真剣で川神弟に恋しなさい!   作:ナマクラ

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本編
第一話 「どうしてこうなった……」


 武神と謳われる美少女、川神百代には川神一子の他に二つ年下の弟がいた。

 

 

 

 川神十夜(カワカミトオヤ)

 

 

 

―――彼は容姿に恵まれていた。

 美少女である姉に似て、彼もまた美少年と言っていい容姿を持っていた。

 

 

―――彼は才能に恵まれていた。

 武神と謳われるようになる姉には劣るが武の才能は十二分にあり、いつか姉を補佐する最高の師範代になるだろうと言われていた。

 

 

―――彼は仲間に恵まれていた。

 姉が風間ファミリーに加入した際に彼もまた風間ファミリーに加入し、個性的だが頼りになる仲間を得た。

 

 

―――彼は環境に恵まれていた。

 家は武道の総本山・川神院である。衣食住に困る事はなく、家族もいる。何の不自由もなかった。

 

 

 そんな川神十夜は今――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――くっ……!! やはりコイツは化け物か……!?」

 

 

 視線の先には巨大な化け物がいた。

 その化け物は頭に悪魔のような角が生えた、人の何倍もの大きさを持つ竜。名を悪魔竜ブリトニール。

 

 その息は灼熱を纏い、鉄をも熔かす。

 その爪は剣の如く、万物を切り裂く。

 その翼は風を起こし、立つ事さえ侭ならない。

 その尾は鉄槌の如く、薙ぎ払われれば風圧だけで身体が吹き飛ぶ。

 その鱗は鎧の如く、傷を負わせる事も容易ではない。

 

 今までよく善戦してきたものだ。

 得物は既にボロボロの状態、身体もまた傷だらけであり、立っていられるのも不思議なくらいだ。

 あと一撃喰らえばそれで終わりだろう。

 もうダメだ……そう心が折れかけた、その時、声が聞こえてきた

 

「諦めるな!! 例えコイツが無敵と謳われる程の化け物だとしても、俺達が力を合わせれば勝てない相手はいない!! もう奴の限界も近いはずだ!! ここで諦めたら今までの戦いが無駄になるんだぞ!」

 

 その声は、共に戦っていた仲間の物であった。英雄と名高い歴戦の戦士である。そして自分の師であり、ライバルであり、戦友でもある。

 今回は一人相手ではどうしようもないこのブリトニールを何とかする為に手を組んだのだ。

 彼の実力は自分が何より知っている。

 

―――彼の助力程、頼りになる物があるだろうか?

 否、ないだろう。

 

―――彼と共に戦い、勝てない相手がいるだろうか?

 否!いるはずがない!

 

「そうだな……その通りだ。少し弱気になっていたみたいだ。すまないシャーク」

「な~に、それはお互い様だって。それじゃ、そろそろ終わらせるぞ。タイミングを合わせろよ!!」

「ああ……! この一撃に、全てを賭ける!!」

 

 友と息を合わせ、起死回生の連撃を放つ。これで決まらなければ確実にこちらの負けだ。

 しかしこの連撃で決まると、何故かそう確信出来た。

 

 相手の灼熱の息をかわし、万死の爪を避けて間合いに入る。

 そして最後の一撃を放―――

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――たるんどるっ!! 喝ッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――とうとした瞬間、振動を伴って真後ろから聞こえてきた音声に思わず身が竦み、無惨にもブリトニールの牙の餌食となった。

 

「――――ああぁぁぁぁぁぁ!? 何するんだよ爺ちゃん!?」

 

ブリトニールの餌食となった俺を(・・)見ながら(・・・・)、俺は背後に立つ爺ちゃんに文句を言う。

 

「十夜、お前今何時じゃと思っとるんじゃ」

「……夜は早く寝なさいとか言うんじゃないよな?」

「阿呆が。もう朝じゃ。朝食ぐらい皆と一緒に食べんか」

「え? もうそんな時間か……?」

 

 時計を見てみれば短針が6と7の間を示しており、外からは日の光が差し込んできていた。

 

「おぉう……いつの間に朝日が……」

「先に行っとるから早く身支度して来るんじゃぞ」

「んー。わかった。すぐに行くよ」

 

