報告書
2001年2月12日作成
内容
帝国軍本土防衛軍第12師団所属『鋼の槍』連隊外接仮想敵部隊『黒き狼隊』隊長、
黒川敏行大尉が去る2月11日の相馬原基地防衛戦に於ける数々の越権行為、並びに命令違反の疑いに関する報告書。
容疑
命令違反、越権行為
調査結果
確かに他部隊の隊員に対して、越権行為とも取れる命令を下したのは事実ですが、それは当時の現場の判断であり、
これが一概に悪いとは言えず、また支援砲撃の要請は、必要であったと言われれば納得してしまう状況下であったとも言えます。
また、同連隊の多数の隊員から黒川敏行大尉を無罪に、との声が多数あり、
彼がどれだけ部隊の生存に尽力を尽くしたのかが伺えます。
この様な状況を鑑み、黒川敏行大尉には無罪、または2、3日の営倉入りが妥当と思われます。
報告者
帝国情報省外務二課 剛田 城二少尉
side・剛田
「ふぅ~。」
俺は入力していたデータをプリントし『提出物』と書かれた茶封筒に入れ、封をする。
「しかし、余程彼を容疑者扱いしたいらしいな。」
たったこれだけの事を理由に彼を処分しようとしているのだ、何か裏があると俺の直感が言う。
「ちょっと調べてみますか。」
好奇心半分、職業病半分の気持ちで席を立つ。
「何はともあれまずは書類だな。」
俺の上司の元上司である後藤副司令に茶封筒を渡す。
「うん、ご苦労さん。わざわざ悪いね、これだけの事を頼んじゃって。」
「いえ、職務ですから。」
淡白に言うと、ニヤッと笑う後藤副司令。
「所で、左近は元気?」
「えぇ。今はアラスカに鮭を釣りに行ってます。」
そう言いながら課長がサーモン釣りをしている姿を想像する。
……似合わない。
「そりゃご苦労さん。おおよそ、雌狐だろ。狙いは99式のブラックボックスかな。
ソ連も余程あれが欲しいんだろうね。来るべき人対人との戦いに。アメリカとの戦いに。
まあ、取らぬ狸の皮算用にならなければ良いけどね。」
相変わらず驚くほど情報分析が早い。
たったこれだけの情報でそれだけの物を導き出すとは。
「流石ですね。」
「いやいや、情報さえあればこれ位、俺でも分かるよ。」
それでも、この人は桁が違うと思う。
「では、失礼します。」
「うん。」
そう言うと俺は退室する。
あ、あの人の事を訊くの忘れた。
……ま、良いか。
side・????
……時間を遡り、2001年1月29日、帝国国防省 第六会議室
私は巌谷榮二中佐の説明の後、挙手をする。
「……若輩者の小官の愚策、お耳汚しで無ければご視聴下さい。」
「許可しよう。」
畑違いの私の意見を許可した議長のことを少し疑いながら席を立つ。
「やはり米国の培ってきた戦術機ノウハウは我々を圧倒しており、これを考慮した上で、私は皆様の手元に置かれております計画をXFJと並
列で行いたいと思います。」
そして手元の資料を見た巌谷中佐を除いた全員が驚きを隠せない表情をしている。
「この計画は時間が掛かりますが、それでも国内戦術機の明暗を決めるもの、と私は考えております。」
「「「………。」」」
流石に議場が静寂に包まれる。
確かに先ほどから口うるさく『国産』にこだわって来た奴らが急にこの計画を受け入れられるはずが無いことは解っていたので、予備の手
を出す。
「……戦国時代に、種子島に外国から鉄砲が伝えられました。」
「「「……。」」」
議員達が黙っているが、注意しながら喋る。
「種子島の鍛治師はそれを分解し、構造を理解して、それを上回る鉄砲の製作に漕ぎ着けました。」
「我々はその血を引き継いでいる者達です。例え諸外国の戦術機を模倣して文句が出てきても無視すれば良いではありませんか」
「それが結果的に我々の力になるのならば。」
「「「………。」」」
議員達の静寂は続くが、私はそこで礼をする。
「若輩者の小官の意見を聞き届けて頂き、感謝いたします。」
そして私は着席した。
2001年2月16日
side・黒川
相馬原基地防衛戦から数日後、突如休暇を与えられた俺たち鋼の槍連隊。
部隊の再編や基地の修理、それに人員補充などでかなりの時間を消費するからだ。
そして俺は幹也の部屋で秘蔵の芋焼酎を飲んでいた。
「幹也、暇だ。」
「そうか?俺は書類整理に忙しいぞ。」
机に座って幹也は書類を処理している。
しかも書類は微妙に山になっており、当分終わる気配はなさそうだ。
