私はアンチA-01ではありません。
side・黒川
指定された部屋には既に俺の最低限の仕事道具が置かれていた。
とりあえずパソコンを起動させ、報告書を書こうと机に向かう。
そして腹の虫がなった。
「……とりあえず、飯にするか。」
俺は下を野戦服に着替え、遅めの夕食を摂りに食堂へ向かう。
夕食を食堂で恰幅のいい曹長がご飯を盛ってくれた。
京塚と言う名前だが、帝都の食堂に居そうな人だったな。
頼んだ料理は合成ながらも相馬原基地のそれを上回る美味しさだった。
「……。」
しかし、ここの空気はまるで後方の様な緩さ、腑抜け方が目立つ。
正直、1週間も居ないといけないと思うとため息しか出ない。
「はぁ。」
しかも周りの奴らは俺の方を見るし。
面倒だし、無視するか。どうせ長時間見ることが出来るモノじゃないし。
とりあえず食い終わった食器を片付け、茶を啜る。
ついでに今後の予定を手帳に記していく。
「むっきー!!悔しい!!」
と、入り口から騒々しい声が聞こえる。
何かと思い、そちらの方を向くと若い女性が4人ほど居た。
年の瀬20~23くらいだろうか。
「水月、落ち着いて。」
ピンクの髪の女性が水月と言う青い髪を諌めていた。
「悔しいったら悔しいの!!」
「速瀬中尉、落ち着いて下さい。」
「宗像、あんたは悔しくないの!!」
宗像と呼ばれた女性は飄々としながらも少し悔しそうな顔になる。
「まぁ、あそこまで惨めに負けたらむしろ笑えますね。」
「そうですね。流石に4対1で負けるとは思いませんでした。」
「流石は帝国軍の衛士って所かしら。次は負けないわ。」
次、か。
全く持って阿呆の集まりだな。
「よく言う。戦場で死んで次なぞあるものか。」
「あなたは……。」
「先の戦闘の相手だ。」
「……。」
ふと最後の一人の少女が俺のことを見つめている。
「何だ小娘、お前もそれみたいに文句があるのか?」
「それって誰のことよ!!」
「貴様の事だ。」
言われんと分からんとは、阿呆かコイツは。
「ムキー!!遙、私こいつのこと嫌い!!」
「安心しろ、貴様らに好かれようとは思わん。米国の犬なんぞ、こっちから願い下げだ。」
「何ですってー!!」
実力も無いくせに、鬱陶しい奴だ。
後方と勘違いしてぬるま湯に浸かりきった弱兵共が。
話す気も失せたので、俺は早々に立ち去ろうとした。
「あの、もしかして帝国軍独立遊撃部隊の隊長だった方ですか?」
俺は立ち止まった。
帝国軍独立遊撃部隊。別名、特殊懲罰部隊。
かつて俺が指揮をし、そして全員死なせてしまった部隊。
「……だったらどうなんだ。」
「やっぱり、覚えていませんよね……。」
……あぁ、思い出した。
別れる時に「死なないでください。」と言ってくれたあの優しい少女を。
懲罰部隊の俺達にもあの優しい笑顔を向けてくれた少女を。
「……そうだよ、祷子ちゃん。いつかバイオリンを聞かせてくれるんだろ。」
「やっぱり、黒川大尉だったんですね。」
「あぁ。でもよく覚えていたな。この3年以内で髪も目も変わったというのに。」
正直、苦笑しながら言ってしまう。
ここ数年で外見が変わりすぎているからな。
俺自身、変わってると認識しているくらいなのに。
「雰囲気ですよ。」
「そうなのか?」
「はい。」
流石、女性の勘は侮れんということか。
「祷子ちゃんは逆に美人になったな。」
「あ、ありがとうございます。」
顔が赤くなった祷子ちゃんが可愛い。
本当にそう思える。
「何だ祷子、知り合いか?」
すると宗像と呼ばれていた女性が訪ねてくる。
「はい。横浜防衛戦で助けていただいて。そう言えば、飯塚さんや他のみなさんはお元気ですか?」
「……みんな死んだよ。ここで。」
「え。」
「明星作戦の時、前線の穴埋めに当たってたんだが、G弾投下があってな。
爆心地に近かったこともあって友軍の殿と共に戦ったよ。
結果、生き残ったのは俺だけだがな。」
「そう、ですか……。」
未だに俺だけが生き残ったことが分からない。
俺もあの爆心地の近くにいたのに、機体は戦闘損傷以外にない。
全く訳が分からなかった。
「安心しろ。確かにこの数年で沢山の仲間の死を弔ってきた。俺自身も死線を何度も彷徨った。」
大陸で、京都で、横浜で。
何人の仲間を失い、何人の死を見送ってきた。
だから、もう2度と諦めない。
「だから俺はもう諦めない。救えるものは救う。そしてこの国からBETAを駆逐して人々を守る盾となる。」
「……。」
「長話だったな。」
「いえ……。」
俺も年だな。
無駄話をしてしまうとは。
「ま、いつかバイオリンを頼むな。」
「はい。」
「またな、祷子ちゃん。」
そう言うと今度こそ俺は食堂から出て行く。
side・剛田
草木も眠る丑三つ時、俺はある人と密会していた。
「お久しぶりですね、少佐。」
階段の下に黒川少佐が立っていた。
周囲から死角になる位置になるように考慮されたのだろう。
少し分かり辛い。
「剛田少尉か。久しぶりだな。息災か?」
「いつも通り、課長に扱き使われてますよ。」
「そちらもか。互いに上官には恵まれてないらしいな。」
少佐に釣られて苦笑する。
確かに、互いに上司には恵まれていないと言える。
「そうですね~。っと、それと例のブツです。」
少佐に記憶媒体を渡す。
「よく持ち出せたな。」
「あれを管理してるのは家の課長ですし、本人曰く『持ち出された所で問題はない。』らしいっすよ。」
しかし、意図が読めない。
あの課長がどうしてこれを素直に渡したのだろうか。
機密文書の欄に置かれていたのに。
「十分だ。悪いな、手間掛けさせて。」
「これくらいなら問題ありませんよ。所で、どうしてあの事件が気になるんですか。
無論、少佐が知りたいのは分かりますけど。」
正直、少佐のご家族がこれに関わっているのは知っている。
だが確認の為に見た時は大した事は書かれていなかった。
なのにどうしてこれを要求したのだろうか。
「いや。これに書かれている事で少し気になる部分があってな。」
「あ~、気をつけて下さいね。何か少佐の事を調べてる奴らが居るみたいなんで。」
とりあえず最近、少佐の周囲を動く影について警告を促す。
すると少佐は崩した表情で少し笑いながら頷く。
「あぁ。肝に銘じておくよ。じゃあな。」
「えぇ。」
そう言うと俺は来た道を戻るのだった。
主人公が少し毒々しいのはメンタルが低く、尚且つ場の空気が気に食わなかったのが原因です。
実際、戦場の前線に昨日まで居たので空気が変わったのに慣れていないだけです。
一時経つと戻りますのでご安心くださいww