 鉄心が部屋から出て行ったのを見てから一つ溜め息を吐く。

 改めてPCのディスプレイを見ると、ブリトニールに倒された『トーヤ』と『シャーク』の姿が。

 

「……とりあえず、シャークに謝っておかないとな」

 

 そう言ってメガネをかけ直し、再びPCに向かった。

 

 このオンラインゲームは出てくるボスキャラが数多くの廃人プレイヤーに無理ゲーと言われるぐらい強く、20人の精鋭でパーティを組んで挑んでも勝つことが出来ず、当初は有名なクソゲーとして扱われていたが、とあるプレイヤーが絶対に倒せないと言われてきたボスを撃破したことから需要が上がったという、ゲームの狙いもユーザーの思惑もよくわからない狩りゲーである。このゲームでボスを倒した者にはネットで何らかの称号を与えられて崇められるとかないとか。

 

 そんなオンラインゲームに嵌まっている十夜の姿を見て、鉄心は大きく溜め息を吐いた。

 

「困ったもんじゃ……可愛い孫が片や戦闘狂、片や引き篭もりになるとはのぅ……」

 

 

 川神十夜。現在中学3年。

 

 

 彼は引き篭もりになっていた。

 

 

 ……正確に言えば元・引き篭もりであり、今は引き篭もり気味だが。

 

 

 かつて女子に持て囃された容姿はすでになく、姉である百代と同じ黒髪はボサボサで暗いオーラを放っていることから、容姿端麗とは言えなくなっていた。それでもある程度のレベルに留まっているのは遺伝の関係か。

 

 かつて将来は師範代になることも容易いと賞賛された強さは既にない。今なら後から武道を始めた義姉の一子にも劣るだろう。

 

 そして引き篭もってから始めたゲームの影響で、視力は落ちてメガネをかけるようになった。まあメガネなしで0.8ぐらいなのでかけなくても別に大丈夫なのだが。

 

 

「一体どこで育て方を間違ったのやら……」

 

 そう言いながら、鉄心は過去に思いを馳せる。

 

 

 十夜が引き篭もりになったのは小学生の時だった。

 

 

 かつて十夜は自信に満ち溢れていた。武術の腕は鰻上りに上がっていき、調子に乗っていた時期である。

 しかしある理由から、調子に乗っていたのが嘘のように部屋に引き篭もり、現実から目を背けて、逃げるようにゲームにはまり込んでしまった。

 しかし、風間ファミリーの一人である岡本一子が川神家に養子に来ていたことにより、弟となった十夜を外に自然に引きずり出し、十夜の引き篭もりが緩和され始めた。

 それからは一応学校にも行くようになったし、今は川神学園への進学を希望している。

 

「一子がウチに来ておらんかったら一体どうなってた事か……」

 

 おそらくは今頃完全な引き篭もりになっていただろう。考えるだけで恐ろしい。

 

「ふむ……どうすれば前のような十夜に戻るかのぅ……」

 

 そんな事を呟きながら、鉄心は朝食の場へと歩いていった。

 

 

 

――――そして時は流れ、2009年4月、川神十夜は無事川神学園への入学を果たした。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 時は四月。桜が咲き、舞い散る季節であり、日本では始まりの季節でもある。

 そしてそれはこの俺、川神十夜だけ例外などという事はなく、私立川神学園への入学を果たした。

 この学園への進学を選んだのには幾つか理由がある。ここの学長が俺の爺ちゃんであること、実家である川神院から学園までの距離が近いことなどもあるが、何より姉貴を含め子供の頃からの仲間達がここに通っていることが最大の理由だ。

 学力的な面で少々不安はあったが、軍師・大和のおかげで難なく合格が出来た。後でこっそり爺ちゃんに聞いたら中の上くらいの順位だったらしい。

 そして入学式から少し経って、この1‐Cでもクラスメイト同士がだんだん打ち解けてあっている中、俺はというと……

 

 

「どうしてこうなった……」

 

 

 見事に孤立していた。

 

 勘違いしてもらっては困るが、別に入学早々に虐めに遭ってるわけじゃない。ただ俺には致命的な欠点があるのだ。

 それは……

 

 

「あの、川神君?」

「え!? あ、な、なな何?」

「プリント回してるのに反応なかったから」

「あ、ごご、ごめん……」

「ああ、別に謝らなくてもいいよ~。はい、これ後ろに回してね」

「あ、ああ……」

 

 

……今のやり取りでわかった人はいるだろうか?

