいて俺も警察のお世話になるのは何かダメな気もしたし。
「逃げるよ!」
「え!? あ、あの……!」
という事で大和田さんの手を引いて逃げようとしたけど、何故か大和田さんが動かなかった。
どうしたのかと大和田さんの方を見ると、どうやら足が竦んでうまく走れない状態だった。
しまった……俺の周囲の女子達が武闘派だから感覚がズレてたけど、普通こういう荒事に慣れてないって事に今更気付いた。
このままここでケンカしても勝てないこともないけど、万が一大和田さんにケガさせたら悪いし、今のロスで何人か動きが戻りそうだし、人数的にこっちが不利だから逃げるのが一番だ。だけど大和田さんは足が竦んでてまともに走れる状態じゃない。どうすれば逃げられる?
そう考えて、咄嗟に俺が思い浮かんだ方法は一つだけだった。
「――ちょっとゴメン!」
「え? ええッ!?」
俺は咄嗟に大和田さんの膝裏に腕を引っ掛けて、もう片方の腕で背中を抱えて持ち上げる。
俗に言うお姫様抱っこだ。
その状態のまま俺は一気に駆け出して逃げ出した。
「……あ!? ちょ! おまっ!」
不良が何か言ってるが聞く耳持たん!
人一人抱えて走るのはしんどいが、大和田さんは軽いからそこまで苦ではない。
こっちとしては駅前までいかずとも人がたくさんいる所までいければそれで十分だ。
◆◆◆◆◆◆
「こ、ここまで来れば……大丈夫、かな?」
何とか人ごみに紛れて逃げ切れたようだ。
怖いのは報復行為だが、そこら辺はまあ大丈夫だと思う。
一発蹴りをいれたとはいえ、わざわざ報復を企むほどのことじゃないだろう。こっちも一発もらったんだし、そこら辺はお相子で済めばいいな……。向こうも酒で酔ってたみたいだし、別に相手の面子を潰したわけでもないし、大丈夫だろ、うん。
「あ、あの……川神君……」
「な、何……?」
「さ、さすがにちょっと恥ずかしいんだけど」
「…………あっ!?」
大和田さんの一言で俺は自分の今の状況に気付いた。
俺は大和田さんをお姫様抱っこしている状態だ。そして周りにも人がたくさんいる中でこの状況は何と言うか、恥ずかしいとしか言いようがない。
してる側の俺がそうなのだから、されてる側の大和田さんはもっと恥ずかしいのかもしれない。
慌てて大和田さんを降ろした。
「あの、その……急に持ち上げたりしてゴメン! あと、怖い目とか恥ずかしい目に合わせてゴメン」
「あ……謝らなくていいよ。川神君は私を助けるためにしたんでしょ? ならいいよ。それよりも私にお礼を言わせてよ」
「え? あ、ああ……」
「ありがとね」
その言葉に、大和田さんの笑顔に、自分の顔が赤くなるのが自覚できる。
「それより川神君、顔、大丈夫なの? 殴られたけど」
「え? あ、ああ、これくらい何て事ないよ。すぐに治るさ」
あれくらいどうってことない。普段喰らってる姉貴のお仕置きパンチと比べれば月とすっぽんだ。
「あ……川神君、メガネ……」
「え? ……あ、ない」
大和田さんに指摘されてようやくメガネがなくなっている事に気付いた。多分殴られた時に飛んでいったんだろう。
予備のメガネは家に一つあるけど、そろそろ新しく買っておくべきか? いやでも新しいメガネを買うほど今月は余裕ない気も……
と、そんな事を考えていると、大和田さんが俺の顔をじっと見ているのに気付いた。
「な、何? 顔に何かついてる?」
「あ、別に何か顔についてるわけじゃないけど、なんと言うかね――――
――――メガネない方がカッコイイと思っただけだよ」
……今俺、絶対顔真っ赤だ。
<今回での十夜の戦果>
▽【七浜ベイスターズ】の【ファン】になった。
▽【メガネ】を落とした。メガネ残数【1】
▽【大和田伊予】と【連絡先】を交換した。すごく仲が深まった。
⇒【大和田伊予】と【友達】になった。
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