「俺の部隊は最後の奇襲で全滅、当分は休業だ。」
「そうか。」
おかげで今の俺の部隊は俺以外は誰も居ない。
「そう言えば幹也の所、撃震の代わりに何が来るんだ?」
ふと思った疑問を口に出す。
幹也の大隊の損耗率は鋼の槍連隊の中でも最も酷く、他の中隊と比べても断トツだったらしい。
おかげでオーバーホールするより別の戦術機を取り寄せた方が安く済む為、新しいのが配備されることになったらしい。
「不知火だ。」
「それは羨ましい。」
正直な感想を述べる。
94式戦術歩行戦闘機『不知火』
配備されているのは優先的に帝都本土防衛軍や重要度の高い部隊に配備されている戦術歩行戦闘機。
その為、俺たち帝国軍人には憧れの存在と言える。
ふと、首都防衛の一翼を担っている第5師団の大咲も不知火だった事を思い出す。
「だが機種転換だから当分は訓練だ。その書類を書くと思うと今から胃が痛い。」
そう言いながら幹也が胃の辺りを押さえる。
「ご愁傷様。」
両手を合わせて南無~と唱える。
『黒川敏行大尉、七瀬幹也大尉、直ちに副司令室までお越しください。繰り返します……。』
突如として放送が流れ、呼び出しを受ける。
「呼び出しか。」
「らしいな。」
首を傾げる俺に幹也が立ち上がる。
「さて、どんな無茶を押し付けられることやら。」
「そうだな。」
溜め息をつきながら幹也と共に副司令室に向かう。
「黒川敏行大尉、出頭しました。」
「七瀬幹也大尉、出頭しました。」
ノックをして扉を開けて敬礼をする。
「ご苦労さん。堅苦しいのは抜きで、まあ、座ってくれ二人とも。」
「「了解。」」
促されたのでとりあえず、俺と幹也はソファーに座る。
目の前にはこの基地の副司令であり、鋼の槍連隊総指揮官である後藤喜一副司令が座っていた。
風貌こそ中年のおじさんだが、かつては周りから『剃刀後藤』や『昼行灯』と呼ばれ恐れられていた元城内省外務二課課長。
だが、何故この鋼の槍連隊の連隊長兼副司令になったのかは未だに不明だが。
「すまないが机の上の資料を見てくれ。」
そう言われ、机の上にあった茶封筒を開けて中身を取り出す。
とそこに書かれていた文字に目が行く。
「次期主力戦術機開発計画?」
「何ですか、これは?」
「迫り来るBETAとの戦いに於いて、戦術機は戦術の中核を成している。
それこそハイヴ内における戦闘は戦術機のみが活躍しているといっても過言ではない。
だが、我が国の不知火は開発期間を切り詰めた上にノウハウの無いまま創り上げられた不遇の戦術機。
その不知火に替わって踊り出るのがこの次期主力戦術機だ。」
「しかし、国内派はこれを容認するのですか?
彼らは石頭も石頭。鉄パイプで殴っても変わらない無い生粋の国枠主義者達。
それをどうやって説き伏せるんですか?」
聞いた人間次第では何か言われそうなぎりぎりの言い方で尋ねる。
「あ、それはもう終わってる。」
「「は?」」
何事も無い様な言い方に呆気に取られる俺と幹也。
「やっぱり犯罪はいけないよね、犯罪は。しかし、人生どこで怪我するか分からないね~。」
「そう、ですか。」
「はぁ。」
俺と幹也は呆れて物も言えない。
「要するに『表沙汰にされたくなければ協力しろ』って事ですね。」
俺が簡潔に纏める。
「まあ、そう言う事。と、言う訳で。」
「どんな訳ですか?」
つい勢いで揚げ足を取ってしまう。
「気にしない。黒川敏行大尉か七瀬幹也大尉、そのどちらかがこの計画の実働隊隊長を勤めよ。これは命令だ。」
口調は変わらないが雰囲気が変わる。そしてその気配に俺も幹也も身を締める。
「でしたら、自分は無理です。自分には鋼の槍連隊の大隊長としての勤めがあります。」
「そうだな。後藤副司令、自分が実働隊隊長になります。」
幹也の言葉に頷きながら立候補する。
「分かった。ベースとなる機体の搬入や隊員の選抜は私がやるからお前さんは待機していろ。」
「「はっ。」」
立ち上がり幹也と共に敬礼する。
「じゃ、解散。」
「「失礼しました。」」
そう言うと俺達は部屋から出て行く。
次の日、俺は再び副司令室に呼ばれた。
あまりの早さに元から決まっていたのか等と下種な勘繰りが頭を過ぎる。
「これが選定した隊員。とりあえず新人も居るけど虎の穴に放り込むから問題ないだろう。」
手渡されたリストを見ると確かに新人が多い。しかも何故か俺の義娘まで居る。