 

 

 そう、俺は極度の人見知りなのだ。

 

 

 初対面の人に自分から話し掛けられない。見知らぬ人に話しかけられると相手が男女問わずほぼ間違いなくドモってしまう。極端に言えば対人恐怖症とでも言えるのだろうか?

 

 小学3,4年くらいまでは逆に自分から話しに行く自発的な子供だったのだが、まあ、とある事情があって俺は一時期引き篭もりになってしまったのである。その結果、俺は対人スキルというものをどこかに忘れてしまったようだ。

 それならそれで、自分のペースで趣味の合う友達を作っていけばいいのだろうが、ここで問題になるのが我が姉、川神百代の存在である。

 姉貴は武神と呼ばれる程の実力と男女共に魅かれる美貌を持っており、ここ川神市においてはヘタなタレントよりも有名な女性である。

 そんな姉の弟である俺という存在を、誰もが『モモ先輩の弟なら』というような色眼鏡をかけて見て来る。大抵そういった動機で話しかけてくる奴は俺と気が合わない。いや、気が合わないというより、俺は向こうが期待してるような人間ではないから相手のそういった興味が薄れてしまうのだろう。実際、入学当初は絶え間なく誰かから話かけられたが、人見知りする俺がそれにうまく返せるはずもなく、段々と人が離れていった。

 別に誰が悪かったというわけではないのだが、あえて言うなら自分のペースを作れない俺が悪いのだろう……くそう……確かに話すのは苦手だけど、全く話し相手がいないというのもつらいのだ。

 

 それなら中学時代の友達と話せばいいと思う奴もいるだろうが、そんな俺に中学時代から特に仲のいい友達なんているはずがなかった。まあ顔見知り程度ならいるが、率先して話しかけてくれるような知り合いはいない。まあそんな俺だから孤立するのは仕方ないのだろう。

 今でも俺によく話しかけてくれる人は前の席の大和田さんくらいだろう。まあ話しかけてくれるといっても朝の挨拶とか先程のようなプリントを配ってる最中に俺がボーっとしてて気付いてない時とかに声をかけてくれた後、少し話してくる程度なのだが……。それでも嫌な顔一つせずに笑いかけてくれるいい人なのだ。……その可愛い笑顔に何度もドキっとしたのは秘密である。

 

 孤立といえば、俺以外にもこのクラスで孤立している人がいる。

 

 名前は確か黛、だったか?

 

 スタイルがよく、顔も悪くない所か凄く可愛い女子だ。黒の長髪と佇まいはまさしく大和撫子とも言えそうなほどの美人である。普通なら下心を持った男が何人も声をかけてもおかしくない程の美人なのだが、彼女も孤立している。それには俺にも分かる幾つか致命的な理由がある。

 

 まず一つ目は、彼女が常にその手に持っている日本刀と思われる物体である。まあ実際にあれは本物の刀なんだけど、そんな危険物を常日頃から持ち歩いている奴はこの川神にも滅多にいない。……黛といえば剣聖・黛十一段という人は武道において有名な人ではあるが、その人の関係者なのだろうか?

 

 二つ目は、顔である。いや、先程も言ったように彼女は掛け値なしの美人だ。俺の姉貴・川神百代にも並べる可能性のある程の綺麗どころだ。では何がダメなのか?

 

 それは彼女が話しかけてくる時の顔だ。

 

 その顔はもの凄く怖い。笑っているのか、威嚇しているのか、威圧しているのか、それはわからないが、その時の彼女の顔はもの凄く怖いのだ。どこのヤのつく職業の人だよって思うほど怖い。

 

 そして最後の原因は……

 

 

「松風……もしかしなくても私、孤立してませんか?」

「大丈夫だまゆっち。オラがついてるんだぜー」

 

 

 ……声だけ聞くと、彼女は今誰かと会話をしているように聞こえる。しかし彼女の側には今誰もいない。では誰と話しているのかというと……

 

「……ねえ黛さん、また馬のストラップと話してるよ……」

「ちょっと怖いよね……」

 

 そう、彼女は馬のストラップと会話するのだ。傍から見ていると変な人にしか見えない。いや、傍からじゃなくても変な人にしか見えないかもしれないが。

 それらの理由が重なって彼女は友達が出来ないのだ。まあ俺も人のことは言えないのだが……

 

 友達いない同士、彼女と友達になればいいのでは、と思う人もいるかもしれない。だがさっきも言った通り、俺は知らない人に自分から話しかけられないから無理なのだ。

 

 

 

 ……高校に入れば何かが変わるかもと思った事もあったが、そんな事はなく、前と変わらぬ日常が過ぎていく。

 結局俺はこれ以上変わることなく、このまま生きていくんだろうなぁ……

 

 そう思っていた4月の後半、風間ファミリーのリーダーであるキャップこと風間翔一がこんな事を言い出した。

 

 

 

「なあ、クリスを仲間に入れねーか?」

 

 

 

――――この言葉を切欠に俺の日常は変化していく事になるのを、俺自身まだ知らなかった。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 俺の名前は直江大和。川神学園に通う学生だ。

 まあこんな自己紹介は置いといて、今、俺はとある廃ビルに来ている。ここは俺達風間ファミリーの秘密基地として使わせてもらっている場所だ。要は俺達ファミリーの溜まり場だ。

 そして俺達は決まって金曜日に全員この場に集まる。中学時代から続く習慣だ。俺達は金曜集会と呼んでいる。

 集まるといっても何か特別な事をするわけでもなくいつも通りダベったり、遊んだり、食べたりするだけなんだけど俺達にとっては大切な習慣だ。

 今日は風間ファミリーのリーダーであるキャップこと風間翔一が持ってきたバイト先の余り物である寿司を食べていたのだが、寿司を食べ終わった辺りでキャップがこんな事を言い出した。

 

「なあ、転校生のクリスいるだろ?俺達の仲間に入れねーか?」

 

 室内でも変わらず赤いバンダナをつけているキャップの言葉に、皆の動きが止まった。

 

 クリスというのは今日ドイツのリューベックから転校してきた金髪の転校生、クリスティアーネ・フリードリヒの事だ。

 

 金髪美人なのだが、クリスの親がドイツ軍の中将であり、さらに親バカなので彼女に手を出したら世界大戦が起きかねないという、なんとも厳しい話である。あと幼い頃からフェンシングを習っており、その腕は相当の物である。しかし親子共々日本を勘違いしており馬で登校してきたときにはビックリした。

 騎士道精神を大切にしており、日本の武士道にも興味があるとかで、正々堂々を望み、卑怯な手を嫌うという、俺とは趣味はあっても気は合わないだろう女子である。事実基地に来る前に口論をしてしまった。

 

「いきなり何を言い出すんだお前?」

「あれ、言ってなかったっけ?」

 

 まぁいっか、今言ったし。と、キャップは皆にこの事を言っていなかったのを気にしていないようだ。

 

「で、皆はどう思う? 俺からの提案だし当然俺はイイと思うんだけど」

 

 で、キャップは改めて俺達に問いかける。キャップは自由を愛する男であり、気が向いたらすぐさまふらりと旅に出てしまう程だ。俺達はキャップの何かカリスマのような物に惹かれてファミリーの原型が出来た気もする。将来は冒険家になるらしく、そのためにバイトで金を貯めている。

 

「賛成だ。クリスはいい女だしな。色んな意味で」

 

 真っ先に自分の意見を言った黒髪長身、そしてプロポーション抜群である赤眼の美人は俺の姉貴分である川神百代。俺達より1年先輩ではあるが、若くして“武神”と畏れられ、武の道を往く者にとっては知らぬ者はいないほどの強さを持った女性である。俺は一応彼女の舎弟であり、彼女の事を“姉さん”と呼んでいる。そして美人で女好きという男にとっては天敵な存在でもある。まあ本人曰く百合っ気があるのではなく周りの男が不甲斐ないから女に走るのだそうだ。

 

「俺様も賛成! 第一に可愛い! 第二に骨がある!」

 

 追従するように賛成に票を入れたのは筋骨隆々の男、島津岳人ことガクト。ガクトは頭こそ悪いが、こと“力”に関してはファミリーで右に出る者はいないだろう……姉さんを除いて、だが。まあ今回ガクトが賛成なのは単に女好きだから出た意見だろう。

 

「クリねー……。いらん子な気もするけど、いつでも勝負できる相手が増えるのはいいわね。ただクリはこういうの好きかな?」

 