「それとこれね。」
副司令が机の引き出しから出されたのは小さな木の箱だ。
開けるとそこには階級証が入っていた。
「少佐の階級証ですか。」
「昇進。一応俺の直轄の部隊だから最低限、少佐の権限を持ってもらわないと困るんだよ。」
「正直、大尉が良いです。」
とりあえず断ってみる。
「でも、認められないんだよね。諦めろ。」
だが駄目だった。仕方がないので階級証の入った箱を受け取り、少佐の階級証を胸につける。
正直、階級が上がるたびに責任という目に見えない重さが辛い。
「ところでさ、この子達、引き取らない?」
唐突に話が変わる。そして副司令が今度は数枚の書類を出す。
それらを見てみると少女が二人映っている写真と説明と思われるものが書かれていた。
「クリスカ・ビャーチェノワ少尉とイーニァ・シェスチナ少尉?」
「そう。彼女達は前々から保護していた子でね。晴れてお前さんの娘になる事となった。」
「頭、大丈夫ですか?」
後藤副司令が気でも触れたのかと、心配になる。
「正気だぞ。それに、最悪盾にすればいいんだし。」
「……。」
俺は無言で副司令を睨む。感情無しの睨みは、よほどの人間で無い限りは怯えるか竦む。
「睨むなよ。これはあくまで提案で、前提問題として、彼女達を引き取るのはお前さん次第だし。」
だが『剃刀』の二つ名は伊達ではないらしく、効果は皆無らしい。
このあたりは年季の差だろう。
元帝国情報省外務二課課長の肩書きは伊達ではない。
自己完結する。
「……了解。その子達を引き取りましょう。」
子供は好きだし、二人くらいならまだ養える。
それに、あえて虎穴に入るのも一興。何が出るかはお楽しみだが。
「無理を言ってすまないな。」
「はいはい、失礼します。」
白々しい嘘だと思いながらも、無視して退出する。
2001年2月24日
side・黒川
基地外から軍用トラックが向かってくる。
「来たか。」
軍用トラックから二人の少女が降りてくる。
「クリスカ・ビャーチェノワ少尉とイーニァ・シェスチナ少尉だな。」
俺が声をかけると、イーニァ少尉がクリスカ少尉の後ろに隠れる。
(……やっぱり、6割が白髪のままなのが原因か?それともオッドアイが原因か?)
「はっ、クリスカ・ビャーチェノワ少尉、イーニァ・シェスチナ少尉、着任しました。」
声が聞こえたので思考を中断し彼女たちを見る。
「了解した。俺が今日から君達の上官になる黒川敏行少佐だ。楽にしていいぞ。」
「はっ、よろしくお願いします。」
「おねがいします。」
クリスカ少尉はまさしくあの頃のあの子の様だ。
だから、面白くなる。
「分かった。では早速だが君たちの親権は私が預かる事となった。つまり、今日から君たちの父親になる。」
「はっ?そ、それは!?」
「そして、今から君たちをクリスカ、イーニァと呼ぶ。」
元々苗字で呼ぶのがあまり好きじゃない。苗字はその人間の生まれを指しており、その人間個人を表していないからだ。
「それに、俺は基本的に相手の名前で呼び合っている。問題はない。」
「でしたら……。」
「命令だ。」
有無を言わせぬ権限を発動する。と、イーニァ少尉が俺を見ていることに気付く。
「ん、どうした?」
「……おとうさんでいい?」
「イーニァ!?」
つい顔が綻んでしまう。
「そうだな。そう呼んでくれれば良い。ま、家にはもう一人お前達と似た奴が居るし、仲良くしてくれな。」
「うん。」
「イーニァ……。」
クリスカが寂しそうな顔をする。
「安心しろ、クリスカ少尉も一緒だ。」
「えっ?」
「二人で一つのお前達を引き離すことはしない。安心しろ。」
そう言いながらクリスカとイーニァの頭を撫でる。
無意識にではあるが、やはりどこかあの子を連想しているのだろう。
「ん。」
「なっ!?」
「お前達の過去に何があったのかは知らない。多分俺が想像出来ないような事があったんだろう。
だがそれに囚われるな。前に進めなくなるぞ。」
「うん。」
「分かった。なら指示には従う。」
「ありがとう。じゃあ、悪いけど着いて来てくれ。仮部屋まで案内する。」
「……了解。」
「うん。」
そして俺は自分の部屋に案内する。
BD版マブラヴトータルイクリプス2巻を買いました!!
映像で動く戦術機のBDの美しさ!!
キャラクターも綺麗!!
さて、本編でも書こうか。
2012年11月09日、一部文章を改訂。