 賛成とも反対とも取りにくい意見を言った、赤の長髪をポニーテールに纏めた活発的な女子は川神一子。通称ワン子。ファミリー内のマスコット的存在であり、養子とはいえ川神百代の妹で川神院にて武道を習っている。ちなみに武器は薙刀である。

 

「私は反対。ファミリーに他人はいらないよ」

 

 きっぱりと反対した青のショートヘアーの女子は椎名京。誰がどう見ても俺の嫁らしいが断じて違う。昔いじめにあっていてそれを助けたら惚れられてしまった。家が武士の家系で弓の腕は凄まじいものがある。最近は素手でも鍛えているらしい。

 

「僕も反対かな。今更新しいメンバー入れても気を使っちゃうしね」

 

 京に追従するように反対に票を入れた少々影の薄めで線の細い男子はモロこと師岡卓也。PC関連ならモロに任せれば間違いないだろう。

 

「十夜はどうだ?」

 

「俺も反対かな。そのクリスって人とうまくやっていけるか、自信ないし」

 

 そしてキャップに話を振られて反対に票を入れた、黒髪赤眼のメガネ男子が川神十夜。ファミリーで唯一の年下であり、姉さんの実弟である。姉さんの実弟であるという事は武道をやっていてもおかしくないのだが、十夜はもう武道をやめてしまった。昔は姉さんに次ぐ強さを誇っており大人でも太刀打ちできないほど強かったのだが、とある事情から武道を止め、引き篭もりになってしまったのだ。……まあそれの原因の一端に俺も含まれるから少しばかり申し訳ない気持ちになるのだが……まあ今は置いておこう。今では引き篭もりではなくなったものの、残念なことに結構な人見知りになってしまい、色々と苦労しているようだ。仲間内ならドモらないのになぁ……

 

「なら大和はどうだ?」

 

 そして最後に俺に聞く。

 

 今のところ賛成3、反対3、中立1で分かれているので俺の意見でどうするのかが決まる。

 

「俺は……」

 

 少し考えた後、俺は回答を出した。

 

「賛成だ」

 

 一人祖国を離れた身としては寂しいだろうとか、そんな考えももちろんあるが、今回の一番の目的は京と十夜、特に十夜の対人スキルの向上だ。

 京は自発的に友達を作ろうとしないが、十夜の場合は作れないというのが正しい。今回クリスが加入することで、他人と話すことに慣れれば儲け物だし、無理でもクリスとは仲良くなれるだろう。高校に入ってからそういったプラスの意味での変化があれば、十夜も自然と変わっていけるはずだ。……だからそんな嫉妬の目で俺を見るんじゃない京!

 

「よし! なら賛成多数で決まりだな! まあ一回誘ってみて何かあったら容赦なく切るってことでいいな?」

「うん、いいよ」

「京がいいなら僕もいいよ」

「俺もいいよ、それで」

 

 反対派の筆頭である京のために今キャップはあえて“切る”というキツイ言葉を使った。こういった気遣いを自然と出来る所もキャップの魅力の一つなんだろうな。

 

「でもな、俺はもっと楽しくなる確信はあるんよ。クリスは面白いヤツだしな」

「相変わらずズバッと言い切るね」

「おう、当ったり前だ! 俺を信じろ!」

「みんなお疲れ様。飲み物でもどうだい?」

 

 丁度いいタイミングで1メートルほどある卵型のロボット、クッキーがそう提案してきた。クッキーは世界の九鬼財閥が開発したロボットで、今は家事手伝い用形態である第一形態をとっているが、戦闘になると人型に近い第二形態に変形する。ちなみに変形すると気性が変わる。色々あって今はキャップがクッキーの所有者ということになっている。

 

「私はピーチジュースな」

「天帝ハバネロカイザードリンクがいい」

「俺様は当然肉汁だ」

「俺はコーラだ!」

「ジンジャーエールくれクッキー」

 

 皆が口々に自分の希望を言っていく。普通ならこんな幅広い飲み物揃えられないが、

 

「皆はとっても自己主張が強いから予測済みでもう用意してあるよ」

 

 すでに慣れたものでクッキーは皆の希望通りの飲み物を配っていった。

 

 

 

―――――そんな感じで夜は更けていった。

 


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